小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1056回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

これでいいんだよ! 生まれ変わったオーテク「サウンドバーガー」を試す

7,000台限定で発売された「サウンドバーガー」

レコード復権は本物?

アメリカでレコードが復権しているという話を聞いたのは、2010年頃だったと思う。当時はファンアイテムとして、サイズがデカくて所有感があるLP版はアリなんだろうという認識しかなかったが、その後きちんと売上を伸ばし、2020年にはCDの売上を上回るまでに成長した。

若い人にとっては、針が溝をひっかいて音を出すなんてのは、不思議なテクノロジーなんだろうなと思う。一方でおっさんにとっては、レコードこそがロックの入り口であった。1970年代には、音楽だけをパワープレイするFM局なんてなかった。

アメリカでMTVが開局したのが1981年。同年に日本では「ベストヒットUSA」がスタートし、日本のテレビでロックが流れ始めた。音楽CDが世界で初めて発売されたのが、1982年のことである。

CDがメディアの中心になるまで、まだ少しレコードの時代が続く。販売枚数ベースでCDがレコードを抜いたのが、1996年の事である。筆者が初めてCDプレーヤーを買い、CDを買ったのが1985年の事であった。1990年ごろまでは、いわゆる12インチシングルなるものはレコードでしか存在しなかったこともあり、渋谷あたりでは案外中古レコード屋が生き残った。

どうも昨今のレコード復活は、そこそこ本物らしい。2019年には、タワーレコード新宿店にアナログレコード専門フロアがオープンし、人気を集めている。一度は渋谷から撤退した中古レコード「RECOfan」も、今年12月に復活するという情報を公式Twitterが流している。

とはいえ、だ。レコードを聴くにはターンテーブルやレコードプレーヤーが必要になる。だがこれはかなりの接地面積を取る上に、水平で振動のない場所へ設置しなければならず、このストリーミング時代にそんなデカいものを常設できるかという問題は大きい。

そんな折、オーディオテクニカが同社創業60周年記念モデルとして、レコードを挟むようにして再生できる「サウンドバーガー」を、40年ぶりに復刻するという。復刻モデルの型番は「AT-SB2022」で、価格は23,800円。直販サイト限定販売かつ、世界で7,000台の限定生産である。

残念ながらすでに専用サイトでは完売しているが、12月1日に再販するという。今回はこの「サウンドバーガー」をお借りしてみた。

レトロと今風のハイブリッド機

ターンテーブルには、省スペースとの戦いの歴史もある。1970年代には、ターンテーブルを縦型にするという製品もあった。トーンアームが上からぶら下がるような格好でトレースする。この方法論は、今でもチャレンジするメーカーもある。

一方で盤面がボディからはみ出すというタイプもかなり昔から存在した。ただ、40年前の「サウンドバーガー」ほど、本体部分を削りに削った製品はなかった。40年前といえば1982年ごろということになり、レコードの全盛期である。

当時音楽好きの家庭であれば、ターンテーブルも含めてオーディオセットがないということは考えられない。だが逆に言えば、ターンテーブルは2台3台買うものでもない。ウォークマンもまだまだ全盛期の時代、“ポータブルなターンテーブル”というのは、一体誰に向けてのどういう需要なのかよくわからないというのが、当時の記憶であった。

初代のサウンドバーガーは、オーディオテクニカ以外にも日立からLo-Dブランドで販売されていた。底面から単2電池3本を入れて駆動するほか、ACアダプタでも動作した。出力はRCAのラインアウトと、ヘッドフォン出力が2系統あった。

一方復刻版のサウンドバーガーは、バッテリーを内蔵し、USB-C端子で充電する。バッテリー持続時間は約12時間で、これは初代の電池式と同じ持続時間である。出力はBluetooth 5.2とステレオミニのライン出力が1系統ずつ。BluetoothコーデックはSBCのみである。

レトロに見えるが、デザインはオリジナルそのまま
底面には電池フタの痕跡がある
背面には持ち運び用のベルト、充電用USB端子、ラインアウトがある

上部には電源ボタンと回転数切り換えボタン。側面にはBluetoothペアリングボタンがある。トーンアームはストレートタイプ。カートリッジはVM型で、型番は不明だ。ただ交換針の型番から推測すると、2019年に発売されたターンテーブル「AT-LP60XBT GBK」および「AT-LP60X」で採用のものと同型と思われる。針先は、オーディオテクニカの交換針「ATN3600L」(別売)に交換して使用できるそうだ。

アームはストレートタイプ
ヘッド部分
上部に電源とスピード切り替えボタン
側面にペアリングボタン
ターンテーブル部はかなり小型

内部にはドーナツ盤用のアダプタがある。この上部にアーム固定用の溝が作られており、収納時にはアームがブレないように固定する意味合いもある。アーム収納時には、針先はターンテーブルに設置しないようになっているが、安全のために針カバーを付けた方がいいだろう。

アームの固定にも使われるドーナツ盤アダプタ

優れたハンドリング、悪くない音質

ではさっそく聴いてみよう。Bluetooth接続では、BluetoothスピーカーやBluetoothヘッドフォンと直接ペアリングすることになる。ただサウンドバーガー側にはボリュームがないので、スピーカーやイヤフォン側にボリューム調整機能があるものを接続することをお勧めする。

今回はアナログで聴きたかったLPをいくつか引っ張り出して、AIWAの「バタフライオーディオ」と、1MOREの「SonoFlow」で試聴してみた。

コーデックがSBCのみなので、ものすごく高音質というわけでもないが、アナログオーディオを楽しむぶんには十分なスペックである。意外にSNも良く、中低域のボリューム感にアナログ独特の豊かさがある。

昨今のBluetoothイヤフォン・ヘッドフォンは、スマホと繋げば専用アプリで様々なチューニングができるが、サウンドバーガー相手に接続している際にはスマホからのコントロールができない。EQやノイズキャンセリングの設定は、最初にスマホとペアリングして設定したのち、サウンドバーガーに繋ぐといいだろう。ある意味音質は繋ぐイヤフォン・ヘッドフォン次第というところもあるが、コストパフォーマンスや手軽さというところまで含めると、トータルでは非常に満足度は高い。

操作としても非常にシンプルで、レコードを載せてフタをして、アームを動かすだけなので、操作は間違いようがないし、間違えてフタを開けっぱなしでも使えてしまうというイージーさがある。これぞアナログだ。

40年ぶりに復刻! オーディオテクニカ「AT-SB2022」のレコード再生方法

背面のライン出力は、アンプやアクティブスピーカーなどに繋ぐ想定だろうが、ヘッドフォンを挿しても一応音は出る。ただボリューム調整機構がどこにもないので、適度な音量で聴こえるに留まる。もちろん、接続するヘッドフォンのインピーダンスによっては、ぜんぜん鳴らないということもあるだろう。

音楽再生がレコードしかなかった時代は、再生装置もそれなりにお金がかかって大がかりで、1枚聴くのに全力集中を求められたものだが、本機は聴きたい時にそのへんのテーブルの上に展開してほっとけばいいという気軽さがある。電源も不要でヘッドフォンもワイヤレスなので、完全にスタンドアロンである。

これだけ気軽にレコードが聴けるとなると、押し入れの奥のライブラリをもう一回引っ張り出してみようかなという気になる。まあそんなことになったら部屋が散らかりまくるのは目に見えているが、棚の端から順にもう一回聴いてみようかという気になる。

なによりも便利なのは、使わない時は片付けられるというところだ。据え置き型のターンテーブルだとこうはいかない。筆者は4年前の引越の際に、長年使っていたターンテーブルを、もう置き場所がないだろうと処分してしまった。それ以来レコードを聴く機会がなかったのだが、ちょっと思い出して聴きたいというときに、こうした独立完結型のプレーヤーがあると便利であることは間違いない。

総論

レトロなルックスのままで再登場したサウンドバーガーだが、今の時代だからこそマッチするコンセプト商品に大化けした。内蔵バッテリーとBluetoothで、完全ワイヤレスで動作するというのもいい。

置き場所も適当に空いている平面に設置すればいいというのも、一周回って新しい。ターンテーブルはどうしても据え置きになってしまいがちだが、聴きたい時に出すというぐらいの距離感が、今のレコードとの付き合い方としてちょうどいい。

これからレコードに挑戦する若い人も、ターンテーブルだけ買ってもその先をどうしたらいいのかわからない、ということはありそうだ。そうした方への入門機としてもちょうどいい。

惜しいのは、これが限定モデルだという事である。12月1日10時から再販予定で、すぐ売り切れてしまうかもしれないが、欲しい人はチェックしておこう。

需要は結構ありそうなので、もう少し今風のデザインとスペックで、上位モデルを出してもいけそうな感じはする。これをきっかけに、各社から様々なレコードプレーヤーの形が提案されるようになるかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。