小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1050回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

1年ぶりの進化はいかに!? GoPro「HERO11 Black」

すでに発売済みのGoPro HERO11 Black

全然棲み分けてなかった

昨年9月に前作「GoPro HERO10」をレビューしたわけだが、イントロで “アクションカメラはGoPro、ジンバルとドローンはDJI、360度カメラはInsta360といった具合に、棲み分けができてきた” などと書いたら、今年に入って全くそんな棲み分けなどなく、中国メーカーがガンガン守備範囲を広げてもはや混乱状態となっている。

壊れても惜しくない価格のカメラで、派手なクラッシュシーンを撮るという方法論作ったGoProが広く知られるようになったのは、2010年のNABであった。当時筆者もその模様をレポートしている。それ以降ほとんどのモデルをレビューし続けているが、今年もまた新モデルGoPro「HERO11 Black」が登場した。今年はディスプレイのない「HERO11 Black Mini」も登場予定だが、発売日がズレている関係で、まずはHERO11 Blackの仕上がりをチェックしてみる。

すでに9月14日から発売が開始されており、価格は78,000円。サブスクサービスに加入すると62,000円で購入できるが、翌年からは年額6,000円の支払いが発生する。12年前には300ドルだったGoProも、だいぶ値上がりしたことになる。

センサーを大型化した新モデルを、さっそくテストしてみよう。

ボディは同じだが……

まずボディだが、HERO9 Blackで採用されたデザインがそのまま、10および11に採用されている。元々GoProは、防水ケースなどのアクセサリ等が使い回せるように、数年は同じボディが継続する例が多い。その効果もあり、「GoProマウント」はこうしたアクション系カメラやマウントアクセサリでは、すでに標準仕様のように扱われている。

底部に組み込まれたGoProマウント

とはいえ、標準セットにはヘルメットマウントしか同梱されておらず、別途アクセサリの用意がなければ三脚へのマウントもできない。ヘルメットがデフォルトなのがGoPro流かもしれないが、ちょっと省略しすぎのようにも思える。

見た目でわかる違いと言えば、バッテリーが変更され、白になった。低温環境下での性能が向上し、常温環境下での撮影時間が最大38%長くなるEnduroバッテリーとなっている。

新採用のEnduroバッテリー

中身としては、センサーサイズが1/1.9インチに大型化し、最大5.3K/10bit/60pでの撮影が可能になっている。またアスペクト比も新たに8:7を加え、縦長映像への切り出しへの便宜を計った。

センサーサイズが変わったということは、レンズ設計も変わっているはずだが、レンズスペックは現在のところ公開されていない。HERO10との違いを、本体設定からわかるスペックで以下にまとめておく。

HERO11HERO10
静止画27.13MP23MP
動画5.3K/605.3K/60
最高ビットレート120Mbps100Mbps
手ブレ補正HyperSmooth 5.0HyperSmooth 4.0
画角HyperView
画角SuperViewSuperView
画角広角広角
画角リニアリニア
画角リニア + 水平ロック / 水平維持リニア + 水平維持
画角狭角

ポイントは、GoPro史上最広角となる35mm換算12mmの画角「HyperView」搭載したところだろう。また水平維持機能は、360度回転しても水平を維持する「水平ロック」がベースだが、5.3K/60p、4K/120p、2.7K/240pの3モードでは27度まで水平を保つ「水平維持」にダウンする。また10にはあった「狭角」がなくなっている。

画角ではGoPro史上最大のHyperViewを搭載
一部の組み合わせ以外は「リニア+水平ロック」が使える

また撮影モードとして、10bitでの収録も可能になっている。これまでアクション系のカメラでは、複数の露出画像からハイコントラスト画像を合成するタイプの「HDR」を搭載する例が多いが、本機は色域も含めて深度を稼ぐ10bitにも切り替えられるようになっている。

10bit収録にも切り替えられる

なお撮影可能な動画解像度とフレームレートは、センサーが大きくなってもHERO10と同様の性能を維持している。

解像度最高フレームレート
5.3K60fps
4K120fps
2.7K240fps
1080p240fps

背面モニターは2.27インチのタッチ式で、メニュー操作はこちらで行なう。前面にも1.4インチのカラーディスプレイを配するが、こちらはタッチディスプレイではない。この点は両面ともタッチディスプレイだった「DJI Osmo Action 3」のほうが操作性では上回る。

背面ディスプレイは2.27インチ
前面モニターは1.4インチ

ブレを自動で判断するHyperSmooth 5.0

では実際に撮影してみよう。まず画角だが、35mm換算12mmの画角「HyperView」からリニアまで、ズームレンズなしでかなりのバリエーションを生み出している。「リニア+水平維持」は正確に言えば画角選択というより、機能上仕方ないクロップではあるが、画角調整機能の中に組み込まれている。

HyperView
SuperView
広角
リニア
リニア+水平ロック

「リニア」と「リニア+水平維持」「リニア+水平ロック」はそれほど画角が変わらないので、水平維持や水平ロックは積極的に使っていきたいところだ。特に水平ロックは、カメラが逆さまになっても水平を維持するので、転倒や反転の可能性があるマリンスポーツでは、面白い映像が撮れるのではないだろうか。一方でバンクが重要になるスラローム系のスポーツでは、水平維持がないほうが迫力ある映像が撮れるだろう。

この手のカメラで重要視される手ブレ補正は、新たにHyperSmooth 5.0となった。ブレを自動で判断するAutoBoostがポイントである。モードを変えつつ撮り比べてみたが、Boostは当然強力に補正するのに対し、AutoBoostはBoostほど画角が狭くならず、かつ強力に補正できる。

手ブレ補正モード比較

以下のサンプルは5.3K/30p、AutoBoost、リニア+水平ロックで撮影したものだが、手持ちでも十分安定して撮影できるのに加え、水平維持に気を使わなくていいため、足場が悪いところでも小型カメラの機動性を活かしつつ、ジャーナリズム的な撮影にも対応できる事がわかった。サンプル中にある倒れた木は、先日の台風14号襲来の際に折れたものである。

5.3K/30p、AutoBoost、リニア+水平ロックで撮影したサンプル

手ブレ補正は、車載などの細かい振動には強いが、歩行のようなゆっくりした周波数にはそれほど強くはない。歩行は2Hzぐらいの大きな振動なので、アルゴリズム的に両立が難しいようである。

またレンズカバーには撥水加工が施されており、水面から上がっても水滴が画面に写り込むことなく、素早く水切れする。このあたりはアクションカメラの標準仕様となりそうだ。ただ背面のタッチ液晶は、水滴が付いていると反応しなくなる。静電タイプなので致し方ないところではあるが、他メーカーではあまり困った経験がないので、そこが弱点と言えるかもしれない。

縦動画対応と新ナイトモード

続いて音声収録のテストを行なった。あいにく撮影日は風がほとんどなかったので、風量低減の効果ははっきりは確認できなかったが、風量低減ONにすると音声の明瞭度が下がることが確認できた。「自動」は文字通り自動判定するが、反応次第で音声の明瞭度や音量のゆれが発生する。しゃべりの収録では、ウインドスクリーンか外付けマイクを使って、OFFで集音するほうがいいだろう。

風切り低減モードのテスト

静止画に関しては、今回新たに対応した8:7での撮影が標準となる。正方形に近い珍しい画角だが、Instagram用の1:1や、スマホ向けに縦に切り出したりといった自由度がある。

5,568×4,872の8:7で撮影できる静止画

動画に関しても、8:7で撮影できる。こちらは専用アプリ「Quik」にて、縦9:16への切り出しをサポートする。切り出しても4K解像度を確保できるため、カメラを縦に構える必要がないというのがポイントだ。

8:7で撮影した動画を、9:16に切り出し
カラーエフェクトも加えて切り出した縦動画

タイムラプスも、今回強化された部分だ。特に夜間撮影では、星の動きを撮影できる「スタートレイル」、光の軌跡を使って文字やイラストが描ける「ライトペインティング」、光源の移動が残せる「ライトトレイル」の3つが追加された。

あいにく撮影日は夜間が曇天のため、「スタートレイル」の撮影が出来なかったが、「ライトトレイル」はなかなか面白い。7秒撮影するのに15分ぐらいかかっているが、今回はバッテリーが強化されていることもあり、長時間のタイムラプス撮影は以前よりもやりやすくなっている。

光跡が残せる「ライトトレイル」
強化されたタイムラプス機能

また以前から搭載されているが、「スケジュールキャプチャー」もいい機能だ。これは予約した時間になると撮影を開始する機能で、例えば日の出を撮影したい場合、日の出前に起き出して録画ボタンを押さなければならない。だが前日夜にカメラだけセットしてスケジュールキャプチャーを仕掛けておけば、勝手に時間になれば撮影してくれる。

指定時刻で撮影が開始する「スケジュールキャプチャー」

総論

GoPro HERO11の見所は、アスペクト比8:7という縦方向にも広いモードを搭載することで、縦動画にも対応したところだろう。先々週の「DJI Osmo Action 3」ではマウントを工夫することで縦動画へ対応したが、HERO11ではカメラは横のままで縦動画へ対応するという方向性を打ち出した。

GoProやDJIの取り組みを見る限り、スマートフォンサービス向けの縦動画対応は、今後動画カメラとしても大きなウエイトを占めそうだ。この流れを、国産デジタル一眼メーカーはどう対応するだろうか。

一方で改善が望めなかったのは、音声収録だ。昨今はVlog撮影用として多くのカメラが流用されるようになり、集音機能が注目されているところだが、GoProはあまりそちら方向に興味がないようだ。

もっともそうした用途には、Creator Editionのようにきちんとした外部マイクと照明で撮影すべき、というのが筋ではある。だがそれでは価格が101,000円となってしまうわけで、10万円出してもGoProでやるべきなのか、という話になる。

グリップやライトモジュールなどが付属する「HERO11 Black Creator Edition」

スマホ側での編集機能も、アプリ「Quik」で可能になってはいるが、特徴的な機能はほとんどがサブスクに加入しなければ使えない。初年度は無料だが、翌年から年間6,000円が必要になる。DJIやInsta360が多くの機能を無料提供しているのに比べると、割高感がある。

特徴的な機能はほぼサブスク登録が必要

円安ドル高で、米国製品は必要以上に高価に見える中、中国メーカー製品のコスパが光るようになってきた。「それでもGoPro」なのか、多くの人が揺らいできているのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。