小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1069回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

1万円以下でリッチな音! クリエイティブ新PCサウンドバー「Creative Stage SE」

3月16日に新投入されたPCサウンドバー「Creative Stage SE」

昨年最も関心が高かった1台

昨年末に公開したElectronic Zooma! 2022総集編でもお伝えした通り、2022年に執筆したレビューのうち、もっともビューが高かった製品が、「Creative Stage Air V2」であった。6,480円という低価格ながら、PCとの組み合わせの妙というか、Bluetoothスピーカーの技術をうまく使いながら、かゆいところに手が届く製品となっていたのが評価されたものだろう。

Creative Stage Air V2

そんなCreativeの次なる製品が、「Creative Stage SE」である。元々Creative Stageシリーズは、サブウーファとセットになったテレビ・PC向けサウンドバー製品だったが、サウンドバーだけで完結させたファミリーモデルとして「Creative Stage Air」があった。今回の「Creative Stage SE」は「Air」シリーズではない製品となっている。

直販価格は8,900円だが、発売記念として4月7日11時59分までは発売記念特別価格の7,120円で購入できる。あの人気モデル「Creative Stage V2」と比べながら、さっそく試してみよう。

若干大型化したボディ

Creative Stage SE(以下SE)の外寸は、約410×108×68mmで、重量約1.22kg。横幅、高さはだいたいV2と同じだが、奥行きが若干長くなっている。またV2は奥に行くほど絞り込まれた台形の形状だったが、SEはほぼ箱型なので、エンクロージャ容積としてはSEのほうがかなり大きい。

V2(手前)と比較すると奥行きが長い
V2(上)と横幅はほぼ同じ
横から見るとフォルムがかなり違う

特徴的なのは、右側の巨大ダイヤルだ。これでボリュームが調整できるほか、押し込んで電源ON、電源ON状態でさらに押すとUSBとBluetoothの入力切り替えとなる。電源OFFは長押しだ。

特徴的な右側の巨大ダイヤル

またこのダイヤルのフォルムに合わせる形で、天板がゆるくカーブしている。天板は光沢のある樹脂製だが、このカーブがいいアクセントになっている。

入力はかなり絞られた。端子接続はUSB-C端子によるUSBオーディオのみとなった。V2はアナログ入力もあったが、昨今はスマートフォンにもアナログ端子を備えるものは少なくなったので、なくてもいいという判断かもしれない。なおUSB-A端子はファームアップ用のサービス端子である。

背面の入力端子

BluetoothのコーデックはSBCのみ。これはV2から変わらない。どんな機器でも最低限繋がるコーデックだとはいえ、もうそろそろAACかaptX対応も欲しいところだ。

もう1つの違いは、電源にACアダプタ接続が必須になったところ。V2はUSB-C端子経由で電源も共有できたし、内部にバッテリーも搭載していたので、完全スタンドアロンでも動作できた。この特徴がなくなって、ある意味「普通」になってしまった。

ACアダプタが必須に

ACアダプタのケーブル長が1.2mと短めなのも、気になるところ。近くにコンセントがあればいいが、この全長ではテーブルの上から床にあるテーブルタップまで、真下に落としてギリギリだろう。ちょっと何かを迂回して脇を通して…とやっていると、もう届かない。PCの近くでUSBケーブルが届けば置き場所が自由だったV2に比べると、ノートPCとの相性の良さはやや減退している。

内部のスピーカー配置は、左右に楕円形のフルレンジスピーカーを置き、中央にパッシブラジエータを配置。さらには左側面にバスレフポートを備える。V2はパッシブラジエータ搭載の密閉型だったが、バスレフとパッシブラジエータが両立する設計というのはなかなか珍しい。この設計によって、周波数特性は55Hz~20kHzとなっており、V2の80Hz~20kHzよりだいぶ低域が伸びている。

左側にあるバスレフポート

V2は右側にバッテリーがあったせいか、スピーカーのセンターがボディの中心から3cmほど左にずれていた。一方SEはちゃんとボディの真ん中がスピーカーのセンターとなっている。

Airシリーズにないポイントとしては、付属リモコンがある。十字キーの左右で曲の戻り送りができるが、上下がボリュームとなっている。そして通常はボリュームだろうという横長のシーソースイッチは、「TONE」になっている。マイナス方向に押すと低音方向へシフトし、プラス方向に押すと高音方向にシフトする。

新搭載のリモコン

そのほか「サラウンド」と「ダイアログ(音声強調)」ボタン、一番下にはそれらの調整をリセットするボタンがある。かなり音質が自由にいじれるようだ。

より深みが増した本格サウンド

ではさっそく音を聴いてみよう。まずはトーンなどはフラットな状態で、V2と比較してみる。

一聴してわかるのは、音が奥行き方向に深くなっているところだ。エンクロージャ容積も増し、バスレフもあるところから、かなり音質がリッチになっている。

音の派手さと言う点ではV2のほうが上だが、低域があまり付いてこないことから、ちょっと表面的な印象がある音なのに対し、SEの低音はなかなか健闘している。横幅41cm程度のサウンドバー、しかもウーファーなしのフルレンジのみである事を考えれば、かなりいい設計である。電源をACアダプタからしっかり取っているところも効いているようだ。

「サラウンド」ボタンを押すと、サウンドフィールドがバッと大きくなる。音によっては耳横で聴こえるパートもある。後ろにまで音が回り込むほど強いサラウンド感はないが、中心が抜ける感じもなく、音質的なデメリットを押さえた効果で好感が持てる。どちらかというと立体感を持たせる空間オーディオ的なアプローチをとっているようだ。

「TONE」を組み合わせると、好みの音質に寄せることができる。マイナス方向に倒すと、低音が増すわけだが、同時にボーカル帯域も増してくる。高域も落ちて、全体的にはサウンドがマイルドになるといった傾向だ。BGMとして聴く場合に、耳に刺激を押さえるといった使い方がいいだろう。

一方プラス方向に倒すと、中高域が立ってくる。音が明るくなり、カリッとしたサウンドが楽しめる。かといって低域が痩せる感じもなく、まさに「ブライトサウンド」といった印象だ。SEはV2に比べるとデフォルトサウンドが落ち着いているので、明るい音が好みの方はプラス方向に2つぐらい倒すといいだろう。

「TONE」の設定は、今どっち方向にいくつ倒したのかの表示はないので、ステータスがわからない。リセットボタンを押すとデフォルトに戻るので、わからなくなったらいったんリセットしてやり直すのがいいだろう。

「ダイアログ」ボタンも効果が高い。今回はブラウザでAmazon Prime VideoのWBCメキシコ戦をチラ見しながらこの原稿を書いているところだが、小音量でも解説がしっかり聴き取れる。加えて「サラウンド」も入れると、観客の声が外側に広がり、コンパクトな野球場が目の前に展開される。これはなかなか楽しい。

総論

PC向けアンダーモニターのサウンドバーという、わりとニッチな市場に立て続けに製品を投入しているCreativeだが、今回は奥行きの深い音質向上モデルで攻めてきた。サウンドも深くリッチになり、V2で物足りなかった低音の増強を図ってきた格好だ。

デザイン的にも面白く、右の大きなダイヤルがいいアクセントになっている。左側にも大きなバスレフポートが空いており、左右どちらから見てもルックスがいい。

一方でACアダプタ駆動となり、PCと組み合わせればUSB-C 1本だけで動いたV2のコンセプトがスポイルされた。せめてバッテリー駆動ができれば同じコンセプトでも行けたのだろうが、エンクロージャを広く取り、電源を強化してドライバを深く動かす方向に振ったのだろう。

「TONE」による音の変化もよくできている。単純なバストレブルの時代は終わり、かといってプリセットEQはステータスをわからせないと使えないという中、シーソーボタンで効果的に音を変えるのは、面白いアイデアだ。

ACアダプタ+リモコンで「普通のサウンドバー」に近くなったが、サイズをあまり変えずに音質向上を果たした。これで1万円しないのだから、コスパは非常に高いと言える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。