小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1068回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニー史上最軽量NCヘッドフォン「CH-720N」実力は!? 7千円台「CH520」も

統合プロセッサー「V1」搭載の「WH-CH720N」

軽さが魅力の2モデル登場

ソニーのNC(ノイズキャンセリング)ヘッドフォンと言えば、世代を重ねて第5世代まで続く「WH-1000XM5」(実売5万円前後)が知られるところだが、その下に小型軽量のWH-CHシリーズを展開している。過去「CH710N」、「CH510」というモデルがあったが、3月3日にそれぞれの後継モデルが登場した。

定番の高級モデルWH-1000XM5

「WH-CH720N」は、1000Xシリーズに内蔵しているものと同じ、統合プロセッサー「V1」を搭載しながら、ソニー史上最軽量のNC対応ワイヤレスヘッドフォンとなっている。店頭予想価格は22,000円前後と、WH-1000XM5より手に取りやすいのもポイントだ。

「WH-CH520」はNC非搭載ではあるが小型軽量で、ソニーのヘッドフォンアプリ「Sony| Headphones Connect」に対応、DSEEやイコライザー設定にも対応する。店頭予想価格は7,700円と、かなりリーズナブルだ。

小型軽量オンイヤー型の「WH-CH520」

今回は最上位のWH-1000XM5とも聴き比べながら、双方の魅力を探っていく。

シンプルだが使いやすいWH-CH520

小型軽量のWH-CH520(以下CH520)は、ブラック、ブルー、ホワイト、ベージュの4色展開。今回は新色として追加されたベージュをお借りしている。

まず手に持ってびっくりするのがその軽さだ。低反発素材でやわらかにフィットする新イヤーパッドで十分な厚みを持たせながらも、重量147gしかない。ヘッドバンド部も広めで、華奢な印象はない。

ベージュは今シリーズから導入された新色

ドライバーユニットは30mmで、密閉型エンクロージャを採用。イヤーパッドも円形のため、耳たぶの上に載せるオンイヤータイプとなっている。左右の締め付け感はやや強めで、しっかりした装着感がある。そのためNCは搭載していないが、それなりに外音の遮音感はある。

イヤーパッドは円形

ボタン類はすべて右側にあり、電源/ペアリングボタンとボリュームのアップダウンのみ。対応コーデックはSBCとAACだ。

端子やボタン類はすべて右側

充電時間は3時間と長めだが、連続再生時間はなんと50時間。さらに3分充電で1.5時間再生、10分充電で5.5時間再生のクイック充電にも対応。バッテリーがなくなっても、とりあえず使えるようになるまで最短3分は地味にありがたい。

ただオンイヤー型ゆえに耳たぶが常時押さえつけられることになるため、長時間の装着は厳しいかもしれない。またアナログ入力端子がないので、ワイヤード接続で利用する事はできない。

Androidにペアリングする場合は、近づけただけでポップアップが出るGoogle Fast Pairに対応。ヘッドフォンの場所がわからなくなっても、Fast Pairでは「デバイスを鳴らす」機能でヘッドフォンから音を出す事ができる。また「端末を探す」アプリを使えば、最後に使った場所を地図上で確認する事もできる。

低価格ながら万能感のあるWH-CH720N

WH-CH720N(以下CH720N)の魅力は、フラッグシップのWH-1000XM5と同じチップを搭載しながら、およそ半分の価格で入手できるというところだろう。カラー展開はブルー、ブラック、ホワイトの3色で、今回はブラックをお借りしている。

CH-720Nブラックモデル

こちらも重量約192gで、前モデルの223gから大幅に軽減した。イヤーパッドもシワの少ない新設計となっており、気密性が高まったことから、ヘッドバンドの締め付けも軽くなっている。

イヤーパッドは広く厚みのあるタイプ

こちらもドライバーは30mmで密閉型。ただしエンクロージャは楕円形になっており、耳たぶまですっぽり覆うスタイルとなっている。ただ奥行きはそれほどないので、1000XM5同様、耳たぶが少し内部に当たる感じがある。

1000XM5(右)とはイヤーパッドの作りが異なる

ボタン類は、電源/ペアリングボタンと端子類が左側にあり、コントロール系のボタンは全て右側。NCの切り換えボタンだけ離れているので、手探りでも操作しやすい。またこちらはアナログ入力端子もあり、ワイヤードでの利用もできる。

電源ボタンと端子類は左側
コントロールボタンは右側

対応コーデックはSBCとAACのみ。充電は3.5時間で、連続再生時間はNC ONで35時間、NC OFFで50時間となっている。

NCについては、エンクロージャ外側にフィードフォワードマイクを備え、内側のフィードバックマイクと合わせて騒音を打ち消す逆相音を正確に生成する。これは1000XM4と同じ「デュアルノイズセンサーテクノロジー」である。

表面にあるフィードフォワードマイク

音声通話時は、左側のフィードフォワードマイクと通話用マイクを組み合わせたビームフォーミングで、口元に指向性を持たせている。またフィードフォワードマイクには風ノイズ低減構造を採用しており、風がある中でもNCや通話品質に影響がないよう工夫されている。CH720Nのポイントは、フィードフォワードマイクの使いこなしにありそうだ。

かなり異なる音作り

では音楽再生時の音質を聴き比べてみよう。今回はApple Musicで配信されている高野寛「ベステンダンク」をGoogle Pixel 6aで試聴した。この曲は1990年にかなりヒットした曲だが、歌い出しからバッキングのシンセのコード弾きが大きくて、分離感の良いスピーカーでないとボーカルがよく聴こえないという、再生上の難曲である。ちなみにこのデカいバッキングは、プロデューサーのトッド・ラングレンが弾いている。

CH520で聴くと、シンセバッキングはモノラルで中央にあり、ボーカルがダブリングによって左右に分離するという独特のミックスであることがよくわかる。定位感がしっかりしている証拠である。

低域の出は、昨今のヘッドフォンにしては多少大人しいものの、バランスはいい。このあたりは「Headphones Connect」のEQでいくらでも増強できるので、弱点にはならないだろう。音のカラーとしては明るく、パッと花が開いたような華やかさがある。軽快に音楽が楽しめるヘッドフォンだ。

CH720Nで聴くと、CH520の華やかさとは逆に、花が閉じたような、中音域が巻き込まれているようなクセを感じる。音の分離感は上だが、このクセがちょっと気になるところだ。

同じ30mmドライバーだが、低音はCH520よりよく出ている。このあたりはエンクロージャの作りがいいのだろう。ただ若干底突き感がある低音ではある。

親分である1000XM5で聴いてみる。いや、さすが最上位モデルだけあって、音の華やかさ、低音とのバランス感覚は素晴らしいものがある。分離感も良く、音の立ち上がりと立ち下がりが早く、パンチ力のある音である。

また3モデルの中では唯一LDAC対応でもある。特に低域に関しては、こちらも30mmドライバーにも関わらず、まだまだ下まで行けるという余裕がある。径が同じなだけで、ドライバー自体は別物なのだろう。

筆者の音の好みからすると、1000XM5 > CH520 > CH720Nといった並び順になる。

NCと音声通話

CH720Nは、1000XM5同様V1チップによるNCが利用できるのが強みだ。とはいえ、マイク性能やエンクロージャ等が違うため、NCの能力はまったく同じではない。

1000XM5は世界最高水準を謳うだけあって、外音のカット力はかなり高い。これはV1チップの能力もあるが、エンクロージャとイヤーパッドの遮音性や、ヘッドバンドの圧力などの総合力によるところが大きい。

CH720Nでは、ボディの軽さや締め付けのソフトさで装着の快適性を重視しており、ハードウェアとしての密閉感はやや落ちる。したがってV1チップの性能は同じでも、外音ノイズのキャンセル力はやや落ちる。

とは言え、アプリ「Headphones Connect」によるアダプティブサウンドコントロールは、1000XM5と同様に利用できる。外音取り込みも、ノイズを抑えて人の声を取り込む「ボイスフォーカス」も利用できる。

アプリの機能はほぼ1000XM5と同じものが使える

昨今はヘッドフォンの装着時間も長くなり、装着したまま通話やボイスチャットを受けるということも多くなっている。今回の2モデルも、音声通話に関してのテコ入れが行なわれているところだ。

今回は交通量のある道路脇で、若干風がある日に通話テストを行なってみた。CH520は、ハードウェアによる遮音がそこそこあることから、うるさい場所でも通話は可能だ。また自分の声も聞こえることから、こちら側からの喋りやすさはある。

収録音声を聴くと、若干NCによるシュワシュワしたノイズが含まれる。ただマイクは右側に1箇所だけで、特にビームフォーミングなども行なっていないにも関わらず、感度としては悪くない。

CH720Nは、NC ONだと周囲のノイズをかなり遮音できるので、話の聞き取りやすさは高い。収録音声には過剰なNCによるシュワシュワ感がなく、自然な音声である。また外部にフィードフォワードマイクが露出しているにも関わらず、風の影響がほとんどない。ただ自分のしゃべり声も遮音されるので、若干の喋りにくさはある。

1000XM5での収録音声を聴くと、CH720Nの優秀さがわかる。フィードフォワードマイクに風切り音低減機能がないため、通話音声に「フカレ」によるノイズが大量に載ってくる。これは普通に音楽を聴く場合のNCにも当然影響を与えており、風の強い日や、風が吹き込んでくる地下鉄ホームではNC能力が下がる。また集音レベルも小さいので、相手方は聞き取りにくいだろう。

3モデルで音声通話のテスト

通話での使いやすさという点では、CH720N > CH520 > 1000XM5という順番になる。

総論

1000XM5は昨年5月の発売なので、それほど古いモデルではない。一方今回の新作2モデルは、よりテレワーク利用を重視したことで、方向性の違うモデルとなっている。

どちらも重量が軽く、長時間装着を意識していることが読み取れる。CH520はオンイヤー型でNCもないが、ヘッドバンドの締め付けで密閉感を上げている割に、イヤーパッドに厚みがあるのでそれほどキツい感じもない。うまくバランスを取った製品だ。価格も実売7,000円程度なので「あ、やべ。ヘッドフォン忘れた」みたいな時に量販店に飛び込んで買えてしまう気軽さがある。

CH720Nは、音が若干湿っぽいところが難点であるが、このあたりはアプリによるイコライジングで工夫して行ける範囲である。耳を覆うアラウンド型なので耳への負担も少なく、締め付けも軽い。もちろん重量も軽いので、長時間の装着も苦にならない設計となっている。

NCもあり、ワイヤードでも使え、通話音声も良好ということで、室内でも屋外でもオールラウンドで使えるモデルに仕上がっている。

最高音質とNC力を求めるなら1000XM5という事になるが、軽くて使い勝手のいい個性的な2モデルも、なかなか魅力的である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。