小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1096回
“AIを手の中に”。Google Pixel 8 Proのカメラ機能をテスト
2023年10月12日 02:00
新作が出そろったところで
秋は色々新製品が出るシーズンだが、スマートフォンに限ればApple iPhoneとGoogle Pixelの新モデルは注目度が高いところだ。日本においてはiPhoneの一人勝ちだったところ、Pixelも大々的なキャンペーンの成果もあり、じわりと存在感を高めているところである。
10月4日に発表された新モデル「Pixel 8」および「Pixel 8 Pro」はチップも新モデルとなり、AIを使った静止画・動画編集機能を進化させた。ソフトウェア側による進化を謳ったモデルではあるが、それを支えるチップもキーになるわけで、ついついカメラ性能にばかり気を取られがちなスマートフォンに別の切り口をもたらすものとして期待される。
価格はPixel 8が128GBで112,900円、256GBで122,900円。Pixel 8 Proが128GBで159,900円、256GBで169,900円、512GBで189,900円。発売日はどちらも10月12日で、公式ストアでは10月4日から20日まで、対象スマホ下取りとストアクレジット提供のキャンペーンを実施している。
今回は一応両モデルをお借りしているが、Pixel 8 Proを中心に写真と動画のAI機能をテストしてみたい。
お馴染みになったデザイン
Pixel 8のカラーバリエーションはHazel、Rose、Obsidian。Pixel 8 ProはBay、Porcelain、Obsidian。今回は8がHazel、8 ProはBayをお借りしている。
公式サイトの画像では質感がわかりにくいと思うが、8のHazelは若干緑に寄せたグレーで、光沢仕上げだ。一方8ProのBayは公式写真よりも実際には薄めのブルーで、光沢のないマット仕上げだ。写真ではなかなかちゃんと撮れないカラーなので、色や質感に関して気になる人は、実際に店頭で実機を確認した方がいいだろう。
8、8 Pro共通仕様としては、プロセッサがGoogle Tenser G3、セキュリティコプロセッサがTitan M2というところ。インカメラのスペックも同じで、解像度10.5メガピクセル、ピクセル幅1.22μm、画角95度、絞りF2.2となっている。
背面のカメラ部は、すっかりお馴染みになったカメラバー。最初は変だと思ったが、ここまでシリーズが続くと、もはやある種Pixelのアイコンになっている。
オーディオ関係では、ステレオスピーカー搭載、マイク×3、ノイズキャンセル、空間オーディオ(対応アプリとイヤフォンが必要)というところも同じだ。
撮影関係の主な違いとしては、以下のようになる。
- | Pixel 8 | Pixel 8 Pro |
ディスプレイ | 6.2型 Actua display | 6.7型Super Actua display |
解像度 | 1,080×2,400 OLED 428 PPI | 1,344×2,992 LTPO OLED 489 PPI |
スムーズディスプレイ | 60~120Hz | 1~120Hz |
最大輝度 | 1,400ニト(HDR) 2,000ニト(ピーク輝度) | 1,600ニト(HDR) 2,400ニト(ピーク輝度) |
広角カメラ | - | - |
画素数 | 50メガピクセル | 50メガピクセル |
ピクセル幅 | 1.2μm | 1.2μm |
絞り値 | ƒ/1.68 | ƒ/1.68 |
画角 | 82度 | 82度 |
センサーサイズ | 1/1.31インチ | 1/1.31インチ |
超解像ズーム | 8倍 | 5倍 |
超広角カメラ | - | - |
画素数 | 12メガピクセル | 48メガピクセル |
ピクセル幅 | 1.25μm | 0.8μm |
絞り値 | ƒ/2.2 | ƒ/1.95 |
画角 | 125.8度 | 125.5度 |
望遠カメラ | - | - |
画素数 | - | 48メガピクセル |
ピクセル幅 | - | 0.7 μm |
絞り値 | - | ƒ/2.8 |
画角 | - | 21.8度 |
光学ズーム | - | 5倍 |
超解像ズーム | - | 最大30倍 |
AF | 単一ゾーンLDAF | マルチゾーンLDAF |
動画のほうが画角が詰まっているのは、常時電子手ブレ補正が利いており、OFFにできないからである。
動画撮影機能としては、レンズの違い以外のスペックは共通。4KおよびHD解像度で撮影が可能で、どちらもフレームレートは24、30、60から選択できる。ただ一部の機能は、解像度やフレームレートの制限を受ける。
なおセンサー類の違いとしては、Proのみ温度センサーが追加されている。専用アプリにより温度が計測できるはずだが、執筆時のバージョンではまだ温度計アプリが提供されておらず、機能は確認できなかった。
撮影関係でアナウンスはされているのの現時点では搭載していない機能に、「動画ブースト」、「ビデオ夜景モード」がある。これらは後日アップデートによって提供される予定となっている。
「後処理」が利く静止画
8と8 Proのカメラは、解像度が違うものの、画角はほぼ同じとなっている。8 Proは望遠カメラがあるのと、全カメラ解像度が近いということで、メインとサブという関係ではなく均等に使えるというところがメリットになる。
まずは写真機能から見ていこう。8 Proの特徴は、写真の設定に「プロ」があるところだ。設定できるものとしては、50メガピクセルの高解像度撮影、RAW+JPEG保存、レンズの手動選択がある。
レンズの手動設定は、3つのカメラのうちどれを使うか、ユーザーが指定できる。一方自動ではズーム倍率が表示されるだけなので、電子ズームとの組み合わせとなり、現在どのレンズを使用しているのかがわかりにくい。
今回の目玉機能の1つ、「トップショット」は、静止画撮影時にその前後の高解像度動画を撮影し、タイミングのいいところを選択できるという機能だ。パナソニックLUMIXの4Kフォトや6Kフォトのような機能である。ただしこれは「プロ」設定の「50メガピクセル」撮影と「レンズの手動選択」がONになっていると使用できない。
「マクロフォーカス」は、被写体に近接すると自動的にこのモードに切り替わる。切り替わり時には画面上に花のマークが出るので、わかりやすい。カメラ前2cmまで寄れる機能だが、要するに被写体に接近すると、自動的に超広角カメラに切り替えるというわけだ。当然カメラ位置が異なるのでパララックスが発生し、微妙に構図が変わる。またこの機能は、「プロ」設定の「レンズの手動選択」がONになっていると使用できない。カメラ選択が固定化されてしまうからだろう。
一方カメラアプリ側ではなく、「フォト」側に実装された機能も多い。発表された機能の中でもっとも注目されているのが、「ベストテイク」機能だろう。これは同じ状況で撮影された複数枚の写真をチェックして、人物の顔を一番いいものに差し替える機能だ。
「ツール」から「ベストテイク」を選ぶと、しばらく撮影された写真のうち類似のものがないかスキャンされる。似たようなシーンや人物があれば、差し替え候補として写真の下に表示される。差し替えたい人を選び、顔を選ぶと差し替えできるというわけだ。
合成後の写真を見ても、合成の不自然さはない。集合写真でも3~4枚撮影しておけば、目をつぶった、横向いてるといった人だけを差し替えて、全員がちゃんと前を向いている写真に合成できる。
ちなみにこの機能は、ワンショットでも動作した。背景とのタイミングでどうしてもこれじゃないと、という場合には、顔の差し替えが利く。
もう1つ、まだベータテスト段階の機能に、「編集マジック」がある。これはAIを使って写真の写り込みの消去、被写体の移動、背景の調整が可能になる。
例えば接写した花を選択して場所を移動すると、穴が空いた部分はAIが自動的に埋めてくれるというわけだ。
背景については、曇り空を青空に変えるなど、Adobe Photoshopなみの加工ができる。なおこの機能を使うには、事前に写真をクラウドにバックアップする必要がある。
動画にもAIを
動画撮影においては、静止画のような「プロ」設定はない。だが10bit HDRで撮影できるといった設定もあり、よくあるなんちゃってHDRではなく本物のHDR撮影が可能だ。
手ブレ補正は、「標準」、「ロック」、「アクション」の3段階がある。ただしカメラ設定では「標準」、「ロック中」、「有効」となっており、ヘルプとソフトウェアの用語が一致していない。なお「アクション」は4Kでは動作せず、HDのみとなる。また手ブレ補正モードによって使用できるカメラが違っており、撮影倍率も変わってくるので、若干ややこしい。
【手ブレ補正モードと
撮影可能な画角】
補正モード | 超ワイド | ワイド | 望遠 |
標準 | ○(0.5倍) | ○(1、2倍) | ○(5倍) |
ロック | × | ○(2倍) | ○(5倍) |
アクション | ○(1、2倍) | × | × |
「アクション」では超ワイドカメラしか使えないわけだが、補正領域を広く取って拡大しているので、画面上の表示は「1倍」もしくは「2倍」となる。よって同じ1倍でも、「標準」と「アクション」ではパース感が異なる。
実際に手持ち撮影でテストしてみた。「標準」は全カメラが利用可能なので使いやすいが、補正力はそれほど強くない。「アクション」は補正力が強く、被写体と併走して自分も動くといった撮影に向いている。「ロック」はそもそも三脚なしでフィックス撮影するためのモードなので、被写体側が動かない場合は良好だが、どっちも動く撮影には向いていない。
今回のサンプルは、4K・SDRですべて手持ち撮影、手ブレ補正は「標準」で撮影している。画角バリエーションが豊富で三脚も不要なので、非常に機動力の高い動画撮影が可能だ。
リアルタイム処理のパフォーマンスが実感できる機能としては、動画の「ぼかし」モードがある。写真におけるポートレートモードのような機能で、ターゲットとなる被写体の背景を、リアルタイムでボカしていく。使用カメラは広角固定なので、倍率は選択できない。
よく見ると服の輪郭部分に多少モヤッとした部分が見えたり、背景が遠近に関係なく均等にボケているといったところはあるものの、顔や髪の輪郭は綺麗に処理されており、パッと見スマホでの撮影には見えないだろう。
スローモーションも試してみた。スピードは1/4と1/8が選択できるが、解像度は自動的にHDとなる。センサーの性能が足を引っぱっているのか、今どきのカメラとしては画質はそれほど良くない。
AI機能として大きくフィーチャーされたのが、「音の消しゴムマジック」である。絵の消しゴムマジックは、画面上の不要なものを選択して消し、その跡をAIが埋めるという機能だが、音の場合は背景ノイズの種類を選択して、それを下げるという格好で動作する。
元々Pixelシリーズには「音声拡張機能」があり、収録時に背景の音を抑制する、いわゆる集音のノイズキャンセリング機能がある。これはリアルタイム処理で調整する部分は何もないのだが、「音の消しゴムマジック」は後処理で効果が調整できるというのがポイントになりそうだ。ただし「音の消しゴムマジック」が処理できるのは2分以内の動画となっており、長い動画は2分以内に編集する必要がある。
総論
価格的にはほぼiPhoneと匹敵するPixel 8シリーズだが、そのほとんどはカメラ性能などのハードウェアではなく、AI処理というソフトウェアでの付加価値となっている。ソフトウェアなら今後のアップデートでさらに良くなる可能性もあり、7年間という長期サポートもあることを考えると、他社よりは陳腐化しにくいのではないかという気がする。
スマートフォンとしての競合であるAppleやサムスンなどがあまりAI処理を前面に打ち出しておらず、AI分野で競合となり得るのはAdobeとマイクロソフトぐらいということであれば、当面Google Pixelは、その特殊な立ち位置を維持できるだろう。
今回は画像・音声処理部分しかテストしていないが、AIによるGoogleアシスタントの高度化も期待できる。また迷惑電話に対応する「通話アシスト」や多言語対応の「音声入力アシスタント」、「AI壁紙」といった機能もあり、「AIの今」が体験できるモデルと言えそうだ。