小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1054回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

動画カメラ的視点で見る、こんなに違うよ「Pixel 7」と「Pixel 7 Pro」

左から「Pixel 7 Pro」、「Pixel 7」

すっごいバタバタしてるけど……

10月13日より、Googleの最新スマートフォン「Pixel 7」と「Pixel 7 Pro」の発売が開始された。Googleとしてはこれでデファクトを取る勢いでプロモーションなども盛んに行なってきたが、Googleストアでのオペレーションはかなり混乱したようだ。

ネットでは10% OFFクーポンが発売日の翌日に配付されたことで、初日に予約した多くの人がキャンセル&再予約したり、下取りキットの配付が滞り、指定日までにキットが届かないといったトラブルが報告されていた。

現在は収束しているようだが、注文者が殺到して発注が滞るのではなく、ストア側の設定ミスやらなにやらで滞るというのは、もやはお家芸となりつつある。余談だが筆者も先日のGoogle Pixel Watchの発売日に、本来まだ買えないはずのベルトもなぜか一緒に買えてしまい、決済の時点でエラーするというトラブルに対処しているうちに欲しいモデルが品切れになるというバカバカしい事態になり、購入を諦めたという経緯がある。

気を取り直してPixel 7とPixel 7 Proである。すでに多くの比較レビューも出ているところだが、動画撮影性能や表示能力に関してのテストはまだ少ないようだ。今回は動画性能を中心に、その違いを検討してみたい。

約4万円の違いとは

両者のスペック比較については、僚誌ケータイWatchですでに記事が出ているので、そちらが参考になるだろう。AV機器的な要素のみピックアップすると、大きく違うのはカメラ構成であり、そこがProかNon Proかという事になる。

カメラは7 Proが3つ、7が2つ
Pixel 7 ProPixel 7
広角カメラ--
解像度50MP50MP
絞り値F1.85F1.85
画角82度82度
超広角カメラ--
解像度12MP12MP
絞り値F2.2F2.2
画角125.8度(0.5倍)114度(0.7倍)
望遠カメラ--
解像度48MP-
絞り値F3.5-
画角20.6度(5倍)-
前面カメラ--
解像度10.8MP10.8MP
絞り値F2.2F2.2
画角92.8度92.8度

スペック上では、広角カメラ(メインカメラ)は同じ、超広角カメラはセンサーの画素数は同じだがレンズが違うという事になる。ただしProの超広角はAF付きでマクロ撮影が可能だが、7はAFなし(パンフォーカス)となっている。またProにはさらにメインから5倍となる望遠カメラを搭載している。

7 Proのカメラ部
7のカメラ部
前面カメラはどちらもセンター位置

ディスプレイはボディサイズと直結するわけだが、Proが1,440×3,120ドットの6.7インチなのに対し、7は1,080×2,400ドットの6.3インチとなっている。Proのみディスプレイ部の左右のエッジ部が湾曲した、エッジディスプレイになっている。

7 Proのみ側面が湾曲したエッジディスプレイ

解像度以外でディスプレイの大きな違いは、リフレッシュレートだろう。Proが最大120Hzなのに対し、7は90Hzとなっている。また最大輝度はどちらも1,000nitsだが、ピーク輝度はProが1,500nits、7が1,400nitsとなっている。

ちなみに先行して発売されているPixel 6aは60Hzだが、パネル自体は最大120Hzに対応するものの、差別化および動作時間の都合で60Hzに抑えられているとする情報もある。

価格は7 Pro 128GBモデルが124,300円、256GBモデルが139,700円、7の128GBモデルが82,500円、256GBモデルが97,900円となっており、ストレージが同じならば価格差は約4万円となる。大きさ以外にこの差をどこに求めるか、という事になる。

ProがProであるゆえんとは

まず画角だが、メインカメラの82度は35mm換算するとだいたい24mmぐらいになるが、これは写真撮影の場合である。動画撮影の場合は手ブレ補正が入ることもあり、ここから約1.2倍ほど画角が詰まる。したがって超広角も望遠もそれぞれ動画では一回り狭くなる。「2倍」はカメラにプリセットサイズがあるので撮影しているが、実際には広角カメラからのデジタルズームである。

【7 Proと7の画角比較】

7Pro:広角
7:広角
7Pro:超広角
7:超広角
7Pro:2倍
7:2倍
7Pro:望遠
7 Proは光学望遠で5倍が選べる

やはり超広角が一回り広いのと、5倍望遠があるのは強い。これまでスマホカメラは人やモノを撮ることに特化してきた側面があるが、昨今は子供の運動会などもスマホで撮る人も増えた。広角しかないスマホでは自分の子供など点でしか写らないだろうが、5倍望遠なら画角20.6度、35mm換算で120mmぐらいだろうか。動画ではさらに詰まるので、実質135mmぐらいになる。これぐらいあれば、遠くからでもそこそこ撮影できる。割と万能感のあるカメラセットだ。

Pixel 7では妥協して2倍デジタルズームでここまでしか撮れないが……
Pixel 7 Proでは光学だけでここまで寄れるのは大きい

超広角カメラは、ProのほうのみAFが使える。従って近接でのマクロ撮影ができるのも強みの1つだ。

7 Proの超広角カメラで近接撮影

両者を同じ画角で撮影してみた。広角カメラはスペック的にも同じのはずだが、実際撮影してみると絵作りが多少違う。Proのほうは若干青みが強い傾向があるため、空抜けは綺麗だ。また発色も若干強めにでるようで、見栄えがいい。

Pixel 7 ProとPixel 7で同時に撮影してみた

前面カメラのスペックも同じだが、実際撮影してみると、若干Proのほうが発色が強い。7のほうは若干顔色が悪い印象がある。同じ条件でポートレート撮影したが、背景のぼかし強度は7Proが「21」、7が「26」で撮影されていた。後ろの空抜けの具合で自動的にボケ強度を変えているものと思われる。

Pixel 7 Proの前面カメラ、ポートレートモード
Pixel 7 の前面カメラ、ポートレートモード

スローモーションは、1/8倍と1/4倍での撮影が可能だ。今回は1/8倍でテストしたが、画質などはほぼ同じだ。ただProのほうが発色が若干青っぽい傾向は変わらず、空抜けの印象はいいが、人肌では若干暗く感じられる。

スロー撮影での比較

双方で使える機能

背景ぼかしの状態を動画で撮影できる「シネマティック」モードは、Pixel 5の時に搭載された。動画の場合、中心となる被写体をタッチし続けることはできないので、何を中心にするかはカメラ側が判定することになる。

人物がフレームインしてくる動きでは、どちらもフレームに入ってくる前から背景がボケ始めるため、かなり自然な被写界深度表現ができる。このあたりがレーザー検出によるAF「LDAF」の良さである。

一方人物が近寄ってくる動きに対しては、すでにレーザーで測距しているはずだが、7のほうはどれをメインにするかに迷いが見られ、前半はまったくボケていない。まただいぶ近接してから、間違って人物のほうをぼかしてしまうという誤動作も見られる。スペック上は全く同じはずだが、Proのほうが若干有利な結果となった。

シネマティックモードでの撮影比較

またシネマティックモードは単に背景をボカすだけでなく、色味やコントラストもかなりいじっている。同じアングルで撮り比べてみると、違いはかなり大きい。シネマティックモードでは解像度がHDに落ちてしまうが、それでも雰囲気のあるショットが欲しければ、使うメリットは大きい。

通常モードで4K撮影
シネマティックモードでHD撮影

また音声収録としては、新搭載された「音声拡張機能」をテストしてみた。これはPixel 7シリーズに合わせた新機能ではなく、今年8月にPixel 6シリーズ向けに公開されたもので、音声の収録時に背景のノイズを軽減し、音声にフォーカスしてくれる機能だ。

設定の一番下にある音声拡張機能

ちょうど2台あるので、7 ProのほうはON、7のほうはOFFで同時収録してみた。聴いていただければお分かりのように、ONの場合は背景の「ゴー」という海鳴りの音が軽減されて、音声が太くなっているのがわかる。一方声のリアリティという点ではOFFのほうが良好だ。背景にノイズがない静かな場所で集音する場合は、OFFのほうが望ましいだろう。

音声機能拡張のONとOFFを比較

静止画においては、まだベータ扱いではあるが、「モーション」モードが追加された。これには「アクション パン」と「長時間露光」の2つがある。

新設された「モーション」モード

アクションパンは、流し撮りした際の背景のブレを擬似的に付けてくれるもの。本物のカメラでは、シャッタースピードを落とさないと背景が流れないわけだが、晴天の昼間、絞りのないスマートフォンのカメラではなかなかシャッタースピードを落とせない。そんなときにアクションパンで撮影すると、背景が流し撮りしたように加工してくれるというものだ。

「アクションパン」による効果
オリジナル画像はシャッタースピード1/3165sで撮影されていた

原理的には、ポートレートで使用する被写体切り抜き技術に、カメラをどの方向に振ったかのモーション記録機能を組み合わせてブラーの方向を決めているものと思われる。

「長時間露光」は、アクションパンと真逆の用途である。カメラを固定しておき、動く被写体を撮影する事で、動いているものだけブラーをかけて撮影できる。ブレている群衆の中心に立っている1人だけブレてないみたいな、アレである。こちらも本来ならシャッタースピードを下げないと撮れないところ、複数枚を合成することでブラーを表現するようだ。

「長時間露光」による効果
オリジナル画像はシャッタースピード1/348sで撮影されていた

総論

動画撮影の面からPixel 7と7 Proを比較したが、プロセッサが同じとはいえ、カメラ構成はかなり違っており、やはりProの3つのカメラによる画角のバリエーションの多さは、とりあえずこれ1台あればかなり幅広い用途に使えるということがわかった。特に光学望遠の5倍はなかなか強力なツールになる一方で、超広角もAFがあることでマクロ撮影もできるなど、オールマイティ感が高い。

ディスプレイに関して本文中では具体的に言及しなかったが、Amazon Primeで同じコンテンツを同時再生して比較したところ、解像感や発色の良さはあまり変わらないが、7のほうが若干緑っぽく見える傾向があった。この程度は個体差である可能性もあるが、カメラ性能のブレなどからみても、Proのほうがしっかり個別にチューニングされている印象がある。価格の高さは、ハードウェア単価というより、このあたりの手間賃も含まれている可能性もありそうだ。

Pixelといえば、旧モデルの買い取り価格の高さも魅力である。Proは10万円越えのハイエンド機ではあるが、高価買い取りモデルをお持ちであれば、10万円以下で買える可能性もある。エッジディスプレイがイヤでなければ、Proのほうが満足度は高いだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。