小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1097回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

もはや“デジタル耳栓”、強力NCボーズ「QC Ultra EarBuds」。ソニー1000XM5と比較

QuietComfort Ultra EarBudsを1000XM5(右)と比較

新シリーズ「Ultra」登場

9月中旬に海外発表されたボーズのワイヤレスヘッドフォン「QuietComfort Ultra Headphones」とワイヤレスイヤフォン「QuietComfort Ultra Earbuds」。どちらも日本での展開はアナウンスされていなかったが、10月19日の発売が決定した。

直販価格はUltra Headphonesが59,400円、Ultra Earbudsが39,600円。今回はUltra Earbudsをお借りできた。

QuietComfort Ultra Earbudsは、昨年9月末に発売された「QuietComfort Earbuds II」の後継機となる。ドル建てではIIもUltraも同じ299ドル。IIは発売当初36,300円だったが現在は39,600円と、Ultraと同価格になっている。ただ公式サイトではすでにIIは在庫なしとなっており、市場でも徐々にUltraに入れ替わっていくという事だろう。

今回のポイントは、ボーズ独自処理による空間オーディオ機能。空間オーディオとして配信されている曲だけでなく、どんな音源も頭外定位させるというタイプだが、どのくらい効果があるのか気になるところ。

一方ノイキャンに関しても「世界最高レベル」を謳っている。世界最高レベルといえば実質的にソニーWF-1000XM5と比べてどうなのか、という話になると思うので、今回はソニーより同機もお借りして、比較してみたい。

見た目はIIとほぼ同じ

Ultra Earbudsはブラック、ホワイトスモーク、ムーンストーンブルーの3色展開。ただしブルーは限定色ということで、常時販売はブラックとホワイトスモークの2色となる。今回はブラックをお借りした。

Ultra Earbuds ブラックモデル

イヤフォン形状はEarbuds IIと同じで、おそらく同じ金型ではないかと思われる。表面のボーズロゴがある部分のみガンメタリックとなっている。イヤーチップは3サイズ、エッジ部分に装着するスタビリティバンドも3サイズで、このあたりもEarbuds IIと同じだ。

ロゴ部分だけガンメタリック仕上げ
WF-1000XM5(左)とサイズ比較

マイクは片側につき4箇所で、エンクロージャー部内向きに2つ、エッジ部分下向きに1つ、短いステム部の内側に1つだ。3つのマイクは装着すると耳の中に隠れてしまうので、恐らくステム部のマイクが通話と兼用だと思われる。

エッジ部の下にもマイクがある

Bluetoothバージョンは5.3で対応コーデックはSBC、AAC、aptX Adaptive。Snapdragon Sound認証も取得しており、44.1kHz/16bitロスレスで伝送できるほか、ハイレゾは最高48kHz/24bitロッシーで伝送する。aptX Adaptive自体は最高24bit/96kHzまでサポートするが、イヤフォン側がそこまでは対応しないようだ。一方、ローレイテンシーモードには対応する。

バッテリーはイヤフォンの持続時間が最大6時間、充電時間は1時間、20分充電で2時間使用のクイック充電にも対応する。ケースの充電時間は約3時間。ケースと本体合計で24時間の再生をカバーする。ケースはワイヤレス充電には対応しないが、別売の「ワイヤレス充電ケースカバー」を購入すると可能になる。なおこのケースカバーはEarbuds IIにも対応する。

ケースもIIと同仕様

新搭載の空間オーディオ(イマーシブオーディオ)は、アプリにより「オフ」、「静止」、「移動」の3種類が提供される。「静止」は頭をそれほど動かさないという前提なので、空間オーディオに加えてヘッドトラッキングが有効になる。一方「移動」は頭の方向がどんどん変わっていくので、ヘッドトラッキングは無効になる。

イマーシブオーディオはOFFも含めて3モード

動作モードとしては、NCのみONの「クワイエット」、外音取り込みの「アウェア」、NCと空間オーディオ両方がONの「イマーション」の3パターンが提供されている。モードは自分で設計することもできるので、例えばNCはOFFで空間オーディオのみONといったモードも作ることができる。

デフォルトの動作は3モード
機能を組み合わせてオリジナルのモードが作れる

イヤフォン表面にタッチセンサーを備えており、長押しで動作モード変更や空間オーディオの種類変更に対応する。

キャリブレーション機能もあるが、スマホを正面に向けてボタンを押すだけで一瞬で完了する。何を測定しているのかよくわからないが、聞こえ方に難がある場合は調整機能を試してみるといいだろう。

キャリブレーション機能もある

秀逸なノイズキャンセリング

やはり一番気になるのはノイズキャンセリングだろう。本来ならダミーヘッドでキャンセル具合を確認していただきたかったのだが、昨今のイヤフォンは装着センサーが高度化しており、ダミーヘッドにはめ込んだだけでは反応しない(未装着状態になる)ため、断念した。筆者の体感のみになることをご容赦いただきたい。

まず交通量の多い交差点に立って、NCのテストを行なった。以前も同じ場所でEarbuds IIをテストしているが、Ultra Earbudsのほうがキャンセル力は上だ。漏れ聞こえてくる車の走行音も、Earbuds IIが「コーッ、コーッ」というやや中域に寄った音だったのに対し、Ultra Earbudsでは「シャーッ、シャーッ」という高域寄りの音になっている。中音域のキャンセル力を上げて、第2世代Apple AirPods Proと同じような特性になっているようだ。

ソニーの「WF-1000XM5」は、キャンセル力という意味ではやや落ちる。ただ漏れ聞こえる音のバランスが良く、かなり自然音に近い。全周波数帯域に渡ってノイズを均一に減少させるという特性のようだ。

ショッピングモールのフードコートでも試してみた。Ultra Earbudsは人の声も空調の低音も綺麗にカットできる。漏れ聞こえる声はごくわずかで、ある意味“デジタル耳栓”とも言えるキャンセル力を誇る。

WF-1000XM5は「多分周りはうるさいんだろうな」という感じが漏れ聞こえてくる。完全にゼロにはならず、ノイズレベルを下げるといったキャンセリングだ。1000XM5もかなりキャンセル力が高いという評価だったが、Ultra Earbudsはさらにその上を行く。むしろライバルは第2世代Apple AirPods Proかもしれない。

音質と通話音声もテスト

音質もチェックしてみよう。どんな音源も空間オーディオ化して再生できるイヤフォンだが、その効果のテストには、空間オーディオ対応の音源を使った。Amazon MusicからDolby Atmosで提供されているデヴィッド ペイチ「Forgetten Toys」を試聴している。

Ultra EarbudsはEQがそれほど充実しておらず、3バンドEQがいじれる程度だが、素性はボーズ特有の、低域がドーンと深いところから来る特性そのままだ。さらに今回は独自アルゴリズムの空間オーディオが加わった事で、解像感も一段とアップしている。

試聴環境としては、あいにく手元にはPixel 6aしかないため、通常はAAC接続となる。だが今回はCreativeのトランスミッタ「BT-W5」を使い、aptX Adaptiveで試聴してみた。これだとスマホアプリは使用できないが、イヤフォン側のタッチ操作で空間オーディオのモードは変更できる。

CreativeのaptX Adaptive対応トランスミッタ「BT-W5」

空間オーディオOFFだとかなり耳に直接音が流れ込んでくる感じがあるが、ONにするとそこから音像が一歩引いて拡がるのがわかる。ものすごく派手な効果になるわけではないが、頭内定位がかなり解消される。

「静止」ではヘッドトラッキングが利くので、頭を少し振ると、より立体感が高まる。動きに対する反応も上々で、遅延感はない。頭の方向を変えて固定すると、5秒程度でセンター位置がリセットされる。このあたりの反応はすでに先行する他社と同様だ。

「移動」ではヘッドトラッキングがOFFになるが、空間オーディオとしての聞こえ方は、「静止」で正面を向いている時と変わらない。

Amazon Musicはソースを空間オーディオとステレオに切り替えできるので、イヤフォン側は空間オーディオのままでソースをステレオに切り替えてみた。ステレオソースでも、独自アルゴリズムで空間オーディオに変換してくれる。ただやはりソースが空間オーディオの場合よりも、音像が手前というか、耳の横一列に近づく感じがある。一応効果はあるが、やはりソースから空間オーディオのものが一番よく効果が感じられる。

WF-1000XM5は、基本的には来たソースをそのまま再生するので、再生側をステレオソースに切り替えると、そのままステレオ再生となる。ヘッドトラッキング機能はないので、操作自体はシンプルだ。

以前1000XM5のレビュー時には音声通話をテストしていなかったので、今回改めて両モデルをテストしてみた。

Ultra Earbudsは、音声通話モードになるとNCのタイプが変わり、効きが弱まる感じがある。通話だとプロトコルも変わるので、同じ処理はできないということかもしれない。ただ周囲のノイズはかなり低減されるので、しゃべりやすい。

スマホのマイク、Ultra Earbuds、WF-1000XM5のマイクをテスト

通話音声のほうは、ノイズキャンセリングは効いているものの、若干リバーブがかかった風の音声になる。聞きやすさはあるが、通話音声がこうした感じに変わるイヤフォンは珍しい。

1000XM5の場合、通話モードになるとNCは効いていないように感じられる。イヤーチップによるパッシブなキャンセリングは働くが、周囲の音はかなり耳に入ってくる。

通話音声のほうは、キャンセリングは効いているものの、音声に何かのモジュレータをかけたような、かなりガサガサした音質になっている。しゃべり出しの先頭の発音が切れる感じはないものの、音声としてはかなり聞きづらい。

周囲のノイズタイプなど環境が変わればまた違った結果になるかもしれないが、双方とも音声通話に関してはあまり良好とは言えないようだ。

総論

イヤフォン・ヘッドフォンの空間オーディオ対応は、各社とも次第に力を入れるようになり、独自アルゴリズムを開発して、ある程度ユーザーが調整できるようなパラメータを提供しつつある。またAppleのようにヘッドトラッキングとの組み合わせでさらに立体感を向上させる方法論も採用されるようになっている。

ボーズはこれまで空間オーディオには出遅れた感があったが、今回のUltraシリーズで一気に先頭集団に追いついた事になる。ノイズキャンセリングも単なるキャッチコピーではなく「世界最高レベル」で、第2世代Apple AirPods Proと並ぶ強力さだ。

サウンド面ではあまり細かいEQは提供されておらず、元々ボーズサウンドが好きな人には問題ないが、もっといじりたいという人には物足りないかもしれない。ただこれまでボーズは個性的なサウンドがウリであることを考えれば、余り積極的に自社のサウンドをいじらせる方向には走らないだろう。

形状は複雑だがフィット感も良く、長時間の装着も快適だ。本体のバッテリー持続時間はやや短いが、小まめにケースに戻して充電していくという方法で凌げるだろう。

ハイレゾ対応としてはやや弱いものの、ボーズサウンドが好きな方には決定版とも言えるイヤフォンが登場した。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。