小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1126回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ようやく買えるパネル登場、「DaVinci Resolve Micro Color Panel」

カラーパネルに革新

今年4月に発売された「DaVinci Resolve Micro Color Panel」

今年4月のNAB 2024で、大量の新製品を発表したBlackMagic Designだが、カメラをはじめとする撮影ソリューションだけでなく、ポストプロダクション用のソリューションも大量に発表したのが印象深い。中心となるのは「DaVinci Resolve」だが、新しいコントロールパネルが2タイプ登場した。

1つは新たに搭載されたリプレイ機能向けのコントロールパネル、「DaVinci Resolve Replay Editor」だ。こちらは84,980円という価格は出ているが、まだ販売が始まっていないようで、公式サイトでも購入できない。

もう一つ新登場したColorページ用の「DaVinci Resolve Micro Color Panel」は、こちらも84,980円で、すでに公式サイトでも購入できる。今回はこのMicro Color Panelをお借りすることができた。

これまでDaVinci Resolveのカラーパネルは、編集者というよりもカラーグレーディングを専門に行なうカラリストが使うものであり、非常に高価だった。最高峰の「DaVinci Resolve Advanced Panel」は、ハリウッドクラスのポストプロダクションで使用するもので、価格は474万8,000円。プロ機材としては安い方ではあるのだが、個人や小規模なプロダクションで買えるような価格ではない。

DaVinci Resolve Advanced Panel

もう一つ「DaVinci Resolve Mini Panel」は、名前どおりAdvanced Panelよりは小さいが、価格は35万2,800円と、必ずしも安くはない。プロが現場に貼り付いてグレーディングするような、オンセットグレーディングで使用するクラスの製品だった。

DaVinci Resolve Mini Panel

だが今回のMicro Color Panelは、価格も10万円を切りながら3つのトラックボールを備えた、本格仕様となっている。そもそも編集ツールでカラー調整専用のコントロールパネルが製品として存在するのはDaVinci Resolveぐらいしかなく、その点では他社の編集ツールとは大きく立ち位置が違う。

今回はMicro Color Panelを使って何がどこまでできるのか、そのあたりを探ってみたい。

Bluetoothでも動く軽量パネル

これまでカラーパネルが非常に高価だったのは、そもそも市場がそれほど大きくないプロ向けということもあったが、なによりもコントローラとして単価が高いトラックボールとリングコントローラが3個から4個必要という点も大きかっただろう。

今回のMicro Color Panelは、価格を抑えつつも3つのトラックボールとリングコントローラを備えている。ボール自体は小さいが、操作性の面でもちゃんとパネルを使う意義を失わないという設計思想が見て取れる。

3つのトラックボールが横一列に並ぶレイアウト

パネル側にパラメータの数値を示すようなディスプレイはなく、ボタンやダイヤル類で操作したパラメータは、DaVinci Resolve内で直接確認するようになっている。上部にある溝は、2022年12月に公開されたiPad用DaVinci Resolveを使用する際に、iPadを立てかけるためのものだ。

上部にiPadを立てかける溝がある

今回は残念ながら使用に耐えるiPadが手元にないので、Mac版のDaVinci Resolveバージョン19のベータ2で試用する。安定版の最終バージョンである18.6.6でも動くことは動くが、一部ボタンの名称と操作できる機能がズレている部分があるので、ボタンどおりの動作を期待するならバージョン19以降で使用するべきだろう。

本体には電源ボタンのようなものはなく、背面にBluetoothのペアリングボタンがあるのみ。基本的にはDaVinci Resolveが起動しているマシンとUSB-Cで接続して、パネルを認識させる必要がある。その後Bluetoothで使いたい場合は、ペアリングするという流れになる。

背面にはUSB-C端子とBluetoothのペアリングボタンのみ

内部にバッテリーを内蔵しており、USB-C端子経由で充電する。したがってワイヤードでPCと接続している際には、PCから充電されるという事になる。Bluetoothではワイヤレスで動作するわけだが、DaVinci Resolve側にもパネル側にもバッテリー残量を示すところはないので、実際にBluetoothで接続した際に、OS側の表示で残量が確認できるのみだ。

電源OFFは、DaVinci Resolveを終了させると自動的にOFFになる。このあたりはSpeed Editorキーボードと同じような作りだ。

3つのトラックボールは、左からリフト、ガンマ、ゲインのコントロールを担当する。カラーページにはもう一つ、全体を操作する「オフセット」があるが、これはパネル上のOFFSETボタンを押すことで、ゲイン用の一番右のトラックボールが兼用するという作りだ。すくなくとも3つのパラメータは同時に動かせることで、Mini Panelと同等の使い勝手を実現しようという事だろう。

トラックボールの質感も高い
OFFSETボタンを押すと、ゲイン用トラックボールがOFFSET用になる

パネル上のボタンはバックライトが仕込まれており、ボタン文字が光るようになっている。カラーグレーディング中は照明を落として行なうのが普通なので、ボタンが見えなくなることに対処したのだろう。ただし各ノブの下に書かれている機能名までは光らないので、それは暗記するか、手元の明かりはあった方がいいかもしれない。

押しつづけることで色が変わるボタンもある

各ノブは押しボタン兼用になっており、押すとそのパラメータがリセットされる。間違えて触ってしまった場合でも、とりあえず押しとけば元に戻るという安心感がある。

各ボタンは押し込むとリセットになる

トラックボールで操作したパラメータに関しては、中央のトラックボール上のリセットボタンでリセットできるようになっている。

トラックボールのリセットボタンは中央部にある

同時に多くのパラメータが操作できる

では実際にMicro Color Panelを使ってカラーグレーディングをやってみよう。今回はサンプルとして、ソニー「ZV-E10」を使ってS-Log3/S-Gamut.Cineで撮影した動画素材を用いている。標準LUTも提供されているので、通常はまずそれをあててからいじっていく事になるわけだが、今回は最初からフルマニュアルでトーンを作っていくことにする。

とりあえずパネルとカラーページの相関関係がわからないと理解できないと思うので、よく使いそうな機能だけで相関図を作ってみた。そのほかリセットやUndo、Redo、ノードのDisableといったボタンもあるので、ほぼUIをマウス操作する必要はなく、パネルだけで操作できるようになっている。

カラーページとパネルの相関図

マウス操作によるカラーページの操作は、同時に1つのパラメータしか触れないので、2つないし3つのバランスで調整する際には、それぞれをちょっとずつ動かしてみるしかなかった。だがパネルを使えば複数のパラメータを同時に動かせるので、作業スピードが全然違う。

もっとも恩恵を受けるのは、ガンマとゲインのバランスだろう。リフトのバランスを積極的にいじるケースは少ないと思うが、ガンマとゲインのバランスを同時に動かしつつ、リフトのレベルもリングで操作しながらコントラストとトーンを同時に作っていけるのは、確かに速い。

動画を動かしながらいじることもできる。単一のクリップだけループ再生できるだけでなく、右下の左右ボタンでリバース再生もできるので、気になるところを行ったり来たりさせてトーンを確認する事もできる。

ステップごとに色を作る際には沢山のノードを使う事になるが、ノード追加やノードの選択もパネル上からできる。名前を付ける際にはキーボードを使わざるを得ないが、単にノードを追加しながら作業するだけなら、画面UIを使うよりもスピーディだ。

ノード追加ボタンがあるのは便利

ただこうして同時にパラメータを触れると、波形はどうしてもパレードとベクタースコープを同時に参照したくなる。今回は13インチのMacBook Airでテストしているが、波形を2つ出すとウインドウ内にうまく収まらない。パネルを使ってグレーディングするなら、30インチぐらいの画面が欲しいところだ。

スコープを2つ以上出すと、パラメータ表示が隠れてしまう

本機はiPadと組み合わせて使う事も想定されているが、この5月に発表された新iPad Proならディスプレイが優れているので、HDRのグレーディングも可能だろう。ただ画面が狭いことはどうにもならない。iPad Proだけでグレーティングするのは、まあコンパクトなシステムとしては成立するのだが、コンパクトさと快適さはトレードオフになるだろう。

ユニークな機能としては、パネル左下の下シフトキーを押しながらトラックボールを回すと、画像のアスペクトや縮小、ローテーションを制御できる。確かにXYZの三軸コントローラで制御したほうがいいとも言えるが、なぜカラーページでそれをやる必要があるのかが良くわからない。エディットやFusionページで使えたら便利だろうが、それらのページではパネルが効かなくなる。今のところ、「面白いが謎機能」である。

なぜか画面変形にも対応している

トラックボールコントロールに関しては、DaVinciタイプとRank Cintelタイプに切り換えができる。Rank CintelもBlackMagic Design傘下に入ったので、両方できるようにしたのだろう。Rank Cintelタイプにすると、トラックボールの方向が逆になる。

「グレーディングスタイル」でトラックボールの動きを逆にできる

今回グレーディングしたサンプルを掲載しておく。オリジナルと比較して、スピーディにこのようなトーンが作れるのは、なかなか強力だ。

グレーディングしたサンプル

総論

個人ベースのカラリストというのがどれぐらいいるのかわからないが、DaVinci Resolveが無償版を提供していることで、カラーがいじれる人が増えたのは事実だろう。これこそが、BlackMagic Designが無償版を提供し続けている理由である。

多くの映像製作者にとって、カラー専用のコントロールパネルが絶対に必要かと言われれば、そういうことはない。だがこれまで積極的に色をいじりながら作品を作ってきた人にとっては、そもそもカラーパネルは高嶺の花だった。それが8万円台で購入できるのだから、使わない手はない。

Micro Color PanelはSpeed Editorと併用できるので、ジョグシャトルによるコントロールもできる。キーフレームを打って細かく制御したいといった場合は、同時に使うと便利だろう。

これまで積極的に使いたいが、カラーページの使い方というか構成がよくわからないという人も、専用パネルが出た事でとっつきやすくなるだろう。とりあえずいじってみて効果が試せることで、経験値が爆上がりする。

使い方が難しいと評されることも多いDaVinci Resolveだが、こうした専用パネルが豊富に用意される編集ツールは他にない。機能面だけでなく、「そこがDaVinci Resolveを使うメリット」に変容してきている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。