小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1127回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

三脚以外の選択肢。Edelkrone「StandPLUS V3」を購入

折り畳んだ状態のStandPLUS V3

真上から撮りたい

動画撮影においてカメラを三脚で固定することは、ようやく浸透してきたように思う。これは動画の用途が、子供の運動会撮影からイベント収録や会議中継などにシフトしてきたことが大きい。さらにはスマートフォンも動画カメラとして使われるようになった事で、同時に複数台で撮影するマルチカメラの時代となり、カメラの固定に多彩な方法が求められているところだ。

カメラ固定のもっとも一般的な方法は、三脚を使う事である。ビデオ三脚と呼ばれるものには、パンやチルトに対応するためのフルードヘッドが付いているが、カメラを固定するだけであれば、スチル用三脚でも対応できる。

様々な用途に応じて、サイズや重量、材質などに違いがある三脚だが、真下を撮影できるものはそれほど多くない。最近は編集用のコントロールパネルやキーボードの操作状況を撮影するのに、真上から撮影する機会が増えているのだが、撮影スタジオのような設備がない一般家庭でこれをやるのは大変だ。

小型三脚を目の前に立てて、広角のアクションカメラで撮影してみたこともあるが、目の前にあるので画面が見えづらい。加えて解説している自分の顔が撮りづらい。

こうした問題を解決できないかとずっと思っていたのだが、先日ネットで流れてきた広告で面白い製品を見つけた。Edelkroneの「StandPLUS」という、三脚のような、折り畳み式アームのような製品だ。

これならカメラを真下に向けられる。早速購入してみた。

期待どおりのしっかりした作り

StandPLUSには、現在2タイプの製品がある。耐荷重1.4kgのスタンダード(V3)モデルと、耐荷重2.7kgのプロモデルだ。以前のV2までは耐荷重が2.5kgだったのだが、今年1月にラインナップを拡充し、耐荷重を下げて軽量化を図ったV3と、耐荷重を若干増やしたPROモデルに分化したようだ。

筆者手持ちのレンズとカメラボディの中では、合わせて1.4kgを超える組み合わせはなかったので、スタンダードモデルを選択した。価格は290ドルだが、円安の影響から日本円では47,119円となった。なお99ドル以上の買い物であれば、送料は無料である。

なお国内でも同じ製品が各所から販売されているが、価格は56,100円程度なので、本社サイトから直接買った方が9,000円程度安い。

5月20日に発注して25日に届いたので、1週間かからず届くようだ。発送元が「TR」となっていたのでどこだそれと調べてみたところ、Edelkroneはトルコのメーカーであった。実はEdelkroneの製品はこれまで何度か購入しているのだが、トルコのメーカーであることを今回初めて知った。

実際の製品だが、ボディはアルミ製で重量は3.77kg。持ってみると意外にずっしりだが、大型のハンドルが付いているので持ちやすい。一般の三脚は畳んだ状態で持ち手が付いているわけではないので、移動はそれなりに面倒だ。折り畳んだ状態で全長55cmなので、ハンドルを持ってぶら下げても地面には着かない長さである。

チルト操作と持ち手を兼用するハンドル
普通に持っても地面に着かない長さ

展開するには、まず脚部を開く必要がある。上部のレバー状の部分に指をかける凹みがあるので、そこをつまんで倒すと、脚部が3方向に展開する。脚部の先端を結ぶと、底辺92cm、斜辺77cmの二等辺三角形になる。脚部の高さはおよそ5cmしかないので、三脚のようにガバーっと開いている感じはない。

レバー状の部分を下げると脚部が展開する
展開した脚部
折り畳んだ状態から通常撮影、俯瞰撮影までの動き

三脚底部には、プラスチック製のボールが埋め込まれている。これが回転するので、堅い床の上であれば転がすことができる。ただしクッション性がないのと、ボールが堅いので、ドリー撮影ができるほど滑らかに動かせるわけではない。場所移動が楽、というぐらいの機能である。なおV2まではこのボールが金属製だったようだ。

脚部にはプラスチック製のボールが埋め込まれている

その底部から3段でアームが立ちあがる。もっとも下げた状態で57cm、もっとも高くした状態で158cmとなる。カメラを載せると、身長170cmの筆者から見てちょうど目の高さぐらいのところにレンズが来る高さだ。

もっとも下げた状態で57cm
もっとも高くした状態。「FlexTILT Head」も併用しているので、176cmになる

頂点のヘッド部は、回転軸としてはチルト方向しかないので、正面に向けてカメラが上を向いたり下を向いたりするだけである。筆者は横方向のバリエーションを持たせるため、以前購入したEdelkroneの「FlexTILT Head」というフレキシブルヘッドを組み合わせている。これで横方向の動きと、さらに18cmほど高さも稼げるので、トータル176cmの高さとなるわけだ。

「FlexTILT Head」と組み合わせるとさらに自由度が増す
「FlexTILT Head」と併用で縦撮りにも対応できる
折り畳み時の動き

邪魔にならず高位置撮影

StandPLUSのデビュー戦は、意外に早く訪れた。実は先週の土曜日から宮崎県内では高校総体が行なわれており、娘が高校生活最後のバドミントンの試合に出場するので、対戦の様子を動画撮影することになった。

こうした大会では、保護者は2階席の背後にある通路から見下ろして撮影する事になる。席には生徒達が座っているので、その上を超える格好で撮影しなければならないため、三脚はかなりの高さが必要になる。

多くの人は小さく折りたためる軽量のスチル用三脚で対応しようとするが、高さが足りない。大型三脚ともなると、高さを上げるには脚部を伸ばすしかないので、底面積が広くなる。中学校時代は、こうした高い三脚が通行の邪魔になるということで、三脚を立てての撮影が禁止となった大会もあった。「危ない」「邪魔」というパワーワードには、勝てないのである。

一方StandPLUSの場合は、高さに関係なく脚部面積は同じなのがメリットだ。しかも脚部が低いので、三脚がドーンと立っているという感じもない。前の足を手すりの内側に突っ込んでしまえば、人間1人立っている程度の幅しかとらないので、通行の邪魔になることもない。これだけの狭い面積で人の顔の高さぐらいまで稼げる三脚はないだろう。

体育館通路でも邪魔にならない

もう1つのメリットは、畳んだときのコンパクトさである。三脚は畳んでしまうと自立はできないので、横倒しにしておくしかない。一方StandPLUSは畳んだ状態で自立できるので、立てておけば邪魔にならない。

畳んだ状態で自立するのもメリット

ただこの状態の底部は11cm×10cm程度なので、三脚並みに安定しているわけではない。誰かがぶつかれば倒れる可能性はある。したがってカメラを付けたまま、この状態で立てておくのはやめた方がいいだろう。

難点としては、展開するときにはそこそこスペースが必要になるという事だろうか。脚部の底面積分が展開するスペースは当然必要だが、アーム部を立ち上げる際には前方に突き出る瞬間がある。狭い場所に設置はできるのだが、展開するときは周囲に注意が必要である。

またヒンジ部のカタさを調整するために、六角レンチが必要である。「FlexTILT Head」には六角レンチを収納する場所があるのだが、StandPLUSにはそういう機構が付いていないのが残念だ。アーム部の一部にでもそうした機構があるとよかった。

もちろん、本来の目的である俯瞰撮影にも十分威力を発揮する。このカットは背後から頭を飛び越えて上から狙っているので、操作の邪魔にならず手元が撮影できる。

俯瞰撮影も十分対応

総論

現在StandPLUSは、真上から俯瞰で撮影する時だけでなく、通常の室内撮影でも普通の三脚として使用している。これまでは1本の三脚を室内撮影と屋外撮影で併用していたのだが、屋外で使用したあと室内で使うには脚先の汚れを掃除しなければならず、いつかは屋外と屋内で三脚を分けたいと思っていたのだ。

StandPLUSは屋外で使えないわけではないが、地面の凹凸に対応できるような作りではないので、基本的には床が水平な屋内で使用するものと考えるべきだろう。

最大の利点は、高さが簡単に変えられることだ。屋外で風景を撮影する際には、高さを5cm程度変えても大差ないので、細かい変更は少ない。だが屋内では近距離で人やモノを撮影するため、背景の見切れなどの都合で細かい調整が発生する。

これが三脚の場合では、あと5cm高くしたいとなれば3本の足全部を引っ張り出さなければならないため、細かい上下調整が頻繁に発生すると、かなりめんどくさい。その点では、一般の三脚を使うよりも全然面倒がない。

StandPLUSは名前の通り、三脚ではなくスタンドになるのだろうが、三脚にはない魅力がある製品だ。円安のせいで290ドルという価格バリューがあまり感じられないのが残念だが、現代の人物中心の動画撮影においては、三脚よりも有用と言えるかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。