小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1143回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

元祖はどういう方向に? GoPro HERO13 Blackを多彩なレンズモッドで撮る

ボディサイズは12と同じのHERO13 Black

今年は2モデル体制

先週はDJIのアクションカメラ、「DJI Osmo Action 5 Pro」をレビューしたところだが、今週はアクションカメラの元祖とも言えるGoProの今年の新モデル、「GoPro HERO13 Black」をテストする。

GoProは例年9月に新製品を投入するのが恒例となっているが、今年も9月13日に新製品2モデルを発表した。HERO13 Black(以下HERO13)は従来路線の後継機で、新機軸として多彩なオプションレンズが装着できる。カメラ単体の公式サイト価格は68,800円。

もう一つは機能をシンプルにして小型軽量化したモデルで、単に「HERO」という名前が付けられている。こちらは公式サイト価格34,800円と、HERO13のおよそ半額となっている。すでに両モデルとも販売が開始されている。

今回は上位モデルのHERO 13と、HERO Black(HB)シリーズレンズをお借りしている。DJIやInsta360の参入でにぎやかになったアクションカメラ業界だが、元祖GoProはどういうポイントで攻めてくるのだろうか。さっそくテストしてみよう。

ハードウェア的な進化は少ない?

前作HERO12と比較すると、ボディサイズや重量等はまったく同じ。ただレンズ下にヒートシンクが付けられたのと、前面ディスプレイのガラス部の面積が広くなったといった違いはある。またHERO12はボディ表面にブルーの斑点模様があったが、今回はなくなっている。

レンズ下にヒートシンクっぽい突起が見られる

レンズ、センサー、プロセッサも同じなので、撮影解像度やフレームレートも同じだ。ディスプレイの仕様も変わっておらず、背面は2.27インチのLCD、前面は1.4インチのLCDで、タッチ操作が可能なのは背面のみ。この点では、両画面ともOLEDでどっちもタッチ操作可能な「DJI Osmo Action 5 Pro」に劣る。

ディスプレイの仕様は12と同じ

HERO13は単体でも買えるが、今回のウリは多彩なレンズモッドが装着できることにある。レンズ交換ができるわけではなく、レンズガードを外して代わりに取り付ける、いわゆるコンバージョンレンズやフィルター類という扱いだ。

多彩なレンズモッドが対応

現在発表されているレンズモッドとしては、超広角レンズ、マクロレンズ、NDフィルターセット、アナモフィックレンズの4タイプ。この4レンズは、「HBシリーズ」として展開されている。ただ残念なことに、現在入手できるのは前者3タイプのみで、アナモフィックレンズは後日発売という事になっている。今回はアナモフィックレンズ以外のレンズモッドをお借りしている。

現在の公式サイトでは、HERO13プラスなんらかのレンズモッドがセットで購入できるほか、アクセサリーとしてレンズモッド単体でも購入できる。現時点での価格は、超広角レンズモッド16,800円、マクロレンズモッド21,800円、NDフィルター4枚パック12,100円、アナモフィックレンズ21,800円となっている。サブスクユーザーはそこからおよそ20% OFFで購入できる。

サブスクプランは現在2種類あり、Premiumが初年度3,000円、2年目以降が6000円。Premium+は年間16,000円となっている。レンズモッドをいくつか買うなら、いったんサブスクに入った方が安いだろう。

モッドレンズ以外の変更点としては、バッテリーの強化が上げられる。前作は1,720mAhだったが、今回は1,900mAhになっている。この点は「DJI Osmo Action 5 Pro」と互角だ。

バッテリーは容量が増えた新タイプ

また底部に装着できるクイックシューは、マグネットで吸い付くようになった。固定自体は両側のツメで行なうが、正しい装着位置に自動的に引き込まれるので、わざわざ底面を確認しなくても装着できる。

クイックシューはマグネットで吸着するようになった

UIとしては、撮影モードは写真・動画・タイムラプスの3モードだけで、それ以上は各モード内のプリセットで選択するという二重構造になっている。

3モードの中にプリセットをまとめるというスタイル

動画では「ビデオ」と「バーストスローモーション」があるのみで、あとは自分でプリセットを作っていくという作りだ。写真では「写真」・「バースト」・「ナイトフォト」が用意され、タイムラプスでは「TimeWarp」・「スタートレイル」・「ライトペインティング」・「ライトトレイル」・「タイムラプス」・「ナイトラプス」が用意されている。

タイムラプスはプリセットが多い

動画のプロファイルは3パターンで、標準、HLG/HDR、Logの切り替えとなる。設定で従来のHDRかHLGのどちらかを選択する。

設定でHDRかHLGを選択する
選択の結果がプロファイルに反映される

では各レンズモッドを見ていこう。超広角レンズモッドは、角形の広角コンバータレンズで、HERO12の時に出た「Maxレンズモッド2.0」という製品と近い。実際「Maxレンズモッド2.0」はHERO13にも装着でき、画角が177度になるという点も同じ、ついでに値段も同じだ。

ただし、新しい超広角レンズモッド対象製品は、HERO13のみで12は非対応となっている。今回のHBシリーズレンズにはすべて、装着するとHERO13側で何が付けられたのか自動認識する機構が付けられている。おそらくその機能が12では動かないのだろう。

超広角レンズモッド

マクロレンズモッドは、マクロ撮影を可能にするレンズだ。公式サイトでは「4倍のクローズアップが可能」と書いてあるが、それだと4倍拡大するレンズのように受け取れる。実際には拡大するわけではなく、4倍のサイズになるぐらいに近接して撮れるレンズだ。

マクロレンズモッド

フォーカスリングも備えており、近接距離を11cmから75cmの間で可変できるという。ただ実際には被写界深度が深いので、目一杯遠距離側に回せば、無限遠領域も撮影できる。ある意味つけっぱなしで全域対応できるレンズと言えそうだ。

NDフィルタは特に説明の必要はないと思うが、4から32までの4段階がセットになった減光フィルターだ。GoProには絞りがないので、シャッタースピードを遅くするために使用する事になる。

NDフィルタとキャリングケース

若干Vlogに寄せた? 本体機能

では早速撮影してみよう。GoProと言えば2018年のHERO 7で初搭載された手ブレ補正「HyperSmooth」で業界をあっと言わせたわけだが、現在はアップデートされて「HyperSmooth 6.0」となっている。ただし、これはHERO12からアップデートされていない。

HyperSmoothには段階があるわけではなく、OFF・ON・自動の3モードだけである。自動は特にONと変わらないので、通常は自動で対応するということなのだろう。超広角レンズモッドを取り付けると、水平維持が選択できる。レンズモッドなしでも水平維持モードは使えるが、画角が狭くなる。超広角レンズモッドを使えば、画角が広いままで水平維持が使えるのがメリットだ。

手ブレ補正モードの比較

先週の「DJI Osmo Action 5 Pro」でも同じ検証を行なっているが、効果としてはほぼ同じ水準である。'18年当時は画期的だった補正力も、5~6年で追いつかれたということだろう。

今回動画のリニューアルポイントとしては、HLGの対応が挙げられる。HERO12では単にHDRと表記されていただけだが、8bitでHDRっぽく撮れるモードと、10bitでHLG規格に準拠したモードを切り替えられるようにしたということだろう。HLGで撮影したサンプルを掲載しておく。

HLGで撮影した4Kのサンプル

音声収録の改良点は、あらたに「音声モード」が追加されたことだ。スタンダードモードと比較すると、音声収録の明瞭度がかなり上がっている。このあたりはVlogや自撮りでの利用を、外部マイクなどがセットになったクリエイターキットなしで実現しようという方針転換が見られるところだ。なお以前から販売されているクリエイターキットは、本体サイズが同じなのでHERO13でもそのまま利用できる。

音声専用モードを搭載した

ハイスピード撮影を実現するバーストスローモーションは、5.3K/120fps、900p/360fps、720p/400fpsの3モードだ。これはメモリバッファにハイスピード映像を溜め込んで、あとからメモリーカードに書き込むというスタイルの機能で、秒数に制限がある。900pおよび720pは15秒だが、5.3Kはなんと5秒である。

バーストスローモーションは3タイプから選択

通常のビデオモードでは、5.3Kは最高60pまでしか撮れないので、このモードを使う意義はある。だが5秒では、録画ボタンを押して定位置にセットするだけで2秒ぐらいかかるので、実質3秒ぐらいしか撮れない。カメラを固定しておいて、スマホ側でリモート撮影せよという事かもしれないが、いずれにしても5秒ではなかなか厳しい。

5.3K/120fpsで撮影した映像

そもそも4Kならビデオモードでも120pが撮れるので、無理に5.3Kのバーストスローモーションを使う意味があまりないようにも思える。

夜間撮影もテストしてみた。特にナイトモードのようなものがあるわけではないので、通常のビデオ撮影で対応するのみだが、夜間にはそれほど強くない印象だ。なおラストカットはタイムラプスモードの「ナイトラプス」で撮影したクリップである。これは結構SN良く撮れるので、夜間撮影としては使い出があるだろう。

夜間撮影をテスト

標準以外の撮影をサポートするレンズモッド

では各種レンズモッドを試してみよう。レンズモッドはそれぞれシリコン製のケースが付属しているが、交換する際はこのカバーにレンズをはめ込んだままで装着するというのがセオリーのようだ。そうすることでレンズ表面に触れることなく、交換ができる。

ケースに入れたまま着脱するとレンズが汚れない

また本体とレンズ背面にブルーのマーカーがあり、このマーカー位置を合わせたのち、90度ひねって固定する。なおNDフィルタはレンズカバーと同じ設計なので、45度ひねるだけで装着できる。

装着の目印となるブルーのマーカー

まずは超広角レンズモッドから試してみる。以前から超広角系は得意としてきたところだが、じゃあMaxレンズモッド2.0とどう違うのかと言われれば、そんなに違わないというのが正直なところである。ただ周辺部でも絵が流れたり甘くなったりすることもなく、かなりしっかりした広角レンズだ。水平維持も含め、使い出があるレンズである。

超広角レンズモッドを装着したところ
超広角レンズモッドで撮影したサンプル

マクロレンズモッドも、非常にメリットがわかりやすいレンズだ。GoProはパンフォーカスなので、極端に近景だとフォーカスが合わないが、このレンズを使えばかなりの接写に対応できる。サンプル動画の花とレンズの距離はおよそ8cmだが、問題なくフォーカスが合っている。

マクロレンズモッドを装着したところ
マクロレンズモッドでの撮影サンプル

またGoPro側では、このレンズを装着したときだけ、フォーカスピーキングの設定が出てくる。小さなモニタではフォーカスがわかりにくいので、この機能は使いこなしたいところだ。

このレンズを装着したときのみ、フォーカスピーキングの設定ができる

最後にNDフィルタだが、これは若干使いどころが難しいところだ。通常は光量があるところでも絞りを開けて被写界深度を浅くするために使われるが、GoProには元々絞りがない。またレンズが広角故に元々被写界深度が深いため、NDを使っても被写界深度には関係ない。

NDフィルタを装着したところ

想定されるのは、シャッタースピードを遅くしてブレを発生させるという方向性だろう。今回はNDなしとND32で比較してみたが、確かにNDなしだとパラパラする感じがある一方、ND32だと絵が流れている感じがあり、なめらかだ。

NDフィルタ有り無しで比較

ただこの効果を出すには、マニュアルでISO感度を低めに固定する必要がある。そうしないと増感して追いついてしまうからだ。またシャッタースピードは1/30が最低で、それ以上は下げられない。せっかくならトレイルのように、もう少し流れる感じが欲しかったところである。

NDは欲しい人は欲しいフィルタかもしれないが、意識的に効果として使おうとすると、GoProの仕様というか機能が追いついてこない感じがする。

総論

HERO13は前作12と比べて、本体ハードウェアのスペックはほぼ上がっておらず、それでいて価格差が9,000円ある。マイクの向上などは評価すべきところだが、レンズ、センサー、プロセッサ、手ブレ補正も同じで、唯一レンズが色々変えられるようになったというのがポイントになる。

だがレンズは別売で購入しなければならず、そのために9,000円アップが納得出来るかと言われれば、まあ普通はちょっとなー、と思うだろう。実際59,800円という価格に対し、「DJI Osmo Action 5 Pro」は55,000円、「Insta360 Ace Pro」は67,800円だったところ、現在は公式サイトで15,000円割引の52,800円となっている。

同時発売の「HERO」はおよそ半額の価格だが、機能的にもだいたい半分だ。そのスペックで納得出来るなら買いだが、GoProは過去こうしたミニタイプの失敗でリストラすることになった過去もあり、今回もなかなか難しいのかなという気がしている。

他にないユニークさと言う点ではアナモフィックレンズ対応があるが、まだ現物が出てこないのでなんとも言えないところだ。ただこうした動きは、特許でも取ってない限りすぐ他社も追従できる部分であり、その恩恵に預かれるのは一部のプロだけという狭い範囲の話なので、決定的な差別化要因とは言えない。

とはいえブランドバリューは大きいので、“アクションカメラよくわかんない”という人は「黙ってGoPro」になるのだろう。技術的イノベーションではなく、セールスやマーケティングなど別のところで商機を見出していくのかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。