小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1144回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

モバイルプロジェクタの新しいカタチ“回転する筒型”。JMGO「PicoFlix」

筒型ポータブルプロジェクタ、「PicoFlix」

JMGO初のモバイルプロジェクタ

家庭用レーザープロジェクタで価格破壊を起こしている、中国のプロジェクタメーカーJMGO。プロジェクタにいちいち足が付いているという設計が特徴のメーカーだが、今年6月の「N1S Ultra 4K」は、3色レーザーをコンパクトにまとめた、なかなかいいモデルだった。

日本でも認知度が上がっているところだが、同社は3色レーザー光源搭載機を得意としていることもあり、ほとんどが中型機だ。一方ライトユーザーやエントリーユーザーには圧倒的にモバイルプロジェクタの人気が高く、その点ではAnker、XGIMI、Dangbeiに遅れをとっている。

モバイルプロジェクタの定義は色々意見はあると思うが、筆者の中ではバッテリー搭載でスタンドアロンで動かせるもの、と考えている。小型でも電源が必要なものは、ポータルプロジェクタだろう、という使い分けである。

JMGOとしてはモバイルプロジェクタ市場にも一枚噛んどきたいとかそういう事なのか、今年9月より同社初となるモバイルプロジェクタ「PicoFlix」の予約販売を開始した。実際の製品送付は10月2日から順次、ということになっている。公式サイト価格は89,980円。

今回は発売に先がけて評価機をお借りすることができた。同社初のモバイルプロジェクタは、どんな出来なのだろうか。早速チェックしてみよう。

新タイプの「筒型」

現在モバイルプロジェクタをカタチで大別すると、Ankerが始めた筒型に大量のラインナップがある一方で、他社は一般的な平形や箱型で対抗しているというのが現状のようだ。

一方今回のPicoFlixは筒型で挑戦してきた。本体サイズは長さ24cm、直系8cm、重量1.3kg。

ただし設置の向きが縦置きではなく、横置きである。そう来たかー、という感じだ。横置きのメリットは、投影の上下角が自由に設定できることだ。左右は設置位置をずらすだけなので、どのプロジェクタでも同じ事である。

正面からの見た目も美しい

ボディの構造としては、正面から見て左側の底部に転がり防止用の足があり、この左側の根元部分から先、プロジェクタ本体部分が127度回転できるようになっている。回転機構は回すとキリキリと心地よい音がして、細かいステップで止まるようになっている。右側の足は、どの角度でも対応できるよう、動体に巻き付くようにゴム足が付けられている。

片側(手前)を固定して胴体が回る構造

投影方式はDLPで、光源はLED。JMGOはレーザー光源がメインのメーカーではあるが、さすがにこのサイズでレーザー搭載は難しかったようだ。

モバイルプロジェクタでレーザー光源搭載には、過去AnkerのNebula Capsule 3 Laserがあるが、明るさは300ルーメンに留まっていた。やはりバッテリー駆動がネックになるのかもしれない。一方本機はLEDながら450 ANSIルーメンと、まずまず健闘している。

前方の光学部分は小さめ

解像度はフルHDで、HDR10対応。色域はRec.709の124%となっている。投影サイズは最大で180インチだが、100インチを超えるとスクリーンから遠すぎるため、自動台形補正やオートフォーカスが効かない場合があるという。推奨投影サイズが80~100インチ、距離的には2.1~2.6mとなっている。450 ANSIルーメンという輝度画から考えても、このぐらいのサイズが妥当だろう。

OSはGoogle TVで、Netflixにも公式対応する。内蔵バッテリーは10,000mAhで、ECOモードで使用した場合の連続稼働時間は4.5時間。通常使用ではおよそ半分ぐらいの時間になると考えておけばいいだろう。

OSはGoogle TVが対応

入力端子は、USB2.0×1、HDMI ×1(ARC)、USB Type-C×1となっている。給電及び充電もUSB-Cから行ない、付属の充電器は65W PD 3.0となっている。Wi-FiはWi-Fi 5対応。Bluetoothも搭載しており、Bluetoothイヤフォンが接続できる。コーデックはAACとSBCに対応。

左側にHDMIとUSB-A端子
右側に電源およびUSB-C端子
付属の充電器

スピーカーは両脇にステレオ仕様で装備されており、それぞれ5W出力。スリットから透かして見る限り、約3cm径の円形ダイナミックスピーカーを搭載しているようだ。フォーマットとしては、Dolby Digital、Dolby Digital+に対応する。

エアフローは、背面中央のスリットから吸気し、両脇のスリットから吐くという設計だ。排気口の部分には金属のヒートシンクと、その奥にヒートパイプらしきものが見える。かなり丁寧に放熱設計されているようだ。

背面の吸気口

リモコンも見ておこう。Google TV準拠のシンプルなタイプで、ショートカットとしてはYouTube、Netflix、Amazon Primeのほか、入力切り替えも用意されている。普通にコンテンツを楽しむ分にはネットサービスだけで十分だが、ビジネスでパソコンを繋いで投影、という用途も想定されているようだ。

付属のリモコン

LEDながらまずまず明るい

では早速視聴してみよう。今回はスクリーンまでの距離2mの位置から投影しているので、だいたい80インチ弱ということになるが、台形補正のぶんもあるので、実際にはそれよりも多少小さくなる。

起動はまず、本機がシャットダウン状態か、スリープ状態かによって変わる。シャットダウン状態の場合は、右側の電源ボタンを押して起動するしかないが、スリープの場合はリモコンからも起動できる。

セットアップはGoogle TVなので、スマホのGoogle Homeと連携するだけだ。Wi-Fiのアクセスポイントやパスワード情報も一緒に転送され、各サービスのアカウント情報も同期される。

450 ANSIルーメンという明るさをどう評価するかというところがポイントになると思うが、夕方にカーテンで遮光し、多少明かりが漏れ混むぐらいの室内でも、それほどガーンと明るくはないが、視聴には困らない程度である。最高のパフォーマンスで楽しむには、やはり日が暮れてから、若しくは完全に遮光できる部屋で視聴すべきだろう。

今回は輝度最大の強化モードでテストしている

台形補正は、シームレス機能をONにしていればリアルタイムで追従する。こうしたモバイルプロジェクタは、テンポラリ的に置く場合が多く、置き場所も頻繁に変わると思われるが、少し投影位置を微調整してもすぐ補正が追いついて来るので、いつでも正確なフォーカスと形状が担保される。ただこの機能の影響で、リモコンによる操作がすぐに反映されないことがある。

シームレス台形補正で常時補正が行なわれる

今回はAmazon Prime Videoでいくつかの作品を視聴してみたが、「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」は暗いシーンが多く、コントラスト比400:1では何をやってるのかよくわからないところがあった。一方で「ラーメン赤猫」のようなアニメ作品は全体的に明るいので、非常に快適に視聴できた。「ゴジラ×メガギラス G消滅作戦」のような映画作品は、暗いシーンでもコントラストがそこそこ高いので、視聴にはまず問題ない。

解像度的にはフルHD止まりだが、HDR10対応なのでHDRコンテンツも一応それらしく表示できる。色域もRec.709より広いので、高色域コンテンツも一応破綻なく表示できるようだ。ただコントラスト比が400:1なので、ダイナミックレンジが広い感じはあまりない。

HDRコンテンツも無難に表示できる

意外に優れたオーディオ機能

オーディオに関しては、音域はそれほど広くないが、セリフ帯域は非常に明瞭で、ストーリーを追うことに関してはまず問題ない。一方で低域がそれほど出ないので、戦闘シーンのようなところでは迫力不足を感じる。

ただスピーカーの素性としては変なクセもなく、悪くない。また左右横向きに付けられていることもあり、きちんとセンターで効くとステレオ感もなかなか強い。オーディオの事を考えれば、自分の体の真正面か真後ろに置いた方が、効果が高い。

Bluetoothスピーカーとして機能するモードもある。これで音楽再生してみたが、プロジェクタ内蔵スピーカーの割には中高音域のバランスはなかなか良く取れている。仕事中のBGMとして聴けるぐらいの力量はある。ノートPCのディスプレイの後ろに置いても、音は真横に出て回り込んで聴かせるというタイプなので、あまり影響なく聴けるのもメリットである。

もちろん、映画作品を鑑賞するには、サウンドバーがあればなお良し、という格好だ。本機はHDMI出力がARC対応なので、HDMI対応サウンドバーには対応できるだろう。

手元には以前購入したCreativeのSoundBlaster GS3があるので、試しにUSB-A端子に繋いでみたところ、ちゃんと音が出た。PicoFlixの仕様書には出力ポートなしと書いてあるが、繋げばなんとかなるUSBオーディオ機器もあるという事だろう。ただし音量はそれほど大きくならず、中音量ぐらいが最大である。

最後にスマホ用アプリについてもまとめておこう。基本的にはリモコン代わりの機能を提供するものだが、「リモート」はスマホ画面がリモコンの上下ボタンになるという操作系、「トラックパッド」は画面上に矢印ポインタが出て、それを操作するタイプの操作系だ。「スマートスクリーンフィット」は、画面の台形補正やフォーカス調整を、スマホのカメラと連動させて補正する機能である。

アプリによるリモコン操作も可能
スマホカメラでスクリーンを撮影すると投影補正ができる「スマートスクリーンフィット」

総論

円筒形で持ち運びやすく、バッテリー駆動ながら450 ANSIルーメンを確保したPicoFlixは、これまで200~300ルーメン程度が一般的だったモバイルプロジェクタにおいて、頭1つ抜けた格好だ。ただ価格的には、AnkerのCapsuleシリーズの平均価格よりは若干高めで、やはり明るさと価格が比例するという事だろう。

機構的にもよく考えられており、上下角の調整がやりやすいのは実用的だ。天井に向かって射つのも簡単なので、ベッドの上で寝ながら映画鑑賞、といったこともやりやすい。ファン音もそれほど大きくないので、映像に集中できる。

一方で450 ANSIルーメンでは、昼間に軽く遮光する程度でははっきり見えない。モバイルなのでビジネス用途にも使いたいところだが、部屋を完全に暗くすると手元が見えなくなるのが難しいところだ。

本機の嬉しい誤算は、小型ながら意外に内蔵スピーカーがちゃんとしているところだ。音楽再生もソツなくこなせるので、プロジェクタとして使わない時はBluetoothスピーカーとしても使える。

一方でモバイルではなく、AC電源タイプでは小型モデルでも平均的に1,000ルーメンを超えてきている。AC出力が出せるポータブルバッテリーもそこそこ普及してきた中、プロジェクタのバッテリー駆動をどこまで重要視するかというところも、そろそろ考えるべきタイミングではある。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。