小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1093回
撮影時間2倍、Vlogも意識したGoPro「HERO12 Black」の進化点
2023年9月20日 08:00
今年もまたGoProの季節
GoProの新モデルは、例年9月に発表され、そのまま予約販売開始となる例が多い。今年もまたGoPro新モデルの季節になったというわけである。今年は代を数えて12世代目、「GoPro HERO12 Black」となった。HERO9以降ボディサイズが変わっておらず、アクセサリ類はそのまま使えるのも例年同様だ。
9月13日からすでに販売もスタートしており、価格は本体のみが62,800円。以前はサブスクサービスに加入すると1万円OFFで買えたが、そのシステムは今年5月で終了しており、現在はサブスクに加入しなくてもおよそ1万円安いという、実質的な値下げが行なわれている。HERO12 BlackもHERO11の値下げと同じ価格で買えるというわけだ。
また以前からアクセサリとして販売されていた「Maxレンズモジュラー」が改良され、2.0となった。単体の価格は16,000円、HERO12 Blackとセットで買うと75,600円となっている。そのほか予備バッテリーやヘッドストラップなどがセットになったアクセサリーセット(70,800円)もある。
ボディが変わらないので新モデルとはいっても若干パンチが足りないところではあるが、HERO12 Blackの進化点をチェックしていこう。
バッテリライフが2倍!?
ボディサイズは変わらないが、外装の特徴として、ボディのシリコンパーツ部分にブルーの斑点が見られる。単なる塗装ではなく、何らかの混合素材のようだ。リサイクル素材なのかもしれないが、GoPro側からは正式なリリースがないので、詳細は不明である。
今回ポイントとして大きくフィーチャーされているのが、バッテリーライフだ。ソフトウェアによる電源管理を見直し、HERO11と同一バッテリーながら、5.3K60での連続録画可能時間が70分に、5.3K30なら1.5時間以上、1080p30なら2.5時間以上と、およそ2倍に拡大した。
一方でHERO12では、以前から搭載していたGPS受信機能がなくなっている。恐らくハードウェア的にもなくなっているのだろう。これもバッテリーライフの向上に貢献しているはずだ。
また底部には、一般的な三脚で使用される1/4インチのネジ穴が設けられた。GoProマウントを使うことなく、一般の三脚にも直接取り付けできる。
撮像素子は1/1.9インチCMOSで、システムプロセッサはGP2と、HERO11と変わっていない。ビデオ解像度は以下の通り。今回は縦撮り用の9:16が追加されている。
解像度 | アスペクト比 | フレームレート |
5.3K | 8:7 | 30/25/24 |
〃 | 16:9 | 60/50/30/25/24 |
4K | 8:7 | 〃 |
〃 | 9:16 | 60/50/30/25 |
〃 | 16:9 | 120/100/60/50/30/25/24 |
2.7K | 4:3 | 120/100/60/50 |
〃 | 16:9 | 240/200 |
1080 | 9:16 | 60/50/30/25 |
〃 | 16:9 | 240/200/120/100/60/50/30/25/24 |
2.7K 16:9はハイフレームレート専用モードという扱いになっている。なおフレームレートはPAL圏とNTSC圏の両方を記載しているが、これはビデオ設定のアンチフリッカー周波数を変更すると、どちらかしか出てこない。筆者は九州在住で電源周波数が60Hzなのでいままで気がつかなったのだが、東日本にお住まいのかたは、フリッカー対策として50Hzを選択するとPAL圏のフレームレートしか選択できなくなるので、注意して欲しい。電源周波数が2種類ある国は少ないと思われるが、フレームレート方式選択を「アンチフリッカー」という項目にするのは、いささか語弊があるように思う。
また今回は撮影プロファイルとして、標準とHDRのほか、GP-LOGでも撮影できるようになった。HERO11でも10bit記録はできたのだが、今回それを活かせるプロファイルを搭載したという事だろう。
定評のある手ブレ補正だが、前作よりバージョンが1つ上がってHyperSmooth 6.0となっている。これはあとでテストしてみよう。
新たに追加された機能としては、Bluetoothイヤフォンのサポートがある。AirPodsなどのイヤフォンと接続して、イヤフォンのマイクを使って集音できるという。ただこの機能はすでにInsta360 One R以降で実装済みの機能で、本家GoProが後追いした格好だ。
加えて従来からのアクセサリ「メディアモジュラー」のマイクモードも新しくなった。従来は「前方」と「後方」の2パターンだったが、今回から「前方+後方」というモードが選択できるようになっている。
マルチカメラ編集向けの機能としては、専用アプリ「Quik」を経由して複数のGoPro間でタイムコード同期が可能になったようだ。今回は1台しかお借りしていないのでテストできないが、スマホの時計をマスターにして、複数台のGoProを順にスレーブさせていくという方法だろう。別途ハードウェアモジュールなしで同期できるのは、いいアップデートである。
多彩な画角が楽しめる
まず画角からチェックしていくが、利用可能なモードは基本的にHERO11と同じである。ただ今回は縦撮りをサポートしたのと、「Maxレンズモジュラー2.0」があるので、バリエーションを増やす事ができる。
Maxレンズモジュラーを使用した場合、画角は3パターンとなり、それとは別に水平維持機能のON/OFFができるという組み合わせになる。また縦撮り(9:16)を選択した場合は、画角は「広角」のみとなり、他の画角は選択できない。
Maxレンズモジュラー2.0を使用すると動画ではどうなるのか、テストしてみた。Max+広角は通常撮影のSuperViewと同じぐらいなので、積極的に使うメリットはない。MaxSuperViewは広角と歪みのバランスが良く、面白い絵が撮影できるだろう。MaxHyperViewも面白いが、かなり歪みも大きくなるので、歪みを生かした撮影シーンを考える必要がありそうだ。
新しくなった手ブレ補正も試してみよう。HERO11には強力な補正のBoostと、ブレを自動で判断するAuto Boostの2モードがあったが、今回からはAuto Boostのみになっている。Auto Boostは画角が余り狭くならず、Boost相当の補正が可能なのがポイントだったが、これが正規採用になったという事だろう。
HERO12では、動画撮影プロファイルとして標準、HDR、GP-LOGの3つが選択できるようになっている。これまでGoProはLog撮影をサポートしていなかったが、LUTを使って補正する人もかなり多く、ネットには多くのGoPro用LUTが公開されている。一方GoPro公式からはLUTが公開されてこなかったが、今回のHERO12発売を受けて2タイプの公式のLUTが公開されている。今回はGP-LUTで撮影し、「GPLOG_Auto_WB」のほうを適用している。
「標準」と比較すると「HDR」は高ダイナミックレンジだが、シーンによっては標準よりも暗く見える場合もある。一方LOG撮影して「GPLOG_Auto_WB」を適用すると、「標準」のガンマカーブの真ん中あたりを上に膨らませたような特性で、さらに明るめに見せる傾向がある。若干暗部浮きの傾向もあるが、ふんわりしたトーンはこれまでのGoProにはなかった傾向のように思える。
拡張された音声収録、楽しい静止画
続いて拡張された音声収録機能をチェックしてみよう。旧来GoProは単体での音声収録が弱いとされつつも、少しずつ改良されてきてはいる。ただ、ちゃんと音を録りたいのなら「メディアモジュラー」を買って下さい、というスタンスであった。
今回搭載されたのは、BluetoothイヤフォンをGoProと接続し、そのイヤフォンのマイクを使って集音できるという機能だ。「AirPodなどの~」と説明されているように、AirPods以外のイヤフォンも使える。加えてメディアモジュラーでの追加された集音モード「前方+後方」もテストしてみた。
まずGoPro単体での集音だが、「ウインド低減」をONにしても風によるフカレはあまり変わらず、このあたりがGoProは集音が弱いといわれるゆえんである。
Bluetoothイヤフォンの集音は、まずApple AirPods Proでテストしてみた。集音は確かに可能だが、イヤフォン側でウインド低減機能がないため、風が強い状況では良好とは言えない。
追加で先週レビューしたEdifier「W320TN」もテストしてみた。これは通話プロトコル時には自動的にマイクのノイズキャンセリングが働くので、風切り音も綺麗にカットできている。この機能を利用するには、イヤフォン側の通話性能に大きく左右される。
なおBluetoothイヤフォンでの集音した場合、編集時の注意点がある。GoPro単体での再生や専用アプリ「GoPro Quik」では問題ないのだが、microSDカードからPCに取り込み、DaVinci Resolveなどの多機能編集ツールに読み込むと、音声がショートディレイがかかったようにダブって聞こえるという現象が見られた。
ファイルの中身を解析してみると、Bluetoothイヤフォン経由で記録したクリップでは、合計4チャンネルが記録されている。この1/2chと3/4chの間で遅延があるようだ。恐らくだが、本来片方だけのマイク音声を記録すればいいところ、1/2chにL、3/4chにRのマイクを記録しているのではないかと思われる。今回は3/4chの音をミュートして使用しているが、ハイエンド編集ツールで編集する場合は、こうした処理が必要になる点に留意していただきたい。
メディアモジュラーによる音声収録は、「前面」と「前面+背面」を切り替えてみたが、結果的にはそれほど変わっているようには聞こえない。「前面」の指向性が甘いため、後ろに回り込んでもほとんど全部を集音してしまうようだ。指向性を前に持っていくというより、前後の無指向性マイクを、前面だけONにしている程度なのかもしれない。ただ風切り音はウィンドスクリーンのおかげでかなり低減されており、さすが別売のアクセサリだけのことはある。
静止画撮影も試してみた。画角モードは広角とリニアの2パターンしかないので、あまり迷うことはない。出力設定で、GoProが最適な処理を自動的に選択してくれる「Super Photo」モードがあるので、本当にただシャッターを押すだけでイイ感じの写真が撮れる。解像度も「5,568×4,872」しかないので、設定に悩むこともない。旅先のちょっとしたスナップは、結構楽しそうだ。
総論
今回は比較的抑えめのアップデートだが、内容的には微妙に雑なところがある印象だ。例えば解像度やフレームレートを変更すると、いちいち「リニア+水平維持」の設定が「リニア」に戻させるなど、おかしなところがある。GoProは撮影設定をプリセット化できるが、これを「別名保存」しても水平維持設定だけはリニアに戻される。設定が変わってしまうのであれば、それは設定をコピーしたことにはならないのではないか。
元々GoProはそんなもんと言えばそうなのだが、競合他社が結構ちゃんとしてきているので、かえってGoProのラフさが目に付くのかもしれない。ただ価格的にはHERO11と同じなので、今から買うならHERO12一択だろう。
ハードウェア的には、汎用性が高い三脚ネジ穴が付いたのは評価できる。ただGoProマウントは上下角のアングル調整がしやすく、前後からの強い衝撃を受けたときにカメラが倒れて破損を防ぐという特徴があるので、アクションシーンを撮影するならこれまでどおりGoProマウントを使用すべきだろう。
三脚穴の搭載は、アクションではない街撮りなど幅広いニーズに対応するという意味だろう。またBluetoothイヤフォン対応も、カメラから離れた場所からでもしゃべりが集音できるという、ワイヤレスマイク的な利用が可能になる。これなどはやはりVlogを意識した拡張なのだろう。
専用編集ツールのQuikも、Mac版の公開がアナウンスされている。執筆時点では未公開なのでテストできなかったが、色補正も含めて細かく編集したいというニーズに対応できるだろう。
こうした小型動画カメラは、アクションだけでない使い方を、ユーザーも含めて模索する方向に進み始めたと言える。