小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1168回

手が届く6Kシネマカメラ「Blackmagic PYXIS 6K」を試す
2025年3月26日 08:00
一瞬30万円切りで大騒ぎに
BlackMagic Designでは以前から廉価ながらもデジタルシネマが撮影できるカメラを多数ラインナップしてきた。よく知られるところではBlackMagic Pocket Cinema Cameraシリーズがあるが、上位モデルにはBlackMagic URSAシリーズもある。
そして昨年6月には、「Blackmagic PYXIS 6K」が発売された。PYXISという新シリーズが登場した事になる。複数のマウントポイントが用意されたボックスカメラで、必要な機能を自分で足していくことでビルドアップするというのが特徴だ。ボックス型シネマカメラの源流は、2007年発売の「RED ONE」に遡るが、それ以降多くのメーカーがこのジャンルに挑戦し続け、現在ではデジタルシネマカメラといえばこの形、という事になっている。
公式サイト価格では498,800円からとなっているが、今年2月末から突然30万円以下で販売するショップが複数登場した事で、俄然注目を集めた。あいにく執筆時点ではすでにこの価格では在庫なしとなっているが、そうとう買った人がいたという事だろう。
もっとも来月にはNAB 2025が始まるので、もしかしたら早くも後継の新カメラが発表される前兆という事もあるかもしれない。仮にそうだとしても、初代の性能を抑えておく必要はある。そこで今回、PYXIS 6Kをお借りしてみた。
このグレードのカメラにしては破格に低価格なPYXIS 6Kとはどういうものなのか、早速見ていこう。
質実剛健なボックスカメラ
PYXIS 6Kは、「世界一柔軟にリグを組める」というキャッチフレーズもあるように、カメラ本体はネジ穴だらけのボックス型でとなっている。側面にディスプレイがあるが、これはモニター用というよりは、メニュー操作やステータスチェックなどに使うものだ。本体とレンズさえあれば絵は撮れるのだが、ちゃんとした撮影用途にはビューファインダやモニターは別途取り付けることになる。
マウントは3タイプあり、EF、PL、Lマウント用が用意されている。今回はレンズの都合で、EFマウントバージョンをお借りしている。センサーは6,048×4,032/36mm×24mmのフルサイズHDRセンサーで、デュアルネイティブISO感度にも対応。ローパスフィルターも内蔵する。
撮影モードおよび解像度は以下のようになっている。
撮影サイズ | アスペクト比 | 解像度 | 最高フレームレート |
Open Gate | 3:2 | 6,048×4,032 | 36fps |
Anamorphic | 6:5 | 4,832×4,032 | 36fps |
6K | 16:9 | 6,048×3,408 | 46fps |
6K DCI | 17:9 | 6,048×3,200 | 48fps |
6K | 2.4:1 | 6,048×2,520 | 60fps |
Super 35 | 4:3 | 4,096×3,072 | 50fps |
4K | 16:9 | 4,096×2,304 | 60fps |
4K DCI | 17:9 | 4,096×2,160 | 60fps |
Super 16 | 16:9 | 2,112×1,184 | 100fps |
1080 HD | 16:9 | 1,920×1,080 | 120fps |
フレームレートについては若干説明が必要だろう。使用可能なフレームレートは撮影サイズごとに変わるが、プロジェクト(システム)フレームレートは23.98、24、25、29.97、30といった、映像フォーマット準拠のものから選択する。それとは別に「オフスピード撮影」という機能があり、これが俗に言うバリアブルフレームレートになる。この設定は最低5フレームから1フレーム単位で設定できるが、このオフスピード撮影の最高値が、表組にある最高フレームレートという意味だ。
ダイナミックレンジ設定としては、Film Wide Gammat、Extended Video(Rec.709)、Video(Rec.709)の3種類が用意されているが、撮影コーデックはBlackMagic RAWしか選択できない。内部にはLUTが5つプリセットされており、LUTを当てた状態をモニターできる。またLUTを適用した状態で収録することもできるので、普通に709ビデオで撮影するときは、LUTを当ててグレーディングなしでの収録もできる。
前面にはMini XLRタイプのマイク入力が1つある。またマウント部のすぐ上のところに内蔵マイクもあるので、マイクを繋がなくても現場音は集音できる。
背面にはミニジャック型のマイク入力とヘッドフォン端子、CFexpressカードスロットが2つある。平面のUSB-CはSSD接続用で、そちらにも収録できる。SDI出力は12G-SDI(60pまで)とリファレンス/タイムコード入力がある。その下はLAN端子とACアダプタ用端子だ。
HDMI出力はないが、前面のUSB-C端子から映像出力が出せるので、ここにURSA用のビューファインダを繋いだり、モニターを繋いだりできる。
側面ディスプレイは1,920×1,080の4インチLCDで、タッチ式になっている。明るさは1,500nitsあるので、晴天時でも対応できる。
ディスプレイ脇にアイリスやフォーカスボタンとダイヤルがあるが、これが動作するかどうかはレンズ次第である。その下にRecボタンと静止画ボタンがある。ISO感度、ホワイトバランス、シャッタースピードといったボタンが並び、それぞれを押してダイヤルをまわすという使い方だ。あるいはディスプレイ上部にあるシャッタースピードやISOの表示部分をタップしても設定変更できる。
バッテリーはソニーのXDCAMで採用されているBP-Uタイプなので、互換品も含め入手性には問題ない。
天面にはURSA Cine用のハンドルが取り付け可能だが、これを固定するネジが六角レンチで4mmと5mmのあいだぐらいのサイズなので、恐らく手持ちのレンチではどれも合わないだろう。
4.5mmぐらいということになるだろうが、これは日本で広く使われているJIS規格にはない。ISO規格(国際規格)には4.5mmがある。またインチ規格では3/16が約4.7mmなので、これでも回るかもしれない。日本では入手が難しいサイズなので、BlackMagic Design日本法人側で1本サービスで付けといてくれるか、4mmまたは5mm穴のネジに変更してくれるとありがたい。
今回はこれに「Blackmagic PYXIS Monitor Kit」もお借りして、専用モニターを固定している。また別売の「Blackmagic PYXIS Rosette Plate」があれば、グリップなどのアクセサリも装着できる。今回はSSD固定用のマウントで、「SAMSUNG SSD T9」を固定している。
HDRに十分な13ステップのダイナミックレンジ
ではさっそく撮影してみよう。今回一緒にお借りしたレンズは、EFマウントの「SIGMA High Speed Zoom Line18-35mm T2」と、「Art 50-100mm F1.8 DC HSM」だ。50-100mmのみAF対応である。
本機は撮影サイズが沢山あるが、これは解像度ごとにセンサーの使用範囲が異なっている。つまり最大の6Kから解像度を下げていくと、どんどんセンサークロップになるわけだ。今回お借りしたレンズはスーパー35用のレンズなので、スーパー35以上の解像度にするとワイド端ではケラレが発生する。
【18-35mm T2ワイド端での撮影サイズ】
画質モードとしては、Blackmagic RAWのCBR 3:1、5:1、8:1、12:1か、VBRとしてQ0、Q1、Q3、Q5がある。またプロキシも同時撮影され、フォーマットはH.264/1,920×1,080/8bit 4:2:0となっている。ただこちらは本線で撮影されるものと同じ設定で収録されるので、LUT適用で撮影していなければ、Logで収録される。
今回収録に使用したSAMSUNG SSD T9のベンチマークを取ってみた。8Kと12K DCIのPreRes422 HQ収録には対応できないが、BlackMagic RAWなら12Kまで問題なく撮影できる。フォーマットとしてはexFATのほか、Mac用HFS+も選べるので、編集をMacで行なっている場合にはこちらでフォーマットしてもいいだろう。
カメラのみの重量は1.6kgだが、ハンドルやモニター、バッテリー、シネレンズなどをくっつけると5kg程度になる。基本的にハンディではなく三脚に乗せることになるが、三脚の耐荷重にも注意したいところだ。
色味についてはほとんどグレーディング次第ということになる。ただ現場でLUTをあててモニターやプレイバックができるので、あまりLog撮影を意識しなくてもいいのは楽だ。ISO感度は100まで下げられるが、レンズが明るいとシャッタースピードが上がり過ぎるので、NDフィルタがあったほうが撮りやすい。
暗部撮影もテストしてみた。こちらは最初から4K DCIで撮影している。T1.8に固定し、シャッタースピードオートでISO感度を上げていった。明るさ的にはISO 800ぐらいで追いつくが、ISO 3200ぐらいから背面の壁にノイズが目立つようになる。
DaVinci Resolveには強力なNRがあるので、ISO 1600からこれを適用すると6400ぐらいまでは問題なく、我慢すれば12800まで使用できる。それ以上はノイズを消すかディテールを消すかの判断になる。
総論
シネマカメラともなれば、色々普通のカメラとは違うんじゃないかと構えてしまうところだが、シャッタースピードも角度か秒数かで表示選択もできるし、操作性も一般的なデジタルカメラとそれほど大きく違うわけではない。また多彩な映像フォーマットに対応できるのも魅力だ。さらには高価なCFexpressカードを使わなくてもSSDを使って長時間収録できるので、ランニングコストは高くない。
ただ手ブレ補正もなく、美肌補正みたいな機能もない、基本的にはLog撮影ということもあり、後処理は必須となる。自分でDaVinci Resolveが使えるか、編集者が別に居るというのでなければ、作品を作るのは難しいかもしれない。
機能的にはシンプルなだけに、撮影に集中できるカメラだ。映画系の学生の練習用としてもいいだろう。特にEFマウントはシネマ用でなくてもいいレンズが沢山あるし、中古市場にも玉数が潤沢なので、オールドレンズ……とはいっても一番古くて1987年程度だが、そういうもので撮るというのも面白いだろう。写真用のレンズならイメージサークルがフルサイズ対応なので、6Kでもケラレる心配はない。
これで30万円以下だったら、かなりお買い得なカメラだった。ただもうこの価格で販売しているショップはなさそうである。このカメラで実際に撮影まで行なったレビューは非常に少ないので、今後登場する後継機に対しても参考になると思われる。