小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1167回

Shokzが仕掛けるイヤカフ型、「OpenDots ONE」登場。デュアルドライバのサウンドは!?
2025年3月19日 08:00
オープン型の先駆者Shokz
現在のイヤフォン市場はオープン型が標準化しつつあり、従来のカナル型は高音質や強力なノイキャン、磁界平面駆動など付加価値を高める方向にシフトしている。そんなオープン型のブームを作ったのが、米Shokzだ。独自の骨伝導ドライバをひっさげてスポーツ向けとしてデビューしたが、2020年以降のコロナ禍をきっかけに、日常使いの方向にも展開している。
多くのメーカーがオープン型に参入したが、Shokzは骨伝導ドライバの圧倒的な優位性を活かしてトップブランドとして君臨した。さらには、骨伝導ではなくダイナミックドライバ型の「OpenFit」を市場に投入。従来製品に不足がちであった低音特性を大幅に改善したことで、骨伝導に限らないイヤフォンメーカーに成長した。
そんなShokzの次の一手が注目されたところだが、今度はイヤカフ型で挑戦してきた。3月18日よりクラウドファンディングが開始された「OpenDots ONE」だ。一般販売時の価格は27,880円だが、「GREEN FUNDING」では最大20% OFF(数量限定)の割引プランを用意する。また数量限定で、オリジナルサコッシュ付きのプランも用意されている。
イヤカフ型は以前からambieが製品化してきた方式だが、昨年春にHUAWEIが「FreeClip」、BOSEが「Open Earbuds Ultra」で参入し、新しい装着方法として一般に広く知られるようになった。その後もAnker、Cheero、EDIFIERらが製品を投入し、市場を盛り上げている。
イヤカフ型としては後発となった「OpenDots ONE」だが、独特の低音表現は聴けるのだろうか。さっそくテストしてみよう。
装着感が軽い独特の形状
OpenDots ONEは、グレーとブラックの2色展開。今回はブラックをお借りしている。なお今回お借りしているのは発売前の試作機であり、最終製品とは若干仕様が異なる部分があるかもしれないことをお断りしておく。
イヤフォン本体は、スピーカー部分が球形で、縦に長い音の出口がデザインされている。バッテリーおよび回路部は円筒形で、その間を薄くて柔軟性のある素材で繋いでいる。この部分はJointArcと呼ばれており、内部は超薄型のチタン合金で構成されている。
こうした構造は、BOSEの「Open Earbuds Ultra」に近い。BOSEの方はもう少しクルッと丸まった構造だったが、JointArcはそれよりも巻きがゆるく、軽い装着感を実現している。
ドライバの搭載方法が面白い。同径のドライバを2つ向かい合わせに配置し、音を細長い出口から噴き出すような構造になっている。16mmドライバ相当ということなので、面積比で単純に計算すれば、1つのドライバ径はだいたい11mmぐらいになるようだ。
16mmに対して11mmなら、あともうちょっとで入るんじゃないかという気もするが、それよりもドライバを2個向かい合わせにぶつけることでパワーを出すという考え方を重視したのだろう。周波数特性としては110Hz~20kHzとなっている。重量は片側6.5g。
音の出口と反対側にも2つの放出口がある。ここから逆相の音を出して音漏れを打ち消す「Shokz DirectPitch」という技術が搭載されている。
左右の区別はなく、装着すればジャイロセンサーを使って自動的に左右を判別する。これはHUAWEI「FreeClip」にも搭載されていた。今後この機能は主流になりそうだ。
イヤフォン本体はIP54の防塵防滴機能を有している。汗や水しぶき程度なら問題なく使用できる。一方充電ケース側には防塵防滴機能はない。
内蔵バッテリーでの再生時間は約10時間で、充電ケースとの併用で40時間を確保する。10分充電で2時間再生可能な急速充電にも対応する。
ケースはマグネットはないもののワイヤレス充電に対応しており、バッテリーシェア機能を搭載したスマートフォンであれば、背面のQiまたはMagSafe部分に乗せるだけで、充電できる。
タッチコントロールにも対応しており、ブリッジ部分やバッテリ部分をダブルタップするか、バッテリー部分を2回つまむという2つの方法が搭載されている。
ヘヴィなサウンドはまさにShokz
ではさっそく音を聞いてみよう。本機はマルチポイント接続に対応しており、2台の機器に対して同時にペアリングできる。
オーディオコーデックは資料にないが、SBCとAACのようだ。サンプリング周波数およびビット数は、Androidの開発者モードで調べた限り、44.1kHz/16bit以上には対応しないようである。
いつものようにドナルド・フェイゲンの「Morph the cat」でサウンドチェックしてみる。ShokzはOpenFitでも低音重視傾向にあったが、低音がガツンと出る一方で音質全体としては若干歪みっぽいというか、雑なところがあった。
一方OpenDots ONEは、豊かな低音表現を持ちながらも雑な部分がなく、中音域から高音域にかけてもなかなか丁寧なサウンドだ。聞こえ方としてもカナル型と遜色なく、多くの人が満足できるだろう。
ただしイヤカフ型の弱点として、装着位置によって音のバランスがかなり変わるところは注意が必要だ。耳穴に近づけるよう、下位置に装着するとかなり低音が出るが、上の方につけるとハイ上がりのサウンドとなる。ちょうどいい聞こえ方のポジションを、各自で工夫する必要がある。
調整用アプリも提供される。ただしこちらもまだ一般公開前のバージョンであるため、最終的なバージョンとは異なる可能性がある。
音質設定として、Dolby Audioの切り替えスイッチがある。Dolby Audioは特に小型デバイスの音質向上に効果があるとされる再生技術で、先週の小型プロジェクタ「Nebula Capsule Air」にも搭載されていた。
これをONにすると、低域表現はまろやかさと深みが出る一方で、音が一歩後ろに下がるような感覚がある。OFFではかなり前面に出てくるサウンドで、元々の設計がいいのか、これはこれで悪くない。個人的には無理に搭載しなくてもよかったんじゃないかなとも思う。
EQはプリセットで4モードあり、カスタマイズでは5バンドのグラフィックEQが使える。レンジは±5dBあり、好みの音に調整可能だ。このあたりはドライバの素性も含めた新設計の良さが感じられる。低音重視のためにオープン型を見送ってきた人にも、満足できるだろう。EQの切り替えも一瞬音量が下がるが、切り替わりが早いので比較するのにも便利だ。
装着感は、イヤカフ型特有の硬さや座りの悪さが感じられず、この点は念入りに設計されたことが伺える。
タッチ操作も誤動作が少なく、コントロールはしやすい。タッチ以外にもバッテリー部をつまむという動作で同じ操作ができるので、タッチの反応が悪いという人でも問題なく使えるだろう。
従来製品とは異なる音声通話
つづいて音声通話もテストしてみよう。コロナ禍においてShokzが人気を集めた理由の一つが、音声通話における音質が良いという点であった。リモート会議専用のOpen Commというモデルもあったが、それ以前のモデルからすでにClubhouseなど音声SNSで評価が高かった。
いつものショッピングモールで、スマートフォンマイクとOpenDots ONEを切り替えて集音してみたが、その品質は従来のShokz製品とは違っており、かなりノイズリダクションの効きが激しい。それゆえ、音声がクリップしてしまい、非常に聞き取りづらい結果となった。
集音用マイクはバッテリー部に1箇所しかなく、ビームフォーミングも行なわれていないようだ。音声通話に関しては、残念な結果となった。今後のアップデートで改善を期待したい。
総論
現在のShokzのラインナップを見てみると、骨伝導のヘッドバンド型はスポーツモデルと位置づけ、日常使いのオープン型としてイヤーフック型を展開している。今回のOpenDots ONEは日常使いオープン型の新モデルという事になる。
OpenDots ONEがスポーツに向いてないかといえばそのようなことはなく、ジョギングなどでも使用できる。クリップの噛みつき力はそれほどないが、本体が軽く慣性モーメントが小さいため、ズレる感じはない。
とはいえ主戦場はやはり日常使いで、周りの音が聞こえ、音漏れが気にならず、十分な低音で音楽が楽しめるという、満点を目指した作りになっている。イヤーフック型はメガネのツルと干渉するので、どうしても耳が重たい感じがあるが、イヤカフ型はそれがないのも魅力である。
音声通話能力が今一歩なのが弱点ではあるが、リスニングに関しては満足度が高い。この分野ではリファレンスとなりつつあるHUAWEI FreeClipが、解像感で聴かせる端正な音であるのに対し、OpenDots ONEはパワーと密度でゴリゴリ押してくるサウンドだ。ロックな音がするオープンイヤー、という位置づけである。