“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第432回:ビクターが仕掛ける新ブランド「PICSIO」

~ シンプルビデオカメラは日本でどう映るか ~



■ 日本でも売るの!?

 米国、ヨーロッパでは、廉価なMPEG-4カメラの人気が高まっている。今年のCESでもその傾向はお伝えしたが、昨今は「Flip Video」が代表選手と見られているようである。

 カメラとしてはシンプルさにこだわり、その一方でPCとの親和性を高め、YouTubeへのアップロードやiPhoneなどへのシェアといったソフトウェアに注力している。同ジャンルのカメラとして、米国のみで発売されているソニーの「MHS-CM1」をレビューしたことがあるが、ビデオカメラとは似て非なる可能性を感じた。

 ただその一方で、日本で売らなかったわけも、なんとなくわかる気がしたのも事実である。おそらくカメラ慣れした日本人からすれば、ハードウェアとしてはロースペックであることが目立ってしまう一方で、PCが扱える人の人口比が違いすぎるという問題がある。このあたりは、優秀な日本のハードウェアメーカーがこぞってケータイをモンスターマシンに仕上げてしまった弊害であろう。

PICSIO「GC-FM1」

 さて、先月初めにドイツで開催されたIFA2009にて、JVCからPICSIO「GC-FM1」(以下FM1)が発表された。これもいわゆるFlip Videoフォロワーと呼ぶべき製品であるが、ソニーでは見送った日本での発売も行なうという。

 店頭予想価格は2万円前後で、ターゲットは10代から20代。PICSIOは日本でどのように受け止められるだろうか。早速その実力をテストしてみよう。



■ コスメな外観

 まずはデザインからである。FM1はブラック、ブルー、パープルの3色展開だが、今回はパープルをお借りしている。重量も約100gと非常に軽量で薄型のため、ポケットなどにも入れやすい。ほぼ日本のケータイに近いサイズである。

キラキラなフロントパネルが印象的写真ではピンクっぽく見えるが、実際はもっと渋いパープル

 パネル面はコスメチックと言っていいのだろうか、結構派手なプリント模様となっている。写真では立体的に見えるかもしれないが、実際にはフルフラットである。このあたりは、ユーザーが自分で着せ替えできたり、ノベルティ用としてカスタムのパネルが入れられるなどの仕掛けがあるとおもしろかっただろう。

 前面には撮影レンズとマイク用の小さな穴が開いているのみ。右サイドにはマクロ切り替えのスライドスイッチがある。反対側には、アナログAVアウト、ミニHDMI、USB端子がある。手前の小さな穴はスピーカーだ。SDカードスロットは底面にあり、バッテリは完全に内蔵されて取り外しはできない。充電はUSB端子経由で行なうのみ。

レンズ脇にマクロスイッチ逆サイドにはミニHDMI、USB端子などを装備SDカードスロットは底面

 撮像素子は817万画素の1/3.2型CMOSセンサー。有効画素数は動画203万画素、静止画799万画素となっている。撮影可能な静止画は最大8MピクセルからVGAまで4段階で設定可能。動画サイズは以下のようになっている。

動画サンプル
動画モード解像度フレームレートビットレート動画サンプル
1080P1,440×1,08030fps12Mbps


p0033.mov(19.4MB)

720P1,280×72060fps

 
p0032.mov(29.8MB)

VGA640×48060fps4Mbps


p0034.mov(6.7MB)

QVGA320×24030fps0.8Mbps


p0036.mov(1.2MB)

編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 なお動画に関しては、モードによって画角が変わるが、静止画の画角は動画のVGA/QVGAと同サイズだ。なお、本機には4倍までのズーム機能もあるが、電子ズームなので画質が劣化する。基本はワイド端固定と考えていいだろう。

撮影モードと画角サンプル
動画モードワイド端テレ端
1080P

約55mm

約220mm

720P

約42mm

約168mm

VGA

約30mm

約120mm

QVGA

約30mm

約120mm

 

操作パネルはほとんどアイコンのみ

 液晶モニタは2.0型TFTカラー液晶。操作ボタンは電源ボタンほか、十字キーと決定ボタン、動画・静止画切換、録画・再生切換、削除、サムネイル表示ボタンがある。ボディに書かれている文字は、充電状況を示す「CHARGE」とアナログ出力の「AV」ぐらいのもので、あとはすべてアイコンで表示されている。ある意味ランゲージフリー設計とも言えるだろう。

 これまで中国製などのMPEG-4カメラは、無理に高級感を出そうとして逆に安っぽくなっているイメージだが、FM1の場合は高級感を出すことは最初から放棄している感じだ。そのかわりに華奢なところがなく、しっかり作られている。



■ 完全フルオートしかない撮影機能

メニューはこれだけしかない

 ではさっそく撮影してみよう。FM1の操作上の特徴は、撮影に関するメニューが全然ないことである。最初に電源を入れたときだけ日付の設定が出るが、それ以外は撮影に関するメニューは一切出てこない。後で日付を変更したいときは、削除ボタンとサムネイルボタンを同時に押す。そのほかNTSCとPALの切り替え、メディアフォーマットなどもあるが、メニューと言ったらこれぐらいだ。



zoom.mov(13MB)
ズームはデジタルズームしかないので、画質が劣化する
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 解像度の変更は、十字キーの左を2回押すと、1080P/720P/VGA/QVGAの順に切り替わる。静止画の解像度切換も同様だ。十字キーの上下がズームになっており、定速で動くのみだ。決定ボタンがシャッター/録画ボタンの変わりとなる。撮影で必要な設定は、マクロにするかどうかぐらいのもので、完全フルオートである。

 今回は画角が広く、ハイビジョン解像度として使いやすいということで、720pで撮影を行なっている。撮影日はあいにく晴れたり曇ったりのややこしい天気だったが、ホワイトバランスはまずまず上手く取れるようだ。ただ逆光補正とかも何もないので、空抜けの高コントラストの遠景では、露出判定を間違う場合もあった。一方近景は比較的得意なようで、、発色もまずまずだ。


せっかくの晴れ間だが、露出が間違うことも近景はまずまずよく撮れるマクロ撮影。日陰だがホワイトバランスも悪くない

 動画には電子手ぶれ補正があるということで、以前レビューしたMHS-CM1と同時に撮影してみた。こちらは手ぶれ補正はない。結果を比べてみると、それほど手ぶれ補正が効くわけでもなさそうだ。撮像エリアには相当余裕があるはずなので、昨今のビデオカメラのように、極端に手ブレ補正が効くようになっていると、それはそれで面白かっただろう。


stabfm1.mov(14.4MB)

stabcm1.mov(4.3MB)
FM1で撮影MHS-CM1で撮影
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 


macro.mov(23.4MB)
マクロモードによる撮影
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 マクロモードによる撮影も行なってみたが、レンズ前数センチまではフォーカスが合うようだ。撮影時に困ったのが、液晶画面が暗くて昼光の元では反射してしまい、映像の確認が難しいところである。またバリアングルでもないので、自分撮りや2ショット撮影などがやりにくい。10代から20代ターゲットではこのような自分撮りニーズは高いと思われるので、ケータイに昔あったように、自分撮り用の小さなミラーがレンズ側にあっても良かっただろう。

 もう一つの難点は、電源ボタンが小さくて操作しずらい事である。たいして出っ張ってもいないので、指も大きな欧米人には使い辛いだろう。また電源ONを表わすLEDが左側にあるが、電源ボタンが左側にある以上、左親指で押す可能性が高い。そうなると自分の指でLEDが見えなくなってしまい、電源が入ったのかどうなのかが確認できない。この部分は改善が必要だろう。

 画質としては、720pということもあるが解像感はそれほど高くはなく、若干のっぺりとした印象が残る。もう少し高コントラストでも良かったかもしれない。また音声は、人の話し声などはなんとか聴けるといった程度で、ビデオカメラのような感度は期待できない。これはコーデックというよりも、マイクの質の問題だろう。


sample.mpg(155.2MB)

room.mpg(61.2MB)
昼光での撮影。全体的に暗めに撮れる傾向がある室内撮影サンプル。暗いがそれなりに撮れるという印象
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 静止画撮影も行なってみた。動画と静止画の切換も非常に高速で、かつAF動作もないので、レスポンスはいい。シャッターを押した瞬間撮れるという感じだ。動画に比べてコントラストが高く、遠景の撮影も悪くないが、シーンによっては白飛びしてしまう場合もある。どちらかと言えば派手目でレトロチックな写りをするカメラで、そこをわかってしまうとわりあい面白く撮影できる。

ややレトロな写りの静止画コントラストや発色は上々若干高コントラストすぎる傾向も
静止画でもズームすると画質が荒れる

 ただ写真を撮るだけなら、今ならケータイの方が良く撮れるだろう。ズームも解像度据え置きで拡大してしまうので、画素数はそこそこあるが、画質が荒れる。これは画素数を減らして拡大ズームしたほうが、マシだったかもしれない。



■ 多彩な再生、編集環境を実装

 FM1が他のMPEG-4カメラと大きく違う点は、テレビ用にミニHDMI端子を装備した点である。多くのカメラはVGAサイズのアナログ出力を持つか、USBでPCに転送する程度だが、ハイビジョン映像をそのままテレビに繋いで鑑賞できるというのは、この価格にしてはなかなか頑張っている。ここは日本のマーケットも意識した結果かもしれない。

【お詫びと訂正】
 記事初出時に、HDMI経由の出力時にOSDが消せないとの記述ありましたが、右下の長押しで消すことができます。お詫びして訂正いたします。(2009年10月9日/編集部)

 PCでの扱いも見ていこう。FM1をPCに接続すると、SDカードと本体内蔵メモリの他に、FMCAM_FRMというボリューム名のドライブがマウントされる。この中にピクセラ製のMediaBrowser LEのインストーラがあり、PCにインストールすることができる。

本体内蔵のMediaBrowser LE

 MediaBrowser LEは、カレンダー管理型のメディアブラウザである。動画に関しては、1つのクリップのイン点・アウト点を決めるという方式で、トリミングすることができる。トリミングされた映像は、保存先として指定したフォルダにその部分だけ複製される。ただし編集を行なうには、いったんPCに動画ファイルを取り込む必要がある。

 YouTubeへのアップロード機能も備えているが、複数のクリップを繋ぐような機能はなく、基本的には1カットを選んでアップロードするという方法だ。同様のアップロード機能は、Googleが無償で提供しているPicasa 3にも搭載されており、それ以外の機能も実はPicasa 3の方が優れている。

クリップのトリミングも可能Picasa 3にも同様の機能はある

 MHS-CM1の場合は、本体内から管理ソフトウェア「PMB Portable」が起動できるということで、PCを選ばないというメリットがあったが、HD解像度でのアップロードができなかった。一方MediaBrowser LEは本体からは起動できないが、HD解像度のアップロードにも対応している。

 FM1で撮影し、MediaBrowser LEで編集後YouTubeへアップロードしたサンプルは、ここで見ることができる。


■ 総論

 今回は手元にMHS-CM1があったので、比較しながら撮影してみたが、やはり撮影する機器としては、液晶モニタが回ったり、光学ズームが使えるMHS-CM1のほうが使いやすいと感じた。ただMHS-CM1はかなり暖色というか赤っぽく撮れるので、絵としてはFM1のほうが素直だ。

 メニューも何もなく、ただ押せば撮れるという割り切りは、ティーンや女性には嬉しいだろう。できればマクロも自動化して欲しかったところである。おそらくこのカメラを手にするターゲットは、「マクロ」という言葉の意味もまだ知らない層だろうと思われるからである。

 ケータイでいろいろできることを知っている日本のティーンから20代の人たちが、2万円弱を出してこれを買うかどうかは微妙かなとは思う。またガジェット好きの男性はiPhoneやiPod nanoに行ってしまっている。さらにPCありきのガジェットなので、そのあたりが日本ではハードルが高いかなという気がする。

 動画というのは、インターネットの登場により、記録からコミュニケーションの道具として変化しつつある。この大きな流れに、日本は今のところ市販コンテンツを肴に語り合うといった、違った乗り方をしている。自分で作るという方向では、写真の方が先行しているが、動画がそこに乗れるかどうかは、こういうガジェットにかかっているのかもしれない。

(2009年 10月 7日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]