“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第566回:ついに開始した、ソニー「PlayMemories Online」を試す

~日本発の映像/静止画専門クラウドサービス~


 

■2012年春と発表されたサービスがようやく

PlayMemories Onlineのテストで使ったiPhone 4SとSony Tablet、サイバーショット「DSC-TX300V」

 4月25日、ソニーのクラウドサービス「PlayMemories Online(以下PM Online)」がサービスインした。2月の「CP+」では今春にサービス開始とアナウンスしていたが、ギリギリ4月に間に合った感じである。ただ、パソコン用のプラットフォームとなるソフト「PlayMemories Home」(以下PM Home)の対応アップデートが間に合わなかったが、連休中の5月1日にアップデータが公開され、無事動作するようになった。

 PM Onlineは、写真や動画をアップロードして共有することに特化したクラウドサービスだ。α、サイバーショット、ハンディカムなど多くのイメージング商品を抱えるソニーにとっては、単にファイルを預かるのではなく、イメージングに特化したサービスを展開する事でクラウドとしての差別化を図りつつ、同社製品の付加価値を増すように作用するものと考えられる。


PlayMemories Onlineの概念図

 すでにアプリケーション類も、各種PlayMemoriesシリーズが展開されている。従来イメージング商品に付属していたPC向けの画像管理ソフト「PMB(Picture Motion Browser)」は、今年の製品から徐々にPM Homeに置き換わってきており、これのVer1.3からPM Onlineに対応する。またスマートフォン向けアプリもPlayMemories Mobile(以下PM Mobile)とPM Onlineの2つが提供されている。これらアプリ以外でも、例えばWebブラウザからも利用できる。

 今回はネットワーク対応のカメラを使いつつ、この新サービスの可能性や使い勝手などをいろいろ試してみたい。


 



■PM Onlineで何ができるのか

 一部に誤解もあるようだが、PM Onlineはソニーのカメラを買わないと利用できないというわけではない。アカウントを作れば誰でも利用できるサービスだ。アカウントはPM Online独自のものではなく、「Sony Entertainment Network」のアカウントと共通になっている。PS3やPSPなどゲーム機でのネットワークサービスを利用している人は、すでにPlayStation Networkのアカウントを持っているはずだ。これと共通である。

 また、同社のVODサービスVideo Unlimitedのアカウントとも共通である。Video Unlimitedってなんだよ、という話もあるが、これは以前Qriocityというサービスだったものの名前が変わったヤツである。PM Online自体も、Personal Spaceというサービスから変更されたものだ。

 つまりSony Entertainment Networkのアカウントとは、PlayStation Network、Video Unlimited、PM Onlineの3つのサービスを含むということである。過去から現在にかけてソニー全体では、様々な事業部が別々のネットワークサービスを持っていたわけだが、これらを徐々に一本化していく大きな流れの最初のステージだと言えるだろう。

 PM Onlineにアップロードできるフォーマットは、以下のようになっている。

静止画JPG, PNG, BMP, TIF, GIF
動画WMV, MP4, MTS, M2TS, MOV, AVI, MPG, M4V

 これらのファイルは、直接オリジナルファイルをアップロードできる。なお、PM Onlineでは無料で5GBの容量が利用できるが、まだ有料プランがないため、これ以上容量が欲しくても拡張する方法が提供されていない。ゆくゆくは有料のプランも出てくるのだろうが、現在はGoogleやAmazonもクラウドサービスに参入してきており、価格面でもかなり厳しい戦いになりそうである。

 アップロード可能なファイルサイズとしては、PCなどからは最大200MBまで、スマートフォンから3G回線を使った場合は20MBまでとなる。また動画の場合は、長さが20分未満のものに限られ、それを越える動画は前半から20分だけアップロードされる。

 なお、アップロード時に縮小・圧縮して、アップできるファイル数を稼ぐということもできる。クラウドから自分で閲覧する&人に見せるための端末がスマートフォンぐらいだと言う人は、最初から小さくてもいいだろう。

20分を越える動画をアップしようとすると、警告が表示されるアップロード時に縮小・圧縮することもできる

 PM Onlineの特徴は、どんなデバイスからでも映像が見られるようにクラウド側で処理してくれるということである。特にモバイル機器では、その性能から来る制約が多い。静止画では画像サイズ、動画では対応フォーマットが問題になるだろう。

 PM Onlineでは、いったんクラウドにアップすると、クラウド側で様々なファイルにあらかじめ変換しておいてくれる。そして再生機器に応じて変換ファイルを表示してくれるわけだ。

 例えば動画の場合では、Webブラウザで表示する場合はFLV形式に、フィーチャーフォン向けには3GPやMP4形式などが自動的にあてがわれる。そのほか、H.264、MPEG-4、WMV8/9なども用意されているという。なお、この変換ファイルの保存に必要な容量は、ユーザー領域の5GBに含まれない。

 また、意外な感じもするが、PS VitaとPSPには現時点で対応していない。これらに搭載のブラウザでは、PM Onlineの画像の表示やアップロードができない。これらはある意味ソニーの看板でもあり、社長の平井氏の出身部門でもあるので、今後ブラウザのアップデートで対応してくることも考えられる。

 今後の対応機種としては、液晶テレビのBRAVIAや、デジタルフォトフレームなどがある。また、PS3用の動画管理・編集ソフトの「PlayMemories Studio」も、将来的には編集した動画をPlayMemories Onlineへアップロードできるようになるという。

対応機器ソフト名PlayMemories
Onlineの利用
機能SEN ID価格
Android端末
iOS機器
PlayMemories Onlie4月25日から閲覧
アップロード
必要無料
PCPlayMemories Home5月1日から
(Ver.1.3アップデート)
閲覧
アップロード
ダウンロード
必要無料

(Webブラウザ)
4月25日から閲覧
アップロード
ダウンロード
必要
(共有されたアルバム
受け取ったポストカード
 の閲覧時は不要)
無料
BRAVIA
(2011年以降発売モデル/
 録画機能搭載モデル除く)

(対応アプリ)
2012年春予定閲覧必要無料
デジタルフォトフレーム
(対応アプリ)
2012年春予定閲覧必要無料
PS3PlayMemories Studioアップロードのみ
対応予定
アップロード
※対応予定
必要1,500円

 



■アップロードの実際

 アップロードは対応アプリかブラウザさえあれば、大抵のデバイスからアップロードできる。ここでは先に発売されているサイバーショット「DSC-TX300V」を使って、実際にやってみたい。「DSC-TX300V」の無線LAN機能を使って、撮影した画像をiPhoneに転送。iPhoneからPM Onlineへアップロードする……という流れだ。

 DSC-TX300Vで写真を撮影し、再生モードにすると、左下にW-Fiアイコンが出てくる。これをタップすると、スマートフォン転送のオプションが表示される。

無線LAN内蔵デジカメ「DSC-TX300V」とiPhoneの組み合わせでテストWi-Fiの転送オプション画面
iPhoneのPM Mobileでブラウズと転送を行なう

 オプションを選択すると、カメラがWi-Fiのアクセスポイントとなるので、スマートフォン側でカメラのWi-Fiにログインする。その後、スマートフォン用アプリの「PM Mobile」を立ち上げると、カメラ内の写真がサムネイルで表示される。必要な写真を選んで「コピー」すれば、スマートフォンに転送されるという段取りだ。

 なお、DSC-TX300Vは動画撮影機能もあり、AVCHDでの録画が可能だが、PM Mobileでは動画の転送には対応していない。おそらくスマートフォン側でAVCHDの再生に対応できないため不要との判断なのだろうが、アップロード端末としてスマートフォンを利用することを考えれば、たとえ再生できなくてもアップロードはしたいというニーズはあるだろう。

 PM Mobileは、機能としてはカメラと通信して映像をスマートフォンへ取り込むだけのアプリなので、転送が終わってしまうともう用がない。PM Onlineへアップロードするには、別途「PM Online」のアプリを起動する必要がある。この両アプリはどう考えても一本化すべきだろう。

 PM Onlineアプリは、ログインするとオンライン上の写真や動画をブラウズできる。写真をアップロードする場合は、「写真」のタブを選んで「+」ボタンを押し、アップロードする写真を選択するという段取りだ。


 さらにPCのPM Homeを使うと、動画のアップロードもできる。ソフト上で各カットごとのトリミングだけでなく結合もできるので、一応動画を繋いで編集ができるようになっている。

 各クリップ単位でアップロードできるだけでなく、取り込んだら自動でアップロードするようにも設定できる。またアルバムを作ってそこに画像をまとめ、一気にアップロードすることも可能だ。

PM Onlineアプリで+ボタンから写真をアップロードできる動画のトリミングと結合機能で、簡単なビデオ編集ができるアルバムを作って一括アップロードも可能

 



■限定的な共有機能

自動でいくつかのカテゴリーに分類される

 自分でアップロードした写真や動画を自分で見るだけなら、様々な方法がある。アプリを落とさなくても、Webブラウザがあれば大抵の端末から見ることができる。ライブラリーにはいくつかカテゴリーがあり、写真、動画といった分類以外に、直近30日、前回のインポートといった項目がある。プレイリストのように自分で項目が作れるようになると面白いかもしれない。

 ただしiPhoneやiPadなどのApple製品では、標準ブラウザのSafariはFLVに非対応なので、動画はブラウザでは視聴することができない。別途PM Onlineアプリをインストールする必要がある。

 Androidは標準ブラウザがFLVに対応しているので、そのまま見られる。ただどういうわけか横画面ではレイアウトが崩れておかしな表示になってしまう。未知の端末ではなくSony Tabletでこの表示なので、これは早急にどうにかしたほうがいいだろう。


iPadのSafariでは、FLVが再生できないAndroidではブラウザで動画再生までできるが、表示が崩れるなお、Sony Tabletではアプリの「PlayMemories Onlie」も利用可能だ

 オンライン上で他の人と共有する方法も提供されている。これまでの画像共有サイト、例えばYouTubeなどでは、原則的にはアップロードされた画像などは無条件で広く公開されてしまう。SNSもサービスによっては友だち限定にできるが、基本的には広く公開されるものと考えておいた方が無難であろう。

 一方、PM Onlineの共有機能は、敢えて限定的な公開が標準になっている。これはプライベートな写真を、意図せず全公開してしまわないようにという配慮だろう。全公開がデフォルトの米国系サービスとは違った、日本的な考え方と言える。

 Online上で作ったアルバムは、メールアドレスを使って他の人に公開することができる。いわゆる「招待」するわけだ。このあたりの手順は、以前ソニーが提供していたオンラインサービス「イメージステーション」に似ている。共有用のアルバムを作り、そこに他のユーザーを招待し、共有できるわけだ。

 もう一つ面白い機能として、PC用のPM Homeでは、撮影した写真を使ってEメールでポストカードを作ってくれる機能がある。いくつかの写真を選んでテーマを選び、メッセージを添えて送れる機能だ。

 なお、アルバムの共有とポストカードは、PlayMemories Onlineを使っていないユーザーに対して招待・送付する事ができる。共有したアルバムの中身と、送られてきたポストカードは、Sony Entertainment NetworkのIDが無くても、ブラウザから閲覧できる。

 ただ、5月8日の時点で、PlayMemoriesのユーザーに対してのアルバム共有・ポストカード送信は一応できたが、招待してもそのメールがなかなか届かないユーザーがいたり、IDの無いユーザーのメールアドレスに送付しても、メールが届かないといった現象に遭遇した。しかし、同日深夜頃からこれらのアドレスにもメールが届き初め、改善に向かっているようだ。

アルバムごとにメールアドレスを追加して限定公開可能ポストカードを作ってメールで送る機能Webブラウザからポストカードを受信したところ

 

PlayMemories OnlineのIDを持っていない人に、メールでポストカードを送信したところメール自体に画像が表示されているが、ブラウザから閲覧する事も可能だ

 

 



■総論

 PM Onlineの機能を一番利用できるのは、PC向けの「PM Home」だと思われるのだが、機能的にはまだ不完全である。バグって落ちるようなことはないが、前述のメール遅延や、サインイン機能で「自動でサインイン」にチェックを付けたにもかかわらずパスワード入力を求められる事があったりと、改善に向かっているようではあるが、まだアラが見える部分もある。

 また画像のダブりチェックもしてくれない。例えば個別にアップした画像と、アルバムに入れてアップした画像が同じものだった場合、両方の画像がクラウドに保持される。そりゃそうだろうと言う人もあるだろうが、いまどきのクラウドならばもうちょっとクレバーでもいいのではないか。

 共有の面では、まだ弱いところがあるようだが、とりあえずサーバ側の機能はちゃんと動いているようなので、どんどん上げて、自分でいろんなところで見るということから活用したい。日本企業が行なうクラウドサービスでまだメジャーなものがないだけに、PM Onlineの成功には期待がかかる。ただソニーは以前同様の写真共有サービス「イメージステーション」を終了させた“前科”がある。今度こそ撤退のないようにお願いしたいものである。

(2012年 5月 9日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]