トピック
ヤマハのゲーミングミキサー「ZG01」開発担当直伝! 使いこなし術
2022年11月18日 00:00
HDMI入出力を搭載し、こだわりの環境でボイスチャットをしながらのゲームや、配信に活用できるヤマハのゲーミングミキサー「ZG01」。「スプラトゥーン3」のようなチーム戦のゲームや、11月18日に発売された「ポケットモンスター スカーレット/バイオレット」のマルチプレイなど、快適にゲームプレイとボイスチャットを両立したいときにぴったりのミキサーとなっている。
ただ、初めて配信に挑戦する人や、配信をしたことがある人にとっても、細かな設定をどうすればいいのか、わからない部分も多い。そこで、同モデルの開発担当であるプロオーディオ事業部 商品企画グループ 主任 金 田匡史氏から、ボイスチャットをさらに快適にする機能「3D CHAT SPACE」について、その設定方法や活用の仕方について聞いた。
このZG01だが、自身もプライベートでゲーム配信を行なっているという金田氏が、AGシリーズなど、従来のミキサーを使いながら配信していて感じた不満や欲しい機能を盛り込んだミキサーとして開発されたもの。
配信者の定番機材となっているAGシリーズとの大きな違いとして、HDMI入力を装備。直接HDMIケーブルを繋ぐことで、変換アダプタなどを使って配線が複雑化したときに発生しやすいノイズのトラブルを防止しているほか、一般的にミキサーは使える機能が全てハード上で触れられるようになっているが、ZG01は配信中やゲーム中に触らない機能を全てアプリ上にまとめ、ハード上には必要最低限のボタンしか配置しないことでシンプル化している。
設定はアプリで完結できるほか、OBS Studioなどの配信ソフト側でノイズキャンセルやコンプレッサー機能を使っているといったこだわりの環境を構築している人達もそのまま使える工夫がなされている。
そんなZG01だが、一歩踏み込んで設定すればその真価が発揮されるという。まずは金田氏直伝の設定で環境を見直してみよう。また、後半ではあらためてZG01の開発意図や、課題、今後のアップデートについて金田氏にインタビューも行なっている。
ユーザーに使って欲しい「チャットの頭外定位」設定
まず、金田氏に教えてもらったのがZG01でイチオシの機能という「3D CHAT SPACE」だ。通常、ボイスチャットの音声はモノラルのため、ゲームサウンドに被って聴こえてしまうのだが、この機能を使うと、その“被り”を避けて綺麗に聞き分けられるようになる……というものだ。
イメージとしては、ボイスチャットの音声もゲーム内のキャラクターボイスや、ゲーム内のチャット音声になるといった形になる。設定画面への推移や、設定した際の実際の聞こえ方については以下の動画を参照して欲しい。イヤフォン/ヘッドフォンで聴いていただきたい。
3D CHAT SPACEの設定画面は、ゲームEQ設定の項目内にある。ヘッドフォンを着けた人の頭の周囲にある球体をクリックすることで、チャットの音声が出てくる方向を決められてる。ポジションは、正面下、右下、左下、正面上、右上、左上、頭上、背後右下、背後左下、背後右上、背後左上の11カ所。
真後ろにあたるポジションがないのは、人間の耳の構造上、真正面と真後ろから聴こえる音を上手く判断できないためだという。なので、正面上下もあまりオススメできる位置ではないとのこと。
金田氏オススメの配置は“右上、もしくは左上”。この位置にすることで、スピーカーで前方から音が出ているような聴こえ方になり、ゲームサウンドの立体感を邪魔せずに、チャット音声が聴こえるようになる。動画内のデモで、右上、左上、右下、左下、頭上で切り替わる様子が実際に聴き取れるのでイヤフォン/ヘッドフォンを着用して再生していただきたい。
なおアプリの「STREAMING OUTPUT MIXER」の項目でVOICEのFXをONにしておくことで、この頭外定位の設定がそのまま配信にも載せられる。自分(配信者)の声はメインとして今まで通りに、ゲストの声はゲームサウンドとともに調和して聴こえるという体験をイヤフォン/ヘッドフォンで聴いている視聴者に提供できる。スピーカーで聴いている場合にも音が崩れない配慮もされているため、ZG01ユーザーは是非気軽に試してみてほしい。
また、3D CHAT SPACEの下にある項目「ZG SURROUND」をONにしておくことも大事な要素。ここをONにして、ゲーム本体のサウンド設定も“サラウンド”にしておくことで、よりゲームに没入できる。
「GAME EFFECT」メニューのプリセットを選択してもこのサラウンド機能は自動的に有効になっているので、これを選択してみるのもアリだ。なお、このプリセットのうちFPSやTPSの対戦ゲーム向けのプリセットが「Engage」で、ハイフンの後ろに付く文字が「M」が汎用的に使える“マルチブル”、「C」がビーム銃などが登場する近未来的なゲームに合った“サイバー”、「R」が実弾の様な音が再現されているゲームにオススメな“リアル”になっている。
例えば、「スプラトゥーン3」でオススメなのが「Engage-M」、RPGではキャラクターのセリフやアニメーションなどが入るものは「Dramatic」、RPGでも「ポケモン」のように人の声がなく、常時BGMが流れ続けるタイプのゲームは「Music」がオススメとなっている。
なお、「GAME EFFECT」設定の下にあるヘッドフォンマークのタブから、自分が使っているタイプのイヤフォン/ヘッドフォンに合わせてプリセットを選択しておくと、ZG01のGAME EFFECTがより効果的になるので、こちらも要チェック。
ゲーム配信者からはシンプルさで好評。実はフラッグシップ機の立ち位置
金田氏が実際にAGシリーズを使って配信しながら感じていた「こういう機能が搭載されたらもっと便利になるのに」という要素が詰め込まれて開発されたZG01。開発のキッカケは、「もっとゲームプレイに特化した機能を」と考えたからだという。
金田氏(以下継承略):ZG01は、ゲームプレーヤーとストリーマー(配信者)に向けて開発されたミキサーです。発端は「AG03/06」というベースとなっているミキサーが配信文化を作り上げていって、その中でゲーム実況という分野も大きく発展して、今後もより拡がりを見せていくことが予想されることから、「ゲーム実況をするときに、AGシリーズよりももっと扱いやすくて、もっとゲームプレイに特化した機能を」と思い、今回の製品の開発に繋がりました。
製品の発表時からもあった「AGシリーズがベース」の表現。ミキサーというプロが扱う機材をコンシューマー向けに展開しているという点では同じ立ち位置で、HDMI端子の要素を除けば、できることは同じながら、設定方法などそのプロセスが異なっているのも気になる要素。ミキサーの仕組みといった点でもAGシリーズがベースになっているのか聞いてみると、中身は全く別物だという。
金田:AGシリーズはアナログミキサー、ZG01はデジタルミキサーなので、仕組みとしてはほとんど一新されたものになっています。では、AGシリーズから何を引き継いでいるのかというと、それは「体験」の部分です。
ミキサーというプロが扱う機材を、初心者でも扱いやすく設計しながら、ヤマハとしての品質も兼ね備えているのがAGシリーズなのですが、その立ち位置やコンセプトをそのままZG01に落とし込んでいるようなイメージです。
そして、AGシリーズは配信や音楽制作をしている人をターゲットとした製品ですが、ZG01はそのターゲットがゲーマーやゲーム配信者になっているという形になります。
そして、ゲーム配信向けミキサー ZG01の目玉となっているパススルー付きのHDMI端子。従来はゲーム機の音をPCに取り入れようとすると、オーディオケーブルを使って取り込んだり、HDMIから音声だけを分離、変換するアダプタなどを使って、光デジタル端子などでミキサーやインターフェースから取り込む、という方法になってしまう部分をシンプル化した要素であり、「あると便利なのになかった」という要素でもある。
HDMI端子を搭載した経緯とともに、ミキサーへのHDMI搭載に何か課題があったのだろうか。
金田:HDMIはこの製品のユニークポイントとして、構想段階からすでに搭載することが決まっていました。技術的にも搭載に問題ないことは分かっていましたので。ただ、これが市場に出た時にどのような反応があるか、という不安はありました。
HDMIの技術はホームオーディオ部門ではAVアンプなどで扱われてきましたが、プロオーディオ分野では扱われていないということもあって、ホームオーディオ分野との共同開発という形で、連携を取りながら開発したものになっています。ホームオーディオ部門とプロオーディオ部門のそれぞれの技術を使って、この1つの製品に落とし込むというところが苦労したことではあります。
ただそのおかげで、実は今回ミキサーにHDMIを搭載すること自体はほとんど苦労しませんでした。AVアンプと違う部分で、さまざまなゲームの信号が入ってきた際に、それをきちんと安定して通信するための調整という部分では確かに少し大変ではありましたが。
そもそも「HDMI端子を搭載すること」自体は技術的にけっこう大変なことでもあるのですが、ヤマハではAVアンプでその“大変なこと”を事前にクリアしていたというのが大きかったというところでもあります。
HDMI入力から入ってきた音に対して、ミックスしてパススルーから出力するという点については、ホームオーディオ部門ではこの発想自体がありませんでしたが、技術的に問題があったかというと、実は意外と少なく済んでいます。
なおHDMIパススルーは、最大で4K 60Hz、1,080p 60Hzまで対応。HDRにも対応している。詳細はWebページでも確認できる。
“HDMI端子が搭載されている”という情報から、発表時にも一部の層から期待されていた、映像を取り込む「キャプチャーボード機能」について、開発中に搭載を検討されたのだろうか。
金田:最終的には音声のみという形にはなりましたが、キャプチャーボード搭載の検討はしていました。
ただ、今回の「ZG01」はすでにゲーム配信をしているユーザーや、ゲームの映像をPCに取り込みながらボイスチャットをしている層がメインターゲットでしたので、そういった人達はすでにキャプチャーボードを持っているだろう、ということでこのような形になりました。
まずは音声の部分に注力して、今ゲーム配信をしている人達がより簡単に使えて、ノイズトラブルも減らせて、といった従来のミキサーの課題解決の部分からスタートした形になりました。
“ゲーム配信向け”という新たなターゲットに向けた製品として、まずはヤマハの既存技術を組み合わせて新たな需要のある製品を作ることに注力したそうだ。そして、メインターゲットにはその金田氏が一番感じて欲しかった要素がしっかり伝わっていたという。
金田:ユーザーから好評だったのは、入力端子が揃っていて音声がルーティングしやすい点や、ゲームとボイスチャットをする際に必要最低限の操作で思い通りに動くという点で、「配線がスッキリして、トラブルもなくなった」という反応がありました。私なりにこだわった部分に対してお褒めの言葉がいただけて大変嬉しいです。
そして、HDMI入力が2系統搭載しているのも、ただゲーム機を2台繋いで使うだけではない、金田氏のこだわりがあるという。
金田:ゲーム機を2台繋ぐという使い方ももちろんありますが、普段PCのマルチディスプレイ用に使っているモニターを1ボタンでゲーム用に切り替えられたら便利だなと思ってHDMI入力を2つ搭載しました。
私自身の経験が元になって搭載したものなのですが、HDMI切替器などを使う手もあるのですが、モニターの切り替え操作がもっと手元で簡単に行なえたら、もっと楽になるだろうと思って2系統にしました。ここもユーザーから良い反応を頂いていて嬉しいです。
細かいところまでさまざまなこだわりが詰め込まれているZG01だが、アプリの方も様々なこだわりが詰め込まれており、細かく設定しようと思えばかなりの項目で自分好みにカスタマイズできるようになっている。一方で要素が多くなってしまうと、ユーザーからも気づかれにくい機能が出てきてしまう。まさにそれが「3D CHAT SPACE」だという。
金田:注目して欲しい機能ですが、これは「3D CHAT SPACE」の機能です。ボイスチャット時の相手の声を頭外定位させることで、ゲームサウンドの立体感を損なわずに、ボイスチャットの声もしっかり聴き取れる機能なのですが、この機能があまり使われていないような印象です。これについては、便利さを上手く伝え切れていなかったなと。
3D CHAT SPACEの設定方法については、インタビュー前の項目で動画付きで記載しているので、ZG01ユーザーは是非一度設定していただきたい。設定した際の音のイメージも収録されているので、持っていない人もイヤフォン/ヘッドフォンを付けて動画を確認してみて欲しい。
そして、様々な設定がアプリで行なえる点についてもZG01の大事な要素だという。
金田:ZG01の本体には基本的に毎回触る部分だけを配置してスッキリさせることで直感的に使えるようにしよう、ということで、一度設定したらしばらく触らない要素は全てアプリで完結しよう、という構想がコンセプトの時点でありました。
ミキサーは、AGシリーズの本体でも分かる通り、基本的には使える機能が全てハード上で見えるようになっていて、音楽制作の点ではこれが有意な点でもあります。ただ、ゲーム配信やボイスチャットの場合は、毎回使う機能がだいぶ限られてしまう。
この点をZG01ではシンプルにしていて、レイアウトもマイクボリュームなどがある左側が「喋る側」の設定、右側は「聴く側」の設定といった用に分けてまとめていたりもします。ドライブも「ボイス」「ストリーム」と2つ見えるようにすることで、機材初心者でも簡単に設定できるシンプルさを追求しました。
シンプルな見た目と、“機材初心者でも触りやすい”というコンセプトから、配信ブームに合わせた、ゲーム配信エントリー層向けのミキサーにも見えるZG01。一方で、価格面を見てみると18,700円である「AG03MK2」の存在も相まって、ZG01の31,900円という価格は、これから配信やボイスチャットを始めてみようと考えるユーザーの視点で考えると、少し尻込みしてしまう金額かもしれない。だが、この価格設定についても理由があった。
金田:価格面では確かにNintendo Switchをもう1台買うくらいの金額になってしまうのですが、これは、ZG01自体が機材初心者にも使いやすい設計ながら、ゲーミングミキサーとしてはフラッグシップ機といった立ち位置にあるというのが1つの理由でもあります。
HDMIの搭載にはあまり苦労しなかったとお話しましたが、その技術や使用するパーツについてはそれなりにコストが発生するものになっています。フラッグシップ機だからこそ、そのコスト分も含めて開発できたというところもZG01にはあります。
ですので、メインターゲットとなる層はすでにゲーム配信やボイスチャットをしていて、ある程度機材にこだわる層になります。発表後にそういったユーザーからも大きな反響があり、この方向性で合っているのだなという確認ができました。
ただ価格面だけで考えると、AGシリーズのようなアナログミキサーにゲームの音声を入れるために、安定した動作をするHDMIオーディオ分離機のような機材や、ケーブルなどを追加で購入して……としていくと、おそらく同じくらいになるのではないかと思います。
想定よりも広く、様々な層の方から反応をいただけていて嬉しいですし、そういった意見もしっかり受け止めています。
確かに金田氏の言うとおり、別途あれこれ機材を追加したらトータルが高価になったという人もいるだろう。そうであれば最初からZG01を選ぶとスペースも抑えられるかもしれない。
最後にZG01を発売して見えてきた課題や、今後のアップデートについても聞いた。
金田:課題となっているのは、EQのカスタマイズ性です。どの程度の需要があるか分からない部分でもあったので、バンド数などを、自分の経験上では少し足りないかもしれないくらいの控えめな状態でリリースしたのですが、「EQ設定するのにバンド数が足りない」という意見をいただいたので、こちらを充実させながら、UI面もより設定しやすくなるよう改善したアップデートを予定しています。
アップデートは近日予定で現在調整中とのこと。