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衝撃の3D/HFR映像。アバター2は劇場で見なければ「絶対損をする」
2022年12月15日 07:30
12月16日から公開される『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(以下WoW)は、歴代興行収入第1位に君臨する『アバター』(2009)の続編ということで、相当な期待をされている。一方で、まだ観てもいない内から批判する声も少なくない。
よくある例として、「『アバター』は白人酋長モノの焼き直しに過ぎない」という、手垢の付いたような批判がある。「白人酋長モノ」あるいは「白人の救世主モノ」とは、白人の主人公が侵略される側の人々に共感し、原住民を率いて戦う……といった内容の作品をいう。そして参考例として『アラビアのロレンス』(1962)、『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1990)、『ラスト サムライ』(2003)、『ジョン・カーター』(2012)などが挙げられる。だが実際はこんなものではなく、60本を超える数の同種の映画が作られている。
つまりこれは、一つの映画のジャンルとして確立しており、そこをわざわざ指摘して叩くような大層なことではない。どんな作品でも突き詰めていけば、どこかで類型のストーリーに必ず出会う。
今回の『WoW』も、「住処を追われ安住の地を求めて旅をする家族」という内容は、『怒りの葡萄』(1940)などに類似点が見い出されるだろうし、今後のシリーズで予想される「ファミリーもの」としての展開は、『ゴッドファーザー』シリーズが影響しているかもしれない。さらに映画後半の展開は『タイタニック』(1997)に既視感を覚えるだろう。だからと言って、『アバター』シリーズがダメな映画だということには、まったくならない。
細部まで徹底して描きこまれた異世界の描写
むしろジェームズ・キャメロン監督の意図は、「想像の世界を完全に描き出す」ということだ。前作の森の世界に加え、今回はキャメロンが愛してやまない海洋世界が、微小な生物に至るまでイマジネーションを駆使して具体化されている。この体験は、幼少期に初めて図鑑を目にした時や、水族館や博物館を訪れた時の、ワクワク感を呼び起こしてくれる。SF作家/テレビプロデューサーだった故・野田昌宏氏の名言、「SFはやっぱり絵だねぇ」を思い出さざるを得ない。
この世界をデザインしたのは、ディラン・コール・スタジオを運営するコンセプトアーティストのディラン・コールで、これまで『アバター』や『トロン:レガシー』(2010)、『オズ はじまりの戦い』(2013)、『アリータ:バトル・エンジェル』(2019)などで、数々の異世界の様子を視覚化させてきた人物だ。
物理シミュレーションやレンダラーの劇的な進歩
ただ、いくら素晴らしいデザインであったとしても、それを描き出すテクノロジーがなければ話にならない。とりわけ重要になるのが、水の正確な挙動を表現する流体シミュレーション技術だ。これは、Wetaデジタル(2022年3月14日からは名称がWētā FXと変更された)社で、長年ヘッド・オブ・FXを務めるジョナサン・ニクソンが、ソルバー(数値計算を実行して方程式を解くプログラム)を大幅に改良し、かつてなくリアルな描写を実現させている。
そして、海の波の挙動が正確なのはもちろんだが、海面に降る雨の波紋や、キャラクターたちの肌を伝って雨滴が流れていく様子など、細かい所まで実に繊細に描写されている。さらに海底で舞い上がる土煙や、水中爆発の泡なども一つ一つ丹念に描かれ、一瞬たりとも不自然さを感じさせない。
さらに流体シミュレーションで驚かされたのが、RDA(資源開発公社)の輸送機の着陸シーンだ。巨大な炎が津波のように拡がって行き、パンドラの森を地獄に変えていく。これほど禍々しい炎の描写は、これまで見たことがない。
もちろんこれらは、流体シミュレーション技術だけでなく、レンダリング技術の大幅な改良による所も大きい。それを実現させたのが、Wētā FXが自社開発した、MANUKAと呼ばれる物理ベースレンダラーだ。生物の半透明な質感など、内部組織の透過率や色素まで計算で求めるほどの高度な処理を行なっている。
HFR効果の大成功
そして、それらをさらに生々しく感じさせるのが、48fpsによるハイフレームレート(HFR)上映である。これまでHFR上映は、ピーター・ジャクソン監督の『ホビット 思いがけない冒険』(2012)や、『ホビット 竜に奪われた王国』(2013)、『ホビット 決戦のゆくえ』(2014)、あるいはアン・リー監督の『ビリー・リンの永遠の一日』(2016)や『ジェミニマン』(2019)などに用いられている。しかし、「テレビドラマみたいだ」「撮影現場を見学しているよう」などといった感想が多く、過剰なリアリティが足を引っ張る結果を生んでしまった。
だが今回の『WoW』は、24fpsと48fpsをうまく使い分けており、HFRを用いた劇映画としては最初の成功例になったと言えよう。
HFRの場面は、激しいアクションシーンと水が関係するシーンに限定されている。フレームレートの変更箇所はほとんど意識に上らず、自然に切り替わっていた感じだ。特にHFRと水の相性は抜群に良く、どう見ても本物に見えてしまう。「CGで水を描くなんて、今時珍しくない」という人は、ぜひHFRでの鑑賞を体験して、その衝撃を実感して欲しい。
まったく疲れない3D画面
筆者は、丸の内ピカデリーのドルビーシネマで鑑賞したが、ドルビービジョンのハイダイナミックレンジ(HDR)の効果を、まざまざと実感した。3D眼鏡を掛けていても、スクリーンが暗いという印象はまったくない。
特にラストの、トゥルクンと呼ばれるクジラみたいな生物が夕日を背景にジャンプするショットは、3D眼鏡越しでも本物の太陽みたいな眩しさを感じる。このHDR効果によって、「3Dは観辛い」「疲れる」という印象を持つ人は、劇的に減るのではないだろうか。
さらに3Dリグなども全面的に刷新され、無理な視差などを感じるショットは皆無となった。普段、肉眼で見ているような空間が、そっくり再現されているような自然さなのだ。
前作では、ステレオ撮影後に2D/3D変換で作り直しているショットが、実際はかなりあった。それでも、映画冒頭に登場する宇宙船ISVベンチャースターの内部に、コールドスリープのポッドが並ぶ場面では、強過ぎる視差が不快感を生んでいた。『WoW』にも同様のシーンが登場するが、こういった問題は払拭されている。
このように『WoW』には、13年間の技術的進歩が確実に詰まっている。「いまさら3Dか」と舐めて本作を劇場で観なかったり、配信で済まそうと考えている人には強く主張したい。「絶対損をするぞ」と。