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木造でも音問題解決!? DAIKEN防音室とサイレンサーを体験した

DAIKENのスーパープレミアム防音室(イメージ)

動画配信者や楽器の演奏者だったり、ホームシアターやオーディオが趣味という方であれば一度は導入を夢みるのが「防音室」ではないだろうか。防音室が自宅にあれば、早い話“やりたい放題”。配信中にシャウトしようが外でサイレンが鳴ろうが無問題。大好きな楽器を思う存分弾くことだって、推しのライブBDを再生して友人らと応援上映することだって、家族に邪魔されることなく大音量でオーディオを鳴らすことだって、ヨユーなのだ。

そんな防音室の設置を、ハードとソフトの面で後押ししてきた企業が大建工業(DAIKEN)だ。同社は音響用天井材「オトテン」、壁材「オトカベ」、「防音ドア」などの建築音響製品を約40年に渡って手掛け、直近では“DAIKEN史上、最高グレード”の性能を謳う防音室“スーパープレミアム防音”を開発・発表し、話題を集めた。

このスーパープレミアム防音の対象は「新築の木造住宅限定」で、8畳価格で約530万円(税抜)と、おいそれと注文できない価格ではあるが、例え高嶺の花でも“遮音性能60dB(500Hz時)”がどのような世界なのか気になってしまうのが人の性。

というわけで、東京・秋葉原にあるサウンドショールームに突撃。防音性能の違いや新開発のスーパープレミアム防音の概要、コロナ禍で導入事例が増えたというお手軽な音改善アイテム“サイレンサー”(1個数千円)などを体感してきた。

やっぱり凄いよ。DAIKENの防音室を体験

「百聞は一見(一聴?)にしかず」ということで、まずはDAIKENの防音室の威力を動画でご覧いただきたい。

DAIKENのショールームで防音室を比較体験!

これは、サウンドショールームに用意されている「一般居室」「スタンダード防音」「プレミアム防音」の3つの部屋の防音性能を比べたもの。部屋の中に置いたスピーカーから音楽を流し、ドアの閉めた時の“音の漏れ方”(遮音性能)を比較している。

何の対策もしていない一般居室と防音施工を施した場合とでは、音の漏れ方が全く違う事に加え、スタンダードとプレミアムの防音性能の差も結構大きいことがお分かりいただけるはずだ。

スタンダード防音の場合、500Hz時で40dB低減(ピアノの音が小さな声くらいに低減)、プレミアム防音の場合は、500Hz時で50dB低減(ピアノの音がひそひそ声くらいに低減)できる遮音性能を有している。

DAIKENのスタンダード防音ルームを体験
DAIKENのプレミアム防音ルームを体験

なお、スタンダード防音の部屋とプレミアム防音の部屋の響き方が異なるのは、前者が残響時間が長く響きが多い“ライブ気味”、後者が残響時間が短く響きが少ない“デッド気味”に作られているから。「(秋葉原のサウンドショールームでは)防音性能の差よりも、ライブとデッド、どちらの音響が好ましいかを来場者に体感してもらうために音響設計を変えている」のだという。

音響特性とは? デッド気味/ライブ気味の響きを比較

DAIKENとは

DAIKENは、住宅用建材の開発・製造・販売を手掛ける業界最大手のメーカーだ。創業は1945年で、今回のテーマである防音室向けの製品開発に着手したのは約40年前にさかのぼる。1960年代に発売した天井材の“吸音性能”に注目が集まり、徐々に音の困りごとに対する同社への問い合わせが増加。1982年に防音課が新設され、音響事業への取り組みを本格的に開始する事になったのだとか。

防音課が設置された'80年代の日本は、経済活動が加速する一方、交通手段の変化や交通量の増加で交通騒音が社会的な課題になっていた。それを受け、同社は「遮音シート」や「オトテン」、「オトカベ」、「防音ドア」などの主力製品群を発表。

さらにこの時期、吸音材や遮音材を組み合わせ、楽器演奏やオーディオに最適な音環境を提案する「ダイケン防音システム」を構築。サービスにも力を入れ、施工時のアドバイス等を含めた設計提案を行なう専門部隊「サウンドセンター」を国内3カ所に設置。物件ごとにカスタマイズした防音設計提案を行なうなど、ソフト面での技術支援も並行して展開する事で防音室の設置を後押ししてきた。

ちなみに住宅向けの防音室には、2つのタイプが存在する。

1つは今既にある空間(居室など)に対して、ユニット型の防音室を組み込むタイプ。代表的なものとしては、ヤマハの「セフィーネ」や「ダイム」、カワイの「ナサール」などがある。特徴は、手軽で早いこと。2畳以下の小さなユニットの場合は、工事を行なうことなく、ほぼ1日で導入が可能。さらに後付けのユニットであるため、不要になった場合に解体しやすいこともメリットだ。楽器の練習や宅録ほか、近年はYouTuberが自宅に導入する例も増えていると聞く。

一方、DAIKENが提案する防音室は、シートやパネル、ボード、断熱材、コーキング、サッシ、ドアなど、様々な建材をカスタマイズして、空間そのものを防音仕様へと変える自由設計(オーダーメイド)タイプだ。

自由設計、つまりほぼフルカスタムの仕様になるため、施工タイミングは新築を建てる際や大規模なリフォームを行なう場合などに限定される。時間も工事も、そして何よりマネーも必要にはなるが、見た目を損ねることなく、ユーザーの要望に応じた防音・音響空間を作ることができるのが自由設計の強みだ。

自由設計の防音室を手掛けるところは他にもあるが、約40年に渡る防音に関するノウハウや技術に加えて、防音室に用いる建材や素材そのものも、自ら製造しているのがDAIKENの特徴でもある。

スーパープレミアム防音とは

そんなDAIKENが、音響事業40周年、そしてコロナ禍による“おうち時間”の拡大で増えた“音の困りごと(騒音など)”やより高レベルな要望にも応えるべく開発したのが、冒頭で触れたスーパープレミアム防音だ。

同社が長年に渡って培ってきた独自の建築音響技術を活かすことで、従来の木造住宅の防音室では低音域のエネルギーが大きく、演奏不可とされてきたドラムも条件によっては使用可能。ドラムだけでなく、大音量のティンパニーや和太鼓、トランペットなどの金管楽器といった大音量の楽器を演奏する一般ユーザーや、高い防音性能を求めるプロユーザーへの提案も可能だという。

遮音数値としては、60dBの低減(500Hz)を実現。通常50dBが人の小さな話し声程度とされているため、スーパープレミアム防音で施工すれば、ドラム(115dB)やトランペット(110dB)などの音を、部屋の外では小さな話し声程度まで下げることができる。

このためスーパープレミアム防音では、さぞ強力で新しい建材が使われているのだと思っていたが、同社サウンドセンターの井上直人氏によると、実は「スタンダードも、プレミアムも、スーパープレミアムも、使用している素材そのものは大きく変わらない」のだという。

「それぞれの性能差は何かと言いますと、量であったり、組み合わせといった“素材の使い方”です。もちろん、特殊なグレードの高い建材を使えば防音の効果を高めることは可能です。ですが、料理で例えると……安い素材でも調理の技量や工夫によって高級食材にも負けない料理ができるように、『高性能=値段が高い』防音製品を使用(開発)しなくても、施工方法や工夫によって、従来からある防音建材でスーパープレミアム防音の性能を出せる仕組みを作りました」(井上)

それを踏まえた上で、既存の防音とスーパープレミアム防音の差は「重さと広さがポイント」だと井上氏は話す。

「1枚の板で音を止めるには、その板が重ければ重いほど効果を発揮します。でも、重すぎると大工さんが施工できなくなります。従って、施工可能な範囲の重さの板を2枚張ることになるのですが、その際に空間を開けるほど遮音性能を上げることができます。何を伝えたいかというと、音を止める鍵は重さと広さ。つまり従来よりも重さと広さを贅沢に使って、最高性能の防音室をDAIKENが考えるとこうなる、という提案の1つがスーパープレミアム防音というわけです」(井上)

リリースの断面・平面図(上図)には、防音施工した部屋の中に、外と同じ素材の防音小部屋が作られている。まさに“防音室の中の防音室”となっており、この強靭な防音設計によって、トランペットやドラムの音漏れまでも強力に抑制してしまうわけだ。

ただ、「壁だけで60cmの厚みが出来てしまうため、条件によっては、もともと11畳の部屋にスーパープレミアム防音を作ろうとすると、実際に残るスペースはおよそ8畳以下となります。また壁と同じく天井にも60cmの厚みが必要になりますから、少なくとも3~3.5mの天井高を設計段階で用意する必要があります。重量も約8畳クラスで計算上7~8トンほどになるため、標準的な規格で作られる住宅やマンションなどには残念ながら導入できません」とのこと。

さらに「ニュースリリースの『8畳の大きさの場合、税抜き約530万円(目安)』は、建材のみの価格であるため、工事費が別途必要になります。最終的には700~800万円くらいにはなってしまうことが予想されるので、予算をかけてでも防音性能を追求したいと考える、ごく一部のお客様向けの提案になります」と話す。

比較的安価に後付け可能「サイレンサー」「クリアトーン」

このように、スーパープレミアム防音は高級住宅向け、プレミアム/スタンダード防音は一般住宅向けという位置付けのようだが、やはりそれでも「予算が…」と考える方がほとんどのはず。実は筆者も一度は防音室を検討したものの、予算オーバーで泣く泣く断念。最後の悪あがきと、最安の遮音シートを導入するだけで力尽きてしまった。今住んでいる住宅やマンションに後付けできるような、もっとお手軽な防音アイテムはないのだろうか。

そこでDAIKENが“お手軽音改善”アイテムとして提案しているのが、「自然給気用サイレンサー」や「クリアトーン」などだ。

「住宅で、音が入ってくる場所としてよく挙げられるのがサッシ(窓)なのですが、『サッシを交換してもあまり効果が無かった』といった相談もよく受けます。今の住宅は24時間換気が義務付けられているため、だいたいどこの住宅にも給気口が居室に設けられているのですが(第3種換気の場合)、実はここが、外からの音が室内に入ってきやすい場所なのです。この自然給気用サイレンサーは、給気口からの音を防ぐアイテムになっています」(井上)

下記の動画は、サイレンサーの効果を映したものだ。サイレンサー単体の価格は、数千円程度。もし自宅の給気口を取り外すことが可能で、サイズが合えば、最も手軽に室内の遮音効果を高めることができるアイテムの1つだという。

騒音の原因は吸気口!? サイレンサーで対策
自然給気用サイレンサー
比較展示を上から見たもの。内部のパイプガイドにサイレンサーを取り付ける(写真左側)

もうひとつが、天井に貼り付ける「クリアトーン」(ダイロートン健康快適天井材)。

近年の住宅は“高気密”がトレンドになっていて、“隙間”がない。その上、以前の日本家屋のようにふすまや畳がないため、室内に吸音するものがなく、音が室内で反響してしまいやすい。結果、「音が反響してウルサイ」「声が聞き取りにくい」などの困りごとが増えているのだという。吸音性能を持つクリアトーンを天井に貼り付けることで、気になる反響音を抑えることができる、というわけだ。

クリアトーンの中には、リフォームなどクロスの上からも施工できるものが含まれているため、既にある居室にも後でから導入できるという。

あなたの部屋も実は響いてる? 対策するとこんなに変わる

井上氏は「防音室に利用している建材は、住宅における“音のお困りごと”を解決するための部材として利用されているものを“集合”させたものです。防音室ではなくても、壁や床、天井、給気口など、対策できる箇所は多いですし、部屋のどこか1カ所を対策するだけでも、音の困りごとを解決できる場合があります。最近は、ライフスタイルの多様化やコロナ禍での在宅時間の増加で、テレワークやリモート授業、動画編集やeスポーツなど、室内での過ごし方は多種多様になっており、『静かな部屋が欲しい』『周りを気にせず集中したい』などの要望も増えていますから、音に関する要望や悩みがあれば、ぜひ我々を活用していただきたいですね」と話す。

DAIKENは、秋葉原のサウンドショールームのほか、全国各地にショールームを用意し、防音に関する相談会などを定期的に開催している。防音室を検討している場合や、防音についての悩みや疑問がある場合は、音のプロに相談してみるのもよいかもしれない。

阿部邦弘
野澤佳悟