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音が宙を舞う、米スタジオと同じ音を聴きながら作れる“Dolby Atmos制作スタジオ”見てきた

Dolby Atmos対応の新スタジオ

ユニバーサルミュージックは、Dolby Atmos規格の立体音響に対応した世界基準の音楽スタジオを、原宿の本社内に新設。3月より運用開始している。今回、プレス向けにスタジオの見学会が行なわれたので、その模様をお届けする。

新設されたスタジオは、米国 ロサンゼルスにある音楽スタジオ「Capitol Studio」と同じ再生環境を構築した、国内唯一のレコーディングスタジオ。設置している15本のスピーカーのメーカーや、音響調整もCapitol Studioに合わせることで、同じ周波数特性(音質)を実現しているという。

米国「Capitol Studio」

さらに、グループ会社 Audiomoversの「LISTENTO」という、収録した音声データをほぼリアルタイムで送り合えるツールを導入することで、原宿とロサンゼルスで、同じ音を聴き、ビデオ会議で話しながら楽曲の制作作業を同時に行なうことができる。Dolby Atmosの音源でも、遅延は約0.05から0.1秒程度しか起こらないとのことだ。

同社では、久石譲やAdo、藤井風など、所属アーティストの海外進出が相次いでいることから、日本に居ながら、米国トップクラスのエンジニアとともに音楽作りができる環境を整えることで、アーティストの創作意欲をさらに刺激しつつ、作品づくりをサポートするとしている。

スピーカー15本だけど9.1.4ch構成。音が宙を舞う

制作スタジオ内は、9.1.4chで構成されており、正面にスピーカー3本、左右に2本ずつ、リアに2本の計9本に、サブウーファーが2台、さらに天井にも前後に2本ずつのスピーカーが設置されている。サブウーファーは2台あるが、同じ音を出力しているため、構成としては9.1.4chが正しいのだそう。

一部ステレオ作業で使用するスピーカーも映っている
後ろ側の様子
隣には収録スペースがある
メインの作業台

正面の3本のスピーカーはCapitol Studioと全く同じ型を使用。それ以外のものも後継機などを使用しているという。また、スタジオの広さが異なるため、スピーカーの本数が異なるそうだが、精密に調整することで、同じ音質を実現した。

このスタジオで実際にDolby Atmos対応の楽曲を体験。わかりやすい楽曲として、Tiësto & Sevenn「BOOM」が再生されると、スピーカーで囲まれたドーム状の空間に、音がまるで宙を舞っているような感覚に陥る。ステレオ音源と比較してみると、ステレオの時点で定位がビシッと定まっていて十分空間的に聴こえるのだが、Dolby Atmosに切り替わると、音が後ろ方向からも回り込んで来るため、全く別の体験に変わる。

とくにこの曲はEDM調でかつ、アーティストの遊び心で音が発生する場所「オブジェクト」の位置を縦横無尽に動かして、聴いているだけで楽しくなってくる。

写真右下のボックスの部分に出てる緑の玉がオブジェクト。Tiësto & Sevenn「BOOM」では縦横無尽に動き回る

従来の5.1chなどのサラウンドと、Dolby Atmosなどの立体音響の大きな違いがこのオブジェクトの存在。従来のサラウンドは、設置されたスピーカーを基準に音を指定するため、聴き手の環境次第で聴こえ方が大きく変わってしまう。

一方で、立体音響の場合、Dolby Atmosでは、スピーカーの位置と関係なく、空間のどこにこのオブジェクトを設置するかという調整をしていく。そのため、Dolby Atmos対応のヘッドフォンやサウンドバー、AVアンプなどを使用すれば、対応機器自体が今ある状況でそのオブジェクトを再現しようとするため、従来のサラウンドと比較しても、大きな差が出にくくなる。

先日リリースされたSEKAI NO OWARI「ロマンティック」では、ステレオとDolby Atmosともにボーカルの位置は前方で固定されているのだが、楽器の位置がガラッと変わり、Dolby Atmosでは周囲を囲まれているような感覚で聴ける。とくに上に広がる音の余韻が、空間を広く感じさせているようだ。

楽曲に寄ってオブジェクトの位置が全然違う

旧譜のDolby Atmosリミックスの例として、宇多田ヒカル「Automatic」を聴いてみると、ステレオでは前方から後ろの方に音の余韻が抜けていく感覚なのだが、その音の余韻が抜けていく方向に少し角度がつけて、様々な方向に向かっていくような聴こえ方で、やはり、四角い部屋ではなくドーム状の場所にいるような感覚になる。

ジャズ楽曲として、映画「BLUE GIANT」のサウンドトラックより、「Impressions」が再生されると、こちらはオブジェクトの位置がしっかりと固定されており、先程までの音作りを楽しめるロックやポップスの楽曲よりも定位が明確で、音が鳴っている半球場の空間がより広く感じられる。

「Impressions」はオブジェクトの位置がずっとこのまま固定されていた

ここに映像が合わさるとより、さらに空間の広がりが感じられる。昨年、ジョン・ウィリアムズが来日し、サントリーホールで行なったコンサートのBD「John Williams in Tokyo」より、「レイダース・マーチ」が再生されると、立方体のような空間のスタジオで聴いていることを忘れてしまい、ホールで聴いているような感覚になる。

米国で演奏、日本で歌唱を同時収録。そのまま共同制作も可能に

このスタジオでは、3月の運用開始からすでに10曲以上のDolby Atmos作品が制作されており、Captol Recordsに所属するTravis Japanの楽曲「T.G.I Friday Night」の制作もこのスタジオで行なわれ、3月18日にリリースされた。音楽配信がメインとなり始め、制作からリリースまでの期間もかなり早いのだそう。

将来的には、米国でオケ(ボーカル以外の楽器)を演奏しながら、それに合わせてこのスタジオでボーカリストが歌って収録し、その収録音源を両国で同時に聴きながら編集するといったことも実現可能で、音楽の創作の幅が飛躍的に広がるという。また、同じようにCapitol Studioの音質を再現したスタジオであれば、米国に限らず、世界中どこでも共同で作業できるとのことだ。

プロセスイノベーション本部 副本部長の那須研吾氏は、このスタジオについて「ここから世界とつながり、新しい作品を生み出して発信できる、アーティストにとっての秘密基地のような存在になると思う」と話す。

ユニバーサルミュージックでは、この新スタジオを通して、世界中に拠点があるグループの強さを最大限に活かし、日本から世界トップクラスのアーティストを育てていきたいとのことだ。

野澤佳悟