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なぜAVIOTのコラボイヤフォンは“ガチ”なのか?作品愛とモノづくり哲学
2025年3月21日 07:00
普段イヤフォンにこだわりがない人が、それなりの価格のモデルを購入するきっかけは何だろうか?
もちろん色々な理由があるだろうが、その1つに「コラボモデル」の存在が挙げられるだろう。好きな作品とコラボしたから、ファンアイテムとして購入する。それはオタク心理としてとても理解できる。
特にオーディオ界隈で大きなムーブメントを起こしたのは、Astell&Kernの『ラブライブ』コラボモデルだったように思う。それまでもコラボ自体はあったが、このヒットをきっかけに、様々なメーカーが参入してきた。
では、そんなオーディオの裾野を広げる役割も担っている「コラボイヤフォンの世界」において、いま第一線を走るブランドはどこだろうと考えると、AVIOTが思い当たる。
彼らは何を考え、どんなこだわりでコラボモデルを生み出しているのか。AVIOTブランドを展開するプレシードジャパンを訪れ、担当の井上脩人取締役副社長にコラボモデルへの取り組みについて話を伺った。
コラボの始まりと転機
AVIOTのコラボはアーティストからアニメ、特撮、vTuberまで幅広い。また、コラボモデルが「ただロゴをつけただけ」ではなく、サウンドチューニングにもこだわっている点が特徴だ。
もともとAVIOTは「JAPAN TUNED」をコンセプトに完全ワイヤレスイヤフォン市場にいち早く参入、高いコストパフォーマンスで支持を獲得したブランドであり、コラボ一辺倒ではない。そんなAVIOTがこれだけコラボに力を入れるのにはどういった理由があるのだろうか。
AVIOT初のコラボモデルは、2019年に発売されたキズナアイとのコラボイヤフォンだった。それを皮切りに、ゲスの極み乙女。やピエール中野(凛として時雨)、錦戸亮&赤西仁の「N/A」、石野卓球、ヤバイTシャツ屋さんなど、多くのアーティストとのコラボモデルをリリースしていった。
なかでも大きな転機となったのは、ピエール中野コラボだったという。
井上副社長(以下敬称略):弊社では当時アーティストの方とのコラボが多くありました。その開発の過程で、チューニングのカスタマイズやアーティストの声をガイドボイスに採用するなど、現在のコラボモデルのベースとなる試みを行なってきました。その後もアーティストコラボは拡大していますが、なかでもピエール中野さんとの取り組みで完成した「TE-BD21f-pnk」においては、ボイスにアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の常守朱(CV:花澤香菜)を採用し、AVIOTとアーティストとアニメ作品の三者コラボが実現しました。これがひとつの出発点だったと思います。
ここからAVIOTは、アニメを中心としたコンテンツとのコラボにも注力するようになった。その目的について井上氏は次のように説明する。
井上:我々もオーディオの裾野を広げることが大事だと考えています。現実としてオーディオファンの高齢化が進んでおり、趣味としての敷居も高い部分があります。その一方で、ライフスタイルガジェットとして見ると、例えばAirPodsが登場したことで市場が一気に広がったように、より多くの人にオーディオの魅力を伝える余地があります。そのため、コンテンツの力を借りて新しいユーザー層にアプローチできるコラボモデルには、大きな意義があると思っています。
実際に、コラボモデルによって購入層に変化が表れた。AVIOTはもともと比較的若年層や女性層にも認知されていたブランドだが、主力製品の価格帯が1~2万円ということもあり、購入層の中心は男性やガジェット好きな30代~40代以上だった。
しかし、アニメとのコラボモデルでは、これまで1万円以上のイヤフォンを購入したことがなかったような層からも関心が寄せられるようになったという。そしてSNSには、「初めて高いイヤフォンを買ったけど、こんなに音が良いんだ」「聴こえなかった音が聴こえる」「ボイス目的で買ったけど、音がすごく良い」といった感想があげられたそうだ。
井上:音の違いを知るには、実際に体験することが大事ですからね。コラボを通じて音を聴いてもらうことができ、裾野を広げることにつながった。オーディオメーカーとして嬉しい瞬間です。
メーカーらしからぬコラボへの愛
ここまでビジネス的な側面に触れてきたが、それだけではない。ファンの声のなかには「デザインが素晴らしい」「本当に好きな人が作っている」「作品の解像度が高い」といったものも見られる。AVIOTのコラボが人気なのは、コラボに“愛“があるからだ。
例えば、『仮面ライダーW』とのコラボモデルは製品に作品ロゴを使用せず、『作中に登場するアパレルブランド「WIND SCALE」とコラボしたイヤフォン』をイメージして仕上げられている。サウンドチューニングは松岡充(大道克己役)が担当、さらにボイスは株式会社バンダイの全面協力によってガイアメモリに内包される地球の声“ガイアウィスパー”や、ダブルドライバー、アクセルドライバー、ロストドライバーの音声が使用された。
ほかにも、『仮面ライダー555』コラボでは作中に登場する企業「SMART BRAIN」のロゴが配されているし、『葬送のフリーレン』モデルは外箱を魔導書風にデザインし、かつファンとしては絶対にほしいヒンメルとフリーレンの掛け合いボイスを収録した。このように、作中の世界観が感じられるコラボを実現している。
AVIOTはコラボに対して、「コラボするなら徹底的にやる」というスタンスで臨んでいる。
井上:社内にもアニメや音楽が好きなスタッフが多くいますし、ファン目線を大切にしたいと思っています。ファンの方に納得してもらえるクオリティを追求するのは、とても重要だと考えています。
井上氏は、ひとつ面白いエピソードを教えてくれた。
『グリッドマン ユニバース』とのコラボでは、作中でキャラクターが喋ったセリフを担当者がすべてメモして、徹底的に分析。特典ドラマCDなども細かくチェックして、キャラクターの口癖や言い回しを研究したという。
セリフの集計データを見せてもらったが、その膨大な量に狂気すら感じた。ただ商業的なことを考えただけのコラボではなく、コラボ作品に対して敬意を払い真剣に向き合うからこそのクオリティであり、だからこそAVIOTとコラボする作品が絶えないのだろう。
コラボ成功の裏にある努力
もちろん、ここに至るまでには苦労もあった。
井上:最初は本当に大変でしたね。今まで市場になかったような製品を作ろうとしていたので、関係各所への説明にとても時間がかかりました。例えば、イヤフォンに特定のキャラクターのボイスを搭載するというアイディアを伝える際、具体的にどのような仕組みなのか、どの程度のボイスを収録するのかといった点で、版元さんに理解していただくのに時間がかかることもありました。
たしかに、今となってはイヤフォンの機能追加も一段落した感があるが、コラボ企画がスタートした頃からの数年間は次から次へと機能が増えてきたし、それがどういったものかを説明するのは難しそうだ。また、ファンにとってはボイスが沢山入っているのは嬉しいが、膨大なボイスを収録するのもかなりの労力がかかりそうだ。
井上:ボイス収録のディレクションはもちろん作品側にお願いしていますが、イヤホンの使用シーンに合ったニュアンスかご確認を頂くこともあります。そういった場面でもキャラクターへの理解に基づいた回答が出来るよう、可能な限り作品理解度を高めるように努めております。
キャラクターらしさを追求しつつより良い形を模索していく過程では、間違いなくAVIOTにも高い作品理解度が必要となる。これも“愛”がなければ、到底できないだろう。
サウンドのチューニングに関しては、AVIOTとしては「こんなことをお願いしても大丈夫だろうか」と不安な気持ちがあったそうだが、実のところ「こういったことをやってみたかった」と乗り気で受けてくれることが多いという。普通ならエンドユーザーがどういった環境で音を聴くのかわからないところ、自分の意図した音で聴いてもらえるという機会を、アーティストや作曲家としては待っていたのかもしれない。
とはいえ、完全にゼロから依頼するのではない。まずAVIOTがコラボ作品の音楽やアーティストの声の傾向を分析し、いくつかのチューニングのパターンを作成。そのうえで、「この作品ならこういった方向性が合うのではないか」という提案を行なって調整を進めていくそうだ。ここでも、作品に対する理解は欠かせない。
こうした作業を振り返り、井上氏は「幸いなことに、現在では過去のコラボ事例を示しながら説明することで、比較的スムーズに進めることができるようになっています。『他の作品でも同じようなことをやりたい』と言っていただけることも増えました」と語る。華やかなコラボの裏には、一歩ずつ地道に進んできた努力がある。
これからのコラボの展開
現在、AVIOTのコラボにおけるベースモデルは「TE-V1R」と「TE-Q3」の2つが軸となっている。特にTE-V1Rについては、コラボを見据えて開発が進められたそうだ。
これは「コラボモデルが欲しいけれど、もっと良い性能のイヤフォンをすでに持っている」という人が、コラボのためにオーディオのグレードを落としたイヤフォンを購入しないで済むようにと、完全ワイヤレスイヤフォンとして多機能&高音質の両立を目指したということだ。
「飾ってもらうだけじゃない、使えるイヤフォンを提供したい」という井上氏の言葉からは、コラボモデルにオーディオの裾野を広げてくれる役割を期待する以上、たとえコストが掛かってもその品質に妥協はできないという想いを見て取ることができた。
さて、「Audio-Visual・Internet Of Things」の頭文字から名付けられたように、AVIOTの始まりはオーディオビジュアルブランドだった。しかし、現在はその枠にとらわれず、テクノロジーの力で革新をもたらし、日本生まれのメーカーとして「日本ならではの良さ」をユーザーに届けることをコンセプトとして、「A Visionary Innovation On Technology」の意味をブランド名に込めている。
その一環として製品化された電動キックボード「Ridepiece」は、メカニックデザイナーに河森正治氏を迎えたある意味でのコラボモデルと言えよう。
日本の道を走ることに最適化した日本製の電動キックボードの開発にあたり、ひと目で日本発とわかってもらえるデザインにしたいと考えて、河森氏に依頼したという。実際、現実の乗り物に落とし込まれた河森氏のデザインは、そこかしこに“ロボ”の匂いが漂っている。井上氏も「このデザインは日本にしかできないのではないでしょうか」と自信をのぞかせる。
これからAVIOTとしては「ライフスタイルを変えるもの」「ポータビリティのあるもの」を展開していくという。今後は幅広いジャンルで、コラボが期待できそうだ。
そして最後に、「コラボによって出せた利益をコンテンツに還元したい」という言葉も聞くことができた。
井上:例えば『カウボーイビバップ』とのコラボでは、カウボーイビバップ25周年記念展ならびに、全長約3m/全幅2.6mの「ソードフィッシュⅡ」の製作に協賛しました。声優アワードにも協賛し、若手声優やアーティストを応援する「AVIOTラジオ」の配信もしています。声優さんのラジオや、作品のライブ・コンサート、イベントなどにも協賛しています。グッズを作って売るだけでなく、コンテンツや演者さんに還元したい。そんな志に共感いただけるユーザーさんにはぜひ応援してもらいたいです。
一企業としてだけでなく、作品を愛する一ファンとして、コラボに取り組む。続々とコラボイヤフォンが実現する理由は、そこにあるようだ。