プレイバック2014

4K対応テレビのカジュアル化 by 本田雅一

VIERA TH-65AX900

 オーディオ&ビジュアル……といっても、なかなかその範囲は広いが、やはり今年を振り返っての大きなトレンドとなると、「4K対応テレビのカジュアル化」がひとつのテーマだったように思う。

 もちろん、ハイレゾオーディオのトレンドは爆発にまでは至らないものの根強く、4K対応テレビは盛り上がる割にシェアが伸びていない……といった指摘はあるだろう。しかし、ほとんどの中大型テレビがフルHD化し、地デジ対応に伴う買い換え需要が終わった後、なかなか盛り上がる要素がなかったテレビ受像器というジャンルが久々に活性化。“買うべき製品”が出てきたと思う。

 すでにこのテーマでコラム記事を1本書いてしまっているのだが、もっと僕個人の話に落とし込んで話をしてみよう。

AQUOS LC-70UD20
BRAVIA「KD-65X9500B」
REGZA 65Z10X

 テレビという商品に限ったものではないが、たくさんの人が商品を購入していると、その商品カテゴリには多様な製品が集まる。機能性や特徴といった横の広がりもあるが、コストをかけて品位を高めた製品から割り切って低価格化を目指したモデルまで、上下にも製品が展開していく。

 本誌読者は“より高い品位の映像装置が欲しい”という方が多いと思うが、高品位な映像を見せる機器を、手の届く価格帯で購入できるのは、テレビという商品カテゴリが大きなモメンタムを生み、良い意味での競争環境が存在するからだ。

 ところが、このモメンタムが小さくなってくると、最大公約数的は“ほどよい製品”に製品が収斂していく。全体の市場が小さくなっているため、象徴的な高品位製品を置く余裕がなくなってしまう。こうした状況では、消費者側も製品の品位よりも価格に目が行きがちなので、程なくして“上位モデル”と言われるような製品が成立しなくなり、市場から消えていく。

 フルHDテレビの際を振り返ると、画面を細かく細分化したローカルディミング搭載製品が液晶上位モデルで当たり前のように使われていたが、市場が落ち着いてしまうと店頭からは消えてしまった。

 「いやいや、少々高くても買いたい……」と言ったところで、経済合理性に合わなくなった商品は、なかなか作ってもらえない。オーディオ機器の場合、大手メーカーが撤退したとしても、音質勝負のガレージメーカーが生き残る余地があったが、より規模の大きな開発や各国ごとの最適化が必要なテレビとなると、”品位の高いテレビ”を小さなメーカーが目指すのはあまりにハードルが高い。

 と、この話の行く先がどこにあるかというと、一度はハイエンドモデルと呼べる製品がなくなっていたテレビ受像器というカテゴリが、“4K”の旗印のもとに、「品位の違い」で製品を選べるようになった、現在のこの状況こそが、今年を振り返ってもっとも印象に残ったことだった。

 そんな中で、“我が家”というプライベートな空間に招き入れた4K対応テレビが1台ある。東芝REGZA 40J9Xである。リビングルームではなく、筆者の書斎に招き入れたこの製品を選んだ理由は“もっともサイズの小さい4K対応テレビ”だったからだが、それだけではない。

REGZA 40J9X

 パソコンと接続しての使いやすさやゲームモードの応答性の高さ、情報量が多く見やすい番組表など、上位モデルから引き継いだ長所を持っている上、小さくとも直下型LED採用でコントラストの高いVA型液晶パネルを採用。“お一人様専用4K対応テレビ”として、サイズを超えた良さがある。

 テレビ業界では、サイズの小さな製品は単価が安く、機能や品位を高めた製品を作りにくい。今のうちにしか入手できないかも? という思いも働いたが、東芝からはその後も43J10Xという製品が登場している(ただし3インチ大きくなり、VAからIPSにパネルが変更)。

 そのようなわけで、テレビ受像器という商品分野で、“高品位”を標榜する製品が存在感、経済合理性を主張できるようになった今年、是非とも来年以降も、テレビメーカーには「より良いテレビ」を模索できる環境が続くことを願ってやまない。

 2015年には世界初の商業ベースの4K放送が開始され、4K対応ブルーレイの登場、ハイダイナミックレンジ(HDR)規格対応ソフトの投入なども見込まれているが、いくら規格が強化されても、それを映し出すディスプレイの品質が下がっては意味が無い。より高品位なディスプレイを目指した競争環境は、まだまだ続いてくれるはずだ。

本田 雅一