プレイバック2019

4K放送に始まり、「ガルパン」で極上の低音の追求。そして、大画面へ…… by 鳥居一豊

素晴らしき哉! BS/110度CS 4K放送

今年は昨年12月にスタートしたBS/110度CS 4K放送で始まった。4Kの高精細なコンテンツが大幅に増えるのは、オーディオ&ビジュアルファンには大歓迎の出来事だ。まずは、アンテナなどはこれまでの2K放送受信用の設備のまま、BDレコーダではなく、単体チューナーを導入して最小限のコストで4K放送の視聴を開始した。

結果から言えば、単体チューナーのシングル録画でも思ったほどの不便はなかった。というのも編成のほぼすべて4K制作の番組となるのはNHKのBS4K(およびBS8K)だけで、BS民放のチャンネルは、報道番組が4K制作となるものの、ほとんどの番組は2K放送との同時放送で、2Kコンテンツをアップコンバート & HDR化したものだったから。もちろん、ドラマや映画、スポーツ中継などが4K制作で放送されることもあったが、その割合は1年経った今になっても増えたという印象はない。このあたりは、民放局の事情を考えればなかなか悩ましい問題だとは思うのだが、せっかくの4K放送の電波を無駄使いしているように思ってしまう。

始まった途端に冷めるかと思われた4K放送熱だが、そんなことはなかった。3月には、スカパー! のスカチャン2 4KでF1グランプリ2019が完全生中継でオンエアされたのである。スカチャン2 4KはCS 4K放送で、110度CS左旋の電波帯域を使って放送される。簡単に言えば、NHK BS4KやBS民放と違って、BS/CS 4K8K放送に対応したアンテナが必要になるということだ。対応したアンテナについては、現在販売されているBSアンテナはほとんどが対応品だが、きちんと確認するならば、対応することを示すSHマークの入った機器を入手すればいい。すでにBS4K(右旋)をきちんと受信できているし、ブースターなども対応品に交換済みなので、あとはアンテナだけでいい。

大型量販店のネット通販でも60cm型のアンテナが売っていたので、何も考えずに購入した。デカイ! 一般的な一戸建ての住居向けの45cm型に比べてかなり大きい。昨年はBS4K放送視聴のために、自宅の屋根に登ってアンテナの再調整をしたときにかなり怖い思いをした。もう自分ではやらないと決めていたはずなのだが、ついつい先延ばしにしていて3月に突入した結果、業者に頼んでいたのでは間に合わないので、結局自分でやることにした。その状況で60cm型を購入。何も考えずに死地を目指しているようにしか思えない。

60cm型アンテナを室内で組み立て、それをベルトで身体に固定。調整や取り付けのための工具とともに屋根に登った。前回同様に怖かったが、安全第一の作業に徹し、なんとか無事に設置が完了した。電波状態はさすがに良好で、ブースターは必要がないほどの受信ができた。後日談としては、関東圏にも何度か襲来した大型台風のおかげで、このあと2回ほど、アンテナの再調整をすることになった。何度やっても慣れることはなく、危険な作業だ。さすがに懲りたので、今度アンテナの再調整をすることになるなら、設置場所をベランダなどの比較的安全な場所に変えようと思う。

60cm型の新しいアンテナに交換した状態。上にあるスカパー!用のCSアンテナが45cm型。かなり大きいのがわかると思う

ともあれ、これで安心してF1の中継を4Kで満喫できる。もちろん、スカチャン2 4Kは有料放送なので、スカパー!との契約が必要。こちらも万全だ。レッドブルと組んだホンダの活躍で湧いた2019を4K放送で楽しめたのは長年のファンとしてとてもうれしかった。しかし、問題もひとつ。F1のある週末は、練習走行や予選、本戦とほとんどの時間がF1の放送で占められてしまうので、さすがに1チューナーではさばききれなくなっていた。

しかし、長年BDレコーダで大量の番組を録画、視聴してきた筆者は、今さらシングルチューナー機を買う気にならなかった。しかし、4K放送を見始めると、HDDに保存するだけでなく、長期間保存でき、BDプレーヤーなどでも再生できるBD保存をしたくなる番組が多いことにも気付いていた。「ウルトラQ」は35mmフィルムからの4Kスキャンで驚くほどの鮮明さだし、往年の日本映画の数々も同様に4Kスキャンで制作されている。NHK BS4Kもリピート放送率は高いが、すでに再放送されなくなった番組や映画も少なくない。特に「刑事コロンボ」などの海外ドラマはおいそれと再放送はできないだろう。こうした番組はBD保存しておきたい。単体チューナーのHDD録画では機器を買い換えてしまうと、それまでの録画データを再生できなくなるからだ。つまりBDレコーダの導入を急ぐ必要があったのだ。

そんな筆者のようなユーザーがきっと多かったのだろう。パナソニックが突如として、4Kチューナー内蔵BDレコーダの新製品「DMR-4CW400」などを夏に発売。待望の4Kダブル録画と4K長時間録画を実現したモデルだ。文句なしで即購入した。以来、録画用BDの購入枚数が一気に増加し、録画・視聴・ダビングで購入半年なのにかなり酷使している。

夏に購入したDMR-4CW400。今や使用率No.1の機器となっている

4K放送、「ガルパン最終章 第2話」、「ゴジラKOM」でオーディオを追い込む

意外と知られていないが、BS/CS 4K放送は音も良い。当初は地デジなどと同じAACコーデックということでがっかりしたものだが、音声圧縮方式はMPEG-2 AACではなくMPEG-4 AACで、音声フォーマットも48kHz/16bitから48kHz/24bitとなっている。このため、現行のAVアンプではほとんどのモデルがMPEG-4 AACに対応しておらず、PCM変換で音声を出力することになるのだが、音質は明らかに良い。大河ドラマの「いだてん」は、映像的にも素晴らしいが、5.1chのサラウンド音声も質の高い出来で、世間の評判が疑問に感じられるほど熱中し、最終話まで存分に楽しませてもらった。

また、パナソニックのDMR-4CW400は、22.2chサラウンドの信号もデコードし、5.1ch音声にダウンコンバートして変換できる(ソニーやシャープは22.2ch音声は選択できない)。これが非常にすばらしい。花火大会の中継など、案外22.2ch収録の番組も多く、放送とは思えない臨場感豊かな音を味わえた。

時期は少々前後するが、2019年は待ちに待った「ガールズ・アンド・パンツァー最終章 第2話」が6月に公開された。今回は最初からDolby Atmos制作で、5.1ch版の公開の後、すぐにAtmos版も公開された。この音がこれまた素晴らしかった。首都圏各地の映画館に足を運び、それぞれの音の違いをじっくりと聴きこみ、自分の視聴室のセッティングに役立てた。

ステレオサウンド社から発行されたガルパン特集ムック。筆者も記事を書いているが、素晴らしい表紙イラストに感激し、額装して視聴室のドアに飾っている
視聴室内にあるBDボックスなどの特典を飾るスペース。こちらにはムックの付録であるクリーニングクロスを額装している

昨年導入したヤマハのAVアンプ「CX-A5200」と「MX-A5200」の設定や調整も一気に進み、秋になるころには、かなり良い感じの音響に仕上がってきた。そこに「ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ」(以下「ゴジラKOM」)がやってきた。当然、Atmos上映館で見た本編は圧巻の迫力で、本来ならば国内版の発売を待つ筆者だが、待ちきれずに国内よりも先行して発売されていた輸入盤を購入してしまった。

これに合わせて、AVアンプとサブウーファーの配線もバランス接続にグレードアップし、スパイク受けを変更するなど、セッティングも微調整し、力強く芯の通った低音再生を磨きあげた。オーディオの世界は底なし沼なので、現状が最高というわけではない。だが、ついつい自慢してしまいたくなるほどの出来だ。そう、着々と準備は整ってきたのだ。

JVCのプロジェクター「DLA-V9R」が、来た!

4K放送や音のことばかりではなく、映像の方面では、大画面に注目していた。薄型テレビの大画面化の傾向もあるが、液晶テレビの70型や80型といった特大画面が今までに比べれば身近な価格で登場してきたことも、今年の大きなニュースだ。

それと同時に、プロジェクターも近年はDLP方式を採用し、4K HDR対応で10万円台の製品が登場するなど、比較的安価なコストで特大画面を実現できる環境が整ってきている。大画面は映画だけでなく、ゲームなども大迫力で楽しめる。4K HDRの高輝度や明るい画面は薄型テレビが有利だが、プロジェクター本体自体は比較的コンパクトで、しかも使わないときは、画面が消えるので大画面でも室内を圧迫しないメリットもある。

それに加えて、ここのところ注目を集めている超短焦点プロジェクターも家庭用としては魅力が大きい。壁のすぐそばに置けるので常設しても邪魔になりにくい。注目はやはりエプソンの「EH-LS500(W/B)」だろう。実売30万円台の手頃な価格で、設置性やデザイン、機能性まで充実している。同梱するAndorid TV端末を内蔵でき、多彩な動画配信サービスやブラウザ機能、スマホ連携なども行なえるのもうれしい。こうした単体でも映画やさまざまな動画コンテンツを楽しめるモデルも増えてきている。

最近はテレビ放送はスマホなどで視聴するので、薄型テレビを必要としないスタイルも増えてきているが、そんな人にも最新のプロジェクターはマッチすると思う。ふだんは邪魔にならず、週末などには100型級の特大画面で映画やゲームを楽しめるというのは魅力があるはず。

実際のところ、薄型テレビの特大画面を入手するか、それともプロジェクターを更新するかは少々迷った。しかし、自前の120型スクリーンがすでにあるし、有機ELテレビをメインに使っている現在でも映画は部屋を暗くして観るというスタイルが定着しているので、プロジェクターでも使い勝手の差を感じることは少ない。なによりも、120型で4K HDRの映像を満喫したいという欲が選択を決めた。

設置を済ませたDLA-V9R。大玉のレンズが迫力たっぷり。ちなみにラックの下段には、UHD BDボックスの特典であるゴジラのフィギュアを飾っている

JVCのDLA-V9Rである。最上位モデルと同じ大口径の投射レンズを採用、ネイティブ4K解像度のD-ILAパネルは第2世代に進化してさらにコントラストを向上したモデル。そして最大の特徴は独自のMPCコントロール(画素ずらし技術)により、8K相当の表示を可能にしている。この8K相当の表示が素晴らしかった。DLA-V9Rは8K信号の入力には対応しないので、8K相当の表示ができるといっても、それは4Kコンテンツのアップコンバート表示しかできない。だが、UHD BDなどの8K相当のアップコンバート表示が素晴らしかった。映像の密度が高まり、より自然な感触になる。自分の好きなアクション映画は今やCG満載だが、そうした作品に感じるごくわずかなデジタル臭さや精密でリアルだが人工的な感触がなくなり、実に生々しいものになるのだ。

しかも、現在はアップデートにより「Frame Adapt HDR」が新機能として追加された。これは独自の映像解析でフレームごとに映像を解析し、HDRコンテンツの表示では欠かせないトーンマッピングの最適化を動的に行なう機能だ。

以前のプロジェクター(ソニー VPL-VW500ES)は天井吊りで設置していたが、今回はラックに設置した。これは、一人で設置作業を行なう都合もあったが、設置位置を低くしてレンズシフトによる補正量をできるだけ減らしたかったことが一番の理由。大口径のレンズの高い性能をできるだけ活かしたかったのだ。

まだまだ使い始めて数日しか経っていないので、じっくりと使いこなすことはできていないが、初期設定のままでも、絶対的な黒の再現性を除けば、暗部の階調や高輝度の光の描写も見慣れた有機ELテレビにかなり迫る映像になっている。そんな映像が8K相当にアップコンバートされ、120型で迫ってくる。これは凄い。

4K放送の臨場感がさらに増す。凄まじいスピードでサーキットを駆け抜けていくF1マシンの凄さが改めて実感できる。自分では行くこともできない過酷な自然の景色を自分の目で見ているかのように体感できる。来年2月26日発売の「ガルパン最終章 第2話」の発売が待ち遠しい。そして、ゴジラが、デカイ!! ようやく到着した国内版のUHD BDボックスで見た「ゴジラKOM」が、見違えるような迫力と重厚さで迫ってくる。ギドラもいいし、ラドンやモスラもいい。しかしゴジラが一番怖くてカッコイイ。

4K放送の導入、オーディオ関連のセッティングの見直し、そしてプロジェクターの更新。すべてが揃った今は、「この瞬間を待っていた」と思わず声が出てしまったほど。欲望に再現などなく、次のステップの構想も予定もあるのだが、この年末年始くらいは「自分史上最高のレベルに到達した」我が劇場で、大好きな映画や音楽に浸っていたい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。