プレイバック2019

BVM-X300が生産終了と聞いて、自宅にマスモニを導入した by 編集部:阿部

'19年最大のショック。4Kマスモニから有機ELモデルが消える……

事の始まりは今年6月。液晶2枚重ねの4Kマスターモニター「SONY BVM-HX310」を記事化すべく、セッティングしてもらった厚木の取材現場で聞いた広報さんの一言だった。

新しい4K液晶マスターモニター「BVM-HX310」

広報「4K有機ELマスターモニターのBVM-X300は生産を終了しており、HX310がそれに代わる新しいマスターモニターとなります」。

生産……終了……だって??

もう時効だろうから正直に白状すると、この一言を聞いてから、私は全くHX310の取材に集中できず、その後何を話していたのかほとんど記憶に無い。

サイズや輝度性能に制約があったとしても、またHX310がどれだけ高機能だったとしても、有機EL方式の後継機を出さずにX300が生産終了になるとは思っていなかった。正直、X300が登場して以降、仕事で様々なディスプレイを目にしたけれど、X300以上に魅惑的な映像を表示する製品には出会えず、私にとって……そしてたぶん映像業界的にも神機的存在だったと思う。

4K有機ELマスターモニター「BVM-X300」

だから、いつか自分も彼女(428万円)と一緒に生活する日を夢見て、朝・昼飯代を節約してBVM貯金しながら、年末ジャンボ宝くじ「有楽町売り場で連番10枚買い」という、いつ終わるともしれない修行を重ねてきた。

しかし「4K有機ELパネルの生産停止」と致命的な理由を突き付けられては、アラブの富豪でもない限り、どうすることもできない……。

取材現場に同席していた営業さんは「ご連絡いただければ、在庫確保できるよう交渉いたします!」と笑顔で慰めてはくれたが、そこで「はい! お願いします!!」と即答できる財力などあるはずがない。第一、そんな大金がポッケにあるなら、とうの昔に買っているだろがいっ!!!

そんなわけで、厚木から埼玉への帰路は「HX310をどうやって記事化するか」よりも、「X300をどうやったら購入できるのか」で頭がいっぱいになった。

身の丈に合った生活をなさいというお天道さまからの教え

取材翌日。

HX310の執筆を後回しに「宝くじ BVM」「財テク BVM」「資産 倍増 BVM」「格安 BVM」「月賦 BVM」「実家 担保 BVM」「玉の輿 BVM」など、考えられうる限りのワードを組み合わせて粘着検索。

しかし、そんな美味しい話がグーグルに転がっているわけがなかった。その後、AV Watchの編集部員と身元がバレぬよう、マスクと、いつもとは違う眼鏡で変装して、幾つかのプロショップや銀行に相談してみたものの「お引き取りください」と、あえなく玉砕した。

やはり「平民は平民らしく、身の丈に合った生活をなさいというお天道さまからの教えなのだ」、「かなわぬ初恋のように、甘酸っぱい思い出として諦めた方がいいんだ」と理由を取って付けては、ふて寝して枕を濡らす日々が数カ月続いた。

そんな秋の終わり。思い出したように粘着検索したところ、たまたま「美品 BVM」というワードが目にとまった。ページを開くと、そこに掲載されていたのは、10年前に発売された2K液晶モデルで、BVM初のHDMI入力標準搭載マスモニ「BVM-L231」(生産終了)の中古品だった。

2009年7月15日発売の「BVM-L231」。当時の価格は198万円

一見したところ、外観に大きなダメージは無く、カウントされているオペレーション、バックライト使用時間もだいぶ少ないご様子。とはいえ、業務機器は過酷な環境・使い方をされていることが普通なので、いくら数字や見た目の状態が良さそうに見えても、修理受付終了の中古業務機を購入することにはかなり抵抗があった。万が一、友人から「BVMの中古ってどうかな?」と相談されようものなら、「病院に行くか、最新の4Kテレビを買いなさい」と即答します。

ただ、その時はBVM愛に飢えていたし、コントロールユニット(BKM-16R)付きで“ジェネリック4K対応テレビ5台分”という破格プライスということもあって、思考回路がショート。どうひっくり返っても手が届かぬと悟ったX300はとりあえずいったん身を引いて、2Kの、液晶の、修理の効かぬ、中古マスモニを自宅へ迎え入れることにした。

定価のほぼ9割引で購入した中古「BVM-L231」。よい子は買っちゃダメ。絶対
見て下さい。このワイルドな後ろ姿
23型なのに、奥行き24cm、重量21kg!!

業務用の、しかも中古を買うという不埒&逆賊行為をお許し下さい

私のL231の思い出と言えば、有機ELマスモニの初号機「BVM-E250」の対比……何というか“かませ犬”的ポジションで登場することが多く「暗部がウッキウキだなあ」というあまり良くない記憶しか無かった。

いざ自宅で視聴すると、やっぱり暗部はウキウキなのだけど(写真の通り笑)、ユニットでちょちょっと微調整すれば、そこいらのディスプレイが尻尾を巻いて逃げる画質です。

こちらがコントロールユニット。ディスプレイ上部は放熱穴があるので、本当はココに置いちゃダメ
調整すれば、こんなケバい画も

そりゃあBVMといえども液晶の画だし、暗部の締まりはどうにもなりませんが、i/p変換性能や動画解像度(黒挿入モードしないと酷いけど)、階調の滑らかさや発色の透明感も良い感じだし、そして何よりムラの無い、圧倒的なユニフォーミティ性能に感動!

良くも悪くも素材の粗が丸裸になってしまうので、ネット動画はノイズだらけで見れたものでは無いですが、一部のキレイなBDや4K素材を表示すれば「2K/SDRでも十分なんじゃない!?」なんて一瞬錯覚しちゃいます。

テストツールを表示させたり、メニューをいじったり。楽しくて、気が付くと外は朝に……

InterBEE会場で有機! 有機! とはしゃぐ私の隣で、企画の方が「液晶モデルだって、我々的には相当頑張ってたんですけどね」とボソッと発言されていた意味が、先日ようやく分かりました……。反省!

今年の大晦日は、CRT「GDM-FW900」、有機EL「PVM-2541A」、液晶「BVM-L231」を部屋に並べて、3方式の画の違いを楽しむ異種格闘変態イベントとキャリブレ調整をして、最高の年越しを過ごしたいと思います。

本当であれば4K、もしくは8Kテレビを購入し、業界の発展に寄与すべきなのでしょうが、あろうことか、業務用の、しかも中古機器を買うという不埒&逆賊行為をお許し下さい

阿部邦弘