トピック

パナソニックプレーヤとJVCプロジェクタがコラボ! 共同開発のHDR画質を観た

パナソニックとJVCケンウッドは5日、'19年1月開催のCES2019で発表された“プロジェクター向けHDR映像の最適化”に関する合同説明会を開催。最適化に関する両社の具体的な取り組みが披露されたほか、対応機器を使ったデモンストレーションが行なわれた。

JVC DLA-V9R

既報の通り、両社が共同で開発したプロジェクター向けHDR映像の最適化は、パナソニックの4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)プレーヤー「DP-UB9000」(店頭予想価格21万円)と、JVCの4K/HDRプロジェクター「DLA-V9R」(200万円)、「DLA-V7」(100万円)、「DLA-V5」(75万円)を組み合わせたときに、HDR10コンテンツに対して動作する連携処理。

PANASONIC DP-UB9000 Japan Limited

端的には、HDR10方式の4K/HDR映像に含まれる高輝度信号部分をUB9000、そして中・低輝度信号部分をJVCプロジェクターがそれぞれに分担して最適に処理することで、プロジェクターの性能をフルに活かした“理想的なHDR画質”を実現させるというものだ。

説明会での視聴レビューは後半でも記述するが、パナソニックとJVCのタッグが生み出す映像は強烈で、工場出荷時のデフォルト状態と連携処理後の画を観比べると、後者は“ベールを1枚剥がした別もの”になる。

パナソニックプレーヤーとJVCプロジェクターの連携処理

パナソニック×JVC、メーカーの垣根を越えた“画質連携”の舞台裏

今回のように、AV機器メーカーが垣根を越えて、しかも“画質”を共同開発する例は非常に珍しい。聞けば、パナソニックのUB9000開発チームがディスプレイタイプ別のトーンマップ(HDR映像が飽和しないように輝度レンジを圧縮する)処理を検討していた際、JVCのプロジェクター開発チームに声をかけたことが共同開発のきっかけになったという。

HDR映像が飽和しないよう、機器の性能内に輝度レンジを圧縮するトーンマップ

パナソニック・UB9000開発チームの甲野和彦氏は「UB9000のHDRトーンマップ機能は、ディスプレイ側が抱えるトーンマップ処理の課題を解決しようという狙いから搭載したもの。中でも絶対的な輝度が不足するプロジェクターは、トーンマップの処理負担も大きく、HDRの表現が特に難しかった。我々は民生用プロジェクターを開発してはいないが、“HDRにすると映像が暗くなる”とか“HDRに見えない”などといった市場の声は届いていた。そこで、世界に先駆けて大画面ホームシアターにおける理想的な4K/HDR画質を実現したいと考え、かねてから繋がりのあったJVCのプロジェクター開発チームに声をかけさせてもらった」と振り返る。

トーンマップ処理には様々な方法があるが、それぞれに課題がある

複数あるプロジェクターメーカーの中で、なぜJVCなのか? という点において同氏は「以前両社が提携関係にあったためか? と聞かれることもあるが、純粋に技術や思想に通ずるものがあったからだ。両社ともに、原画探求というDNAがベースにあったし、何よりJVCプロジェクターは早くからHDMI入力の18Gbpsサポートや4:4:4のアップサンプリング、各色12bit精度での処理回路を搭載するなどして、我々プレーヤーの信号処理と相性が良いと考えた。声掛けは'18年春頃だったと思うが、以降トントン拍子に話が進み、互いの開発がスタートした」と振り返る。

JVCとの連携は技術や思想に共通するところがあったためという
パナソニックの甲野和彦氏(写真左)とJVCケンウッドの中越亮佑氏(写真右)
パナソニック DP-UB9000におけるHDR信号の最適化

UB9000開発チームは、DLA-Z1の開発用モデルを使って「HDRトーンマップ」におけるプロジェクター向けモードの制作に着手。HDRディスプレイタイプ内に、プロジェクターに最適化した2つのモード「高輝度のプロジェクター」「ベーシックな輝度のプロジェクター」を設置し、前者はターゲット輝度500nit、後者は同350nitになるように調整を施した。

甲野氏は「UB9000の特徴は、タイトル毎にメタデータを参照し、中・低輝度はそのままに、高輝度領域だけをトーンマップする点にある。そのため、映像が暗くならず、フェイストーンへの影響がない。またRGBで32bit連携演算するため、トーンマップした高輝度部の色ズレや色抜けの心配もない」と利点を説明。

さらに「“高輝度領域だけをトーンマップする”というと、シンプルに聞こえるかもしれないが、UB9000ではPQ信号をリニアRGBに変換した上で、RGB各色で最大32bit演算を行ない、再度PQに戻している。我々以外でもリニアRGBに変換してトーンマップ処理することは可能だろうが、精度や演算性能が足りないと、綺麗に元に戻せず、低輝度部が破綻し“ガタガタ”になるはず。リニアRGB領域で高輝度部をトーンマップしながら、中・低輝度部を劣化させずにPQに戻す。ここが我々のHDRトーンマップの強み。トーンマップ機能そのものは、メーカーを問わず様々なディスプレイとの接続・利用を目的に設定したものだが、プロジェクター用の2つのモードに関しては、JVC DLA-V9R/V7/V5との組み合わせが、最も相性が良い」という。

UB9000のHDRトーンマップ工程
PQ→リニアRGB変換し、RGB各色で32bit演算を実行。振幅の大小を加味して処理することで、明るいシーンでも色の忠実再現が可能になった
プロジェクター向けの2つのモードは、JVCプロジェクターをリファレンスに調整
JVC D-ILAプロジェクターにおけるHDR信号の最適化

一方、JVCのプロジェクター開発チームは、UB9000から受け取った信号をいかに高精度に表示するかを検討。独自のオートトーンマッピング処理を開発すると共に、UB9000専用のカラープロファイルを用意した。

開発に携わったJVCの中越亮佑氏は「V9R/V7/V5シリーズから搭載したトーンマップ処理は、コンテンツに収録されているMaxCLL/FALLのメタデータ情報に応じて最適化するというもの。実際には、汎用性を持たせるために500~4,000nit部分をプロジェクターで表示できる高輝度領域にリマップしている。もちろん画質に影響が出ないよう最適な処理を目指してはいるが、カーブの曲率が大きく、高輝度部の色歪みなどを100%抑えることは難しかった。前段でUB9000、後段でJVCという2段階のトーンマップ処理をすることで、明部の色や階調の再現範囲拡大などに大きな改善効果が得られた」と、連携処理による画質的利点を話す。

パナソニック&JVCの連携処理①……互いのトーンマップを用いた連携。UB9000、そしてJVCプロジェクターの双方でオートトーンマップ機能をONにすることで、自動で最適な連携処理が行なわれる

ただし「暗部階調の再現にまだ不満を感じていた」と中越氏。

「我々のカラーマネジメント回路がガンマ2.2ベースであり、入力されたPQ信号をガンマ2.2へと非線形で変換する必要がある。しかしその処理工程の影響で、暗部階調を理想的な特性で表現できなかった。本来は線形でリマップできればベストなのだが、それと引き換えに演算処理が膨大になる。例えばメニューのガンマ切り替えだけで、出画するまでに数分~数十分を要するなど、それは現実的な方法とは言えなかった。そこで以前、業務用HDRリアプロジェクションシステムで導入した技術資産をベースに、UB9000専用のカラープロファイルを開発した。これは前述のトーンマップ連携からさらに深化させた、もう1つの連携処理となる。専用プロファイルを使うことで、PQのまま、かつ線形で各色18bit演算での高ビットリマップが実現でき、階調性能向上に加えてHDR映像における透明感や立体感・奥行き感の再現ができるようになった」と説明する。

パナソニック&JVCの連携処理②……プロジェクター側に専用プロファイルを適用させる、より踏み込んだ連携。JVCプロジェクターは、350/500nitの限られたレンジ幅に映像エンジンの処理を一極集中させる。PQ→ガンマ2.2への余計な変換もなく、シンプルな処理工程とすることで信号の鮮度・精度を向上させる

UB9000専用として、DLA-V9R/V7/V5に用意される追加プロファイルは「Pana_PQ_HL(ハイルミナンス)」と「Pana_PQ_BL(ベーシックルミナンス)」の2種類。前者はUB9000のHDRディスプレイタイプ「高輝度のプロジェクター」用、後者は「ベーシックな輝度のプロジェクター」用となっている。

JVCでは、ビデオコンテンツや高輝度情報を多く含む映画素材の再生には「Pana_PQ_HL」、それ以外の映画コンテンツ全般の再生には「Pana_PQ_BL」を推奨。ただしシネマフィルターを搭載する上位2モデルのV9RとV7に関しては「DCI-P3カバー率100%の色再現が可能な“Pana_PQ_BL”がオススメ」という。

前述のオートトーンマップ連携とは異なり、専用プロファイルを使った連携処理の場合、設定はすべて手動となる。そのためプロジェクター側とプレーヤー側の設定があべこべにならないように、注意が必要だ。

ちなみに今回のJVCプロジェクターでは、信号の送り主が「UB9000か否か」の判断にEDIDではなく、メタデータのMaxCLLを使う。MaxCLLの数値が350ちょうど、もしくは500ちょうどであれば、プレーヤー=UB9000と見なし、それに応じた最適処理を行なうのだという。

仮にMaxCLL 350ちょうどのコンテンツや、メタデータ書き換え機能を持つパナソニック製以外のUHD BDプレーヤーをJVCプロジェクターに接続した場合は「プロジェクターは相手をUB9000と判断し、前述した連携処理と同じ動作をとるだろう。ただクロマアップサンプリングを含め、他社のプレーヤーとUB9000は別物。UB9000と我々のプロジェクターとの連携で得られるクオリティには決して同じにならない」という。またMaxCLL 350以下のUHD BDコンテンツ(例:「ダンケルク」「シン・ゴジラ」)をプロファイル設定で再生する場合は、UB9000側・JVCプロジェクター側の双方でトーンマップは行なわれず、18bit階調処理のみが働くという。

「Pana_PQ_HL」は明るさ重視、「Pana_PQ_BL」は色域重視の設定となる

追加プロファイルは、3月中旬公開予定のファームウェアアップデートで提供を予定する。プロファイルのダウンロードや設定は、ユーザーが手動で行なう必要がある。

「アップデート時は、設定用の簡易マニュアルを用意する予定だ。スクリーンサイズが140~150インチを超える場合には、プレーヤー側のダイナミックレンジ調整やシステムガンマなどの微調整が効果的だが、100前後の一般的なスクリーンサイズであれば、プロファイル適用後が最もベストな状態。プレーヤーもプロジェクターも、映像調節項目を触る必要は無い」(JVC・中越氏)という。

ちなみに、同プロファイルの対象機種はDLA-V9R/V7/V5の3機種のみ。Z1や他の機種に適用することはできない。

またアップデートが必要になるのは、JVCプロジェクターのみ。UB9000は、連携のためのアップデートは必要ない。

連携による画質向上の恩恵は歴然。従来とは一線を画す“HDR表現の新境地”

合同説明会では、UHD BDプレーヤーの「DP-UB9000」と、JVCの4K/HDRプロジェクター「DLA-V9R」による連携画質を体験することができた。組み合わせたのは、Stumpfl・ゲイン1.0の120インチスクリーンで、視聴位置は約2m弱。

視聴に使用したStumpfl製の120インチスクリーン
DLA-V9Rを使用
V9Rの背面。USB端子部には、パナソニック製のUSBパワーコンディショナー「SH-UPX01」を装着した

最初にデモしたコンテンツは、UHD BD「ハドソン川の奇跡」。工場出荷時のデフォルト(UB9000:トーンマップOFF、V9R:トーンマップON)と、プロファイル「Pana_PQ_HL」を使った連携処理を観比べた。

「ハドソン川の奇跡」では、カラープロファイル「Pana_PQ_HL」を選択

主人公演じるトム・ハンクスが、夜のタイムズスクエアや橋をランニングするシーン(チャプター5)。デフォルト状態では、街頭のそこかしこに設置された広告ディスプレイが飽和し、情報がほとんど見えないが、連携処理に切り替えると、飽和していた部分の色や階調が見えてくる。

しかしそれ以上に差が大きいのは、画面全体における圧倒的な透明感だ。

不要なザラつきが消え、有り体に言えばベールが1枚剥がれた描写になる。繁華街の空気感や停泊する戦艦のディテール、トム・ハンクスの肌のテクスチャまで、何か別の映像処理でもかけたのでは? と錯覚するくらい映像全体の情報が浮き出てくる。

UHD BD「ハドソン川の奇跡」

次にUHD BDの「マリアンヌ」を再生し、デフォルトとプロファイル「Pana_PQ_BL」を使った連携処理を観比べる。BLの場合はターゲット輝度が350nitまでとなるため、プロジェクター側のランプパワーに余力が生まれ、シネマフィルターを使ったDCI-P3色域(カバー率100%)でありながらHDR映像が楽しめる“JVCオススメのプロファイル”。ただし、シネマフィルターを搭載しないV5に関しては、BL状態でも色域が広がるわけではないため「HLプロファイルが好適」という。

「マリアンヌ」では、カラープロファイル「Pana_PQ_BL」を選択
「マリアンヌ」にはMaxCLL/FALLのメタデータが収録されていない。UB9000のHDRトーンマップOFF時は「ー ー ー/ー ー ーnits」と表示される
UB9000で「HDRトーンマップ:ON」「HDRディスプレイタイプ:ベーシックな輝度のプロジェクター」を選択すると、UB9000がメタデータを350に書き換えて出力
UB9000でメタデータを書き換えた後の表示。先ほどは「ー ー ー/ー ー ーnits」だった部分が「350/0nits」に変わっている

主人公演じるブラッド・ピットが、カサブランカのクラブに入店するシーン(チャプター2)。主人公がタクシーから降りる街のショットも、デフォルトでは暗部の黒浮きが気になりやや平坦な画だが、連携処理ではまるでくすみが取れたかのように、クリアで立体的な画になる。最暗部は締まりながら階調の微妙な違いを描写。画面中央の看板や街灯、ボンネットの輝きにも鮮度が出てくる。

またロンドン郊外での空襲シーン(チャプター11)では、モヤモヤとまるでノイズに見えた外壁も、連携処理ではレンガを積み立てた凹凸だと判別できるし、不安げに空を見上げる人々の髪の色の違いや、起毛のジャケットや赤色のガウンといった、細部のディテールや色の違いまでがしっかり見えてくる。

さらに全体の抜けが良くなったことで、夜空と戦闘機に向かって放たれる機関銃の光線の対比が一段と際立つ。350nitという明るさながら、直視型ディスプレイでは得られない自然で落ち着いたHDR感と豊かな色を両立した、リッチな映像に仕上がっている。

HDR映像のリファレンスといえば、1,000nitまでをリニアに再生するソニーの「BVM-X300」が挙げられる。しかし、今回のコラボが生んだ画質は、それとは異なるアプローチでありながらも“HDR表現の新境地”を切り開いたといえるだろう。

UHD BD「マリアンヌ」

JVCプロジェクターに続く“画質コラボ”が出てきて欲しい!

連携処理による画の違いをここまで体感してしまうと、「JVCだけズルいじゃないか。UB9000と他社とのコラボは他にないのか」と叫ぶユーザーが出てくるであろうことは容易に想像が付く。しかしパナソニックは「今回はあくまで、プロジェクターにおける理想のHDR画質を目指して、JVCと共同開発したもの。今は他とのコラボを話せる段階にはない」という。

民生用プロジェクターを持たないパナソニック、そしてUHD BD/BDプレーヤーを持たないJVCだからこそ実現できたコラボなのだろうが、プレーヤーとディスプレイが連携し、互いの性能をフルに引き出すと、4K/HDRコンテンツは更なる画質向上が実行できることが証明された。

UB9000にはプロジェクター以外のHDRディスプレイタイプとして、液晶や有機ELディスプレイをターゲットにしたモードを備える。「他社のトーンマップには頼らず自社の優れたトーンマップを使う!」という選択肢もあるだろうが、JVCが行なった映像処理の“選択と集中”によって得られるメリットは大きい。

UHD BDに記録されている4K/HDRコンテンツをいかに高品位に再生・表示するか? という探究心や試みが途絶えてしまえば、進化する配信コンテンツとUHD BDを比べたとき、UHD BDのアドバンテージが無くなる日が来るかもしれない。そうした視点でいえば、UB9000の存在、そしてそのトーンマップ機能は「UHD BD再生こそ最高品質」を証明するための“牙城”。JVCプロジェクターは、その牙城と手を組み、現状で最高クラスの画質を手にしたのだ。

両社が生んだ最上級の映像美に心を奪われながらも、4K/HDRを家庭で、なおかつベストな状態で楽しめるユーザーが1人でも増えるよう、JVCプロジェクターに続く垣根を越えた“画質コラボ”が出てきて欲しい。そう願わずにはいられない取材だった。

写真左から、パナソニック アプライアンス社ホームエンターテインメント事業部 ビジュアル・ネットワークビジネスユニット 商品企画部 商品企画一課 主務・村上塁氏。同社 商品技術部 主幹技師 甲野和彦氏。JVCケンウッド メディア事業部 技術本部 開発部 システム2G 中越亮佑氏。同社 メディア事業部 ソリューションビジネスユニット プロジェクト・マネジメント部 プロジェクト2G 那須洋人氏

阿部邦弘