プレイバック2020

ホームシアターに巣ごもりする中、“映画館に行く楽しみ”を考えた1年 by 鳥居一豊

我がシアターの進化は今年は小休止

毎年、いろいろな製品を買った報告をしているが、今年は小休止。映像系、音声系ともに一段落した感があり、今後のさらなる進化に向けて計画を練っているところだ。JVCのプロジェクター「DLA-V9R」はよい調子で、しかも11月のアップデートでユーザーの視聴環境にまで最適化する「Theater Optimizer」が実装され、HDRコンテンツの映像をさらに豊かな表現力で楽しめるようになった。

オーディオの方はメインとなるシステムはまったく変わっていないが、愛機であるB&W「Matrix801 S3」がCD時代の古いスピーカーなので、最新のスピーカーもきちんと使ってみたいという欲求もあり、B&W「607」を購入した。鳴らすためのアンプとして、ELACのコンパクトなプリメインアンプ「DS-A101-G」も購入している。

いつも通りの我が視聴室。B&W 607とELAC DS-A101-Gによる小型システムを新規導入。新旧B&Wは同じブラックのせいか、思った以上に雰囲気が似ている

シミュレーションによる設計や音響解析の進化などにより、現代のスピーカーのパフォーマンスは非常に高い。それがよくわかるのが、比較的手頃な価格のスピーカーだ。これまでは貴重な素材や部品をぜいたくに使うことで獲得していた優れた特性を、高価な素材や部品にあまり頼らずに安価で実現できるようになってきたと思う。少なくとも、小型スピーカーといえども低音再生能力はかなり優れていて、音楽を聴いていて物足りなさを感じることはあまりない。そして、小型ならではの優れた定位の良さと音場感はさらに豊かなものになっている。大型スピーカーの堂々としたたたずまいはもちろん魅力なのだが、大きくて重いスピーカーをセッティングなどで動かすのは年齢的にも厳しくなっているので、今後はメインシステムも小型スピーカーへシフトするのもいいかも知れないとさえ考えている。

アンプも小型でも優秀なものが増えてきている。スイッチング電源やD級アンプといった効率の良いアンプ技術が進化してきており、音質的な懸念を解消するどころか、巨大なアナログ電源に純A級アンプ回路を搭載した大型のアンプとはひと味違う音の良さで驚かせてくれるモデルも増えている。こうした最新のテクノロジーを駆使したアンプも実に興味深い。

スピーカーもアンプも枯れた技術だと思いがちだが、それでも進化は止まっていないどころか加速しているようにさえ感じる。その進化を今まで以上に注目していきたい。

自宅を映画館にしてしまうという試み。だが、やはり映画館に行きたい

2020年を振り返ると、コロナ禍の影響について触れないわけにはいかないだろう。現在もまだ進行中であり、これからも警戒を続ければならない状況だ。誰もがそれなりの影響を受けたと思う。もともと自宅で仕事をしているため、影響が少ないはずの筆者でさえ、それなりに生活には変化があった。もともとインドア派の自分は自宅で過ごす時間が増えても影響がないと思ったが、そうでもなかった。自宅にこもっていると刺激が減って、身体というより心が鈍る。なにより、映画館に行くのは楽しいことだと改めてわかった。

春~初夏は自粛もあり映画館に行くのを控えていたが、その時には、すでにそれなりのホームシアターがあるのだから、「自宅を映画館にしてしまえばよい」などと考えて、好きな映画のポスターを探した。映画館のエントランスや劇場へ行くまでの通路に映画のポスターが飾られていることが多いが、それを真似て、自宅の1階にある視聴室へ続く廊下を映画のポスターを飾ったのだ。

2階への階段からポスターを眺める。高い位置にポスターを飾ったのは、階段の上り下りでもポスターが見えるようにするため
昔から憧れていた、LPレコードやLDのジャケットをそのまま額装。「2001年宇宙の旅」は実はLD版ではなく、紙ジャケット仕様の限定版BD

玄関を開けると、そこは映画館のエントランス。そんなイメージをもって、さまざまなジャンルで自分が一番好きな映画のポスターを集め、額装して壁に飾った。うん、なかなかよい。まだまだ壁にはスペースが余っているので、これからも徐々に増やしていきたいと思う。ベストな映画にこだわらず、たくさんの映画ポスターを収集し、季節や気分に合わせてポスターを入れ替えるのも楽しそう。単純なことだが、これだけで「映画を見るぞ」という気分が高まる。

問題は、並べたポスターを俯瞰してみると、なにか不穏なムードが漂う点。アニメではエヴァの旧劇場版、ホラーでは「エクソシスト」、ヒーロー作品では「ダークナイト」と迷った結果「ジョーカー」を選択。LDサイズジャケットの「2001年宇宙の旅」はSF作品代表。どれも文句の付けようもないほどいい映画だ。だが、それらが集合すると、何か不穏だ。趣味が悪いと言われても反論できない。とはいえ、今後追加したいのは「地獄の黙示録:ファイナルカット」だったりするので、不穏なムードはますます濃厚になりそう。好きな映画で人間性が垣間見えてしまうのは仕方がない。これが僕の映画館であると自己紹介しているようなものなので、開き直るしかない。

そんな雰囲気作りもあり、コロナ禍の影響で動画配信サービスがますます好調なこともあって、映画を見て過ごす時間はかなり多かった。それでも、夏の盛りには映画館に足を運ぶようになった。マスクの着用などの対策はもちろん、平日の空いた時間を選ぶなど、厳重な対策をして映画館に行った。やはり映画館に行くのが楽しい。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットは原作もTVアニメも熱狂した自分としてもうれしいが、ここまでの大ヒットは予想できなかった。その理由はいくらでも思いつくが、単純にこの作品が“映画の楽しさ”を多くの人に伝えてくれたのだと思う。コアなファンだけでなく、多くの人が何度も見に行ったのではないだろうか。

子供の頃から映画が大好きで、じつに自分の持ち家に映画館を作ってしまったほどの自分だが、それでも映画館に行くのが楽しい。けっして楽な1年ではなかったが、映画の楽しさ、映画館への愛を再確認できたと思う。

来年もたくさんの映画を映画館へ見に行こう。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。