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怪物「Q7」のいいとこ取り!? USB給電で据置き化するポタアンFIIO「Q15」

Q15

外出にはワイヤレスイヤフォンが便利だが、音質や遅延を考えると有線イヤフォン/ヘッドフォンを使いたい。筆者の場合は、テレワークで外出が減ったり、動画撮影・編集もはじめたので、音楽を良い音で聴くだけでなく、もっと細かな音も聞き取りたいという欲求も高まってきた。そんな時に欲しくなるのが、“DAC内蔵のポータブルヘッドフォンアンプ”だ。

ご存知の通り、最近のスマホにはイヤフォンジャックが無く、音楽配信サービスを、気に入った有線イヤフォン/ヘッドフォンで聴く事ができない。そんな時に便利なのが、DACを搭載したポタアン。ポタアンとスマホと接続し、ポタアンで有線イヤフォンを良い音で駆動できる。当然バッテリーを内蔵しているので、外でも楽しめる。

そして家ではPCと接続し、ヘッドフォンをパワフルに駆動。高音質な環境が、家でも外でも構築できるわけだ。

記事でも書いたが、筆者は昨年、そんなDAC内蔵ポタアンであるFIIOの「Q7」(実売125,950円)を購入。念願の“家でも外でも高音質構築”を実現したのだが、ちょっと気になる点もある。Q7が“デカい”のだ。

もう少しコンパクトで持ち運びやすい製品も良いなぁと思っていたところ、FIIOから新製品「Q15」(実売71,500円前後)が登場した。Q7よりコンパクトで、しかも低価格。それでいて、家で据え置き機として使うときに真価を発揮する「デスクトップモード」も搭載しており、Q7と同じように、「いざとなったら持ち出せる据置き機」でもある。これは聴いてみたい……という事で、さっそくQ15を借りてみた。

Bluetoothレシーバーとしても活躍

まず最初にQ15について簡単にまとめてみよう。2019年に発売されたDAC付きポータブルヘッドフォンアンプ「Q5s」の後継機として登場したのだが、約5年ぶりの登場とあって、外観は完全に別物。

上部には操作にも使用するボリュームノブ/ボタンと、3.5mmアンバランス出力、4.4mmバランス出力を装備。右側面には電源、再生/停止、曲送り/戻しボタンなどを備え、底面には同軸入力と後述する2系統のUSB-Cポートと2種類のスイッチを備えている。Q5sにはない液晶も備えており、入力ソースや項目の設定などが行なえる。

この形状は、上位機種の「Q7」のデザインが踏襲されたもののようで、ボリュームノブの下の部分にはインジケーターも備えており、画面が消灯していても電源ONの間はこのインジケーターが光っている。

上部のノブはボタンにもなっており、インジケーターも備えている
出力は3.5mmと4.4mmの2つ
ボタンは左側面に備えられている
左がQ15、右がQ7。画面の雰囲気やサイドの溝など、同じシリーズのようなデザインとなっている

マットな質感でボタン類も筐体と馴染んでおり、無骨さとスタイリッシュさを併せ持ったデザインで、手元にあるとちょっと良い機材を使っているような気持ちになってくる。

上位機種のQ7は、外形寸法/重量が約158.4×88.5×28.3mm/620g。見た目と重さで一番近い気がするのは「硯」。習字の時に墨を擦るアレだ。持ち運べるとはいえ、ちょっと気合いを入れる必要があったりする。

一方で、Q15は約143.5×71.8×21.8mm/305g。手に持ったときのホールド感も良く、ポケットに入れて外出時に……という使い方はギリギリできなくもない、という印象だが、出先でも使おうと鞄に入れるのは気楽にできそうだ。

前機種のQ5sとの共通点は、旭化成エレクトロニクス(AKM)のDACチップを使っているところ。Q15では、「AK4191EQ+AK4499EX」が採用され、抵抗素子の個体差を平準化する「DWA Routing Technology」を組み合わせることで、チップレベルでのSN比を向上させたという。

DACの部分に「AK4191EQ+AK4499EX」と、2つのチップの名前が並んでいるのには理由がある。普通のDACチップは、その内部で、音楽のデジタルデータを、デジタルフィルターに通し、⊿Σモジュレーターを経由し、DA変換してアナログ音声として出力するという作業をしている。

この流れに注目すると、1つのDACチップの中で、デジタル信号とアナログ信号が共存している状態がある。旭化成エレクトロニクスは、この状態がアナログ信号に影響を及ぼすことを突き止め、1つのチップ内でデジタルとアナログを分離するのではなく、2つのチップを用意してチップレベルで分離する事にした。“デジタル信号処理”と“デジタル音声のアナログ変換”という役割分担をしたわけだ。

これがDACチップ「AK4499EX」と、デジタル信号処理用チップ「AK4191EQ」の組み合わせだ。

USB DACとしてPCやスマホと接続したり、同軸入力も備えているので、CDプレーヤーやテレビなどと繋ぐこともできる。USBでは最大768kHz/32bitのPCMとDSD512まで再生可能。同軸では192kHz/24bitまでのPCM、DSD64に対応する。MQAフルデコードにも対応している。

有線接続だけでなく、Bluetooth受信もできる。対応コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX LLに加え、aptX Adaptive、aptX HD、LDACにも対応するため、ハイレゾ相当のソースをQ15で受信して、有線イヤフォン/ヘッドフォンで楽しめる。

Bluetoothレシーバーにもなる。LDACでハイレゾ相当の受信もできる

Bluetoothのモードにしてスマホなどと接続してしまえば、アプリ操作などはスマホから行なえば良いので、出先でもQ15は鞄の中などに入れておけるので、電車の中などでも気軽に使えそうだ。

また、3.5mmと4.4mmバランスの端子はライン出力としても機能するので、イヤフォン/ヘッドフォンだけでなく、アクティブスピーカーに接続して楽しむこともできる。Bluetoothデコードで組み合わせれば、デスクトップオーディオの環境も簡単に作れる。新しくプレーヤーなどを購入しても、同軸接続などでそのままコンパクトなQ15が活用できるのも嬉しいところだ。

バッテリーを遮断して給電する目玉機能“デスクトップモード”

Q15の底面。給電専用のUSB-C端子と両端の2つのスイッチが特徴的

先程少し触れたが、外観で特徴的なのが2つのUSB-Cポート。これは、一方はPCやスマホ/タブレットなどとの接続して使用するUSBデコード用だが、もう一方はUSB PD給電/充電が行なえる専用のポート(POWER IN)になっている。

もちろんUSBデコード用のポートでも充電できるのだが、給電用ポートを別に備えていることには意味がある。それが、Q15の真骨頂「デスクトップモード」だ。これは、USB PD対応の電源アダプタと接続したときに、バッテリーを介さずに外部電源が供給できるモードで、底面の右側にある「DESKTOP MODE」と書かれたスイッチをオンにすれば使用できる。

内蔵バッテリーの劣化を気にせずに据置き機のように使うことができるわけだが、もちろんそれだけではない。デスクトップモードでは、通常のゲイン設定の「Super High」を上回る「Ultra High」が使用できるようになる。これが“真価を発揮する”部分というわけだ。

外出先でも電源さえ確保できれば、最大出力がバランス出力で1,610mW(32Ω,THD+N 1%未満)、アンバランス出力時625mW(32Ω、THD+N 1%未満)という、デスクトップアンプのような体験ができてしまう。

給電用のUSB-Cケーブルを繋いでデスクトップモードをオンにするとゲインの「Ultra High」が使えるように
デスクトップモードがONの間は選択できるようになる

FIIOのDAPやポータブルヘッドフォンアンプでは、すでにこのデスクトップモードの前進となる機能が採用されている。それがDC給電モードだ。しかし、「M17」と「Q7」では専用のDCアダプターを使う必要があるため、アダプター自体が場所を取ってしまう。

Q7の専用アダプタ。わりと場所を取るのが悩み

そして、第二世代DC給電モードを搭載した「M15s」は、搭載しているUSB-Cポートが1系統だったため、USB DACとして使う場合は、接続先のデバイスがデータの転送とPD給電を同時に行なえるという条件を揃える必要があった。ぶっちゃけ、M15sに触れたときに「給電用のUSBポートがあれば即決なのにな」と筆者も思った。

そんな思いを抱いたファンが少なくなかったのだろう、Q15ではUSB-Cポートが2系統装備で登場。DCアダプタほど場所を取ることなく、USBケーブルとアダプタさえ用意してしまえばより手軽にこのモードが使えるようになった訳だ。

PD対応のUSB-Cポートが複数付いた電源ポートなども増えてきているので、それらを使えば、持ち出すときもケーブルを抜いて持っていけば良いだけ、と心理的なハードルも大分低くなる。

筆者の場合、やはりQ7の専用のDCアダプタだと、コンセントから抜いて、少し大きいアダプタの部分をリュックの隙間に押し込んで、帰ってきてからもまたいつもの定位置にアダプタを置いて、机上の他の機材のにコードを通して……とやるのが億劫で、「今日は編集部だけどバッテリー駆動でいいや」と諦めてしまうことが多い。

それがUSBケーブルであれば、買い足してしまうという対策も取れる。ここまで全力で音の環境を持ち出したい人が居るかはともかく、家でも外でも同じ環境の音が聴けるようになる。

とにかく、ただのポータブルヘッドフォンアンプではなく、上位機種にも搭載されたこだわりの機能を、使い勝手を良くして中核機に持って来ちゃいました、といったところ。新製品が出る度に「こうだったら良いのに」という部分がどんどん対応されていくところがさすがFIIOだ。

スマホと使うときに便利な機能も備えている。それが「フォンモード」だ。簡単に説明すると、スマホと接続したとき、Q15が駆動するためにスマホのバッテリーを消費しないというもの。こちらは底面の左側にある「PHONE MODE」というスイッチをオンにすれば使える。

2つとも便利な機能なのだが、気をつけたいのがQ15のバッテリーを充電したいとき。どちらのUSBポートも充電/給電に対応しているものの、フォンモードの場合はUSBデコード側、デスクトップモードの場合は両方のポートからバッテリーへの電力供給が絶たれる。

なので、USBデコード側を使って充電を行なう場合は、PHONE MODEとDESKTOP MODEのスイッチをともにオフに、POWER IN側からバッテリーへの充電を行なう場合はDESKTOP MODEのスイッチをオフにする必要がある。ちなみに、DESKTOP MODEのスイッチがオンになっていても、バッテリー切れでシャットダウンしている場合は、バッテリー保護のために強制的に充電される仕様になっているとのことだ。

前機種Q5sと比較。5年で明らかに進化した解像感

今回使ったヘッドフォンFIIO「FT5」

音をチェックしてみる。ヘッドフォンには平面磁界ドライバーを搭載した開放型のFIIO「FT5」を使用。4.4mmバランスプラグを使ってバランス出力で聴いた。ソースはスマートフォン「Pixel 6a」でAmazon Musicアプリで再生した。比較用に前機種「Q5s」と上位機種の「Q7」も用意。Q15はデスクトップモード、Q7はDC給電モードを使った。

まず、前機種のQ5sから聴いてみる。Q5sはバランス出力部分のアンプモジュールが交換式となっているのだが、今回はAM3Eが取り付けられたものを借りている。

Q5s
右が前機種Q5s。外観は完全に別物

再生してみると、“平面磁界ドライバーの開放型ヘッドフォン”という要素から想像していなかったほどの低域が響いて驚く。最近のFIIO製品よりも若干低域に寄っていて、全体的にウォームな印象だが、解像度は高いため、音としては古い感じはしない。端子がマイクロUSBだったり、デスクトップモードなどの魅力的な機能がないとはいえ、音質は今でも十分対抗できるのではないかと感じた。

だが、Q15を再生してみると、すぐに5年分の進化を実感した。くっきりとした解像感の高い音と、どっしりとした量感のある低域が包み込んでくるような感覚は、Q5sのそれとはもはや別格だ。

FT5は平面磁界ドライバーながら、6μmの薄型振動板とプリントコイル、強力な磁界によって、鳴らしにくい部類ではない。だがそれでも開放型であることを忘れてしまうくらいに低域がどっしりと再生されており、アンプのパワフルさが実感できる。

Q5sのときは量感で驚いたが、Q15では、ボーカルが低域の量感に埋もれずにしっかりと耳に届き、楽器の音の抜けていく余韻も感じられるため、低域に偏っているような印象は感じられない。それでも、「唱/Ado」などのゴリゴリなEDM調のリズムが気持ちよく、その曲調に負けないAdoの力強いボーカルがぶつかっていく様が聴いていてスカッとするほど迫力満点だ。

男性ボーカルでもこの印象は変わらず、「KICK BUCK/米津玄師」のような様々な音が入り乱れる楽曲でも、しっかりと力強いボーカルが演奏に負けずに届いてくる。

量感のある低域の中に、ベースの弦の響きなどタイトな要素もハッキリと聴きとれるようになり、同じヘッドフォンのはずなのだが、かなり印象が変わる。

PCと接続してボイスチャットや動画編集にも使用してみたが、Q15では人の声を聴き取りやすく、音楽以外の使い方でも活躍する。例えば、ボイスチャットなどでは、相手側のマイクや部屋の環境によって、篭もっていたり、反響していたりなどで言葉が聞き取りにくいことも多々あるが、Q15の解像感があれば、だいぶストレスなく聞き取れる。PCゲームなどもQ15と好きなヘッドフォンを使うと臨場感マシマシで楽しめそうだ。

上位機種と比較。弩級なQ7から使い勝手とコスパに磨きをかけたQ15

では、ここまで進化したQ15とその上位機種Q7ではどのような差があるのか。

Q7に切り替えてみると、無音からの音の立ち上がり方がまず違う。低域のどっしりとしたパワー感とキレも段違いに増し、楽器の音が背後の方へ広がっていく余韻もQ7の方が明確に見える。空間の広さも明確に広くなっており、スピーカーを一回り大きくしたときのような差が感じられる。

とくにボーカルが明確に前方から聴こえるようになり、開放型のヘッドフォンを付けたままでいると、ヘッドフォンとスピーカーのどちらで再生していたか一瞬わからなくなるのがQ7だ。

筆者は、複数のVTuberの配信を見逃したくなくて、複数ウインドウを開いて同時に視聴することが多いのだが、Q15でも5つくらいの配信の内容を聞き分けられる程度の解像感を備えている。この時点で十分過ぎると思うが、Q7はさらにその上を行く解像感を備えていて、より明確に聞き分けできるようになる。

Q7は620g、Q15は305gと重さが倍以上あるため、投入されている物量が違う。この重さの分だけ音の重みも増しているような感覚だ。Q7は約125,950円で、価格差が5万円程度あるが、確かにそれだけの違いが音には明確に出ている。

Q15、Pixel 6a、Q7を並べたところ。Q7は文鎮を思わせるサイズ感
上からPixel 6a、Q15、Q7。厚さも歴然

一方で、できること自体はQ7とQ15ではあまり大差がない。装備面ではQ7は6.3mm、2.5mm出力や光デジタル入力なども備えて幅広くカバーできるが、プリセットEQなどの手軽な機能面はむしろQ15の方ができることが増えているくらいだ。

スティック型のDACアンプと比べればコンパクトとは言えないものの、Q7と比較するとかなり小型化している筐体サイズと重量で、据え置き型と変わらないスペックで使えるデスクトップモード、しかもそのデスクトップモードはUSBケーブルで使用できるという使い勝手の良さ、そして10万円を切る価格、そのバランスが光っているのがQ15だ。

Q7もその幅広い使い勝手の良さを考えるとコスパの高い製品なのだが、そのコスパ面とユーザビリティにさらに磨きをかけてきている。Q7に対して「欲しいけどちょっと手が届かない」「機能は理想だけどここまで振り切ったスペックはいらないかも」と思っていた人は、Q15を是非チェックしてほしい。

野澤佳悟