レビュー

“衝撃の音、再び”弩級DAPの半額以下、FiiO「Q7」の怪物サウンド

FiiO「Q7」

ここ1年間ほどで登場したポータブルオーディオプレーヤー(DAP)の中で、最も衝撃的だったのはFiiOの弩級DAP「M17」(実売約297,000円)だ。以前詳しくレビューしているが、ポータブル機と思えないほどの圧倒的なヘッドフォン駆動力を持ったアンプを内蔵。さらに、付属のDCアダプターを接続すると、より大電流を供給できるようになり、据え置きアンプも逃げ出すほどパワフルなヘッドフォンアンプにパワーアップするという、まさに化け物のようなDAPだった。

もはや“反則”のDC入力サウンド、FiiO超弩級DAP「M17」の衝撃

FiiO超弩級DAP「M17」

スマホ+完全ワイヤレスイヤフォンが定番になったポータブルオーディオ市場で、それでもDAPを買う意義は“圧倒的な高音質と駆動力にある”というFiiOの強烈なメッセージを感じた。

その一方で、「スゲェDAPだけど、最近はスマホでストリーミングの音源を聴く事も多いからなぁ……」、「スマホと連携して音楽配信を超高音質で楽しめるようになってくれれば、使用頻度もアップするのに」と思っていた、私のような人も多いだろう。

その時に頭をよぎったのは「このM17から、DAP機能を省いて、DACとアンプだけにして値段を安くしたモデルが出ないかなぁ」という願望だ。そんな製品があれば、スマホと接続して外で使えるし、家ではパソコンと繋ぐなど使用頻度が高くなる。使う機会が多ければ、ちょっと高価であっても、コストパフォーマンスは高くなる。

……そんな事を夢見ていたら、ホントに出た。USB DAC内蔵のヘッドフォンアンプ「Q7」がそれだ。11月25日に発売されており、価格はオープンプライス。店頭予想価格はなんと134,750円前後、M17の半額以下だ。

「いやぁホントに出るとは」と、さっそく試聴してみて、ぶったまげた。結論から言うと、半額以下なのに、ある部分ではM17を凌駕する音が出ている。驚異的なコストパフォーマンスの高さだ。さらに、Bluetoothレシーバー機能も搭載しているので、スマホと連携して“メチャクチャ高音質で駆動力が高いBluetoothアンプ”として使う事までできる。つまり“スマホと共存しやすい”製品になっている。

FiiO「Q7」

Q7の凄さはTHXアンプとDC給電モード

ポータブルアンプ自体の市場が縮小傾向にあるため、そもそもFiiOは、ポタアンの新製品をしばらく発売する予定は無かったそうだ。しかし、ポータブルオーディオファンのポタアンへの需要は根強く、また、私と同じようにM17を聴いて「これのポタアン版作って!」という声が多く寄せられたため、この「Q7」を開発したそうだ。このあたりの柔軟さと、スピード感は、さすがFiiOという感じだ。

Q7のスペックを一言で表現すると、前述の通り「M17からDAP機能を省いたもの」となるのだが、厳密に言うと、少し違うところもある。改めてQ7のスペックをおさらいしよう。

搭載しているDACチップは、ESS Technologyのフラッグシップ「ES9038PRO」で、これはM17と同じだ。ただ個数が異なり、M17は2基搭載しているが、Q7は1基になっている。2基が1基になると「コストを下げるためかな?」と、ちょっと寂しい気がするが、実はそうでもない。

そもそもES9038PROは据え置き機器を念頭に開発されたDACチップで、1つのチップに8ch分のDAC回路を搭載している。さらに、据え置き向けなので出力は大きいが、消費電力や発熱も多く、ポータブル機器に搭載するにはイマイチな点もある。ユーザーとしては「ハイエンドDACチップを沢山搭載しているとスゴイ」感じはするのだが、2つも搭載するとデメリットも増えてしまう。

マルチチャンネル出力に対応するDACチップは、1基であっても、シングル仕様で後段の回路設計を適切に行なえば、最良のパフォーマンスを引き出せる事から、Q7ではあえて1基としているそうだ。

では、M17はどうして2基搭載しているのかというと、FiiOの創業者社長であるJames Chung氏が、こうしたDACチップ・デュアル構成のメリット/デメリットを事前に率直に説明。中国のユーザー向けにオンラインでアンケートをとり、「それでも2基搭載して欲しい」という結果だったため、M17はデュアル構成になった。このあたりの作り方も、実にFiiOらしい。

ESS TechnologyのフラッグシップDAC「ES9038PRO」

USBコントローラーには、XMOS製の「XU316」を採用。USB-CでスマホやPCと接続し、PCM 768kHz/32bit、DSD 512(22.4MHz/Native)の再生に対応。16コアの強力な演算能力を活用し、MQAフルデコードにも対応している。

ちなみに、Q7は後述する独自のアンプ回路と組み合せる事で、SN比125dB、歪率0.0003%以下という、驚異的にノイズや歪の少ないスペックを達成している。実はこの数値は、M17よりも良い。M17は、機能をてんこ盛りしたDAPとして最強クラスの性能を持っているが、Q7は機能をシンプルにしてノイズ源になるディスプレイやスマホ用SoCを外したら、DACがシングルになっても、M17より特性が良くなってしまった……という、非常にピュアオーディオっぽい、ユニークな立ち位置の製品になっている。

アンプ部は、M17と同じ「THX AAA-788+」というヘッドフォンアンプ回路を2基搭載している。これこそがM17を“ポータブルなのに弩級アンプ”にしているキモであり、半額以下なのに、これをそのまま搭載しているのがQ7のスゴイところだ。

THXの特許技術「THX Achromatic Audio Amplifier(AAA)」を使い、FiiOとTHXが共同で、新たに開発した「THX AAA-788+」というヘッドフォンアンプ回路を2基搭載している。

THX AAA-788+

THXは、映画とかAVアンプなどのホームシアターで良く聞く、あのTHXだ。ルーカスフィルムの1部門としてスタートし、主に、映画館の音響や、AVアンプなどの家庭用オーディオ機器が、THXが定めた基準をクリアしているかどうかをチェック。合格すると“THX認定を受けた製品”としてマークが得られる。ロゴマークが入っている製品を、一度は目にした読者も多いだろう。

そのTHXが開発したアンプ技術が「THX AAA」。ホームシアターのイメージが強いTHXなので、“デジタルの信号処理で音をいじる技術なの?”と思われるかもしれないが、まったく違って超ピュアオーディオ向けな、アナログアンプ向けの技術だ。

概要はM17の記事に書いているのでそちらを参考にして欲しいが、超かいつまんで説明すると、オーディオ用アンプには、安定性を高めたり、ノイズを減らすためにNFB(Negative Feedback:負帰還)回路が使われる事が多い。増幅する段階で生まれる歪をなんとかしようと、アンプの出力を反転させ、逆相の“負の”波形にして、入力へと戻すことで、増幅回路で生まれた歪を打ち消すという技術だ。

THX AAAでは、このフィードバック補正に加えて、入力信号をモニタリングして、システムの前段で補正信号を適用する“フィードフォワード補正”を組み合わせている。これにより、フィードバック補正の応答時間の遅さという問題を克服し、複数回ループすることで、エラーをゼロにできるという技術だ。

この技術を使った据え置き用アンプの回路の1つが「THX AAA-788」というものなのだが、Q7では、それをそのまま搭載するのではなく、FiiOとTHXはビジネスパートナーとして関係が深いこともあり、THX AAA-788をベースにしつつ、ポータブル機器に搭載できるようにし、さらにFiiOの製品向けにより最適になるよう共同で新しいアンプ回路「THX AAA-788+」を開発。それをM17や、Q7に搭載した……というわけだ。

Q7の本体にあるTHXロゴ

強力なこのTHXアンプ回路を、左右チャンネルあたり1基ずつ、合計2基搭載する事で、Q7では一般的なオペアンプのアンプ回路と比較して出力が225%向上。具体的には、内蔵バッテリー駆動時でバランス出力で1,500mW(32Ω/THD+N<1%)、アンバランス出力で550mW(32Ω/THD+N<1%)を実現。組み合せるヘッドフォンの推奨インピーダンスは、アンバランスで16~300Ω、バランスで16~600Ωと、「どんなヘッドフォンでもどんと来い!」という頼もしいスペックになっている。

さらにQ7が面白いのはここからだ。M17で話題となったあの“反則みたいな機能”がQ7でも使えるのだ。

それは、内蔵リチウムイオンバッテリーでの駆動モードに加え、付属のDC駆動用ACアダプターを接続するとDC給電モードとなり、よりハイパワーに進化する機能。ヘッドフォンアンプ回路の電源電圧が8Vから最大±11.5Vまで高められ、バランス時で3,000mW(32Ω/THD+N<1%)、アンバランスで1,100mW(32Ω/THD+N<1%)と、より力強くヘッドフォンをドライブできるようになる。

Q7の底面。DC電源入力がある
付属のDC駆動用ACアダプター

さらに、バッテリー駆動の時と比べ、各回路により安定的に電源供給ができるようになり、低ノイズにも磨きがかかる。要するに「ポータブルアンプだけど、家に帰ってDCアダプターに繋ぐと中身が完全に据え置きヘッドフォンアンプになる」みたいな感じだ。

こんなにハイパワーなヘッドフォンアンプなので、屋外で使うとすぐにバッテリーが無くなってしまうのではと心配になるが、Q7はそこもモンスター級で、9,200mAhという大容量バッテリーを搭載。アンバランス再生で約11時間、バランス再生で約9時間使用できる。充電所要時間は約4.5時間(急速充電時)で、DC給電だけでなく、USB給電でも動作可能だ。

家でDCアダプターに接続して、据え置きとして長時間使う製品なので「内蔵バッテリーの寿命が短くなるのでは?」と心配になるが、そこもケアされている。底面の「POWERスイッチ」を「DCモード」にしておくと、DCアダプターを接続してもバッテリーは絶縁され、もちろん充電もされない。DC電源で充電したい時だけ、スイッチを「BAT」側に切り替えるという仕組みになっている。なお、DCモードでは、USBを接続していても充電されない。

上がQ7の底部。左端にあるのがDCモードとBATモードの切り替え、その隣がUSB充電のON/OFF切り替えスイッチだ

また、USBを接続した時にUSBポートから充電するかどうかを選択する「USB CHARGE」スイッチも備えている。OFFにしておけば、スマホと接続した時に、スマホ側の電力を消費しない。細かい話だが、このあたりをキッチリ作り込んでいるのはさすがFiiOだ。

本体側面の操作ボタン
側面には、デジタル入力されたデータの情報を視覚的に表示するインジケーターLEDを備えている

実は“弩級Bluetoothレシーバー”でもあるQ7

ヘッドフォン出力は充実しており、2.5mm、3.5mm、4.4mmを各1系統は当たり前として、6.3mmの標準端子まで備えている。

充実のヘッドフォン出力

さらに、3.5mmと4.4mm端子はアンバランス/バランスライン出力端子としても使えるので、Q7を単体USB DACとしてパソコンと接続し、その出力をスピーカー用の2chアンプに接続して、スピーカーから音を楽しむ……という使い方も可能。光デジタル音声入力、同軸デジタル入力も備えているので、CDプレーヤーやテレビなどとも接続しやすくなっている。

有線接続だけでなく、Qualcommの「QCC5124」を搭載し、Bluetooth受信もできる。コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX LL、aptX HD、aptX Adaptive、LDACと豊富に対応。スマホとBluetoothで連携すれば、スマホで再生している音楽配信サービスの音を、Q7で受信し、Q7のアンプで強力にドライブしたサウンドとして、ヘッドフォンやイヤフォンで楽しめるわけだ。

また、スマホ用アプリ「FiiO Control App」にも対応しているので、Q7の設定を、スマホアプリから変えられる。据え置きコンポと接続してQ7を使っている時は、スマホをリモコンとして操作ができる。また、屋外で使っている時は、カバンの中にしまったQ7を取り出さずに、スマホから設定を変えられるメリットもある。

スマホ用アプリ「FiiO Control App」で、設定変更やイコライザー設定も可能

付属品も充実しており、合成皮革の保護ケースや、前述のDC駆動用ACアダプター、さらに本体が熱くなっても大丈夫なように冷却ファンを搭載したクレードル、ディスプレイ保護フィルム、端子の保護プラグ、4種類のUSBケーブルまで付属する。追加で何かを買わなくても、屋外で、そして室内で、使いやすいセットとして提供されるわけだ。

冷却ファンを搭載したクレードルも付属。乗せた状態で、下部にDC駆動用ACアダプターを接続できるようになっている
合成皮革の保護ケースは、本体を入れた状態でも各端子にアクセスできる
4種類のUSBケーブルも付属する

ちなみに、冷却ファン搭載クレードルが付属するので「そんなに発熱スゴイの?」と不安になるが、2時間ほど音楽を再生し続けた状態で背面などを触っても「少し温かいかな」くらいで、「ファンで冷やさないとヤバい」みたいな熱さにはならない。M17よりも発熱は少ない。DACチップが1基になっているのもそうだが、ディスプレイが小さくてアルミ筐体の体積が大きいからというのもあるだろう。

発熱はM17よりも少ない

サイズはM17とほぼ同じだが、実はQ7の方が“重い”

左がM17、右がQ7

スペック面を見るだけでスゴイ製品だが、注意点もある。それがサイズと重さだ。M17の時も「これをポータブルと言っていいのか?」というギリギリの巨大さだったが、Q7のサイズもほぼ同じ。M17が約156.4×88.5×28mm(縦×横×厚さ)で、Q7は約158.4×88.5×28.3mmとなっている。

意外だったのは重さで、M17は610gだが、Q7は620gと、Q7の方が10g重い。「DACチップが1基に減っているのに重くなってるの!?」とツッコミを入れたくなるが、実はDAPであるM17には大きなディスプレイが搭載されていたが、Q7はDAC内蔵ポタアンなのでシンプルな1.3型のフルカラーIPSディスプレイになっている。つまり、小さくなったディスプレイ部分が、重くて強固な筐体に置き換わっているので、Q7の方が全体でも重いわけだ。

音を聴いてみる。M17との違いは?

では、音をチェックしよう。使用した機材は、ソースとしてスマートフォンの「Pixel 6 Pro」、アプリは「FiiO Music」を使用。イヤフォン/ヘッドフォンは、アンバランス接続ではイヤフォンのFitEar「TG334」を使用。バランス接続ではゼンハイザー「HD 800 S」(インピーダンス300Ω)や、フォステクスの平面駆動型「RPKIT50」(インピーダンス50Ω)といった、ヘッドフォンの中でも鳴らしにくいものを繋いでみた。

USB接続で音をチェック

先に“鳴らしきれるか”という部分から結論を言うと、どちらのヘッドフォンでもゲインLow/Medium/High/Super HighのLowでも、最大ボリューム値120のところ、100あたりで十分な音量が得られる。しかもバッテリー動作時で、DC駆動用ACアダプターを接続した時のみ選べる「MAX Gainヘッドホンモード」にしない状態でも、だ。IEMタイプのイヤフォンで、ホワイトノイズが気になるという事もない。

ゲイン切り替え画面

まずはバッテリー駆動でのサウンドだが、“圧巻”の一言に尽きる。以前、弩級DAPのM17をレビューしているので、ある程度予想はできていたが、それでも「ポータブルでこんな音が聴けるとは」という驚きを改めて感じる。

例えば「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」の冒頭を聴くと、アコースティックベースの低音が「ズォオーン!」と低く沈み、地鳴りのように、凄みのある振動として頭蓋骨に響いてくる。開放型のヘッドフォンや、平面駆動型ユニットのヘッドフォンでは、かなりパワフルなアンプでドライブしないと、しっかりした低音が出ず、「やっぱり据え置きのヘッドフォンアンプじゃないとツライよね」という話になりがちなのだが、Q7は「いや余裕っすよ」みたいな感じで深く沈む低音を出してくれる。

このドッシリ感、安定感は、なかなかポータブル環境では聴けない。実際、巨大なヘッドフォンを屋外で頻繁に使うのか? という話もあるが、例えば、ちょっと良いヘッドフォンを職場用に買って、それをQ7でドライブ。仕事が終わったら、帰りの電車でQ7を使って有線イヤフォンを聴き、帰宅後は家のPCとQ7をUSB DACとして接続し、スピーカーで音を出す……みたいな使い方もアリだろう。要するに“トランスポータブル”な使い方ができるわけだ。

聴いていると、無音の静寂から、スッとボーカルやギターが立ち上がる様子、それらが発した音が背後の空間へ広がる様子が非常に良く見える。このSN比の良さ、クリアさは、音量を上げても維持され、迫力のある低音の中にある細かな音もよく見える。こうした音は、ヘッドフォンのユニットをしっかり制御し、駆動していないとなかなか出ない。THX AAA-788+アンプ回路の実力を感じる部分だ。

気になるのは、価格が倍以上するM17と、音の違いがあるのかという事。

実際に同じ曲で聴き比べると、これが非常に面白い。

「ホテル・カリフォルニア」の冒頭を聴くと、ギターやベースの音が背後の広い空間へ広がる様子や、ギターの響きの豊かさなどを、より強く感じるのはM17だ。

一方で、ベースの低域がより鋭く、深く、鮮烈に切り込んでくるのはQ7だ。Q7の方がトランジェントが良く、音にメリハリがあり、ハイスピードなサウンドに感じる。

それに対して、M17は高域の質感や伸びやかさ、響きの広がりが消えていく細かな様子がよりわかる。Q7と比べると、情感が豊かで、おだやかなサウンドに聴こえる。

両者の大きな違いとしては、DACチップを2基搭載したM17と、1基だけのQ7という差がある。確かにSN比や、微細な音の表現力の面ではM17が優れており、その効果を実感できる。

一方で、Q7の方が、音がよりクール寄りで、軽やかで、鋭さがある。そのため、短い時間で両者を聴き比べると、鮮烈で刺激的なサウンドのQ7の方が、音が気持ち良い。しかし、しばらく聴き続けていると「いや、M17の方が味わいは深くて、こっちはじっくり楽しみたくなるな」と思う。

どちらが優れているという話ではなく、完全に“好みの問題”だ。個人的には、平面駆動型のヘッドフォンや、バランスドアーマチュア(BA)ユニットをメインとしたシャープな音のイヤフォンは、Q7の方がマッチすると感じる。逆に、ダイナミック型のウォームなイヤフォン/ヘッドフォンには、M17が合うかもしれない。

それにしても、DAP機能を搭載していないとは言え、半額以下の価格で、ある一面においてはM17を超えるサウンドを出しているQ7のコストパフォーマンスの高さは驚異的だ。

そしてQ7のスゴイところは、ここからさらに進化する。前述の通り、DCモードをONにすると、ヘッドフォンモードの上に「Ultra High Gain」が出現。Lowではボリューム値100あたりを使っていたヘッドフォンも、Ultra High Gainにすると、ボリューム値70あたりで十分な音が出る。

DCモードをONにすると、ヘッドフォンモードの上に「Ultra High Gain」が出現

Ultra High Gainでは、低域のパワフルさ、ドッシリ感がさらに強くなり、音楽の安定感がさらにアップする。目を閉じて聴くと、巨大な据え置き型ヘッドフォンアンプでドライブしているとしか思えない音だ。

先程、Q7は鮮烈な低音が心地よいと書いたが、DCモードではそのハイスピードな低音が、より重く、重厚になる。例えば「Official髭男dism/Pretender」の冒頭10秒あたり、シンセサイザーが一気に押し寄せるシーンでは、トランジェントの良い中低域が頭の芯まで響くような迫力に圧倒される。

M17も、DCモードにすると低域がより重厚になるのだが、鋭く切り込んでくるQ7の低域とは異なり、M17の低域は地下でうねるような、鋭さよりも“重さ”を意識させる低音になっている。これは甲乙つけがたい。

ちなみに音以外で気が付いた部分として、ボリュームダイヤルの操作感が異なる。M17はヌルヌルっと抵抗なく回るが、Q7は細かなクリック感がある。これも人によって好みが違うと思うが、比較試聴でボリューム値を細かく調整する時には、クリック感のあるQ7の方が操作しやすかった。

左がM17、右がQ7。ボリュームの操作感が異なる

ポータブルBTレシーバーと聴き比べる

先程「Q7はBluetoothレシーバーとしても使える」と書いたので、その実力もチェックしよう。比較相手は、同じくFiiOが手掛けている、小型のBluetoothレシーバー「BTR7」だ。

もはやDAPいらず!? FiiO“ガチなBluetoothアンプ”「BTR7」を聴く

Bluetoothレシーバー「BTR7」

このBTR7も、以前詳しくレビューしたが、小さいけれど“ガチ”な製品で、実売は34,100円前後、ESSのDACチップ「ES9219C」をデュアルで搭載、アンプ部にはTHX AAAのモバイル版「THX AAA-28」を、こちらも2基搭載。3.5mmのシングルエンドと、4.4mmのバランス出力も搭載し、大型ヘッドフォンも楽々ドライブ。「10万円以下のDAPいらないのでは?」と思えるほどの実力で、Bluetoothレシーバー市場では高い人気を誇っている。

BTR7とQ7を並べると、笑ってしまうほどサイズ感や重さが違う。BTR7は大きめの消しゴムくらい、Q7は少食な人の弁当箱くらいある。価格も約3.5万円 VS 約13.5万円なので、10万円も価格差がある。

左がQ7、右がBTR7

では、サウンドにはどんな違いがあるだろうか。両方Pixel 6 Proとペアリングし、LDACで聴いてみた。

結論から言うと「すまんBTR7」と謝りたくなった。確かにBTR7のコスパはスゴイ。一般的な“Bluetoothレシーバーのイメージ”を遥かに超える高音質で、クリアで駆動力が高く、イヤフォン/ヘッドフォンを躍動感のある音でドライブできている。

しかし、Q7は比較相手としてバケモノ過ぎる。低域のパワー感、音圧の強さ、高い駆動力による低域のキレ、全体のスケール感など、Q7が数段上だ。Bluetooth経由でQ7を聴いていると、一般的に“Bluetoothで弱い”とされる低域の解像感の低さ、音像の薄さといったアラがまったく目立たず、とてもリッチで満足度の高い音に聴こえる。まったくBluetoothっぽくない音なのだ。これはぜひとも体験して欲しい。

スマホアプリの「FiiO Music」で再生した曲を、Bluetoothで飛ばし、Q7から再生

ただ、BTR7の名誉のために言っておくと、このサイズと価格で、一般的なDAPと張り合えるサウンドを実現しているのは文句無しにスゴイ。ワイシャツの胸ポケットにも楽々入る。“使いやすさ”という面では、BTR7が圧勝だ。

BTR7

実は利用シーンが多い“ハイコスパDACアンプ”

以前、弩級DAP、M17を使った時に思った結論は「スマホと完全ワイヤレスイヤフォンが当たり前になった時代に、あえて単体のDAPを買うのであれば、中途半端な製品を買うよりも、M17のような圧倒的な音質・ドライブ能力を持ったモデルを買ったほうが良い」というものだった。

そして今回、M17の半額以下で、サイズはほぼ同じ、音質面では肉薄どころか、部分的には勝っているところもあるポータブルDACヘッドフォンアンプ・Q7を使ってみた。その結論としては「意外に使い出があるので、人によってはM17を買うよりアリかもしれない」という事だ。

DAP機能は省かれているが、スマホとUSB接続すればDAPになる。巨大過ぎて、手で持ったまま聴くのはちょっと無理だが、そんな時はカバンにQ7を入れたままにして、Bluetoothでスマホと接続すれば良い。

基本的には、自宅と職場やカフェなど、座って過ごす異なる場所に移動しても、据え置きレベルの超高音質が楽しめるトランスポータブルとしての使い方がメインになるだろう。

一方で「そうは言っても巨大なので、毎日職場などに持っていかないよ」という人も多いだろう。しかし、例え家の中に置きっぱなしで使うことがメインになったとしても、Q7ほどの音質とドライブ力、そしてDCモードの凄さがあれば、“コンパクトな据え置きヘッドフォンアンプ”や“超高音質なUSB DAC”として家の中で活躍してくれる。つまり“基本は据え置き機器として使い、ここぞという時に持ち出す”使い方でも、利用頻度は高いという事だ。

逆に言うと、DAPであるM17を買っても「デカくて重いので持ち歩かなくなって、家でばかり使っている」のであれば、Q7を買った方が、安いので無駄のない買い物と言える。世界的に縮小傾向であるポータブルアンプ市場だが、Q7のような大胆かつユニークな製品であれば、活躍の場は多い。そう考えると、約13万円という価格は、実はハイコスパであり、ポータブルDACアンプの便利さを、オーディオファンに再認識させるキッカケになる製品かもしれない。

(協力:エミライ)

山崎健太郎