レビュー
家の最強環境を持ち歩きたい! FiiO「Q7」「M15S」使ったら新たな扉が開いた
2023年7月18日 00:00
AV Watch編集部にやってきて3年ほど経ち、様々なイヤフォンやヘッドフォンに触れるようになった結果、“バランス接続”と“開放型”のヘッドフォンの魅力にすっかりとハマってしまった。そこでふと「ヘッドフォンアンプが欲しいな」と思い立った。
というのも、家で音楽を聴くのは元々スピーカーがメインで、イヤフォンやヘッドフォンはあまり使っていなかったため、バランス接続の試聴用には編集部にあったUSB DAC機能付きDAPを借りて使っており、つい先日、そのDAPのバッテリーが膨張した(修理に出して事なきを得ました)。
元々家ではスピーカー派だったのだが、コロナ禍に入って、友人らとのボイスチャットなども増え、付け心地が軽くて聴こえ方もスピーカーに近い開放型のヘッドフォンを使う機会も増加。どうせならバランス接続がしたいけれど、修理したDAPを家でも常時使うと、またバッテリーに大きな負荷がかかるのでは……というわけで「ヘッドフォンアンプ欲しいな」に行き着いたわけだ。
さらに、発表会やイベントで、有線イヤフォンの試聴する機会も増加。せっかくなら、“家で普段使いしている環境を、取材先にも持ち運びたい”と考えた。
FiiO「Q7」に目をつけた理由
そこで気になったのがFiiO「Q7」だ。
特徴を簡単に言えば、FiiOの弩級DAP「M17」(実売約27万円)からDAPの機能を抜いて、DACとアンプだけにすることで価格を半額以下の134,750円前後に抑えた……というヘッドフォンアンプだ。
このポタアンもDAPと同じようにバッテリーを内蔵しているわけだが、その魅力は“DC給電モード”にある。
Q7は、内蔵リチウムイオンバッテリーでの駆動モードに加え、付属のDC駆動用ACアダプターを接続するとDC給電モードになる。このモードではよりハイパワーになり、ヘッドフォンを力強くドライブできるだけでなく、内蔵バッテリーを絶縁状態にして、バッテリーの劣化を防ぎつつ、据え置きアンプとして使える。これならバッテリーへの負荷をかけず、安心して家でガンガン普段使いできる。
しかし、外に持ち出すことを考慮すると、DAP機能も欲しい。Q7の場合は、スマホとケーブルで接続して2段重ねしなくてはならない。DAP機能付きのM17が欲しいが、価格も弩級なのでちょっと手が出ない……。
と思ったら、Q7と同じ価格帯で、バッテリーを保護しながら据え置きDACアンプとしても使えるDAPがあるという。その名も「M15S」(実売152,900円前後)。
この2台を借りて、2週間ガッツリ使ってみた。結論から先に述べておくと、音質優勢の「Q7」と、サイズ感と使い勝手の良い「M15S」のせめぎ合いに頭を抱えることとなった。
なお、家や編集部ではPCとのUSB DAC接続、外ではQ7とスマホ、M15Sは普通にDAPとしてと、限られた機能を試した。各モデルの機能を網羅したレビューは別記事を参照のこと。
バッテリー駆動でも満足できる「M15S」、その上を飛び越える「Q7」
試聴に使ったヘッドフォンはソニー「MDR-MV1」。ソニー非推奨ではあるが、ソニーの4.4mmバランスケーブル「MUC-S12NB1」でバランス駆動ができるので、この組み合わせをメインに使った。
まずは両方とも、PCとUSB接続して使ってみる。筆者の環境ではPD給電が可能なPCが無く、M15SをPCと接続するとバッテリーを使用してしまうため、Q7の方をバッテリー駆動モードにして、条件を揃えて聴き比べてみた。
試聴曲は「GHOST/星街すいせい」。Amazon MusicのPC版アプリを使い、排他モードで再生している。
まずM15Sを聴いてみる。MDR-MV1が鳴らしやすいこともあり、ゲインをSuper Highにすると35(MAX120)くらいでも迫力を十分に感じられる音量がとれる。ただ、Super Highではノブに触れて音量が1変わるだけで音量がドカっと上がってしまうので、扱いやすさ的にはゲインをLowにして60辺りにするのが良さそうだ。
出力端子は3.5mmステレオミニ、4.4mmバランス、2.5mmバランスで、イヤフォン/ヘッドフォン出力のほかに、それぞれをラインアウトに切り替えることもできるが、今回はヘッドフォン出力だけ使う。
曲の頭のベースの響きからベースの弦が震える様子が目に浮かぶ解像感と、低域の量感を両立しながら、ボーカルは近くではっきりと、高域も伸びが良くすっきりと抜けていくので、GHOSTのMVとイメージドンピシャで音が広がっていく。
MV1の良さを十二分に発揮していて、「もうM15S買ったら満足かもしれない」と思う。しかし、Q7の音を聴くと、本気で頭を抱えてしまった。
Q7の方の出力は3.5mmステレオミニ、4.4mmバランス、2.5mmバランスに加えて、6.3mmステレオ標準まで備えており、本当にこれはポータブルアンプなのか? という疑問が頭を過る。
再生してみると明らかに音の情報量が違う。Q7の方がボーカルの声に厚みがあり、肉声のような雰囲気の聴き取りやすい音になる。低域のパワフルさも増しているのだが、声にもしっかり厚みがあるので埋もれることがなく、高域側も開放型のMV1のハウジングをさらにぶち抜いているかのように広がっていくので、ヘッドフォンよりもスピーカーで聴いている感覚に近い。
より声の低い女性ボーカル「ギブミー/龍ヶ崎リン」を聴いてみると、さらに差がわかりやすい。ベースの量感とドラムのキックの響きが強めの曲なので、TWSなどで聴くと、よっぽど低域が軽めで中域から中低域がしっかりしたものでないと、せっかくのガサキの良い声が演奏の低域に埋もれがちになる。
これが、M15S+MV1の時点でも特に低い声のシーンが負けずに見えていたのだが、Q7になるとさらに声の輪郭がくっきりして、存在感マシマシで耳に届いてくる。低音が響く曲全体のかっこよさをしっかり保ちながら、歌っているときのガサキの声の良さまで十二分に味わえる。
恐ろしいのは、これがどちらもバッテリー駆動モードということだ。まだ本気を出していない状態で、プライベートで使ってきたDAPの遙か上空を飛んでいるかのような音が鳴っていること。踏み出してはいけない1歩を、力強く踏み込んでしまって、もう今まで居た場所には戻れない、みたいな感覚が脳裏を過った。
案の上すごかったDC給電モード
次に、条件は若干異なってしまうが、ともにバッテリーを介さない本気のDC給電モードで聴いてみる。M15SはUSB PD対応の電源に接続し、AndroidモードにしてAmazon Musicのアプリを使う。ゲインUltra Highの開放とバッテリー給電を停止(デスクトップモード)しますかというウィンドウが表示されるので、両方にマークを入れて「オンにする」で切り替わる。
早速聴いてみると、Androidのアプリからの再生でも、先ほどのバッテリー駆動+USB DACモードよりも音の厚みが増して、情報量が豊かになっている。「DAPの買い換え」として考えていたらここでもう即決だっただろう。
家ではPCのヘッドフォンアンプとして使いたいという筆者の要望的には、USB DAC接続用と給電用でUSB端子が2系統あったらこのままポチっていた。PC側のUSB端子がUSB PDに対応していない場合、USB DAC機能とDC給電モードは同時に使えないのだ。
次にQ7を聴いてみる。こちらは付属のアダプタでコンセントに繋いで、底面のスイッチをBATからDCへ変更。画面に「The unit will not be charged in DC mode.」と表示されて、ゲインが自動的に「Ultra High」に切り替わる。このゲインの切り替わりは設定から自動と手動が選べるようになっている。
こちらは先ほどと同じくPCと接続して、Amazon Musicの排他モードで再生。同じく「GHOST/星街すいせい」を再生すると、最初の低音の沈み込みからもう違う。ベースの弦が揺れる様子も目に浮かびつつ、ずぅーんと地の底から持ち上げられるような低域の量感も同時に感じられる。
MDR-MV1は鳴らしやすい部類で、開放型ながら低域の量感がしっかりと感じられるヘッドフォンではあるのだが、その本領を発揮するとここまで響くのかと驚かされる。
バッテリー駆動のときも感じたが、ボーカルの声の生っぽさがさらに増して、良い意味でぞわぞわしてくる。楽曲を楽しむのも良いのだが、Q7で推しの配信を聴いてみると、これがもう戻れない。
筆者は動画配信を複数開いて同時に視聴していたり、そのまま友人らとボイスチャットをすることもあるのだが、Q7の場合、それぞれの音量バランスさえ整えてしまえば、自然と全ての声を聞き分けできてしまうくらい、声の部分の解像度が高い。
聴いてみるまで全く想像していなかった「あったら良いな」と思っていた機能/性能を詰んだデバイスと巡り会ってしまい、ぶっちゃけ困惑した。きっとこの先を行く存在も居るのだろうと思うとちょっと気が遠くなってくる。
ちなみに、DC給電で使用するとどちらもそこそこ本体が発熱するのだが、冷却ファン付きの台座が付属するので、これを使うとそこまで気にならない。ともに底面側にはUSBなどの接続ができるように穴が空いている。ファンを回す場合はこの台座にもUSB給電が必要になるが、立てかけておくだけでも本体が熱々になるのが防げそうだ。
音は断然「Q7」。利便性は圧倒的に「M15S」
実際に外にも持ち出してみる。Q7もM15Sも標準でカバーが付属しているため、それを装着。ともにダイヤル部の誤操作を防ぐような設計になっている。M15Sは背面にスリットの入った金属板がはめられており、カバー内に熱が篭もりにくくなっているようだ。
M15Sは普通にDAPとしての使用感をチェック。MDR-MV1では積極的に外にも音を発してしまうので、有線ヘッドフォン「ATH-MSR7b」を使用。Androidモードで、Amazon Musicアプリに事前DLしたプレイリストをバランス接続で再生しながら編集部まで出社してみた。
最寄りの駅から再生を始めて、編集部到着まで約1時間。少し厚みのあるスマホサイズなM15Sはズボンのポケットにもなんとか入るので、入れたまま歩いてみたが、重さなどはそこまで気にならなかった。
唯一気になったのは、この季節のせいもあるが発熱。カバーの仕様も相まって、ポケットに入れておくと、じんわりと温かい。「熱い」までいくことはないが、冬場にあると嬉しいくらいの熱を持ってしまう。
一方Q7は、そもそもポケットには入らない。バッグなどに入れておいて、イヤフォン/ヘッドフォンのケーブルを出す隙間を作っておくなど移動時に使うには工夫が必要だ。
筆者の場合はそもそも移動時に使うのを諦めた。スマホと有線で繋ぐ場合は、Q7をバッグから出すか、スマホもバッグにしまっておく必要がある。そして、Q7にはスマホからBluetooth受信して有線イヤフォン/ヘッドフォンを使う機能もあるが、正直この1時間程度の移動時間であれば、スマホ+TWSで良いやと思ってしまう。
なので、「よし、今日はヘッドフォンの試聴に行くぞ」と思った日にバッグに入れておくというように、“いざとなったら持ち出すこともできるヘッドフォンアンプ”という扱いにしておいた方が良さそうだ。
実際にヘッドフォンの試聴をするために持ち出してみたが、小型のDACアンプで「イマイチかもなぁ」と思っていたヘッドフォンが、Q7で鳴らすとハキハキとした音で気持ちよく鳴るものもあった。しかも、家で聴いている環境をほぼそのまま持ち出す形になるので、候補が選びやすくなる。結果、欲しいヘッドフォンが増えてしまった。
「Q7」が手放せない。最大の決め手は“バッテリー”と“動画編集”
2週間ほど使ってみて、筆者の使用環境ではQ7が合っているという結論に至った。やはりメインでの使い方が、家でPCと接続して使うことなのが大きい。
M15Sも仕上がりがとても良く、DAPとしての性能には不満が一切ないのだが、どうしても、筆者の環境ではPCとの接続時にバッテリーを使ってしまうことが大きな懸念ポイントになった。もちろん、過充電を防ぐ機能が搭載されているのだが、せっかくならば絶縁するモードで使いたい。PCがUSB PD給電しながら接続できる性能を持っていたら、使い勝手的にM15Sを選んでいたと思う。
が、やはりQ7に軍配が上がった。実はバッテリー問題のほかに、もう1つ“決め手”がある。それが「動画編集のしやすさ」だ。
聴き比べでの感想でも述べたのだが、Q7で再生すると声に厚みが出て、言葉が一際聞き取りやすくなる。借りていた期間にも動画編集作業をしていたのだが、この特徴が本当に役に立った。
今まで、聞き取りにくい箇所を何度も聞き直して字幕を修正する作業が割りと多く発生していたのだが、Q7使用時は、それらがほとんど一発で済むようになり、大幅に作業効率が上がった。
動画の言葉が聞き取りにくくなってしまっている箇所は、Premiere Proの文字起こし機能でも、謎の文章が書き起こされてしまうので、こういったときは自分の耳を頼らざるを得ない。もちろん、撮影技術を磨いて、音声を確実に録れるようにするのも大事なのだが、なかなか難しい。
そして、記事の執筆をしながら動画の撮影/編集もする中で、この聞き取りが一番億劫な作業なのだ。それがヘッドフォンアンプで変わるとは思いもしなかった。
上記の通り、気軽に持ち出そうと思うサイズ感ではないのだが、「今日は試聴が絡む取材だ」「今日は編集部に出て動画を編集しなければいけない」といった目的があるときに、バッグに入れて持ち出せるのは大きな利点だと思う。
実際、返却後すぐにQ7を購入。もう手放せないデバイスの1つになってしまった。一度体験してしまうと元に戻れない、新たな扉を開いてしまったような感覚に陥って、この世界の沼の恐ろしさを実感する。
あとは編集部で作業する際にも周りに他の社員が居るため、開放型のヘッドフォンを使う訳にはいかないので、家以外で動画編集用に使いやすい有線イヤフォンが欲しいところ。実感した沼の恐怖は忘れて、さっそくQ7を持ち出して合いそうな物を探しに行こうと思う。