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AKG、ついに完全ワイヤレス参入。さすがの音質、脅威の完成度「N5 Hybrid」を聴く
- 提供:
- ハーマンインターナショナル
2024年5月16日 08:00
最近は“イヤフォン”と言えば“完全ワイヤレスイヤフォン”を意味するようになってきた。それに伴い、ソニー、ゼンハイザー、JBL、Bowers & Wilkinsといった、有線イヤフォン・ヘッドフォンやスピーカーの人気ブランドも完全ワイヤレスに相次いで参入。「役者も揃って、完全ワイヤレス市場も落ち着いてきたな……」と思っている読者も多いだろう。だが、1つ、大切なブランドを忘れていないだろうか?
特にヘッドフォンにおいて、オーディオファンに圧倒的な知名度と「いつかは手にしたい」と憧れを抱かせるブランド、“アカゲ”ことAKGだ。そう、AKGはまだ完全ワイヤレスイヤフォン(TWS)を日本で発売していなかったのだ。
しかし、5月17日にいよいよ、AKGのTWS国内展開第1弾「N5 Hybrid」(38,500円)が発売される。あのAKGのTWSだ、どんな音になっているのか、気になりすぎるので早速借りてみた。結論から先に言うと、「さすがAKG」という納得のクオリティを実現しつつ、便利な周辺機器も同梱するなど、第1弾とは思えない完成度の高さになっていた。
なお、同時期に、同じNシリーズのワイヤレスヘッドフォン「N9 Hybrid」も登場しているので、こちらも聴いてみよう。
そもそもAKGとは?
いきなり“AKGを知っている事”を前提に書き始めてしまったが、「名前は聞いたことあるけど、良く知らない」という人も多いだろう。
創業1947年、今からなんと77年も前だ。オーストリアのウイーンで、ラドルフ・ゲリケ博士とアーンスト・プレス氏が立ち上げた。物理学者で発明家、ヴァイオリニスト、そして画家でもあったゲリケ博士は、電気音響学の分野で300以上の国際特許を取得する天才。その右腕として、エンジニアのプレス氏も活躍し、AKGを世界的な音響メーカーに育て上げた。
ちなみに「AKG」という名前は、ドイツ語の「Akustische und Kino-Geräte Gesellschaft m.b.H.」の頭文字。英語では「Acoustic and Cinema Equipment」という意味だ。
革新的なヘッドフォンやマイクなどを多く手掛け、AKGブランドが誕生して以降、取得した音響機器関連の特許は1,200以上。世界中のアーティストに愛用され、カラヤンが設計に参画したベルリン・フィル・ハーモニーにもAKGシステムが採用されている。
一般の人に大きく認知されたのは、1985年クインシー・ジョーンズがプロデュースした「We Are The World」だろう。音楽自体も大ヒットしたが、マイケル・ジャクソンら世界的なアーティスト達がAKGのモニターヘッドフォンを装着しながら歌う映像も話題に。「AKG = プロが収録の現場で愛用するモニターヘッドフォンのブランド」という鮮烈な印象が刻まれた。
筆者もそんな1人で、ちょっとレトロなデザインにも痺れ「カッコいいAKGのヘッドフォンが使いたい」と学生時代からバイト代を貯めて何台も購入。モニターヘッドフォンらしい高解像度なサウンドでありつつ、しなやかさも感じる美音で、うっとりと聴き入ったものだ。
そんなAKGから、ついに国内初のTWSとなる「N5 Hybrid」と、ワイヤレスヘッドフォン「N9 Hybrid」(55,000円)が登場した。AKGの製品が途切れていたわけではないが、改めて日本で再展開するカタチとなっており、しかもAKG国内初のTWS。それだけ気合が入ったモデルになっているわけだ。
AKG国内初のTWS「N5 Hybrid」
カラーはホワイトとブラックの2色。イヤフォンの形状はスティック型のため、装着すると、耳たぶあたりにスティック部分が設置。それが支えのようになるため、装着安定性が高く、首を振ったり、小走りする程度では落下しないし、位置がズレる事もなかった。
デザイン的には、スティック部分に「AKG」とブランドロゴが大きく描かれており、その周囲は光沢のあるシルバーで縁取りされている。シンプルかつモダンなデザインだが、高級感も感じられるのがとてもAKGらしい。
3サイズのシリコンイヤーピースが付属する。スマホにアプリ「AKG Headphones」をインストールし、ペアリングすると、冒頭にフィット感のチェックプログラムが走る。装着した状態でテストを開始すると、測定音が流れ、イヤフォンの装着位置や、選んだイヤーピースのサイズが最適かどうかを判断してくれる。
内蔵ユニットはダイナミック型で、口径は10mm。ただのダイナミック型ではなく振動板にDLC(Diamond-Like Carbon)のコーティングを施す事で、剛性を高めているのが特徴。これにより、細やかなディテール描写が可能になるそうだ。
内部には、ユニット背面からの音や、響きなどを調整するためのアコースティックチャンバーも配置。EQチューニングも追求したという。
BluetoothのコーデックはSBC、AACに加え、LDACもサポート。ワイヤレスでもハイレゾ相当のサウンドが楽しめるようになっている。さらに、遅延を抑え、接続安定性も高めたLC3+にも対応。LC3にも対応予定となっている。
ハイブリッドのノイズキャンセリング(NC)機能も搭載。室内でONにしてみると、パソコンの「ウォーン」というファンノイズや、冷蔵庫の低いうなり声、「コォー……」という感じのエアコンノイズも綺麗に消える。効果はかなり強力にも関わらず、鼓膜を圧迫するような不快感は無いので、音楽を流さずにNC機能だけONにして、静かな環境で勉強や仕事をするという使い方もアリだろう。
その時に便利な「SilentNow」という機能もある。これを使うと、Bluetooth接続が解除され、NC機能だけON状態になる。素晴らしいのは「4時間」など時間を設定しておくと、アラームを鳴らしてくれる事。飛行機に長時間乗るとか、電車を乗り過ごさないようにするといった使い方もできるだろう。
屋外で使うと、風の音やクルマの「ゴォー」という走行音も綺麗に消える。地下鉄で使ってみたが、「グォオオ」という車体の不快な反響音が大きく低減され、「コォー」という高音だけ少し残る。音楽を流せばほとんど騒音は気にならない。
十分に優れたNC能力だが、アンビエントアウェア機能も優秀。散歩しながらONにすると、すれ違ったひとの会話や、鳥の声などが明瞭に聞き取れるようになるが、その取り込んだ声がとても自然で違和感が少ない。また、その状態で風に吹かれても、風切り音はそれほど耳に入らない。
イヤフォンの片側に、声をクリアにとらえるための2つのビームフォーミングマイクを備えるほか、通話とノイズを分離するためのインナーマイク1基も搭載。左右合計で6個のマイクを内蔵している。このマイクには当然、AKGのマイク技術も活かされているそうで、取り込んだ音の自然さにも、技術力の高さがうかがえる。
また、通話用には、通話相手の音声を3段階から調整したり、相手に届ける自分の声を3段階から調整する機能、話している相手の声が大きすぎる、小さすぎる時に、自動でバランスを調整する「サウンドレベルオプティマイザー」なども備えている。
バッテリーの持続時間は、ANC ON状態で約8時間。充電ケース併用で24時間分の追加が可能だ。バッテリーケースは艶消しでサラサラした質感。指のかかりも良いので、イヤフォン収納時に落としにくいだろう。
N5 Hybridのサウンドをチェック
Google Pixel 8 Proとペアリングして音を聴いてみよう。……その前に、アプリのAKG Headphonesから「オーディオ」タブに移動し、「ハイレゾオーディオ」機能をONしておく。ONにすると、イコライザーや空間サウンド、Personi-Fiといった機能が使えなくなり、消費電力も増加するが、LDACで接続可能になる。
Amazon Musicから「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。冒頭ピアノの響きが広がり、アコースティベースの深い低域が入ってきた段階で「おおおっ」と顔がニヤけてくる。余分な低域の膨らみが無く、中高域がクリア。ボーカルの声が左奥の空間へ広がっていく様子が、非常に細かく聞き取れる。
この見通しの良さ、中高域の繊細な描写は非常にAKGっぽい。高域の解像度は非常に高いのだが、カリカリにキツイ描写ではなく、ベースの弦が震える様子や、女性ボーカルの声は自然で、しなやかさも兼ね備えている。この気品漂う空気感こそAKGの魅力。TWSでもそれが感じられて、「やっぱこれだよなぁ」と嬉しくなってしまう。
低域の解像度も負けじと高い。ベースのラインは深く沈み、重さをしっかり感じさせる音になっているが、余分な膨らみは抑えられており、とてもタイトだ。全体的にはわずかにハイ上がりのバランスに聴こえるが、低域の沈み込みはしっかりと深いので、腰高な印象は受けない。迫力もしっかりと感じさせるバランスだ。
「手嶌葵/明日への手紙」のような、透明感のある曲を再生すると、まさにAKGの独壇場。歌声が波紋のように広がる様子が目にみえるよう。その広がりは、左右だけでなく、奥の空間まで広がっていく。密閉型イヤフォンなのだが、開放型ヘッドフォンを聴いている気分。ユニット背面からの音や、筐体内の響を調整するためのアコースティックチャンバーが効果を発揮しているのだろう。
「米津玄師/KICK BACK」のような激しい曲も良い。前述のように、最低音はしっかりと深いため、ベースラインがゴリゴリと刻まれる様子は迫力満点。低音がタイトなので、逆にベースの鋭さがよくわかり、疾走感に拍車がかかる。歌声やSEが空中にばらまかれるが、空間描写が広く、解像度が高いため、音像と音像の距離がしっかりと離れており、細かな音が聴き取りやすい。
音楽に含まれたすべての要素を、余す所なく聴き取れているかのような、全能感に包まれるイヤフォンだ。
なお、「ハイレゾオーディオ」機能をOFFにすると、イコライザーや空間サウンド、Personi-Fi機能などが使えるようになる。Personi-Fiは個人最適化機能で、異なる帯域の測定音が流れているあいだ、ボタンをタップし続ける事で、ユーザーの耳にマッチしたサウンドに補正してくれる。実際に測定すると、中低域のパワフルさが増すので、迫力ある曲を聴く時は、この機能を活用するのも良いだろう。
ゲーム機との連携も手軽に
先ほどから、写真に小さな横長のパーツが写っていて気になる人もいるだろう。実は、N5 Hybridの充電ケース内には、2.4GHz帯を使い、低遅延なLC3+でイヤフォンへサウンドを送信するドングルも入っている。
ドングルにはUSB-C端子が搭載されており、パソコンやゲーム機と接続すると、そのサウンドをN5 Hybridへ送ってくれるというわけだ。パソコンと接続しやすいように、USB-Aへの変換アダプターも同梱している。
試しに、Nintendo SwitchのUSB-C端子にドングルを接続。「スプラトゥーン2」をプレイしてみたが、非常に快適。SwitchからBluetoothで送信すると、どうしても遅延が気になっていたのだが、ドングルからの送信であれば、遅延はほとんど気にならなかった。スプラトゥーンのように、インクの音を聴いて、隠れた敵の位置を把握するようなゲームでは、遅延の少なさと、細かな音の聴き取りやすさが重要となるが、N5 Hybridはその両方を満たしている。
ちなみに、ドングルをiPhone 15やiPadなどのUSB-Cを備えたiOS機に接続すると、48kHz/24bitのハイレゾクオリティで音楽再生できる。ゲーム機連携だけでなく、より良い音で楽しむための手段としてドングルを使うというのもアリだろう。
ヘッドフォン「N9 Hybrid」も使ってみる
ワイヤレスヘッドフォン・N9 Hybridも聴いてみよう。
機能面はN5 Hybridとほぼ同じで、NC機能を備えているほか、BluetoothのコーデックもSBC、AAC、LDAC、LC3+対応で、LC3にも対応予定。ドングルも同梱しているので、ゲーム機との連携もバッチリだ。面白いのは、左ハウジングが横にスライドし、内側の空間にドングルを収納できる事。「使いたい時にドングルを持っていない」なんて事が防げて便利だ。
ユニットは40mm径で、PU+LCP液晶ポリマー振動板を採用。剛性の高さを活かし、共振と歪みを減少させている。アプリもTWSと同じ「AKG Headphones」が使える。「ハイレゾオーディオ」機能をONにすると、LDAC接続が可能になるのも同じだ。
ヘッドフォンになっても、サウンドの傾向はN5 Hybridとよく似ている。
中高域の解像度が高く、高域の質感描写も自然。「月とてもなく」ボーカルも、人の声の温かさが感じられ、硬質な響きが乗ったりもしない。ベースの低域も深く、重く、低音の中にしっかりとした芯が感じられる。
一方で、ヘッドフォンになった事で、中低域の響きが豊かになる。ただ、その響きも、無駄に膨らんでボワボワしたりせず、タイトさも兼ね備えているのがAKGらしいところだ。
響きが豊かになる事で、音楽にゆったりと身をまかせるよな安心感が生まれる。重心も低く感じられるため、音楽も良いが、Netflixで映画を見たり、YouTubeで動画を見る時にもマッチする。
ドングルを使ってゲームをプレイする時も、銃撃音の激しさや、BGMの重厚さが感じられるので、TWSよりも、よりドラマチックにプレイできる。そういった意味では、モニター寄りではなく、日常生活の相棒として通勤通学やエンタメ再生でバリバリ使い倒すヘッドフォンとして活躍しそうだ。
“AKGサウンド”だけじゃない魅力
長年のAKGファンで、「あのサウンドをTWSでも楽しみたい」と思っている人にN5 Hybridはオススメだ。それだけでなく、「TWSでも繊細な音が聴きたい」、「エントリーTWSからステップアップして本格的なサウンドが聴きたい」と思っている人にも、N5 Hybridの試聴をオススメする。
AKGらしいサウンドを実現しつつ、アプリの多機能さ、NCの強力さ、ドングルを使ったゲーム機との親和性の高さといった付加価値も、高い次元で実現している事も評価できる。ブランド第1弾というと、普通は荒削りな面もあるものだが、N5 Hybridにはそんな不安がまったく無い。このクオリティの高さは、さすがハーマングループだ。
N9 Hybridも、実力派のワイヤレスヘッドフォンだ。ヘッドフォンである事を活かし、よりパワフルな低域が楽しめるほか、NCの効果もより強力だ。本体は軽量で、側圧も適度なので、長時間装着しても負担が少ない。音楽をたっぷり楽しむだけでなく、長時間映画やゲームを本格的なサウンドで楽しみたいという人にも、マッチしそうだ。