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アンプは20年でどのくらい進化した?デノン「PMA-3000NE」を10年、20年前の名機と聴き比べる
- 提供:
- デノン
2024年12月4日 08:00
アンプは20年でどのくらい進化したのか
オーディオの新製品と言えば、“以前のモデルからどこが進化したか”という話になるが、現実的に新機種が登場するたびに買い替える人は稀だ。特にアンプのようなスペック的に陳腐化しにくいコンポの場合、10年ぶりに買い替えるなんて事も珍しくないだろう。
10年前、20年前のモデルと比べると、アンプはどのくらい進化したのだろうか。DACやネットワークプレーヤーなど、デジタル系機器の進化が著しいのは当然だが、アンプだって内部のパーツは進化している。さらに、10年、20年と経てば、手掛ける技術者や、音決めをする担当者だって変わる。
それはデノンのアンプではどうなのか。――実際に10年前、20年前のモデルと最新機種を聴き比べてみることにしよう。用意したのは以下の3モデルだ。価格に若干バラツキはあるが、その当時のプリメインアンプのハイエンドモデルである。
- 2005年発売「PMA-SA1」税抜66万円
- 2014年発売「PMA-SX1」税抜58万円
- 2024年発売「PMA-3000NE」税抜48万円
PMA-SA1、PMA-SX1、PMA-3000NEでどこが進化したのか
こうして10年前、20年前のアンプを前にすると、当時の思い出が蘇ってくる。
現在、デノン製品の音決めを行なっているサウンドマスターは山内慎一氏だが、2014年のPMA-SX1は山内氏の前にサウンドマスター(当時の呼称はサウンドマネージャー)だった米田晋氏が手掛けたモデル。米田氏とは地方のイベントによくご一緒した。
さらに2005年のPMA-SA1は、米田氏の前に音決めを担当していた渡辺氏によるモデルだ。当時、自宅まで渡辺氏がタクシーでPMA-SA1を運んできてくれて、家でサウンドをチェックしたことを思いだした。
このPMA-SA1は、素子のバラツキ問題を起こさないため、あえて最小単位の素子でドライブをする「UHC(Ultra Hight Current)-MOS」素子を搭載したシングルプッシュプル回路を搭載している。素子自体は当時から進化しているが、“UHC-MOSを使ったシングルプッシュプル回路”という基本構成は、最新のPMA-3000NEでも同じであり、デノンアンプのこだわりの根幹と言える。また、全段をバランスアンプ構成とするなど、贅沢なモデルだった。
その9年後に登場したPMA-SX1は、定格電流や瞬時電流を倍増させた新しいUHC-MOS FETを搭載。内部配線の最短化や、素材にOFCを使うなど、シンプルさにもこだわっていた。デザインもフロントパネルにソース切り替えとボリュームノブくらいしかないシンプルなもので、今見ても洗練されたデザインだ。
そして、今年の最新機種がPMA-3000NE。UHC-MOS FETのシングルプッシュプルで、差動1段アンプ回路を採用している。可変ゲイン型プリアンプとパワーアンプによる二段構成になっており、音量に合わせてプリアンプのゲインを増減させることで、一般的に使われることの多い音量の範囲ではプリアンプでの増幅をしない。これにより、ノイズレベルを改善している。
また、基板と基板の接続に使っているワイヤーがノイズを拾いやすいため、ワイヤー接続を極力減らし、基板同士を直結。パワーアンプ基板の銅箔の膜を厚くする事でインピーダンスを下げるなどの工夫も行なっている。
10年前、20年前のアンプには無かった機能として、USB DACも搭載している。アンプにデジタル系の基板を入れるとノイズの問題が生じるが、それを防ぐためにデジタルアイソレーターを採用し、PCから流入する高周波ノイズを遮断。デジタル入力回路を1.6mm厚の鋼板3枚によるトランスベースの下に配置するなどの対策もしている。
PMA-3000NEには現サウンドマスターの山内氏が手掛けたカスタムコンデンサーなどカスタムパーツを大量に投入している。これも音の違いに効いてくるだろう。
CDで3モデルの進化を聴き比べる
試聴は、ソースにデノンのSACDプレーヤー「DCD-3000NE」を使い、スピーカーはBowers & Wilkinsの「801 D4」を使った。試聴曲は、情家みえ『情家みえ/エトレーヌ』から「チーク・トゥ・チーク」、ミュンシュ&ボストン交響楽団の『英雄』(XRCD)から、1曲目の「I Allegro con brio」。
まずはPMA-SA1で「チーク・トゥ・チーク」を再生する。
良く言えば、ジェントルで耳あたりの良い、肌触りも良い音だ。優しい音なのだが、やはり“出てこない情報があるな”と感じてしまう。
音の輪郭にエッジが欲しい。ベースの音は出てはいるが、低音の核となる“塊感”が弱く、軽い音に聴こえる。ボーカルやピアノも同様で、綺麗に、滑らかに鳴ってはいるが、ピアノの細かい音のディテールや質感がもっと出て欲しい。
情家さんのボーカルには、元来凄くニュアンスが入っているのだが、その表現が全体的にフラットに描写される。ジェントルで優しい音という言い方もあるが、伸びがもっと欲しくなる。
続いて聴いたのは、1957年録音の『英雄』。ボストン交響楽団をシャルル・ミュンシュが指揮した名盤中の名盤だ。英雄は、ドイツ的な精神が溢れた曲だが、ミュンシュはドイツ帝国領のアルザス地方で生まれて、フランスのしなやかさと、ドイツの豪傑な感じ、その両方を持った指揮者でもある。そうした表現が聴きどころだ。
しかし、PMA-SA1では、そうした演奏の特徴があまり出てこない。音場は広がるが、F特やダイナミックレンジは狭い。音が中央にまとまりがちなので、ボストン交響楽団が、中学生の演奏のように聴こえてしまう。
ただ、PMA-SA1の身になってみると、20年前に801 D4のような解像度が高く、鳴らしにくいスピーカーは存在しなかったので、「後からこんなスピーカーが出てくるなんて聞いてないぞ」と怒るかもしれない。同じB&Wのスピーカーでも、20年前のモデルと組み合わせれば、印象は変わっただろう。
では10年前のPMA-SX1はどうなのか。
結論としては、格段に良い。ジェントルで温かさのある音なのだが、高域に伸びが出て、クリアさも感じるようになった。“温かさがありながら、解像度も高い”サウンド。音像の中心にも、しっかりと核が出てきた。
米田氏が手掛けたアンプのためか、艶っぽさ、グロッシーさも感じる。なんというか、色気が漂っう音だ。柔らかさと音の粒子の細かさが出ている。
チーク・トゥ・チークで「I want my arms about you」と声が上がる部分で、艶っぽいニュアンスが初めて出てくる。癖っぽさはあるものの、情緒感もあり、今聞いてもかなり魅力的な音だなと感じる。
英雄も、PMA-SA1と比べて、PMA-SX1の方が遥かに情報量が多い。レンジの上下も広がり、小さな音と大きな音の差もちゃんと出てきた。倍音も豊富で、艶っぽく、気持ちよく聴ける音だ。
ただ、これが原音なのかというと、少し甘ったるい音だとも感じる。情感はあるが、キレ味が不足している。とはいえ、気持ちよく、スムーズに音が流れ出ているので、現在でもこの個性が気に入る人もいるだろう。
では最新のPMA-3000NEではどうなるか。
全然違う。作る人が違うのだから、当然違いはあるのだが、質感が凄く良く出て、チーク・トゥ・チークの出だしのピアノとベースでは、ベースの弦を指で弾くピチカートの弾きの感じが生々しく、本当に触って音が出ている様子が見えるよう。ピアノもタッチが鮮明になり、まるでピアノ自体が高級になったかのようだ。
実は、チーク・トゥ・チークの演奏で使っているピアノは、久石譲さんが使っていたスタインウェイのフルコンサートで、もの凄く高級なもの。PMA-SA1では、音が薄く、PMA-SX1でも癖っぽさがあったが、PMA-3000NEでは本物の質感が出ている。
ボーカルも素晴らしく、音の中に核があるし、音の表面の情報量も全然レベルが違う。歌手は、歌詞に気持ちを込めて歌う。それは表現のニュアンスだが、このPMA-3000NEは、オーディオが細やかに表現する“音響的なニュアンス”が凄く出てくるのである。
このように情感、質感の表現が巧みになり、進化というよりも“格の違い”を感じる。表現がより深くなる。やはり10年、20年の違いは絶対にあるなと感じる。
英雄を聴くと、もう冒頭の「ジャンジャン!」というトゥッティの部分から、これまでのアンプとまったく違う。過去のアンプは輪郭が崩れ気味だったが、PMA-3000NEではキチンと輪郭が出る。それも鋭角にだ。それだけじゃなく、その中にも音が詰まっていて、核がしっかりある。
音のエッジのキレ、質感もレベルが違う。質感とは何かというと、一つは“楽器の音色が正しく出てるかどうか”。PMA-3000NEは、弦の倍音までちゃんと出るし、木管は木管らしく、グロッシーに出てくる。
さらに、倍音のリッチさと、パートの間の空気の濃密さ。これらを総合して質感と表現しているが、今までは聴こえていなかったものが、PMA-3000NEでは出てきた。
この質感が見えてくると、ステレオ効果もしっかり感じられ、音場が広くなる。先ほどまでは、音がスピーカー間の中央に寄る傾向だったが、それがグッと広がる。まるで映像を見ているような感覚にもなる。
801 D4のような現代のスピーカーをしっかり鳴らせる駆動力もある。801 D4をリファレンススピーカーとして開発したのがPMA-3000NEなので、他のアンプからすればハンデとも言えるが、801 D4の持っている質感を、PMA-3000NEが引き出しているという言い方もできよう。
アナログレコードでも聴き比べる
アナログレコードでも試聴した。ターンテーブルはデノン「DP-3000NE」、MCカートリッジは「DL-103R」を使っている。なお、3モデルはいずれもフォノイコライザーを搭載しているが、PMA-SA1のみMC非対応であるため、昇圧トランスの「AU-300LC」を挟んでいる。
聴いたのは、バッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木雅明氏が選んだ教会カンタータ選集(180g重量盤7枚組)から、6枚目B面『第140番 目覚めよと、我らに呼ばわる声』で、2011年に神戸松蔭女子学院大学チャペルで録音されたものだ。
まずはPMA-SA1から。
音源のレコードが非常に良いものなので、PMA-SA1でも全体としては過不足なく音は出ている。しかし、細かいところを見ると、コーラスの再現が難しい。声がちょっと混濁するようなところがある。高域が歪っぽくなり、メタリックになってしまう。クリアさも足りない。
PMA-SX1はやはり良い。弦の域と、オーボエとチェロの域が明確にわかり、オーボエの響きもしっかり感じられる。PMA-SA1は乾いた印象だった。PMA-SX1では、コーラスにもオーボエの響きも、質感がある。空気のグロッシーな感じも良く出ている。人の声が気持ち良く、特に女性の声は艶っぽく聴かせるアンプだ。
PMA-3000NEになると、透明感や音場の広さ、そこに定位する音との立体感がまるで違う。手前にオケがいて、それを囲むようにコーラスがあり、テノールとの位置関係も凄くハッキリわかる。
神戸松蔭女子学院大学チャペルの、現場のソノリティというか空気感がものすごくよく出ている。
コーラスの表現も素晴らしい。左に女性、右に男性がいるが、その対比感も見事。女性の音域と男性の音域は異なるが、それぞれの声が一緒になった時に、音が濁らず、透明感を保ったまま一緒になる。
そもそもコーラスの表現は、再生機器には難しいものだが、PMA-3000NEの声はビビッドで、音場もすごく透明であるため、コーラスの伸びやかさが自然に表現できている。圧倒的な透明感を与える事で、コーラスの再生という難問を見事に突破している。
確かな進化を感じたPMA-3000NE
20年前、10年前のアンプと比べると、やはり歴然とした違いがある。物理的な要因の1つはスピーカーだ。スピーカーとアンプには想像以上に相性があり、昔のアンプは、最新のハイエンドスピーカーを鳴らすのは荷が重いのかなという印象だ。
それ以上に、“技術の進歩”と“考え方の進歩”、そして“こだわりの進歩”というのが感じられる。PMA-SA1で聴くと、音楽のダイナミックさ、ワクワク感が、小さなスケールになる。
PMA-SX1では、それがかなり開放的になる。当時のデノンの特徴である艶っぽく、色気があって、人肌の感覚は今聴いてもとても良い。ただ、それが合う曲は凄く良いのだが、それで全てが完結するわけではない。今での感覚で言えば“個性的アンプ”になるのかもしれない。
PMA-3000NEは、現代のスピーカーとの相性が抜群に良く、ハイエンドスピーカーを堂々と、細かい部分まで堂々と鳴らしきっている。特にこのスピーカーの質感によくマッチした音だ。解像感、情報量がよく出ている。
現代では、スピーカーの進化だけでなく、ハイレゾや音楽配信など、ソースの情報量も増加している。そう考えると、音源と、アンプという増幅装置、そしてスピーカーというトランスデューサーは、シンクロして進化していると感じる。
例えば、ソース機器やスピーカーを新しいものに買い替えた時に、それらの情報量を思い切り出すためには、やはり最新のアンプを用意したい。そうしなければ実力を発揮できず、出力される音に、何らかのリミットがかかってしまうからだ。アンプというのは縁の下の力持ち的な存在で、そう故障するものでもないので、一度購入するとそのままになりがちだが、こうして最新機種と聴き比べると、10年、20年という単位の差は大きいと思える。
また、世の中には情報量だけは出ているけれど、音が冷たく、表現力がないアンプもある。
山内氏は理想のサウンドとして「ビビッド & スペーシャス」を掲げているが、PMA-3000NEを聴くと、確かに空間性であるとか、ワクワク感、楽しさが、情報量に+して、加わっている音だ。
それでいて、デノンの伝統である、PMA-SX1でも感じられたグロッシーさが無くなったわけでもなく、そうしたデノンの伝統の味わいも持ち合わせている。それでいて、ものすごく情報量が出てきた。透明感もありながら、味わいのある音だ。
他社では、製品に寄って音が大きく違うこともあるが、音質こそがやはり“ブランド”。デノンのように、理想とする音を宣言し、そこに向かっていく戦略を立てているブランドは海外も含めてあまりない。そういう意味で、ブランドのマーネージャーがいて、音を決めるというのは本質的な競争力になる。