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「いい時代になった」デノンのハイコスパAVアンプ「AVR-X1800H」をリビングから本格シアターまで使い倒す

デノン「AVR-X1800H」

テレビのスピーカーは進化し、サウンドバーの選択肢も豊富にある今、AVアンプを使う意義はどこにあるのか。筆者が考える主なメリットはこうだ。まず、「好きなサウンドのスピーカーを選んで使える」こと。最初はフロント2chでも、徐々にサラウンドを加えていくのも楽しみの1つだ。

また、AVアンプなら「最新の規格にも幅広く対応していること」も見逃せない。せっかくのシアター機器も、コンテンツを本来の音や映像で楽しめないなら、魅力も味わい尽くせないという考え方もある。

本稿では、これからAVアンプを導入しようと考えている人に向けて、デノンのAVアンプを愛用していた経験のある筆者が、同社エントリークラスの売れ筋AVアンプ「AVR-X1800H」を使ってみて、シアター入門にふさわしいポテンシャルを備えているかを検証していきたい。

AVアンプのスペックで注目すべきポイント

デノン「AVR-X1800H」

AVR-X1800Hは、デノンの7.2ch AVアンプで最も低価格なモデル。価格は11万円だが、発売から少し時間が経過しているので、6万円台で購入できるECサイトもある。カラーはブラック。AVアンプの概要は、とても多岐に渡るので抜粋するが、おおまかな仕様は以下の通りだ。

最大出力175W/定格出力80Wの7chディスクリート・パワーアンプを搭載。一枚の基板に水平にレイアウトする事で、プリアンプとの最短距離接続を実現したそうだ。

AVR-X1800Hの内部
パワーアンプは、一枚の基板に水平にレイアウト。プリアンプとの最短距離接続をしている

オブジェクトオーディオのDolby AtmosやDTS:Xに対応。イマーシブオーディオ向けのスピーカー接続は、最大5.2.2ch。0.2chの分は、サブウーファーのプリアウトが2系統あることを示す。0.0.2chの分は、フロントハイト、トップフロント、トップミドル、フロントもしくはリアスピーカーの上に乗せるドルビーイネーブルド、これらいずれかの対応を示す。

イマーシブオーディオ向けのセッティングをしない時、サラウンドバック1組を使った最大7.2chのシステムを組むことも可能だ。なお、プリアウト端子は装備しない。ハイトスピーカーやリアスピーカーを設置していない環境でも、Dolby Atmos Height VirtualizerやDTS Virtual:Xを使って、高さ方向も含むあらゆる方向からのサウンドに包み込まれるバーチャル3Dサラウンドを実現するという。

背面

HDMI入力は6系統、出力は1系統。ARC、eARCに対応。全HDMI端子が、著作権保護技術のHDCP 2.3に準拠。一部ポートは8K 60Hz/4K 120Hzに対応。HDR映像のパススルーも充実。HDR10、Dolby Vision、HLGに加え、HDR10+、Dynamic HDRにも対応。HDMI 2.1の新機能「ALLM (Auto Low Latency Mode)」、「VRR (Variable Refresh Rate)」、「OFT(Quick Frame Transport)」へのサポートは、ゲームユースにも優しい。

HDMI入力の音声フォーマットは、基本的なHDオーディオに加えて、新4K/8K衛星放送で使用されているMPEG-4 AACのデコードにも対応。テレビやレコーダーでリニアPCMに変換されることなく、ネイティブで音声がデコードできる。他社のエントリークラスでは対応していないこともあるので、注目ポイントだ。

オーディオ入力は、光デジタルが2系統。アナログRCAが2系統。MM対応のフォノ入力が1系統。ラジオはFM(ワイド対応)とAMでアンテナが付属。LAN入力からは192kHz/24bit、DSD 5.6MHzまで対応のネットワークオーディオ機能や、Amazon Music Unlimited、Spotify、SoundCloudなどのストリーミングサービスも利用可能だ。Bluetoothは、受信・送信に対応しコーデックはSBC。AirPlay2にも対応する。

自動音場補正技術は、「Audyssey MultEQ XT」を搭載。スピーカー設置後に付属のマイクで測定したデータを解析させると、スピーカーごとの周波数特性の違いや反響などの音響的な問題を取り除き、理想的なサウンドステージを体感できるという。組み立て式マイクスタンドも付属する。

外形寸法は434×339×151mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は8.6kg。消費電力は最大440W。専用リモコンやFM/AMアンテナも付属する。

デノンのAVアンプは、他社と比べてもコンスタントに新型モデルが登場する。ラインナップは豊富で、予算と求める機能に応じて、選択肢が豊富なのが特徴だ。

また、新型モデルの投入と合わせて“業界初の新技術対応”も幾度となく果たしてきた。例えば、2014年にDolby Atmos対応、2017年にはDTS Virtual:XやAuro-3Dに対応、2020年には8K対応と次々から次へと業界初を連発し、当時、私も興奮を覚えたものだ。というか、2014年のDolby Atmos初対応モデル「AVR-X4100W」は、自身初のデノン製AVアンプだった。

AVR-X4100W

次に使ったのは、チェッカー・マウント・トランジスタ・レイアウトを初採用した「AVR-X6300H」。X4100Wと同じ筐体サイズに、11ch分ものアンプが入っていた事実に驚いた方もいるかと思う。中身ツメツメな内部構造なのに、1chごと独立アンプ基板のおかげでチャンネルセパレーションはすこぶる良かった。そんなわけで、高級機で導入された機能が普及帯の機種に下りてくるのも早く、先進的なAVアンプが低価格で手に入るのがデノンの魅力ともいえる。

AVR-X6300H

2chからのスタートでもOK。まずはリビングで使ってみる

冒頭に書いた通り、AVアンプの特徴は組み合わせるスピーカーを自分で選び、設置する楽しみがある事だ。「そんなこと言っても、幾つもスピーカーを置けないよ」って人も、心配せず、AVアンプをお勧めしたい。

というのも、筆者は昔、AVアンプでフロント2chのみのミニマム環境を使っていた。高校生の頃、ゲンコツより少し大きいスピーカーセットで5.1chを始めた筆者は、一人暮らしを始めてからは、トールボーイをペアで使った2chシステムに移行したのだ。

その後、イマーシブオーディオが始まると、天井に向けて設置し、反射させた音を聞く「ドルビーアトモス・イネーブルドスピーカー」を一組追加。それをフロントスピーカーの上に置いて、イマーシブオーディオを体感した。つまり、財布に余裕が出てから買い足していったわけだ。

その経験から振り返ると、サブウーファーも追加できればベストだ。サブウーファーは、イネーブルドの導入前でもいい。重低音、映画コンテンツにおけるLFE信号(0.1chにあたる)は、フロントスピーカーに割り振らない方が、フロントのサウンドに余裕が生まれて音質が向上するからだ。

今回、価格帯が近い他社のAVアンプ(ヤマハRX-V6A)を使っているリビングにて、主だったテストを実施。初めてAVアンプに挑戦する人を想定して、現状のままフロント2chのシステムで映像や音楽をチェックした。

後半では、本格シアターを想定し、筆者の防音スタジオ兼シアターにてセンター無しの4.1.2chを視聴している。

現在はヤマハRX-V6Aを設置しているリビング

まずはリビングに設置する。スピーカーは、引っ越し前から使っているDALIのMENTOR 2だ。重さ10kgと小型のサブウーファー並み。16.5cmのミッドウーファーを備え、周波数特性は39Hz~34,000Hz (±3dB)と大柄で堅牢なキャビネットを活かしたローエンドの余裕が持ち味だ。スピーカーが全然初心者向けでなく、そこはお詫び申し上げる。

バイワイヤ対応のスピーカーのため、現行のアンプを撤去し、再度ケーブルを結線。デノンのAVアンプは、ハイクラスの一部を除き、スピーカーターミナルを横一列に並べている。これは縦に並べると、結線がやりづらくなることをメーカー側分かっていて工夫している証だと筆者は考えており、実際にとても繋ぎやすい。今回は、ケーブルがバイワイヤ用の特殊なケーブル(4芯)のため、端と端にまたがってそれはそれで難儀したが、一般的には2本のケーブルを使えば何の支障も無い。

スピーカーターミナルが横一列なのでケーブルが接続しやすい

スピーカーケーブルを接続したら、Blu-rayレコーダーからのHDMIケーブルを3番の「Blu-ray」に接続。テレビへのHDMIケーブルはHDMI OUTに接続する。ゲーム機などを使っている方は、4番のGAMEを使用できる。複数台あるときは5番や6番のAUXに接続する。セットトップボックスなどは、1番のCBL/SATないし、2番のMEDIA PLAYERあたりが適当だろう。ネットワークポートには、既にAVアンプ用に接続していたLANケーブルを結線した。

HDMI入力まわり。左端のUSB端子は、Fire TV Stickなどの電源供給用だ

HDMIポートの左隣、USB POWER ONLYという縦向きのUSBポートは、前機種のAVR-X1700Hには無かった。こちらはDC5V/1.5AまでのDC電源を供給出来るパワーサプライ専用のポートである。Fire TV Stickなどの映像ストリーミングデバイスやDC5Vで動く外部Bluetoothレシーバーなどの電源供給目的が想定される。SBC以外のコーデックでBluetooth接続したい方には、レシーバー周りの配線がシンプルになって助かりそうだ。

余談ついでに、X1700Hから廃止された機能としては、映像のコンポジット端子がある。黄色のアナログ映像入力は使用される可能性が低いことや、空き端子があれば外来ノイズの飛び込みも懸念されるため、廃止したのは理にかなっていると思う。

逆にHD表示に進化したGUIや、分かりやすくなったセットアップアシスタント、上位モデルから受け継いだ音質チューニングのノウハウといった要素はアップデートされている。

セットアップアシスタントはグラフィカル。スピーカーケーブルの剥き方まで教えてくれる

モデルチェンジに合わせて行なった部品変更では、再度の選定を経て60か所の電子部品と15か所の非電子部品の交換が行なわれたとのこと。早いスパンで後継機を出しつつも、細かな性能向上は果たしている訳だ。

話をセッティングに戻そう。スピーカーとHDMIケーブル、LANケーブルを接続したら、ラックに収納。電源コードを電源タップに挿し込んで、準備完了だ。電源を入れたら、すぐにファームウェアアップデートが始まった。

ファームウェアアップデートが終わったら、セットアップアシスタントを実施。セッティング周りを一括で設定出来るナビゲート付のメニューだ。画面の指示に沿って進めていくと、音を、自分の環境に最適化してくれるAudyssey MultEQ XTの測定へと進む。

Audyssey MultEQ XTの測定はザックリこんな流れだ。まず測定用のマイクの設置。付属のマイクスタンド(組み立て式)を使ってもいいが、カメラ用の三脚を使って測定用マイクを固定した。測定用マイクは同梱されている。

付属の測定用マイクを、リスニングポイントに設置

マイクの高さは、視聴するときの耳の高さに合わせる。画面の指示に従って測定スタート。メインの視聴位置+左右2ポイント、メイン位置の一列前+左右2ポイント、メイン位置の斜め後ろ右と斜め後ろ左の2ポイントの計8ポイントでテストトーンを測定する。測定後は、Audyssey Dynamic EQとAudyssey Dynamic Volumeの有効・無効を設定する。

前者は、人間の聴覚や部屋の音響特性を考慮し、音量が小さいときにも、明瞭に聴くことができるように周波数特性を補正する機能。深夜に音漏れへの配慮が必要なときに役立つ。後者は、本機に入力した音声レベルを常にモニタリングしながら最適な出力音量に調節する機能。テレビ放送は、規準ラウドネスによるレベル管理のおかげでCMだけがうるさいという事象は減ってきたが、番組によってはまだ急に大きな音が出て気になるシーンもある。そんな音量のバランスを補正してくれる。筆者はひとまず両方ともオフにした。

測定後、Audyssey Dynamic EQとAudyssey Dynamic Volumeの有効・無効を設定

Audyssey MultEQ XT のメイン機能は、MultEQ XTだ。リスニング環境における時間特性と周波数特性の両方を補正してくれる。ダイレクトモードとピュアダイレクトモードを除いて、働く機能だ。基本は有効になっていて、3種類の補正カーブから選択できる。

Referenceは映画コンテンツに最適になるように補正。Flatは、Referenceのような高域のゆるやかな減衰は行なわず、小さめの部屋に最適となるような補正を行なう。L/R Bypassは、フロントを除いた他のスピーカーが最適になるよう補正する。お勧めは、映画や映像コンテンツは、Reference。音楽やゲームなどはFlatだ。映画を見ているときは、わずかに高域がマイルドになってスクリーン越しの雰囲気が味わえるReferenceが心地いいが、テレビ放送やゲームをやっていると、籠もった感じが気になるときもあった。

MultEQ XTの補正根拠となる測定結果は、EQカーブを表示することもできる。ご覧の様に、Referenceは高域側が若干ロールオフするように補正されている。Flatのグラフを観れば、自分の部屋は、どの帯域が落ち込んでいて、どの帯域にピークがあるのか大体分かるのが面白い。「Audyssey MultEQ Editor」というアプリ(有償)を使えば、さらに詳細に補正内容をカスタマイズできる。

Reference
Flat

なお、普通の環境であればこの流れで問題はないのだが、筆者の環境ではつまづいた。というのも、セットアップアシスタントでは、バイアンプ接続の設定項目が存在せず、Audysseyの測定まで進むとテストトーンが高域側だけ鳴ってしまったのだ。事前にスピーカーレイアウトで5.1ch+バイアンプを設定済みでも、セットアップアシスタントではリセットされて、やはり高域側だけ(具体的には、本体のフロント出力L/Rに繋いだ方だけ)鳴っていた。よって、スピーカーレイアウトでバイアンプ設定(5.1ch Bi-Amp)を行なってから、Audysseyの測定をスタートさせて初期セットアップを完了させた。なお、スピーカーの有り無しは、スピーカーレイアウトで個別に設定できる。まとめると、「バイアンプ接続環境下では、スピーカーレイアウトと、Audysseyの測定は個別で実施」が正解だ。

スピーカーレイアウトの設定画面
Audysseyの測定は個別で実施した

テレビ番組の音が大きくかわる

AVR-X1800Hをセッティングしたリビング

セッティングと測定が終わったら、いよいよ視聴テストだ。AVアンプの使いどころとして一番多いのは何だろう。映画?ゲーム?いやいや、案外テレビ放送や配信コンテンツの視聴がトップだったりするのでないだろうか。かくいう筆者もリビングではもっぱらレコーダーに録りためた番組のエアチェックがメインの使い道だ。

ということで、まずは録りためた深夜アニメから視聴してみる。AVアンプ側の設定は、アンプの基礎力をみるため、ピュアダイレクトモードに設定した。ピュアダイレクトモードは、ダイレクトモードの“ソースの音をそのまま再生”に加えて、本体ディスプレイの電源も落としてさらなる高音質化を狙うもの。

BDZ-FBW2000とAVR-X1800H

アニメ「2.5次元の誘惑」。デノンらしく中音域が芳醇で、量感も十二分。台詞のディテールを克明に描くというよりは、暖かく優しい音色で、じっくり楽しむストレスフリーな傾向を感じる。

ドラマ24「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」。DALIとデノンの相性はよいと思う。DALIのミッドを核とした美音を、デノンのミッドの充実ぶりがより引き立てている。音量を下げても、台詞や劇伴のメロディラインがよく聴こえる。台詞の音色は、一般的な映画館のそれに近い。

筆者が普段リビングで使っているAVアンプは、4K BS放送のMPEG-4 AACには対応していない。レコーダーでリニアPCMに変換されてしまう(RX-V6AだとBS4KはPCM出力になってしまう)。デコードをアンプに任せた方が、若干だが純度が上がるので、対応していることを知ってワクワクしながら4K BS放送の録画をした。

中国の高地の村を映した紀行番組。5.1chサラウンド制作だった。ピュアダイレクトモードを解除して、ドルビーサラウンドモードで聞く。バーチャルサラウンドは、「スピーカーバーチャライザー」の設定がデフォルトでONになっているので自動で適用される。MultEQ XTはReferenceで視聴したが、今振り返るとFlatでもよかったと思う。

MPEG-4 AAC対応で、4K BS放送の音をネイティブで再生できる

特別ゆったりと読まれるナレーションは、暖かくムーディーな雰囲気をかもし出す。豊かな中音域は、ナレーションに厚みを与えており、画面の異世界感とともにじっくりと聞かせる音になっていた。ネイティブでBS 4Kの音をアンプが受けられることに感動。

Blu-rayソフトも見てみる。翠星のガルガンティアOVAより、「~めぐる航路、遥か~ 後編」。音声はリニアPCMで収録されている。

帯域バランスは中域にやや寄っているため、正確な音というよりも「映画館ってこういうバランスで鳴ってるなぁ」と記憶が呼び起こされる出音だ。オープニング主題歌のストリングスは美しい音色で、これから始まる新しい物語のワクワクが増幅される。劇伴のオーケストラもDALIとの相性が良い、適度に甘い音色感がムードをより引き立てる。

後半、船団同士の緊迫した打ち合いのシーン。砲撃のスピード感は、もうひと越えほしいと思ったが、中域はもちろん、低域も結構なエネルギーで出ているので、迫力は感じやすい。音量を上げるのが理想だが、そこそこのボリュームでも迫力が消滅しなかった。

リーマの乗るマズルが砲撃に破壊され、海に沈む行くシーン。初めてマズルがこの時代の言葉を話す感動的な瞬間だが、岩代太郎氏の劇伴が大きめの音量で掛かり雰囲気を盛り上げる。デノンならではの、艶があって色気もあり、DALIとの相性抜群な甘く優しい音色に、久しぶりの感動を味わった。

Dolby Atmos対応作品もチェックする。ここから先は、MultEQ XTをFlatで視聴した。デノンの音色バランスを鑑みると、高域がロールオフされるよりは、ソースそのままの音を出した方が自分の好みに近そうであった。

UHD-Blu-rayのタイトルで「グランツーリスモ」。実在したGTアカデミーを舞台にした、ゲーマーからプロレーサーになった青年の物語。映画館らしい適度に盛り上がったミッドとローミッド。鋭すぎないゆるやかなトランジェント。価格帯を考えると、S/N比はもう少し上のレベルで聴きたかったが、とにかく耳に優しく、疲れない音に仕上がっている。全国にあるシネコンの一般的なスクリーンの音を家庭で楽しみたいという人は、デノンのAVアンプを選ぶ価値ありだ。

効果音の激しいレースシーンも、大型ブックシェルフを相手に駆動力不足は感じないし、広大なダイナミックレンジの中にあっても、小さな効果音が埋もれない。サブウーファーがあれば、さらにこの描き分けはレベルアップするだろう。

ABEMAの配信も見てみよう

今度はテレビ側でABEMAを立ち上げて、配信中の作品を視聴してみた。音声は、HDMIのeARC機能でテレビからAVアンプに送っている。HDMIケーブルは一本で完結できる。

普段11インチのiPad Proで見ているABEMAのアニメ作品が、AVアンプを使えばDolby Digital Plusのフォーマットで受信できていることにまず感動。映像サブスクのサービスも一般的にDolby Digital Plusなので、不自然さはない。

Blu-rayなどと比べると、ビットレートが低いのか、配信特有のマスターリミッター(?)の影響か、高域のシャカシャカ感と歪み感はちょっと気になった。とはいえ、普段はiPadのスピーカーでABEMA TVを聴いている筆者にとっては段違いの満足感だ。

ちょうど限定全話配信をやっていた「姫様“拷問”の時間です」を視聴。テレビ放送のような繊細な台詞の粒立ち感はないものの、気軽に配信を見る程度なら何ら問題はないと思える。ザッピングしてABEMAのニュースも見てみたが、場を支配する音の説得力は、やはりシアターシステムを通すと、タブレットとはひと味どころか、ふた味以上も違う。

音楽配信も、機器を追加せずに楽しめる

続いて、SpotifyをiPadから再生してみる。デノンのAVアンプは、HEOSアプリに対応しているため、ストリーミングサービスから、ローカルネットワークのNASの音源、USB メモリなどなど、手元の端末からコントロールが可能だ。

SpotifyをiPadから再生してみた

Spotify Connectは、HEOSから立ち上げることもできる。ただ、Spotifyアプリが立ち上がってそこで操作/選曲するのは変わらないので、HEOSは使わず、「AVR Remote」というAVアンプのコントロールアプリで電源を入れて、あとはSpotifyのアプリを立ち上げ、再生デバイスとしてX1800Hを選ぶという順番がシンプルに思えた。先にアンプの電源が入ってないと、電源が自動で入るまでのタイムラグでSpotifyの曲頭の音が欠けてしまうからだ。

圧縮音源を復元する機能「リストアラー」は弱/中/強の3種類。強になるほど、補正も強くなるが、低域の量感補正も一緒に行なわれるため、バランスを取って「中」で試聴した。リストアラーをオフにすると、正直、聴くのがつらいほど音がよくない。中で聴くと、だいぶ奥行きや音像の立体感が改善して、BGMとしてのながら聴きやポッドキャスティングの試聴なら十分といえるクオリティに蘇った。

リストアラーは、AVR Remoteから設定変更できるので、テレビの電源が付いていなくても安心だ。このアプリ、結構細かな設定まで変えられるから素晴らしい。アプリ側の設定変更は最小限で、結局画面を見ながらリモコンでやるってパターンも他社ではありがちだ。

AVR Remoteから細かな設定変更もできる

NASの音源再生は、HEOSアプリから行なう。私が初めてHEOSに触れた数年前から比べると、今のHEOSアプリはサクサク快適で、挙動のもっさり感はほぼ皆無と言っていいレベルに改善されている。ただ、ブラウジング性能はまだ改善の余地がありそうだ。Soundgenicを選んですぐの一覧からアーティストやアルバムを選ぶと、中身が混ざって一覧表示されてしまうが、いったん「ブラウズ」を選んでから「アーティスト/アルバム」や「アルバム」などで検索していくと見慣れた選曲の階層構造になった。

アルバムアートは、ほぼ表示されない。ダウンロードで買ったハイレゾや、リッピングしたCD音源など、ジャケット画像が紐付いているはずのアルバムをいくつも開けたがすべてHEOSマークだ。何故か分からないが、ガルパンの交響曲のアルバムだけは画像が表示された。

本機のNAS経由の音質は、HDMI経由で聴くリニアPCMのBlu-rayなどと比べて、やや中高域の雑味が気になった。音場はスッキリせず、混濁感があった。より上のクオリティを求めるなら、専用のプレーヤーを用意して、RCA入力に接続するのがよさそう。とはいえ、機器を追加せずに、ハイレゾ音源を手軽に再生できるのはAVアンプのいいところ。ネットワークオーディオプレーヤーを用意する手前の入門編としてはうってつけだ。

防音スタジオにおいて、本格的なシアターで使ってみる

本格的なシアターでも鳴らしてみる

最後は、防音スタジオに移動して、物理サラウンドスピーカーを使ったシアターをチェックして本稿を締めたいと思う。X1800Hのようなエントリークラスでも、サラウンドスピーカー1組、トップミドル1組、サブウーファー1台、フロント1組の4.1.2chでシアター音響を堪能できるのか。

普段単独のプリメインアンプで駆動しているフロントのRUBICON 2は、X1800Hに直接接続した。サラウンドスピーカーは口径12cmのフォステクス製フルレンジ、トップミドルは同じく10cmのフルレンジが天井の造作BOXに入っている。サブウーファーはDALI SUBE-9Nだ。

トップミドルは10cmのフルレンジが天井の造作BOXに入っている
サブウーファーはDALI SUBE-9N

ボブ・ジェームスのスタジオライブUHD BD「FEEL LIKE MAKING LIVE!/BOB JAMES TRIO」。本作にはAURO-3Dも収録されているが、Dolby Atmos版も選べる。マイクによる測定は1からやり直し、スピーカープリセット2に保存。MultEQ XTはFlatで視聴した。

「Topside」は、後方や上方の空間にコーラスや、打ち込みのリズムトラックが配置されている”作られた立体感“を一際感じられる楽曲だ。3人の生バンドは前方に配置されていて、そちらも実にゴキゲン。サラウンドバックは、アンプのチャンネル数が足りず接続できていないものの、全身を包まれる感覚はこれでも必要十分。天井方面は、これ見よがしではないが、映画のDolby Atmosのようにさりげなくもない、絶妙な塩梅で音が鳴っている。

打ち込みトラックがない楽曲は、主にフロント側に音像が集中するが、スタジオライブを目の前で聴いているような残響に身体全体包まれるような感覚にさせてくれた。フロント側のドラムやベースのローの迫力は申し分ない。中音域の充実っぷりは相変わらず、ピアノはふくよかで優しい質感だし、ベースはちょっと艶っぽい。

UHD BD「グランツーリスモ」は、GTアカデミーの特訓開始から、ライセンス取得まで一気に観てしまった。レースシーンの迫力を味わうにはこのクラスでも十分といえる。中低域のエネルギー感とまずまずのスピード感。リアやトップミドル共に、駆動力には目立った不足を感じなかった。Dolby Atmosならではの音場のプラネタリウム感は確かにある。つまり音の隙間が分からないということだ。

セリフをしっかり聴き取れるレベルにボリューム上げても、かすかな環境音はしっかり耳に入ってくる。デノンらしい聴き疲れしにくい優しい音色でありながら、映画に必要な迫力は備える。中低域のエネルギー、低域の量感といった要素はしっかりしている。

天井スピーカーは無茶としても、イネーブルスピーカーとリアスピーカーを追加して、物理スピーカーの楽しさを体験してほしいと改めて思った。フロント2chからサブウーファーを加えるだけでもフロントの音はだいぶ良くなるので、発展させていく楽しさもぜひ味わってほしい。

ホームシアター入門しやすい、いい時代になった

デノンAVR-X1800Hのサウンドをお伝えしてきたが、そのサウンドキャラクターと機能、そして価格を自分のニーズと照らし合わせつつ、見定めていただければ幸いだ。

本機はエントリークラスだが、ホームシアターの醍醐味は十分楽しめる。ただ、上を見るとAVR-X2800H、AVR-X3800Hなどの上位モデルも存在する。AVアンプのランクを上げるということは、具体的に何が変わるのだろうか。機能面の充実や、アンプのチャンネル数の増大だけではもちろんない。聴感上のSN比であるとか、音像のディテール再現性であるとか、歪み感の改善であるとか、空間表現力、スルーレートの改善などがその主なものだ。スペックに現れない、聴いて初めて分かる違いが本当にあるから面白い。例えば、お店で上位機のAVR-X2800Hなどと聴き比べをしながら選ぶというのもアリだ。

AVアンプから始まるオーディオライフ。筆者がはじめた第一歩もAVアンプだった。実用性抜群の1台は意外と身近なところに存在する。そして昔と比べても、AVR-X1800Hのような機能豊富なモデルが手軽に買えるようになった。少年時代の自分に教えて上げたい。いい時代になったよって。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site