レビュー

サブウーファの進化で音はどう変わる? DALI「SUBE-9N」で実践

DALIの新サブウーファー「SUBE-9N」

5.1chとか2.1chの「.1ch」とは、何か。AV Watch読者には説明不要かもしれないが、「.1ch」は、低音域を専門に鳴らすチャンネルのこと。このスピーカーを「サブウーファー」と呼ぶ。ウーファーをサブする(補助する)のでサブウーファー、あくまで低音域を専門に鳴らすスピーカーだ。機種にもよるが、だいたい200Hzくらいから下の帯域を受け持つ。1chではなく.1chと数える理由は、重低音のみを担当することから、他のチャンネルと区別するためだ。

2.1chや5.1chスピーカーセットを購入し、サブウーファーをそのままずっと使っている方は意外と多いのではと筆者は思う。フロントスピーカーはグレードアップしても、重低音を担当するサブウーファーは昔のまま。セット品には、エントリークラスのサブウーファーが少なくないのだが、日本の住宅事情からすれば十分な低域の量感が得られるので買い換えの必要性を感じにくい。

筆者の場合、学生時代に購入した5.1chのセットのサブウーファーは、社会人になってトールボーイスピーカーを買ったことを機に手放してしまった。それ以降、ずっとサブウーファー無しのAV生活だったが、今の防音スタジオ兼シアターを作るときに導入した。引っ越し直後に購入したため、スタジオの方に資金を使ってしまい、サブウーファーは実売2万円台の製品にした。正直に言うと、国内メーカーの安心感と現実的な価格をあてにしており、製品のグレードは気にしていなかった。

ハイグレードなサブウーファーは、価格はもちろん、サイズも重さもそれなりにビックな機種が多く、置き場所に困るので半ば諦観モードの筆者であったが、先日デンマークのスピーカーブランド・DALIがサブウーファーの新製品を発売した事を知った。「SUBE 9F/12F」の後継機で、ウーファーの口径はそれぞれ23cmと30cmだ。小さい方の「SUBE-9N」は重さが11kg、サイズは288×311×307mm(幅×奥行き×高さ)、「これなら置ける!」と思った。価格も82,500円と、そこまで高価ではない。

低音域の存在は、オーディオにとって非常に重要であるとわかってはいても、製品をグレードアップしたときの音質向上がイメージしにくい人もいるだろう。そこで、私が実際に試して、サブウーファーの重要性を実感してみる事にした。

コンパクトで美しいサブウーファー

DALIの新製品は、「SUBE」シリーズのマイナーチェンジモデルにあたる。モデル名は「SUBE-9N」と「SUBE-12N」だ。サウンドパフォーマンスはそのままに、フロントバッフルをグロス(光沢)仕上げからサテン(マット)仕上げに変更、暗い室内での映画鑑賞でも反射を低減したという。

ウーファーユニット中央にはDALIの新ロゴを配し、パワーインジケーター(LED)を底部に配置変更。こちらも暗室で目立たないようにとの配慮だ。DALIの人気スピーカー「OBERON」や「OPTICON MK2」(日本未発売)ともマッチするデザインに仕上げたとしている。

「SUBE-9N」のサテンホワイト
別売のスピーカーグリルを装着したところ
SUBE-12N

スピーカーグリルは、12Nは付属するが、9Nはオプション。12Nには、ラバーフットとM6サイズのスパイクも付属する。9Nは本体直付けのゴム脚となる。アンプと接続するためのRCAケーブルは付属しない。再生周波数は、9Nが37~200Hz、12Nが28~190Hz。クロスオーバーコントロールは40~120Hzでリニアに変更可能。外形寸法と重量は、9Nが288×311×307mm(幅×奥行き×高さ)/11kg、12Nが340×380×370mm(同)/14.7kg。カラーは、サテンブラックとサテンホワイトで、サテンホワイトは受注生産だ。

入力端子は、LINE入力(RCAステレオ)とLFE入力の2系統。本機のクロスオーバーコントロールを使用する場合は、LINE入力(ステレオ使用もしくはLchのみ接続)を使用するが、個人的にはAVアンプに任せて集約化することを勧めたい。AVアンプであればサブウーファー用のプリアウトが存在するので、そちらとLFE入力を接続して諸々の設定はAVアンプ側で行なう方が簡便だ。

一部のミニコンポでもサブウーファー用のプリアウトを装備している機種も存在している。ミニコンポにクロスオーバー周波数の設定が無い場合は、LINE入力のLchに接続しよう。本稿は、AVアンプのサブウーファー用プリアウトからLFE入力へ接続した場合に絞って解説する。なお、LINE入力を使用する場合は、添付の日本語説明書に段階を追って設定していけるよう解説が載っているので安心してほしい。

背面
入力端子部

DALIといえば、北欧のクラフトマンシップに裏付けられた高級家具のような美しい外観が特徴。サブウーファーはおおむね四角い箱なので、なかなか個性を出しにくいと思うのだが、箱から出してみてやはりDALIだと納得。ウーファーユニットのアルミ振動板が一際目を引く。写真で伝わるだろうか。映り込みまではいかないが、銀色のユニットは中央のDALIロゴと相まって本機の顔とも言える明るさだ。今回試用したSUBE-9Nはグリルが付属しない。本機のトレードマークであるユニットを隠してしまうのはもったいない気がするが、別売があるので欲しい方は注文しよう。

ユニット中央にはDALIの新ロゴ

周囲を見渡してもバスレフポートが存在しない。ひっくり返すと、底面にポートがあった。パワーインジケーターも底面に配置し、電源ONで赤色、内蔵アンプの電源ONで青色に点灯する。主電源スイッチの他にパワーモードのスイッチがあるが、これがAUTOの場合、何らかの入力信号があると自動でアンプの電源が入る。主電源を入れっぱなしにしておきたい人には便利な機能だ。操作スイッチ類は全てバックパネルに配置。

電源はACインレットタイプで、ACケーブルは付属する。ただし、RCAケーブルは付属しない。AVアンプと接続するRCAケーブルは一本で済むが、長さは割と長めのケーブルが必要になる。サブウーファー用のケーブルを市中で探すか、ケーブルのオーダーメードサイトなどでRCA端子のケーブルを1本特注するといいだろう。

底面にバスレフポート
主電源スイッチの他にパワーモードのスイッチがある

サブウーファーは、低音を鳴らす=指向性が弱いからどこに置いてもいいという記述をたまに見かけるが、そうはいってもリスナーの真後ろに置くと違和感はどうしても起こる。リスナーからフロントスピーカーまでの距離とできるだけ同じにし、かつリスナー前方に設置する方がいいと思う。音楽はもちろん、映画でも主な低域成分は前方のスピーカーに割り振られているからだ。

ドライバーユニットを壁に対して平行設置することは避けて、やや斜めに角度を付けた方がよいだろう。理想は、左右のフロントスピーカーのちょうど中央なのだが、現実的には無理なケースが少なくない。よって、1台のサブウーファーならフロントスピーカーの内側か外側、なるべく近い位置に設置する。壁との距離によって低音の感じ方は変わってくるので、微調整可能な環境ならベストポジションを探ってみるのも一案だ。

ただし、本機はユニットが正面に付いているので、フロントスピーカーに比べて遠すぎたり近すぎたりするのは望ましくないから注意だ。底面のバスレフポートから増強された低音が四方に広がるため、前面のユニットでダイレクト感のある低音を、底面のバスレフポートで豊かな広がり感を味わうことが出来るはずだ。

2chシステムに追加してみる

まずは、リビング(約15畳)のAVアンプを核とした2ch簡易シアターにサブウーファーを追加してみた。リスナーから左右のスピーカーに対して等距離というと、左チャンネルの外側しかないので、そこに設置した。

AVアンプを核とした2ch簡易シアターにサブウーファーを追加

床に直接置くと振動対策の面から不安があったので、ヒッコリー製のオーディオボード「RHB-20」の上に設置。フロントは、DALIの「MENTOR2」。周波数特性の下は39Hzということで、ブックシェルフにしては結構低いところまで出ている。キャビネットも巨大で重さが10kgと低域の量感に不満はない。

フロントは、DALIの「MENTOR2」

最近のAVアンプにはセットアップ用のマイクが付属していて、測定結果に基づいた音場補正が備わっているのでそれに任せてしまおう。ヤマハの「RX-V483」にはYPAOというシステムが搭載されている。

サブウーファーは、測定前にクロスオーバー周波数のつまみを最大に、音量は最大にせよと書かれていたのでその通りにする。この測定をしておくことで、ダイレクトモード以外を使用する際に、クロスオーバー周波数はもちろん、音量バランスや音色などを自動で調整してくれる。ヤマハに限らずAVアンプを使う場合は、まず測定をして自動補正を有効にして視聴しよう。音量感に不満があるときだけサブウーファー本体側で微調整すると最もシンプルだ。

2.1chシステムなので、3.1chの「シン・ゴジラ」や、2.1ch版の「ガールズ&パンツァー」12話を視聴した。

フロントスピーカーに低域を任せていた場合と比べて、ローエンドがより深く下まで余裕を持って鳴っている。砲撃音、爆破音、ゴジラの倒れる音、エンジンのうなり音、こういった重低音を必要とするSEが鮮明になり、より“らしい音“に進化した。

意外だったのは、中高域の再現性も高まったこと。劇伴の管楽器やパーカッション、金属が飛び散る音、果ては台詞に至るまで、重低音(.1ch=つまりLFE)がサブウーファーに割り振られたおかげで、フロントのサウンドが驚くほど改善している。

分離感も改善し、個々の音がハッキリと聴けるようになった。低域が豊かなトールボーイなどを使っている人も、「低音が出ているからサブウーファーは要らない」と思っていると、もったいないかもしれない。.1chが収録されている映画などの作品は、ローエンドが2chソースの映像作品より低いところまで入っていて、ボリュームも大きいことが珍しくないだけに余計だ。YPAOの自動補正は文句なし、フロントとの繋がりも違和感がなく、迫力はほどよい感じ。部屋の吸音状態など音響特性も加味して補正してくれるので、筆者のリビングではYPAOにお任せでも特に問題ないと思った。

小型ブックシェルフ「OBERON1」との組み合わせは?

続いて防音スタジオに移動し、メインのシステムと組み合わせる……とその前に、「OBERON1」と組み合わせてみた。小型スピーカーと組み合わせて、足りない重低音を補強する実験だ。

OBERON1は、非常にナチュラルな周波数バランスで、低音は見かけに似合わず結構出ている。特性としては、下限が51Hz(±3dB)だ。

OBERON1
防音室の中はこのような感じ

デノンのAVアンプ「AVR-X6300H」と接続する。サブウーファーとは専用プリアウトからRCAケーブルで接続。通常のLINEケーブルでは長さが足りないので、手元のヤマハのサブウーファーに付属している細いケーブルをそのまま使用した。サブウーファーのLFE入力へ繋ぐ場合、本体のクロスオーバー回路はパスされる。OBERON1との組み合わせでは、アンプ側の自動音場補正を使用せず、クロスオーバー周波数や音量調整を手動で行なった。

ヤマハのサブウーファーに付属している細いケーブル

まず、フロントのスピーカーのクロスオーバー周波数を調整する。OBERON1の下限が51Hzということなので、ここから下の帯域は周波数特性が急激に下がっていると思われる。よって、クロスオーバー周波数は、50Hz近辺で探してみることにした。前もって、サブウーファーの音量は、10時くらいに設定しておく。特別な決まりはないが、低音が出過ぎていないレベルに抑えつつ、気持ち大きめに設定するといいと思う。そこからあとで微調整だ。

サブウーファーの位相設定は、まずは0度からスタートして低音が引っ込んでいるなと感じたら180度に反転してみよう。低域が最大限に感じられるように位相は設定する。これで事前準備は完了。AVアンプのクロスオーバー周波数設定は段階的な可変となっていたため、40Hzと60Hzで比較。40Hzだと繋がりが悪く低域に抜けが感じられた。60Hzに変更すると、ちょうどいい感じだ。試しに80Hzにしたら、低音が急に増幅されて不自然さが際立つ。さらに置き場所である左方向から鳴っている違和感が途端に出てきてしまった。80Hzのままサブウーファーの音量を下げていったが、違和感が払拭される前に低域の不足が気になってしまいどうにもならなかった。よって、60Hzに戻して確定。

設定中の画面

最後にサブウーファーの音量を微調整して、フロントとのバランスを最適にした。あくまでさりげなく、フロントの低域不足分をサポートする程度の感覚が大事だと思う。

上記のような様々な違和感は、体験してみないとピンとこない方もいるだろう。拠り所として、低域が適切に出る癖の少ないヘッドフォンなどで本来のバランスを聴いてから、クロスオーバー周波数の調整を行なうと判断がしやすいだろう。

また一つだけでなく、いろんなソースを再生して違和感がなくなる設定を探ることも重要だ。筆者の場合は、台詞と効果音とBGMが全部含まれていて、効果音や台詞を任意のタイミングで何度も鳴らすことができるゲームソフトで行なった。最近のゲームはマルチチャンネルで制作されていることもあり、最初からLFEのチャンネルが存在していることも珍しくないが、そこはあえて2ch制作のゲームソフトを使用した。

AVアンプがフロント2chの音声から、クロスオーバー周波数で設定した値を基準に低域をサブウーファーに割り振ることになる。最適な値は、組み合わせるフロントスピーカーや部屋の環境にも左右されるので、自分の耳で聞いて調整していくのがポイントだ。ゲームは、効果音に結構重低音が入っていて新たな発見であった。

音楽ソースは、率直に言って、劇的に感動が高まるかというとそうでもない。もともとOBERON1は非常に優秀なスピーカーであり、低音の不足を感じにくいモデルだ。定位感も精密なので、下手にウーファーを使うとかえって音場を濁らせる。もちろん、適切に使えばオーケストラ録音の空間を感じさせる重低音の響きや、大太鼓の深い低音の沈み込みなど、OBERON1だけでは表現が難しい帯域を補正できる。音量はソースによって微調整が必要だった。

ところで、床の振動の影響なのか、やや音場が曇り気味に感じる。低音全体がゆるい感じ。そこで、もともとサブウーファー用に使っていたクオーツアンダーボード「RST-38H」を使用してみた。

クオーツアンダーボード「RST-38H」
ボードの上に設置したところ

大太鼓の音や、オーケストラのグランカッサなど、強く鳴っているときも低域がタイトに引き締まり、解像感も向上。フロントとの繋がりもより自然になった。サウンドステージからモヤが晴れた感じ。やはり何らかの振動対策はした方がいいと思う。

さて、いよいよ本丸。マルチチャンネルの映画を視聴した。デノンのAVアンプには自動音場補正機能Audyssey MultEQ XT32が搭載されているので、測定用のマイクを三脚に取り付けて全8ポイントで測定を行なった。自宅の防音スタジオ(約6畳)の仕様は、ファントムセンターの6.1.2chだ。サラウンドが4発、天井にトップミドルが2発。すべてフォステクスの10cmフルレンジFF105WKなので、スピーカーサイズは小で自動設定された。フロントは、DALIの「RUBICON2」。スピーカーサイズは大と判定された。

DALIの「RUBICON2」と組み合わせたところ

ヤマハのサブウーファー「NS-SW200」で、3枚のBlu-rayから特定のシーンを視聴した後、DALIのサブウーファーに交換し、Audysseyの測定を実施。再度同じシーンを視聴した。

測定と結果の保存には5分程度掛かるので、前の音を覚えていられるか少し心配したが、音の違いは実に明瞭だった。

ヤマハのサブウーファー「NS-SW200」
DALIの「SUBE-9N」

「ガールズ&パンツァー 最終章 第二話」から、ジャングルでの戦車戦闘シーン。川辺で休憩中のあんこうチーム~ラストまで。

もっこりと太っていた重低音がシュッとシャープに様変わり。LFEに割り当てられている効果音にもディテールってあるんだと今さらながらに実感。イメージでいうと、戦車の走行音は「ゴゴゴゴ!」が「ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!」に変わり、主砲の発射音も「ドスン!」が「バシュン!」に変わった感じだ。瞬発力が増したことで、鋭さとスピード感がより分かりやすくなっている。

Audysseyの測定時に、基準出力において、75dBの音量感が得られるようにサブウーファーの音量は調整しているのだが、それでも重低音はパワフルにたっぷりと鳴らしているように思う。内蔵アンプは、超高効率Class Dアンプとのこと。

「ミッドウェイ」では、船上甲板、水兵との会話中に爆撃~真珠湾攻撃終了までを視聴。真珠湾攻撃が始まってから、シンセの唸るような重低音によるループ音楽が流れるシーン。これまでは、単にブーンって唸っていたのに、SUBE-9Nに交換するとうねる様な周期的な音になっていたとわかった。おそらくキャビネットやユニットの制振もしっかりしているのだろう。

低域の収束が素早く、一つ一つの効果音が真実味を増して聴こえてくる。低域が曇りなくクリアに出せているおかげか、音場全体の見通しも改善。チャンネル間の繋がりも良くなったように感じる。

「交響曲ガールズ&パンツァー コンサート」から、第一楽章/戦車道行進曲を聴く。

やはり瞬発力があり、アタックが正確に表現できるので、低音域の満足度は高い。オーケストラならではの演奏のダイナミズムが一掃感じられる。一番良かったのは、ホールに響く重低音の再現だ。本物のコンサートを体感した方なら、直接音の他に、ホールに響き渡る重低音の心地よさをご存じかと思うが、あれが体感できる。

ローエンドが深く、かつ音に透明感がないと本物らしさは味わえないが、SUBE-9Nに変えることで達成された印象を持った。なお、全体の音量を小さくすると、低音が感じにくくなった。一般家庭並みの音量にした場合、サブウーファーの音量だけはちょっと手動で上げていいかもしれない。目安は、空間に響く低音の再現が感じられるあたりまで。ご近所への影響も考慮しつつ、できる限り調整してみよう。

さらなる高みを目指す

ということで、サブウーファーを交換することで、重低音から淀みや贅肉が取れて、情報量が増して、今まで気付かなかった音のディテールや緻密なサウンド設計を感じ取ることが出来た。これは予想以上の変化だ。「重低音だけ鳴らしているサブウーファーなら、グレードはほどほどでいいかな?」と思っていた自分を小一時間説教したい。

予想以上の結果を得られたので、さらなるトライを実施。電源ケーブルの変更だ。製品には太いACケーブルが付属していたが、どうやら汎用品なのでこれをオーディオグレードに変更したらさらに変わるかも知れない。アコースティックリバイブの「POWER STANDARD TripleC-FM」を使用してみた。

アコースティックリバイブの「POWER STANDARD TripleC-FM」

驚いたことに、さらに音像にまとわりついていた贅肉が落ちた。一聴して音量感が下がったようにも思えたが、無駄にファットな重低音がスリムになると、戦車の走行音や主砲の発射音、地響きといった音が本来はもっとクリアだったとわかる。変化の方向に不自然さは全くない。これまでは歪み感というか、音に不純物が混ざっていたのだと気付かされた。純度が高く、密度感もアップしている。電源ケーブルのグレードアップも当然、効果があると言うことだ。

あまりに音が良くなったので、レビューも忘れてガルパンの最終章第二話を最後まで観てしまった(この直後に、三話を劇場に観に行った)。

低域の立ち上がりと立ち下がりが素早いので、戦車の発車と停車がリアルに感じられる。みほが愛里寿と一緒に訪れる爆笑必至のボコミュージアム。こんなにテーマパークの臨場感あったか? と別の意味で笑いが止まらない。3匹の動物にタコ殴りにされるときのボコられっぷり(?)が向上している。戦車による地響きが、ただ「ズゴゴゴ!」と鳴っているだけだったのが、ちゃんと地鳴りに聞こえる。重低音(LFE)がとても大きいレベルで収録されているガルパンは、半端なウーファーではキャビネットがビビってしまって、レベルを絞るしかなくなる。

SUBE-9Nにおいては、AVアンプの自動調整よりレベルを上げない限り、そういった心配はないと思う。もし、低域が歪んでいるように聴こえたら、床が共振しているので足場のケアが必要かも知れない。筆者の環境では音場補正の規定値だとちょっと大きい気がしたので、若干サブウーファー側の音量を下げた。筆者の防音室は中低域の吸音率が一般家屋より小さいので、一般家庭なら下げなくてもいいかもしれない。ともかく、自分の耳で聴いて判断するのが大事だ。

低域を制する者はオーディオを制す!?

まさかサブウーファーのレビューでこんなにガッツリ書くとは思ってもいなかった。“低域を制する者はオーディオを制す”とでも言えばいいのか。映画音響における低域のクオリティが映画の説得力や感動にまさに直結していることが改めて確認出来た体験となった。

DALI SUBE-9Nは、設置しやすい小型・軽量なボディでありながら、グレードの高い重低音を実現する注目の製品だ。サブウーファーのグレードアップを考えている方、これから本格的なホームシアターを揃えたい方、ひとつの候補としていかがだろう。お気に入りの映画ソフトを何枚も見返したくなること請け合いだ。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト