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ネットワークスピーカーでもソナス・ファベールらしい“温かみのある質感”「Duetto」に魅了された
- 提供:
- 完実電気
2025年2月6日 08:00
超高級から安価まで、“幅広いスピーカーを作れる”能力
オーディオに興味を持ち始めると、実にさまざまなブランドが鎬を削っていることに気が付く。それはどんな世界でも、まあ似たようなもので、どこにでも知る人ぞ知る、みたいな存在があったりする。スピーカーシステムももちろんそうで、街中にこれだけ音楽が流れている時代でもあり、最近ではぼくが知らないブランドもたくさん台頭してきているようだ。
ぼくは普段は『ステレオサウンド』というオーディオ専門誌で仕事しており、いわゆるハイエンドと呼ばれる超高価なオーディオ機器に接する機会が多い。それらのほとんどは小規模なメーカーで開発され、製造数も限られ、中には一品ものみたいな限定製品もあるから、なかなか一般の音楽愛好家の目に触れる機会もないだろうと思う。だから、ハイエンドオーディオって一部のマニアのものだと思っていらっしゃる方が大半だろう。
たしかに、ハイエンドオーディオと呼ばれる製品は、近年では特に極端な高額化が進み、普通の人には遠い存在に見えているのは否定できない。もちろんどのくらいなら高額で、いくらなら安価であるかとかは、人ぞれぞれの価値観によるものだから、一概に高すぎるとも言えないのだけれど、でもハイエンドオーディオの世界の素晴らしさを知っている者としては、価格が高くなることで敬遠がされてしまうのはなんだか残念な思いが強い。
ハイエンドブランドの中にも実はいくつかのタイプがあって、前述した小規模な少量生産のメーカー、つまり結果として高額品に特化したところの他に、高額なトップエンド機を擁するが、量産技術・設備を備え、高額機で得られた技術的成果を、比較的安価な製品にまで展開し、幅広いユーザーにオーディオの素晴らしさ、すなわち音楽を聴く悦びを伝えてくれるハイエンドメーカーもある。
イタリアのソナス・ファベールは、後者の、幅広い価格レンジの製品ラインナップを誇るハイエンドブランドだ。その価格レンジの広さではたぶん現在世界一だろう。
超高額なスピーカーと安価なスピーカーを作るために必要とされる能力は実はけっこう違う。ハイエンド(高額品)は得意でも、安価な製品を作ると、言葉は悪いがたんなる安物しか作れないメーカーも、実はけっこう存在する(だから安価な製品を作らないのだとも言える)。
幅広い価格帯で優れたシステムを開発・製造できるメーカーはとても少なく、ソナス・ファベールはそれを可能とする貴重なメーカーだ。エントリーモデルである「Lumina(ルミナ)シリーズ」は同価格帯のスピーカーシステムのレベルを一気に引き上げたと言ってもいい、まさにベストバイ中のベストバイ機であるし、昨年(2024年)発表されたフラッグシップとなる超弩級モデル「Suprema(シュプレーマ)」(なんとペアで1億5千万円超え!)では超大型モデルの新境地を聴かせてくれた。
「Lumina」と「Suprema」の価格にはおよそ1000倍の差があるのだけれど、どちらもその価格帯で最高のひとつと言える製品に仕上げているのは、ソナス・ファベールの技術力の並々ならぬ高さを示していると思う。価格に関わらずハイエンドのサウンド(のエッセンス)を届けてくれるのが、ソナス・ファベールなのである。
同社が日本で一般的にどれだけの知名度があるのかはわからないけれど、『ステレオサウンド』誌では常連であり、オーディオファイルの間では非常に高い人気を誇る。ではいわゆるオーディオマニアックに見える製品を作っているのかと問われれば、むしろそれは逆で、オーガニックなデザイン・仕上げもその製品の特徴としており、オーディオファイルだけでなく、ソナス・ファベールのスピーカーの愛用者として、数人の音楽家や音楽評論家の名前と顔が即座にぼくの頭の中に浮かび上がってくる。
何機種かのスピーカーを聴き比べたあと、自宅での音楽鑑賞用にと、ソナス・ファベールの製品を選んだピアニストの話を読んでいるとき、同社のサウンドは音楽家の琴線に触れる何かがあるのだろうな、となんだか妙に納得したこともある。
そもそもソナス・ファベールとは?
ソナス・ファベールは北イタリアのヴィツェンツァ郊外で、歯科技師でオーディオファイルのフランコ・セルブリンが1980年ころに創設したブランドだ。
当初は社名の「音の工房」の通り、フランコさんがこつこつと手作りでスピーカー作りを行なう小さな工房だったのだが、80年代の終わり、良質な木材を活用した独創的なデザインの「エレクタ・アマトール」が大ヒット、続いて小型機の「ミニマ」や、いにしえのヴァイオリン職人に捧げた「オマージュ・シリーズ」などを発表、音質とデザインが高次元で融合したスピーカーを開発するメーカーとして、ヨーロッパを代表する存在へと成長していく。
ちなみに「エレクタ・アマトール」の真価を見出し、世界に先駆けて受け入れたのは日本のオーディオ市場であった。
2000年代半ばをすぎると、フランコさんは同社を離れるが、弟子であるパオロ・テッツォンがその衣鉢を継ぎ、続々と魅力的なモデルを開発、さらには新しいテクノロジーも積極的に投入して新時代を築くことに成功する。外観デザインの面でも、リヴィオ・ククッツァが同社に参画したことで、伝統と革新を融合するシステムが誕生した。
現在の同社は、そのリヴィオさんをリーダーとする「チーム・リヴィオ」が開発を担っている。この第三世代の開発陣の最新最高の成果が前述したSupremaであり、Luminaもまた、このチームでの開発したものだという。フランコ時代の同社が、いわばワンマン的製品開発を行なっていたことを思うと、時の流れを否が応でも感じさせられる。
チームで製品開発を行なう強みは死角が減ることだろう。そして弱みは、とんがったものがなかなか出現しないということだと思うが、いまのところ、ソナス・ファベールの第三世代開発陣はチームのメリットを存分に活かし、とんがった製品も輩出していると、ぼくは思っている。Supremaなんて、同社史上、最高にとがったスピーカーシステムであるからして。
ストリーミングの音楽を、上質に再生するDuetto
そして、このソナス・ファベールの第三世代開発陣における、オルタナティヴな最新・最高の成果と言えるのが、ここで取り上げる「Duetto(デュエット)」(ペア770,000円)なのだ。
このところ、総体として見ると、音楽の聴き方は大きく変った(ぼく自身の音楽の聴き方は少しも変っていないけれど、それはそれとして)。
いっぽうで、ハイエンドオーディオ界、特に伝統あるブランド、あるいは日本市場では、音楽の聴き方の変化に十全に対応できないでいるようにも思える。そのことの良否や可否を、ぼくは論じたり断じたりする気はないのだが、例えば今後主流になるであろうストリーミング再生に照準を絞り、ハイエンドクオリティ(と書いて、なんだかこれはあまりいい言葉ではないなと思ったけれど)、ようは上質な音楽再生を可能にしてくれる製品が、どんどん出てきてくれることに関しては諸手を上げて歓迎したいと思っている。
なぜなら、大きな声では言えないが、利便性にとらわれて、音質の判断が疎かになっている新世代のオーディオ機器が散見されるからである。便利であればいいと言うだけでは、それは音楽の価値を下げているようにしかぼくには思えないし、質の追求こそがオーディオで一番大事なことだと思っているのだ。
Duettoは、スピーカーシステムにアンプや各種コントロール機能を内蔵し、スマートフォンやタブレット等からの音源をワイヤレスで再生できる、まさに新世代の製品だ。スピーカーに音声を送るケーブルが不要と言うことは、セッティングの自由度を著しく向上させるし、タブレットさえあれば(それを持っている方はWi-Fiなどのネット環境も整っているだろう)好きな音楽を好きなように聴けるのだ。
もちろんストリーミング再生も可能。旧来のコンポーネントステレオとは比べものにならないほどの利便性の高さがある。そして、利便性が高いということにとどまらず、これまでのワイヤレススピーカーの概念を覆すような質の高い音楽再生を行なってくれるところにDuettoの最大の意義がある。
ワイヤレスアクティブスピーカー(※アンプ内蔵型スピーカーをアクティブスピーカーと呼ぶ)を構成する要素は、大きく分けて3つ、ないしは4つある。
1つめはもちろん、スピーカーシステムそのもの。2つめはそれを駆動する内蔵アンプ。3つめはシステムをコントロールするデジタル音声処理部分。4つめは、デジタル音声処理に含めてもいいのだけれど、ワイヤレス信号あるいは有線音声を扱う入力回路。高音質のためにはこれらのすべてのクオリティが高い必要がある。最近はアクティブスピーカーが流行しているようだけれど、この4つのクオリティを同レベルで高めることはかなり困難なはずだ。
Duettoのそれぞれの項目を見ていこう。
スピーカーシステムの部分は、これまでの同社の歩みからして抜かりがあろうはずはない。内部定在波の発生を抑制し剛性を高める伝統のリュートシェイプをリファインし、ウォルナットとレザーで仕上げられたキャビネットがまず美しい。
内部で湾曲させたバスレフポートは、ノイズの発生を抑えながらパワフルで豊かな低音再生に貢献。
搭載されたユニットも同社らしい、シルクソフトドームツイーター(28mm径)とペーパーパルプコーンウーファー(13.5cm口径)の組合せで、随所に専門メーカーならではの最新技術、つまり高級機開発で得られた知見が採り入れられている。
アクティブスピーカーの利点として、通常はシステム内に組み込まれるクロスオーバーネットワークを排除して、容易にマルチアンプドライブが実現できることが挙げられる。普通の2個以上の大きさの違うユニットを搭載したスピーカーの場合、受け持ち帯域を分割しなければならないため(たとえば高域用の小さなユニットに大きなレベルの低音が入ってしまうと壊れてしまう)、クロスオーバーネットワークが必要になる。
ところが、大型のコンデンサーやコイル、抵抗で構成されるネットワーク(これをパッシブネットワークと呼ぶ)は信号の損失が多いというデメリットがある。そのデメリットを解消するのが、パワーアンプの前で帯域分割を行なうマルチアンプ駆動なのだが、普通に構成すると、帯域ごとに専用のパワーアンプが必要になるなど、極めておおがかりなシステムとなり、その調整も大変。
だからいまもむかしも、スピーカーはパッシブネットワーク仕様が主流なのだけど、アンプ内蔵型のスピーカーにしてしまえば、そうした面倒は大幅に回避できる。なぜなら、アンプとスピーカーを一体のものとして、然るべきメーカーが、調整込みで設計してくれるからだ。
なお、アンプ内蔵型でパッシブネットワーク仕様も可能だが、そういう製品がほとんどないのは、マルチアンプ駆動の優位性を物語っているところかもしれない。もちろんアクティブスピーカーの難しさは別にあるのだけれど、ここでは詳しくは触れない。そもそもアクティブだろうとパッシブだろうと、聴いてよければそれでいいわけです。
Duettoももちろんマルチアンプ駆動(2ウェイなのでバイアンプ駆動になる)を選択。帯域分割は後述のデジタル音声処理回路内で行なっていると思う。クロスオーバー周波数は1.9kHz。ツイーター用のパワーアンプはクラスAB動作の100W出力、ウーファー用パワーアンプはクラスD動作の250W出力というハイパワーなもの。アンプの放熱がアクティブスピーカーの難しさのひとつになるが、キャビネット背面にヒートシンクを設けることで十全に対応、またこのヒートシンクはバスレフポートと一体化し、ひとつのデザインとなっているのも見逃せまい。
ワイヤレススピーカーでもオーガニックな味わい
デジタルはアナログではできなかったさまざまなことを手軽に実現してくれるもので、最近のアクティブスピーカーはほぼすべてデジタル制御がなされている。本機もまた例外ではないのだが、デジタル音声処理はやりすぎると、音楽の鮮度のようなものをスポイルし、なんとなく(ぼくには)不自然な音に聴こえることもままあったりする。なんでもできるということは、やらなくてもいいことまでやってしまう事態に陥りやすい。
Duettoで、実はぼくが大いに感心したのがこの部分で、なんと言うか、デジタルの使い方が抑制的で、必要最小限にとどめることで、オーガニックな味わいをふんだんに届けてくれるのだ。もちろん、ここはぼくの勝手な想像だから、もしかしたらバリバリにデジタル補正がかかっているのかもしれないのだけれど。
入力は無線LANの他に、有線LAN、光デジタルとアナログ(ラインレベルとアナログレコードを聴くためのMMフォノ入力の切り替えが可能)を備える。Bluetooth受信も可能で、aptX HDコーデックにも対応。AirPlay 2やChromecastにも対応する。
音楽配信サービスは、 Spotify Connect、TIDAL connect(日本未サービス)、Roon Readyなどをサポートする。試聴はおもにRoonで行なったのだが、ワイヤレス再生とは俄かには信じられない、安定感のあるサウンドが得られていたのが印象的だ。これらの高度なデジタル技術の搭載には、ソナス・ファベールの新体制の真骨頂を見る思いがしたものだ。
また、HDMI ARC入力とサブウーファー出力も搭載しており、テレビとの組合せ、低音の拡張といった点もよく考えられており、この点でも新世代スピーカーにふさわしい出来栄えだ。
ソナス・ファベールのスピーカーに共通するのは、有機的で温かみのある質感。本機もそれを踏襲し、上質な再生音をリスナーに提供する。先に述べたように、デジタルで音声処理を行なっていることを、さらにはワイヤレス再生であることを気づかせない、素直な反応が心地よい。ハイレゾリューションを強調するサウンドではないとは思うが、音楽を構成する要素の再現力はピカイチで、バランスのいい音のひとつの典型である。
小型スピーカーのメリットである音離れのよさも備えており、スピーカーに音がまとわりつかず、いい意味で存在感がないのも好ましい。部屋の空気を音楽で満たしてくれるかのような鳴り方で、音楽とは本来そのように響くものだ。音場とか音像とかで語るオーディオも面白いけれど、それらにあまりに拘るのは、ぼくはオススメしない。それよりも音色・質感・空気のふるえといったものに耳を傾けた方が音楽に近づけるような気がしている。
本機の魅力はまだあって、それはモノとしての佇まいの美しさがあり、所有する悦びも満たされること。そう、せっかく買い物をするのだったら、その存在を愛でたくなるではないですか。さらに言えば、Duettoは音もフォルムも生活空間に溶け込む性格を持っていて、いわばくつろぐためのオーディオのひとつの最高峰なのではとさえ思ったのだ。
今回の試聴環境ではボリュウムマックスでもソースによっては音量が物足りず、この点はソフトウェアの改善等で、もう少し音量が出せたほうがいいと思ったが、その範囲で言えば、音量が上がっていっても混濁せず、これはアンプ内蔵型のデメリット、すなわちスピーカーがその音圧によってアンプに悪影響を与えることを巧みに回避しているように思えた。
本機のペアで77万円という価格は決して安くはないと思う。でも、この1セットがあれば、ここまで述べてきたように手軽に多彩な使い方に対応できることや、なによりも質の高いハイエンドサウンドが面倒な調整不要で実現することを思うと、なにやらかなりお買い得なんじゃないかと思えてきたりもした。
本機の登場を機に、ソナス・ファベールを知る人が増えるといいなあと思う。そのことでハイエンドオーディオをちょっとでも身近に感じてくれたならば、ぼくは嬉しいのだ。