鳥居一豊の「良作×良品」

第99回

音が踊る! 話題のソナス・ファベール「LUMINA I」でパヴァロッティ

工芸品のように美しく仕上げられたイタリアのスピーカー

今回取り上げるのは、ソナス・ファベールの「LUMINA I」(ペア10万8,900円)。イタリア製の小型スピーカーだ。このスピーカーはここ最近聴いた比較的低価格のスピーカーとしてはもっとも印象的だったモデル。美しいデザインと素晴らしい音、多くの人がオーディオ機器に求める大きな要素を兼ね備えている。若い人にとっては、ペアで10万円ちょっとという価格は決して安価ではないが、もしもこのモデルで本格的なオーディオやAVを始めることが出来たら、きっと幸せになると思う。少しばかり無理をしてでも買う価値がある。

ソナス・ファベールはイタリアのスピーカー・メーカーで故フランコ・セルブリンが興したブランドだ。バイオリンの製造技術を学び、その手法をエンクロージャーに採り入れることで、美しさと豊かな響きをもった音のスピーカーを次々と生み出した。その後、フランコ・セルブリンはソナス・ファベールを離れ、自らの名前を冠したフランコ・セルブリン・スタジオを設立することになる。道は2つに分かれたものの、それぞれのメーカーでは、今も彼の意志を受け継ぎ、新しいスピーカーを生み出している。LUMINA Iも、そんなスピーカーのひとつだ。

ソナス・ファベールのラインアップの中ではエントリークラスにあたるLUMINA(ルミナ)シリーズだが、価格を超えた美しいデザインで仕上げられている。エンクロージャーは伝統のブラック・レザー張りで、バッフル面は7層のプライウッドを採用。仕上げには、明るい木目のウォルナット、濃茶色のウェンゲ、ピアノブラックの3種が用意されている。今回は、3種のうちピアノブラックとウェンゲの2種のセットをお借りしている。

左がウェンゲで、右が光沢仕上げのピアノブラック
左がウォルナット
LUMINA Iの前面。左のウェンゲと右のピアノブラックでは、ウェンゲにだけ金色のラインが入っている点が異なる

革張りのエンクロージャーも、7層のプライウッドのバッフル板も、デザインだけでなく、音質にも配慮したものだ。革張りとすることでエンクロージャーの響きをコントロールしており、バッフル板も表面の突き板との接合部にメイプル材を挟むことで不要な振動や共振を抑えている。工芸品のような美しい外観と、優れた音質のための設計が高い次元で融合しているのが現代のソナス・ファベールのスピーカーなのだ。

LUMINA Iの背面。側面と天面が革張りとなっているのがわかる。スピーカー端子はバイワイヤリング仕様となっている
側面。革張りのため、独特の質感となっている。もちろん、手触りも良い
底面。バスレフポートを備えたスタンド部の底面は、なめし革のような素材が張られている。滑り止めのためだと思うが、こんなところまで丁寧に仕上げられている

もちろん、スピーカーユニットも専用にカスタマイズされたドライバーユニットを採用している。ツイーターは口径29mmのシルク製ソフトドームで、独自の技術であるアローポイントDAD(Damped Apex Dome)技術を採用している。ドームの頂点をダンピングさせることでボイスコイルの逆相挙動を抑え、音場の広がりや音の透明度を向上するという。

ツイーター部。振動板の手前にあるブリッジの中心には円錐形のパーツがあり、振動板の頂点と接している

ウーファーは独自設計のフレームを使用。振動板はセルロースパルプと天然繊維を混抄し、自然乾燥させた素材をベースにしたもの。センターキャップのロゴも洒落ている。これらのユニットは上位機種でも採用されている技術が受け継がれている。そして、バスレフポートはスタンド部分にあり、開口部は前面にある。細いスリットを設けたデザインとなっていて、細部まで実にこだわった作りになっている。

ウーファー部。パルプ系振動板を使ったオーソドックスなドライバーユニットだ
下部にあるバスレフポートの開口部。細いスリットを設けたスタンド部はフレア状の形になっている

フロント2本で音楽を再生。現代的な忠実感のあるトーンながら、表情豊かでよく歌う

フロント2本で音楽を再生。見た目が一番好ましかったウェンゲ仕上げで聴いている

まずは2本のスピーカーだけで、音楽を聴いてみた。宇多田ヒカルの「One Last Kiss」を聴いたが、サイズからすると低音はかなりリッチで、実に豊かに鳴る。とはいえ、響きばかりの緩い低音ではなく、ドラムもベースもきちんと再現されるし、よく弾む。ボーカルは絶品と言っていい。ニュアンスが豊かで自分のすぐそばで歌っているような感触があるし、高音域に艶があり、色気を感じる音になっている。「Beautiful World (Da Capo Version)」もいい。伴奏のギターやバイオリンの音色も実に生き生きとした音だし、高めの声の少しかすれるような感じや、ビブラートをかけた声の伸びなどが実に生々しい。非常に表現力の豊かな音だ。音としてはソフトな感触だが、リズムの切れ味の良さ、アタックの反応の良さはきちんとしているので、大人しいとか穏やかな印象にはならない。

よく聴いているクラシックのオーケストラ曲では、ホールの響きが豊かに再現され、広々としたステージが再現される。音場の広がりや奥行きの表現も豊かだ。楽器の音色は色彩感が豊かで、これだけ響きが豊かなのに細かな音まで丁寧に描き出す。そして、演奏の強弱や抑揚を実に豊かに鳴らす。緩急自在という感じで音楽のダイナミズムを生き生きと伝えてくれる。現代的な忠実感のある音色や細かな音の再現をしながらも、音がとてもグラマラスなのだ。聴き応えたっぷりの音だ。

シンセサイザーや電子楽器を多用したロックなどの曲を聴いても、勢いの良さやエネルギー感をきちんと伝えてくれる。じっくりと聴くと、低音のローエンドの伸びは大型スピーカーに比べればやや足りないが、深く沈み込む響きと実体感のある芯の通ったアタックがきちんと出るので不満は少ない。豊かに鳴る低音と艶のある高音というと、ドンシャリ傾向の音を連想されるかもしれないが、実は中域の密度の高さがもっとも印象的で、音楽が濃厚だ。単なる均整の取れたバランスの良さとはやや違う、巧みなバランスの良さを感じる。

筆者の考えでは、オーディオ、特にスピーカーにはお国柄が出ると思っている。学術的にその理由を調べたわけではないが、使う言語の違いが要因のひとつではないかと考えている。イタリア語の音やイントネーションが、そもそも歌っているように聴こえると感じるのは筆者だけではないと思う。

日本語で「声」は、英語では「Voice(ヴォイス)」。イタリア語だと「Voce(ヴォーチェ)」になる。いきなり車などのエンジン用語を出して申し訳ないが、DOHCエンジンなどの「フォー・ヴァルブ」が、イタリア語だと「クワットロ・ヴァルボーレ」となると知ったときの衝撃は忘れがたい。そもそも言葉が踊っている。イタリア語が歌っているように聞こえるのも無理はない。

そんなイタリアで作られたスピーカーだから、イタリア語を母国語として生活している人が追求した「良い音」がよく歌う音に仕上がるのも不思議ではないと感じる。LUMINA Iの音を聴けば、現代のスピーカーと同じように特性の解析やシミュレーションなども行なっていることがわかる。そういう性能の高さもきちんと備えている。そのうえで、特性以上に自分たちが聴いて「良い音」になるように仕上げている。創立当時のエレクタ・アマトールのような強烈な個性はないが、現代的になったとはいえ、しっかりと他にはない個性を持っている。しかもそれが、決して個性が強すぎるとか、クセを感じるようなものではない。イタリアの懐の深ささえ感じてしまう。

いよいよ、今回の本題であるサラウンド再生に挑戦!

スタンド設置ではスクリーンに重なってしまうので、AVラックの上にLUMINA Iのピアノブラックを配置
ウェンゲのLUMINA Iをスタンドに乗せて後方に配置。角度は約130度

ソナス・ファベールのLUMINA Iは、もともと別の企画で使用するスピーカーのひとつとして検討していた。だが、貸し出しスケジュールなどの都合で別のスピーカーを使うことになり、貸し出しが可能になった今回のタイミングで改めてお借りしたというわけだ。しかも、そのときにはぜひとも2つのペアを使ってサラウンド再生も試したみたいと筆者がぜいたくな要望を出し、幸運なことに2ペアをお借りすることができた。

LUMINAシリーズは、この価格帯ならば音楽用スピーカーとして最高のもののひとつと断言できるが、映画などのサラウンド再生も想定したスピーカーでもある。シリーズは3種あり、ウーファーを追加したトールボーイ型の「LUMINA III」、LUMINA Iと同じ120mmウーファーを2基使用した2ウェイ3スピーカーの「LUMINA CENTER」がある。LUMINAシリーズによる5.1ch再生も構築できるようになっているのだ。

LUMINAシリーズでシアターも構築できる

フロント側にLUMINA IIIを使って、リア側にLUMINA Iを使用。センタースピーカーにLUMINA CENTERを使うこともできたのだが、今回はもう少し手の届く組み合わせとした。センタースピーカーは必須ではないこと、フロントとリアは統一したいといういつもの個人的な主義もあり、LUMINA Iを2ペア使用し、サブウーファーは常設のイクリプスの「TD725SWMK2」を2台使用する、4.2ch構成とした。サブウーファーは比較的価格の釣り合う(しかし実力の高い)ものを1台としてもなんの問題もない。

AVアンプなども同様。今回は試聴室でいつも使っているヤマハの「CX-A5200」+「MX-A5200」、パナソニックの「DP-UB9000」を使っている。プロジェクターはJVCの「DLA-V9R」で、スクリーンはオーエスのピュアマットIII(120インチ)。

サラウンド再生では、フロント側のスピーカーをピアノブラックとした。ウェンゲも濃い茶色でAV用途でも視聴中にスピーカーが目立ってしまうようなことはないが、ピアノブラックの方がホームシアター向きという気もする。このあたりはインテリアなどとの兼ね合いも考えて自由に選ぶといいだろう。今回は借りられなかったが、明るい色調のウォールナットも明るいリビングにはよく似合うと思う。ピアノブラックはスクリーンの映像の反射が気になるが、LUMINA Iはバッフル面以外はマットな質感の革張りなので、その心配はない。

フロント側はスタンド設置だとスクリーンに重なってしまうので、背の低いAVラックの上に置いた。スピーカーの間隔がやや狭いが、センタースピーカーなしの4.2ch再生なので間隔はやや狭めの方が中央に浮かぶ声の実体感が増す。広い部屋で使うならば、センタースピーカーを追加するのがベターだ。

まずは軽く「TENET」を見た。小型スピーカーのLUMINA Iには荷が重いが、AVアンプの設定で低音をサブウーファーで補助する「スモールスピーカー」設定ではなく、「ラージスピーカー」設定で聴いている。LUMINA Iの実力を確かめるためだ。ところが、冒頭のキエフのコンサートホールの襲撃場面からして、なかなかの好感触。コンサートホールに足を踏み入れたときの独特の感じを知っている人ならばよくわかるだろう。残響が長めで足音や話し声などにも豊かな響きが乗る。残響が短めに設定された映画館とはまったく異なる感じだ。ステージ上ではオーケストラが調律を合わせており、客席には人が席に着き始めている。そんな演奏前の感じが実に豊かに伝わってくる。LUMINA Iの生き生きとした音の感触の理由でもあるが、響きが豊かなだけでなく、響きの余韻がきれいなのだ。

そこに激しい銃撃音。銃撃の重みや激しさも十分。銃撃に優雅な響きが乗っているのがよくわかる。チェロを蹴倒すときの倒れる音まで、実に響きが豊かだ。この映画はフロントチャンネルにもかなりの低音が入っているので、その意味では低音の底力がやや足りない感じはある。だが、バスレフ型にしては低音の伸びがスムーズで、低音感があまり失われない。一般的な音量ならば不満を感じることはあまりないだろう。

素晴らしいのは音場空間の広がりの豊かさで、ステージ上での銃撃と応戦する客席側からの銃撃の音の前後感の違いもきちんと描き分けるし、スピーカーが統一されているので空間のつながりもよい。貨物列車が行き交う線路で行なわれる拷問のシーンでも、右側では列車が後ろから前に走り、左側では逆に前から後ろに走るアングルでの行き交う貨物列車の移動感をシームレスに描く。音楽で感じた豊かな響きは映画の再生では空間の広がりとして感じるようで、残響が多くて細かな音が埋もれるように感じることはない。音楽でもそうだが、響きは実に豊かなのに、細かな音も明瞭に描くのだ。このあたりも絶妙なバランスの良さだ。なによりもダイアローグが良い。中央に浮かぶ声が表情豊かで、緊迫感のあるセリフの応酬や荒い息づかいを生々しく描く。やはり声がいいと映画の面白さも断然変わってくる。

アクション映画でも、鋭い音がいっぱいの激しい銃撃戦やカーチェイスを迫力たっぷりに再現する。もともとの基本的な実力の高さがよくわかった。しかし、今回のテーマはアクション映画ではない。

パヴァロッティの人生を描いたドキュメント「パヴァロッティ 太陽のテノール」

テノール歌手のルチアーノ・パヴァロッティのことは、クラシックやオペラに詳しくない人でもご存じのはず。「三大テノール」や「パヴァロッティ&フレンズ」など、クラシックの垣根を越えたコンサート活動で、幅広く知られた人物だ。「パヴァロッティ 太陽のテノール」は、そんな彼の歌手としての活動、恋愛や離婚を含めた人生を、彼に関わったたくさんの人々のインタビューと実際の映像を交えながら構成した映画だ。

【公式】『パヴァロッティ 太陽のテノール』三大テノールの王復活(9.4)

ひとつだけ残念なのは、日本版のBDの音声がドルビーTrue HD 5.1chということ。今回のシステムにはちょうどいいが、もともとの映画はDolby Atmos制作なのだ。彼の音源を数多く所有するデッカレコードの全面協力で、豊富な音源から良質なものを厳選し、丁寧にリマスター作業も行なった作品で、モノラル音源は響きのよいスタジオでスピーカーで再生し、周囲に置いたマイクで再度録音して、豊かな響きを再現するといったことまで行なっている。その音質の良さは5.1ch音声でも十分に堪能できるが、やはり自宅でもDolby Atmosで聴きたかった。

本作は冒頭のシーンが印象的で、アマゾン川のジャングルを遡上する場面から始まる。密林の奥にある古いコンサートホールで歌ってみたいとパヴァロッティが言いだし、そこに向かう様子を撮影したプライベートビデオだ。密林のあちこちで鳥の声が鳴り、川の流れる音や風で揺れる木々の音が豊かな空間を再現している。とても印象的な導入だ。そして、古びたホールでパヴァロッティが歌う。おおらかで、楽しげで美しく伸びていく。すばらしい美声だ。この歌声をLUMINA Iを使ったサラウンド音響で聴きたかったのだ。

冒頭は、アマチュア歌手だった父の子として生まれ歌うことが日常だった幼少期や、堅い職業として教師を父に勧められ、一度は教師として働いていた青年期が語られる。それらを語る人物も凄い面々が揃っている。いちいち紹介すると長くなってしまうので、歌手としてのデビューのエピソードを語る場面に移るが、語り手はプラシド・ドミンゴ。三大テノールの一人で、同じテノール歌手としてライバルでもあった人物だ。インタビューで話しているだけでもいい声で、その場所にかすかな響きまで、LUMINA Iは豊かに描く。

初公演は「ラ・ボエーム」でなんと代役としての起用だった。音源はモノラルだが、前述のアナログ的手法で響きが加味されたもの。1960年代の音源のため、ナローレンジな音だとわかるが、それでも実に美しい歌声だ。LUMINA Iの中域の充実した鳴り方ならではのものと言える。そして彼の名を世間に知らしめることになる「連隊の娘」のエピソード。彼の声の魅力である「ハイC」が9回も連続する曲だ。その高いC音が実に美しい。声の艶やかさとエネルギー感がよく伝わるし、朗々と伸びる声がたまらない。同じソナス・ファベールやイタリアのスピーカーを別にすれば、これ以上の相性の良い歌声は聴けないだろうと思う歌声。まさしくイタリア語を母国語とするスピーカーの良さが実感できる。

そして、彼が主な活躍の場としたメトロポリタン歌劇場でのデビューが語られる。面白かったのは、歌手で大事なこととして、横隔膜の動かし方について触れているところ。横隔膜のことを映画でダイヤフラムと言っている。スピーカーの振動板のこともダイヤフラムと呼ぶことがある。どちらもダイヤフラムの動かし方がポイントなのだ。歌とスピーカーの共通点にちょっとにやにやしてしまう。

いよいよ、彼の名を世界中に知らしめた「三大テノール」だ。語り手はドミンゴだけでなく、コンサートの指揮者であるズービン・メータ、三大テノールのひとり、ホセ・カレーラスが加わる。サッカーW杯決勝の前夜祭として企画された公演だったが、そこに大病から復帰したホセ・カレーラスの復活公演も一緒に行ないたいと言い出したことで、三人のテノール歌手の共演が決まった。カラカラ浴場で行なわれたコンサートをCDやビデオ映像で見た人はたくさんいるだろう。三人が茶目っ気たっぷりに歌う「オー・ソレ・ミヨ」が楽しい。声のリズム感の良さは踊っているとしか言い様がないし、実に生き生きとした歌を堪能できる。

圧巻なのは、「誰も寝てはならぬ」の三人の歌声、それぞれの声の特徴が豊かに描き出され、三人の合唱となると見事に調和した声と豊かな響きを味わえる。しかもサラウンドで部屋中に声が響き渡るのだ。屋外であるカラカラ浴場の音の響きなどもしっかりと再現され、実に感動的なステージになる。この映画を見て、改めて「三大テノール」のCDなどを聴き直してしまったのは筆者だけではないはずだ。

そして、「パヴァロッティ&フレンズ」では、数多くのロックスターとの豪華なステージが楽しめる。オペラ歌手としては常識を超えた活躍で批判もあったそうだが、オペラの魅力を多くの人に知らしめたことは間違いない。そして、いつでもとても楽しそうに歌っているパヴァロッティの姿が印象的だ。

最後はU2のボノが語り手となる「ミス・サラエボ」の場面。曲を依頼されたボノは最初は断ったものの、パヴァロッティは強引に依頼する。ある朝、彼が予言した通りに曲のメロディーが浮かび、パヴァロッティに連絡をすると、「今、そっちに向かっている」と返事が返ってくる。やってきたのはパヴァロッティだけでなく、撮影クルーも一緒だったとか。ボノらしい少し乱暴な言葉を交えながら語る様子も、どこか楽しそうだ。

「ミス・サラエボ」は長く続く戦火に苦しむボスニアの人々に捧げた曲で、ふたりの共演も実に素晴らしい。生命が宿ったような歌声を聴いていると、感極まってしまう。LUMINA Iで聴くサラウンド再生はとても音楽的だ。オペラ好きな人ならばもちろんだが、いわゆる音楽映画が大好きな人ならば、大満足できる音のはずだ。

人生と音楽を愛する人のためのスピーカー

映画では、彼の晩年や最後のコンサートまで語って幕を閉じるが、それらの歌声も素晴らしい。そんな歌声に包まれながらパヴァロッティの人生を知ることができるいい映画だ。LUMINA Iによるシステムは音楽が大好きで、音楽ビデオや音楽を題材にした映画が大好きな人にはぴったりのスピーカーだ。

それでいて、これだけ音楽的な鳴り方をするのに、アクション映画などを見ても十分以上に楽しめる懐の広さがある。これがソナス・ファベールのハイエンド級のモデルならばそれも当たり前だが、比較的手の届く価格のLUMINA Iでさえこれだけの魅力ある歌声を楽しめることに改めて驚く。

個性というか、主張のはっきりとしたスピーカーではあるが、これを苦手と感じたり、好ましくないと思う人はあまりいないとも思う。なんというか、知らぬ間に近くに寄ってきてそれが当たり前になっているような親しみやすさがある。まるでパヴァロッティの人柄のようだ。歌が大好きで、人生をもっと豊かなものにしたいと思っている人は、ぜひともLUMINA Iの歌声を聴いてみるべきだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。