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この高音質で2200円!?“有線イヤフォンの底力を見た”AZLA「TRINITY」がヤバすぎる
- 提供:
- アユート
2025年7月10日 08:00
これはちょっとした事件だ。読者の皆さんも同じだと思うが、イヤフォンの試聴をする時は、音の良し悪しだけでなく、価格と音質のバランス、つまり“コスパが良いか?”も重視する。しかし、今回のイヤフォンは“コスパが良い”を通り越している。というか、値段がバグっている。なんの話かというと、あのALZAとアユートが共同企画で生み出した有線イヤフォン「TRINITY」(トリニティ)だ。価格は脅威の2,200円(!)。2万2,000円ではない、2,200円だ。
しかもこのTRINITY、3.5mm接続タイプと、DACアンプを内蔵したUSB-C接続タイプの2モデルがあるのだが、価格はなんと同額。どちらも2,200円なのだ。本当に利益は出ているのかと心配になる。(出てないらしい)
しかも意味がわからないことに、このTRINITYには、ALZAが手掛ける人気イヤーピース「SednaEarfit」から、素材にプレミアムシリコンを使いつつ、形状を新しくした「SednaEarfit T」というピースが4サイズ付属する。
思わず「SednaEarfitって単品で1,500とか2,000円とかのはずでは?」、「イヤーピース買ったらイヤフォンがオマケについてきた状態なのでは」とツッコミを入れたくなるが、消費者としては安いに越したことはない。
これで、音がショボかったら話は終了なのだが……、困ったことにこのTRINITY、「かなり良い音」なのだ。
“ARD”をベースに、新たに生まれたドライバー
TRINITYを詳しく見ていく前に、少し時間を巻き戻そう。その方が、TRINITYを理解しやすくなるからだ。
AZLAは、ポータブルオーディオプレーヤー市場を牽引している有名なブランドにおいて長年勤務していたAshully Lee氏が、様々な企業のヘッドフォン開発スタッフを招き入れ、2017年に設立したイヤフォンメーカーだ。
そのAZLAは、2017年の8月にダイナミック型ユニットとBAのフルレンジユニットを同軸配置し、そのユニットをポリカーボネートの透明なシェルで覆った「AZLA」(当時の直販価格は49,980円)というユニークなイヤフォンを開発した。
そして2018年に、今度はハイブリッドではなく、ダイナミック型ユニットのみを搭載した「HORIZON」(ホライゾン/当時の直販価格32,980円)を発売。どちらのイヤフォンも聴いた事があるが、HORIZONはダイナミック型らしいパワフルな低音と、スケールが大きく開放的な音場が両立された、かなりクオリティの高い音だった。
このHORIZONには、8mm径のダイナミックドライバーが搭載されていたのだが、これが普通のドライバーではなかった。3Dレーザースキャナーを使って、音を出した時に振動板がどのように動いているかを細かくチェック。
特に10kHz以上における分割振動モード、つまり、振動板がたわんだり、波打つなど、意図しない動きをしないように徹底的に解析。1層構造の振動版では分割振動の抑制が難しいため、極薄の振動板を3層組み合わせる事で制御に成功した。
この3層構造振動板とネオジウムマグネットを組み合わせて「ARD」(Advanced Research Driver)と命名された。かなり凝ったダイナミックドライバーだが、評価は非常に高かった。
話をTRINITYに戻そう。
TRINITYには、このARDドライバーをベースに、新たに開発されたドライバーを搭載している。口径は同じ8mm。振動板はPU+PEEK複合振動板を使用した3層構造で、46μm厚。この振動板に、ネオジウムではないが、磁力を効率的に得られるように、ボイスコイルの外にドーナツ型マグネットを入れた外磁型のマグネットを組み合わせている。ARDの良さ活かしつつ、コストを抑えたドライバーを新たに開発したわけだ。
感度は104dB SPL/mW at 1kHz、抵抗は16Ω at 1KHz。周波数範囲は10Hz~40kHz。
筐体のデザインはシンプルな筒型だが、金属製で、後部にはスピン仕上げも施されており、2,200円とは思えない高級感がある。カラーはブラック、ブルー、シャンパンゴールドの3色だ。
この筐体に、単に新ドライバーを内蔵するだけでなく、ドライバーの実力を引き出すために、きめ細かくチューニング。歪み感や付帯音を低減し、クリアなサウンドを目指して試行錯誤を繰り返したそうだ。
ケーブルは前述の通り、3.5mm入力を備えたモデルと、USB-C接続タイプを用 意。3.5mm接続タイプは1.2mで、USB-C接続タイプは、ケーブルの途中に高感度マイク付きリモコンも備えており、通話にも利用可能な1.5mを採用している。なおUSB-C接続タイプはUAC1.0となっており、最大96kHz/24bitまでのハイレゾ音源に対応、さらにNintendo Switchでも使用が可能だ。
さらに、肌に優しいプレミアムシリコンを使いつつ、先端に向かうほど傘の厚みが薄くなるテーパッドフィット構造と新形状を採用した「SednaEarfi t T」をS/MS/M/Lの4サイズ同梱。さらにキャリングポーチも付属するというサービスぶりだ。
3.5mm接続で音を聴いてみる
音の前に装着感だが、シンプルな形状かつ小型のイヤフォンなので、耳穴まわりの圧迫感はまったく無く、閉塞感も少なく、快適だ。
耳掛け式ではなく、ケーブルがストンと下に垂れ下がるタイプだが、イヤーピースのサイズが耳穴とマッチしていれば、装着後に頭を振ってもまったく抜け落ちてこない。イヤフォン自体が軽いというのもあるが、新形状のイヤーピースのSednaEarfit Tが、耳穴の奥まで挿入しやすくなっている効果もあるのだろう。
試聴は、3.5mm接続モデルはAstell&Kernの「A&ultima SP3000」や「A&norma SR25 MKII」を、USB-C接続モデルはPixel 9 Pro XLと接続し、ハイレゾファイルやQobuzの楽曲を聴した。
まずはDAPで3.5mm接続モデルを聴いてみよう。
一般的に、低価格なイヤフォンは低域が強く、それに埋もれないようにと高域のエッジを強調した、いわゆる“ドンシャリ”傾向が多い。それはそれで気持ちが良いのだが、味付けが濃いので、どんな音楽を聴いても同じように聴こえてしまいがちだ。
だが、TRINITYはこの“よくあるエントリーの音”に当てはまらない。「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、冒頭のアコースティックベースからピアノ、そしてボーカルの人の声と、どれを聴いても非常にナチュラルで、強調感が無いのだ。
ダイナミック型らしく、全体としては少し低域寄りのバランスだ。しかし、低音がブーミーに膨らまず、タイトであるため、中高音も低音に埋もれず、スッと耳に入ってくる。これが全体のバランスの良さに繋がっている。端的に言えば「腰の座った低重心で、なおかつクリアな音」だ。
驚くのは、ボリュームを上げていっても、低域のタイトさが維持される事だ。これはおそらく、分割振動を抑えた3層構造振動板や、マグネットの工夫で駆動力を高めた事が効いているのだろう。
低価格なイヤフォンは、筐体の素材がプラスチックである事が多く、ドライバーの振動がこの筐体に伝わると、“プラスチックっぽい響き”が音楽に乗っかり、チープなサウンドになる事が多いが、TRINITYの場合は剛性の高い金属筐体を使っている事も、この低音のクリアさに寄与していると思われる。
余計な付帯音が少ないので、ダイアナ・クラールの歌声が広がっていく様子が良く見える。音場の広いイヤフォンだ。また、無音の状態から、ピアノがスッと立ち上がる様子もわかりやすく、SN比の良さも実感できる。
シンプルなダイナミックドライバー×1基構成なので、低域から高域まで、音の質感が統一しているのも良い。ハイブリッド構成では、低音はウォームなのに、高域は金属質など、音色がチグハグになったりもするが、そうした違和感が無いのは、ダイナミックドライバーのみの利点と言えるだろう。
「米津玄師/KICK BACK」のような、激しい楽曲を、ボリューム上げ目で聴いてもモコモコ、ゴチャゴチャした音にならず、鋭いビートや、飛び交うSEなど、細かな音が良く見える。歪みの少ない振動板の実力を引き出していると感じる。それでいて、ベースは鋭く深く刻み込まれる。“迫力とシャープさの両立”という、エントリーイヤフォンにとっての難題を、見事にクリアしている。
とはいえ、数十万円するハイエンドなイヤフォンと比べて、TRINITYが凄く勝っている部分があるわけではない。低音に頭蓋骨が揺すられるとか、高音の解像度がキレキレだとか、そういう強烈なインパクトはない。
逆に言えば、小手先で目立とうとせず、色付けを抑えたナチュラルな音を、バランスよく再生するという基本を追求した“真面目なイヤフォン”と言える。最もわかりやすいのが“人の声”のリアルさだろう。毎日のように耳にする人間の声だからこそ、その音に違和感があるとわかってしまう。TRINITYは人の声が自然に聴こえる。真面目に作ったダイナミック型イヤフォンの良さを、改めて実感できるモデルだ。
USB-C接続モデルはゲームとの相性も良い
USB-C接続モデルも、スマホと繋いで聴いてみよう。
イヤフォン部分は同じなので、当たり前ではあるが、音の傾向は3.5mm接続モデルと同じ。やや低音寄りだが、バランスの良い音で、中高域もクリアだ。「月とてもなく」のアコースティックベースの張り出しの強さ、ズンと沈む低音が楽しめつつ、ダイアナ・クラールが歌い出す直前に「スッ」息を吸う音、口が開閉するかすかな音が聴き取れる繊細な描写もできている。
ただ、本格的なDAPを接続した3.5mm接続モデルの音と比べると、低域の深さや、トランジェントなどは、USB-C接続の方が少し弱くなる。気になるほどではないが、無音部分でかすかにホワイトノイズも聴こえる。このあたりは、USB-C接続の手軽さとのトレードオフとして仕方がない部分だろう。
それよりも、USB-C接続からDAPに変えた時や、DAPのグレードを上げた時の、音の変化を、TRINITYがしっかりと描写できている事を褒めるべきだ。TRINITYで有線イヤフォンデビューした人が、DAPを買い替えるなど、接続機器をグレードアップした時に、その良さをしっかりと再生できる実力をTRINITYが備えている事。これは、エントリーイヤフォンとして、大きな魅力だ。
スマホゲームのFPS「Call of Duty: Mobile」もプレイしてみたが、音が素直で、分解能が高いので、敵の足音や、「こっちのほうで銃声がしたな」という方向が聴き取りやすい。音場が広いので、バトルフィールドの広さも実感しやすく、スマホ内蔵スピーカーでプレイするのとは次元の違う臨場感が味わえる。
過度に音の輪郭を強調したような不自然な音ではないので、長時間のプレイでもストレスが少ない。イヤフォン自体が小型・軽量なので、長時間装着しても負担が少なく、これもゲーム用イヤフォンとして優れているところだろう。
気になったらとりあえずポチるのもアリ
無理をせず、ナチュラルで、少しだけ低域寄りの安定感のあるサウンド。エントリーどうこうを抜きにしても、よく出来たイヤフォンだ。デザイン的な特徴はあまり無いが、質感は良く、凝ったイヤーピースなど、付属品も充実しており、どこにも手を抜かずに作られているのがわかる。
これで2,200円というコストパフォーマンスとしては、異次元と言って良い。「興味を持ったらお店やイベントで試聴してみて」と言いたいところだが、ぶっちゃけ、「お店までの往復の交通費で買えてしまうのでは」という気もするし、付属のイヤーピースも高品質なので、気になったらとりあえずポチってみるのもアリだろう。
“イヤフォンと言えば、完全ワイヤレス”の時代になったが、有線イヤフォンにもワイヤレスに負けない魅力がある。装着感の良さ、音質の良さ、コストパフォーマンスの良さという、その名の通り三位一体となったTRINITYは、それに初めて、もしくは改めて気がつくキッカケになるイヤフォンだ。