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“現代の技術でレコードプレーヤーを蘇らせる” デノンが音をコスパ追求、10万円台の「DP-500BT」に迫る

デノンのアナログプレーヤー「DP-500BT」

デノンというブランドについて、どんなイメージを持っているだろうか。海外ブランドを中心に、オーディオ機器が高額になっている昨今なので、「本格的な単品コンポをリーズナブルな価格で作っているブランド」「俺達の味方」的なイメージを持っている読者も多いだろう。事実、デノン自身 “価格も性能”をスローガンにするなど、高音質を追求しつつ、それを現実的な価格の製品に落とし込む技術にプライドを持っている。

そんな、コンシューマー向けブランドのデノンだが、実は、出自はバリバリの業務用オーディオメーカーだった。当時は“デンオン”だが、1940~1950年代、その技術力と信頼性の高い製品が評価され、デンオンの放送局用レコード再生装置は、NHKを始め全国のほとんどの放送局に納入。多くの国民が聴いていたラジオから流れる音楽は、デンオンのプレーヤーで再生されていたわけだ。

そして、1963年にNHKがFMステレオの実験放送を開始する際に、その厳しい要求を満たすMC型ステレオカートリッジ「DL-103」をNHKの協力を得て開発。以降、放送局用のスタンダードカートリッジとなる。そんなDL-103を、自宅のアナログプレーヤーでも使いたいというオーディオファンの声が高まり、1970年、DL-103でコンシューマー市場に参入。その後、アナログプレーヤーの人気モデルを多数開発し、現在のデノンへと繋がっていく。

DL-103の開発試作機
DL-103

そして2023年。アナログプレーヤーの老舗・デノンが、新たな最上位アナログプレーヤー「DP-3000NE」(385,000円/カートリッジ別売)を発売。そのハイクオリティなサウンドと、デノンのサウンドマスター・山内慎一氏が、開発初期から携わった初のアナログプレーヤーとしても大きな話題となった。一方で、30万円を超える価格であるため、「気になるけど、ちょっと手が出ない……」という人も多かった。

新たな最上位アナログプレーヤー「DP-3000NE」
デノンは現在も多くのアナログプレーヤーをラインナップしている

そして今回、DP-3000NEの技術を多く投入しつつ、半額以下の138,600円(しかもカートリッジ付き)という価格の新モデル「DP-500BT」が登場した。

結論から先に言うと、このDP-500BT、「この値段で、こんなにDP-3000NEに迫っちゃっていいの!?」と言いたくなるほど、“アナログプレーヤーの老舗”かつ、“価格も性能”なデノンの面目躍如と言えるプレーヤーに仕上がっている。

新モデル「DP-500BT」

“正確に、ムラなく回る”ための3つの工夫

アナログプレーヤーで何より重要なのは、ターンテーブルが正確に、ムラなく回ることだ。DP-3000NEは駆動方式としてダイレクトドライブを採用、DP-500BTはベルトドライブ方式だが、「正確に、ムラなく回る」重要性に違いはない。

「DP-500BT」はベルトドライブ方式

“正確に、ムラなく回す”ため、DP-500BTには大きく3つの工夫がある。

1つ目は、プラッターの中央にあるスピンドルだ。DP-500BTでは、このスピンドルの機械精度を高め、回転した時のワウ・フラッター(回転ムラ)を、理想とする0.1%以下に抑えた。同時に、回転精度には、デノンの思想を受け継いだノウハウや指針を基準に設計された理想の数値があり、そのスペックも追求したそうだ。

2つ目は、回転精度を高め、安定した回転を続けるために、回転速度を直接センサーで計測。それを基準クロックと比較、フィードバックし、モーターを駆動する機構を搭載している。これは、最上位のDP-3000NEと同様の特徴だ。

回転数は、33- 1/3回転、45回転、さらに78回転に対応。LP盤やEP盤だけでなく、SP盤も再生できる

3つ目は、共振対策だ。アナログプレーヤーは、ターンテーブルが回転するため、その振動が筐体に伝わり、共振を起こす。そうならないよう、DP-500BTの筐体は、リジッド構造とし、樹脂、金属プレート、ダイキャストという、異なる素材をあえて組み合わせている。素材が異なると、それぞれに共振周波数が異なるため、単一の素材で筐体を作るより、共振しなくなるというわけだ。

さらに、インシュレーターは、アルミニウム、樹脂、ラバークッションを組み合わせたハイブリッド構造を採用。ラックや床からの振動が伝わることを防いでいる。

インシュレーターはアルミニウム、樹脂、ラバークッションを組み合わせた本格的なもの

アナログプレーヤーのサウンドに重要なもう1つの要素が、カートリッジを取り付けるアームだ。

DP-500BTのアーム開発にあたっては、白河工場にある膨大な量の過去モデルの設計図を見直し、OB設計者にもアドバイスをもらいながら設計したという。

デノン伝統のS字トーンアームを採用

その結果、デノン伝統のS字トーンアームで、独自の「トラッキングエラー・カーブ」を追求したものが完成。線速度が遅く歪の多い内周でエラーを0に近づけ、線速度の速い外周ではエラーをある程度許容するという思想に基づいて設計されたもので、このカーブを実現するための有効長、オフセット角、オーバーハングの値が定められている。これを満たすことで、かつての業務用機器と同等のスペックを実現したという。

なお、当時の業務機ではロングアーム、DP-500BTはショートアームと、長さの違いはあるが、元となるトラッキングエラー・カーブ自体は同じになるように設定されている。

トーンアームの針圧は、目盛りどおりの針圧が実際に出るよう、誤差は0.1グラムという精度を実現した。

現代の技術でレコードプレーヤーを蘇らせる意味

DP-500BTは、DP-3000NEと同様、デノンのサウンドマスター・山内慎一氏が、チューニングしたアナログプレーヤーでもある。山内氏は、現代におけるアナログプレーヤーのチューニングを「物理的に正しいことと、感性の融合」とする。

デノンのサウンドマスター・山内慎一氏

一般的に、アナログプレーヤーの基礎技術はCDが登場する前の1970年代には確立したと言われる。そのため“枯れた技術”で作れる製品を、今、新たに開発する意味があるのかと考える人もいるだろう。だが、それはアナログプレーヤー単体で見た時の話だ。

1970年代と比べると、アナログプレーヤーと接続するアンプやスピーカーの性能は向上し、機器内部の部品の性能も大きく進化した。その性能を測定する機器も進化しているし、生産技術も進歩した。また、製品をチューニングをする時のノウハウ、技術も、過去から連綿と積み重ねられ、今に至っている。

そうした進化も、DP-500BTには取り入れられている。例えば、電源にACアダプターを採用している。本体にトランスを用いたリニア電源回路を内蔵すると、トランスから発生する振動が問題となるため、あえて外部電源方式を選択したそうだ。

徹底した試聴を繰り返し、オーディオ用電源、オーディオ信号回路やモーター系の電源のコンデンサーに、DP-3000NEの時に開発したカスタムグレードのものを採用。オーディオ出力回路(アナログ)の一部にPMLキャップも使っているとのこと。

DP-500BTは、MMカートリッジを同梱しているほか、新型のフォノイコライザーも内蔵しているのだが、このフォノイコライザーにもこだわった。シンプルでストレートな回路を新規開発したほか、オペアンプには、PMA-1700NEの内蔵フォノイコライザーで使われているものを搭載している。

内蔵フォノイコライザーのクオリティにもこだわった

背面にはイコライザーのON/OFFスイッチがあり、イコライザーをスルーして、別途ユーザーが用意した単体フォノイコライザーを使ったり、アンプ側に内蔵したフォノイコライザーを使うこともできる。

一方で、山内氏は「アナログプレーヤー内蔵フォノイコライザーならではの利点もある」と語る。それは、カートリッジからの信号を100倍ほど増幅するフォノイコライザーアンプにおいて、アナログプレーヤーに内蔵する場合、より“針に近いところでイコライジングできる”というメリットだ。

「それを生かせるような緻密なチューニングを行ないました。また、イコライザーの音質を改善することで、プレーヤー単体の総合的な音質にも寄与した結果、外部のフォノイコライザーを使った場合においても音質は改善します」(山内氏)。

山内氏はチューニングにおいて、「ワイドレンジ」、「広いサウンドステージ」、「プレゼンス」、「抜けの良さ」、「躍動感」、「エモーション」といった部分を追求したという。

便利な機能として、DP-500BTはBluetooth送信機能もサポート。BluetoothヘッドフォンやBluetoothスピーカーで、手軽に、かつワイヤレスでレコードの音を楽しめる。

音質面でも、aptX Adaptive(最大96KHz/24bit)/aptX HD/aptXに対応している。不要な時は機能をOFFにできる。DP-500BT側にボリューム調整機能もあるので、接続するヘッドフォン/イヤフォン/アクティブスピーカー側にボリュームが無くても大丈夫だ。

前面にBluetooth用のボタンがある

10万円台のアナログプレーヤーとして、Hi-Fiなこだわり、最上位機の技術を多く投入する一方、Bluetooth送信のように、使いやすい機能も備えている。レコード初心者からマニアまで、幅広い層にマッチする仕様になっている。

音を聴いてみる

山内氏によれば、DP-500BT開発時には、付属するMM型カートリッジと、内蔵フォノイコライザーを使った時の音でチューニングを追い込んだという。

付属のMM型カートリッジ

では、付属カートリッジと内蔵フォノイコライザーで増幅した音を聴いてみよう。組み合わせたアンプはデノンのプリメインアンプ「PMA-3000NE」だ。

「角田健一ビッグバンド/タキシード・ジャンクション」を再生すると、広大な音場が眼の前に広がり、そこにビックバンドがドッシリと定位する。分解能が高く、各楽器の動きがシャープに描写される。情報量が多いだけでなく、ビッグバンドならではの、幾重にも重なった厚みのある音が「バーン」と打ち寄せてくるパワフルさもある。

一般的に、「アナログプレーヤー内蔵フォノイコライザーの音」というと、音がこぢんまりしたり、解像度が不足するようなイメージがあるが、DP-500BTの内蔵フォノイコライザーには当てはまらない。「あ、これは本気のフォノイコだ」というのが、音が出てすぐにわかるほど情報量が多く、エネルギッシュな音だ。

プリメインアンプ・PMA-3000NE内蔵フォノイコライザーとも聴き比べてみたが、この違いが非常に面白い。

さすがに、50万円を超えるPMA-3000NEの内蔵フォノイコライザーを使ったほうが、音場の広さ、SN比などは良い。

ただ、DP-500BT内蔵フォノイコライザーとの差は、それほど大きなものではない。DP-500BT内蔵フォノイコライザーも、低域がしっかりと沈み、馬力も感じられるため、グッと音が前に出るエモーショナルな部分は、個人的にはDP-500BT内蔵フォノイコライザーの方が好みと感じたくらいだ。

そのまま、PMA-3000NE内蔵フォノイコライザーで試聴を継続。

「ホフ・アンサンブル/Quiet Winter Night」の2曲目「Stille, stille kommer vi」、そしてカナダ出身のマイク・ミロシュ (Michael Milosh)による音楽プロジェクト「Rhye」の「Patience」を再生した。

「Stille, stille kommer vi」では、左右前後に加え、上方向にも広がる音場のスケール感に驚かされる。この楽曲は、教会の中に、円形にマイクを置き、演奏者がそれを取り囲むようにして録音されたそうだが、そのような録音現場の様子が脳裏に浮かんでくる。

「Rhye/Patience」でも音場の広さが印象的で、男性ボーカルのファルセットがその広い空間にどこまでも広がる。そして、その広大な空間の中に、ボーカルやピアノなどの音像が明瞭に定位する。

それでいて、「フリートウッド・マック/ビッグ・ラヴ」などを聴くとわかりやすいが、音が薄くならず、音像から発せられる歌声や楽器の音はエネルギッシュであり、ベースの中低域や、ドラムのビートなどにはグイグイと前に出てくる力強さがある。これが実にレコードらしいエモーショナルな音で、聴いていて思わず体が動いてしまう。

これだけ押し出しがパワフルで、音圧豊かな音がビンビン前に出ているのに、その背後にある空間が広大で、そこにエレキギターの余韻が遠くまで広がっていく様子も見えるのが、DP-500BTの高い実力を感じる部分だ。

「山下達郎/ARTISAN(2025 Vinyl Edition) 」から「アトムの子」を再生すると、冒頭のドラムの乱打が、グイグイと前に出て、まるで音の連続パンチを浴びているようで気持ちが良い。同時に、そのドラムの余韻が、奥の空間に広がる様子も聴き取れる。

ユニバーサル ミュージックの復活した「100% Pure LP」から、オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』の「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」も再生したが、ベース、ドラム、ピアノというの音像と定位が非常に明瞭で、古い録音にも関わらず、眼の前にトリオが出現したようなリアリティがある。

“音場や定位を再現する精密さ”と“音に撃ち抜かれるような力強さ”、相反しそうな要素が両立できている。

最上位モデルとも聴き比べてみる

DP-500BTの“空間的な制約の無さ”“音がどこまでも広がっていく広大さ”という特徴は、最上位モデル・DP-3000NE(385,000円/カートリッジ別売)を試聴した時の印象にかなり近い。

では、DP-500BTとDP-3000NEを聴き比べると、どう違うのだろうか?

最上位モデル・DP-3000NE

カートリッジまで揃えたわけではないので、厳密な比較ではないが、「DP-500BT + 付属MMカートリッジ」と「DP-3000NE + 別売DL-103(77,000円)」も聴き比べてみた。

MMカートリッジとMCカートリッジの違いもあるので、微細な音の再現性や、低域の分解能などはDP-3000NE + DL-103の方に軍配が上がる。だが、空間の広がりや、中高域の抜けの良さといった部分は、DP-500BT + 付属MMカートリッジがかなり肉薄していて驚かされる。

そういった意味で、DP-500BT + 付属MMカートリッジのサウンドには、今までの“MMカートリッジの音”のイメージを変える力がある。MMのエネルギッシュさを持ちながら、MCのような音場の広さ、精細な描写も持ち合わせている。

現代のオーディオ機器とマッチする、新たなアナログサウンド

レコードの音というと、“ナローで線が太い、なつかしい音”を連想する人が多いかもしれないが、ピュアオーディオでは、必ずしもそうではない。クリアで高精細、それでいてCDやハイレゾファイルとも異なる“濃さ”もあるなど、“なつかしさ”だけではない、独自の魅力がある。

DP-3000NEを聴いた時に、そうした魅力を感じたものだが、今回のDP-500BTでもまったく同じ印象を受けた。価格で比べると、DP-500BTはDP-3000NEの半額以下であり、さらにDP-500BTはカートリッジも付属し、フォノイコライザーも内蔵している。そう考えると、DP-500BTは非常にコストパフォーマンスが高く、「この値段で、こんなにDP-3000NEに迫った音が出るとは」と驚くクオリティだ。

そういった意味で、エントリーのアナログプレーヤーからのステップアップや、昔のアナログプレーヤーからの買い替えを検討している人に、DP-500BTは要注目となるだろう。現代の、進化したアンプやスピーカーとマッチした、新たなアナログサウンドの魅力を実感できるはずだ。

最後に、DP-500BTを入手して、内蔵フォノイコライザーから、単体フォノイコライザーからのステップアップする時は、かなりグレードの高いモデルを選んだ方が良いだろう。そのくらい、DP-500BT + 内蔵フォノイコライザーのサウンドは、完成度が高いからだ。

山崎健太郎