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ガチなオーディオメーカーが作ったBluetooth送信機、Noble Audio「Sceptre」でイヤフォン/ヘッドフォンの真価発揮!

Noble Audio「Sceptre」

ワイヤレスヘッドフォンは広く普及し、今では数千円のエントリーから、10万円を超える高級機まで登場。音質にも磨きがかかり、「Bluetoothヘッドフォンでも、好みの音質を追求したい」と考えている人も多いだろう。

とはいえ、Bluetoothヘッドフォンを高級モデルに買い替えるだけが、手段ではない。注目すべきは、送り出し側、スマホに手軽に取り付けられる“Bluetoothトランスミッター”だ。

そのBluetoothトランスミッターに、豊富なコーデックに対応し、遅延を抑えるゲームモードも搭載した話題のモデルがある。イヤフォンメーカーとして名高い、Noble Audioが手掛けた「Sceptre」(14,300円)だ。

USB-Cプラグを備えたSceptreは、スマホのUSB-C端子に直接接続して、スマホの音楽配信や映像・ゲームアプリの音声などをBluetoothで送信できる。

「Bluetooth送信機能は、手持ちのスマホに搭載されているのに、わざわざBluetoothトランスミッターが必要なのか?」と思われるかもしれないが、大きな理由の1つは、対応コーデックの豊富さだ。

Sceptreは、最新のQualcomm QCC5181 Bluetoothチップセットを搭載し、コーデックはSBC、AACに加え、aptX HD、aptX Adaptive(aptX Lossless)、LDACでの送信にも対応している。

つまり、手持ちのワイヤレスヘッドフォンがLDACに対応していても、スマホ側がLDACで送信できなければ、LDACで接続する事はできない。しかし、Sceptreをスマホに接続すれば、スマホ側が対応していないコーデックで、ワイヤレスヘッドフォンに送信できる。

具体例を挙げるとすると、アップルの「iPhone 17e」や、携帯ゲーム機の「Nintendo Switch 2」は、SBC、AACコーデックにしか対応していない。これらにSceptreを接続し、対応するヘッドフォンを用意すれば、aptX Adaptive(aptX Lossless)やLDACで音声を送信できるわけだ。

スマホに接続したところ

そもそもNoble Audioって?

イヤフォンに詳しい人には説明不要かもしれないが、Noble Audioは2013年10月に、“Wizard”ことジョン・モールトン博士によって設立されたアメリカのメーカーだ。

ジョン・モールトン博士は、学生時代から音響製品に興味を持ち、その後、聴覚学の博士号を取得して聴覚学の講師になった人物。難聴の診断・治療や、予防、リハビリ、補聴器の調整などを行なう専門家として、さらに蝸牛インプラントの外科助手としても活躍。

オーディオ好きでもあり、所属していた会社のラボで幾つかのカスタム・イヤフォンを作成。それが、アメリカのヘッドフォン関連コミュニティであるHead-fiで話題となり、魔法のような技術を持っていたことから“Wizard”という愛称が定着。

“Wizard”ことジョン・モールトン博士

その後、博士はNoble Audioを設立。オーディオファンに向けてカスタムイヤフォンやユニバーサルイヤフォンを手掛けるほか、より手軽なワイヤレスイヤフォンにも注力。完全ワイヤレスイヤフォンでも大ヒットしたのが記憶に新しいところ。

そんな音にこだわるオーディオメーカーであるNoble Audioが作ったトランスミッターがSceptreなのだが、メーカーの背景を知れば、豊富なコーデックに対応している理由も納得できる。

Sceptreの詳細

Sceptreを細かく見ていこう。外形寸法は42×10×10mm(幅×奥行き×高さ/高さはUSB-C端子含む場合20mm)とコンパクト。スマホに接続しても、あまり出っ張らないので、良い意味で存在感が薄い。重量も約4gと軽いので、可搬性は高い。

また、スマホのUSB-C端子に接続した状態で、スマホ本体とSceptreの間に、少し隙間が出来るように作られている。そのため、スマホの保護ケースを装着したままで、Sceptreを接続できる可能性が高い。実際、筆者は半透明のシリコンケースを装着しているが、そのままの状態でSceptreを取り付けることができた。

スマホにシリコンケースを装着したまま、Sceptreを接続できた

組み合わせるケースの素材などによっても変わると思うが、おそらく厚さが2~3mm程度のケースであれば、Sceptreとの併用が可能と思われる。

厚さが2~3mm程度のケースであれば、Sceptreとの併用が可能と思われる

接続できるのはスマホだけではない。Sceptreには、USB-CをUSB-Aへ変換するアダプターも同梱しているので、パソコンのUSB端子にも接続可能だ。

USB-CをUSB-Aへ変換するアダプターも同梱。PCとの接続も可能だ

もう1つ、便利な機能がある。写真を見るとわかるが、USB-Cのプラグに加え、底面にPD3.0準拠/最大45Wの給電用USB-Cポートを備えている。

底面にPD3.0準拠/最大45Wの給電用USB-Cポートを備えている

Sceptre自体にバッテリーを内蔵していないため、動作時はUSB-Cからの給電が必要になる。スマホやゲーム内蔵のバッテリーを使うわけだが、Sceptre側にも給電用ポートを備えているので、Sceptreを使いながら、スマホやゲーム機を充電できる。長時間音楽やゲームを楽しむ時には便利な仕様だ。

このように、USB給電でスマホを充電しながらSceptreを使用できる

設定などは、iOS/Android用のアプリ「Noble FoKus」で行なう。スマホのBluetoothをONにした状態で、Sceptreを接続し、Noble FoKusを起動。有線デバイスとして、Sceptreを認識させる。

そのあとで、ワイヤレスヘッドフォンやイヤフォンをペアリングモードにして、Noble FoKusアプリから、周辺機器を検索すると、接続機器の候補として、それらのヘッドフォン/イヤフォンが現れるので、タップしてペアリングする。

iOS/Android用のアプリ「Noble FoKus」
スマホとSceptreはUSB-Cで接続するが、スマホ側のBluetoothもONにする必要がある
Sceptreとヘッドフォンのペアリングは、Noble FoKusアプリから行なうカタチとなる

なお、一度初期接続を行なえば、スマホにSceptreを接続して、ヘッドフォンの電源をONにするだけで、自動的にSceptreとスマホがペアリングされる。これは便利だ。

コーデックは、アプリの「オーディオデコーダー」から選択する。SBC、AAC、aptX Adaptive、LDACなどに対応するが、表示されるコーデックは、ペアリングしているイヤフォン/ヘッドフォンが対応するもののみだ。

また、「More」というアイコンが表示されたコーデックの場合、音質重視にするのか、接続優先にするのかといった、より細かな設定もできる。

LDACの場合は、最高音質、バランス 音質と安定性、接続優先の3つから選択できる

なお、ここで注意点がある。

イヤフォンやヘッドフォンによっては、LDACを利用する際に、SBCやAAC接続の状態から、メーカー独自のアプリを用いて、LDAC接続モードに切り替え、再起動する必要がある。その場合は、Sceptreとヘッドフォンをペアリングする前に、スマホとヘッドフォンをペアリングし、メーカーのアプリでLDACモードに切り替え、ペアリングを解除してから、改めてSceptreとペアリングする必要がある。

このように、LDACを利用する際には、イヤフォン/ヘッドフォンメーカー純正アプリで、LDAC接続モードに切り替える必要がある

上記の注意点と似た話だが、Sceptreとゲーム機を接続する場合は、Noble FoKusアプリを使い、事前にSceptreの動作モードを「ゲームモード」に設定し、Sceptreを再起動させる必要がある。

このゲームモードに設定すると、ヘッドセット用の「HFPチャンネル」を実質的に無効になり、ゲーム機の音をA2DPチャンネル(音楽チャンネル)を使って送信するようになる。これにより、音声が48KHzまたは96KHzまで向上し、より良い音でゲームのサウンドが楽しめるわけだ。

ただ、ヘッドセット用のプロファイルではないので、Bluetoothヘッドフォンなどのマイクは使えなくなる。

ゲーム機と接続する前は、Noble FoKusアプリを使ってゲームモードに設定する必要がある

iPhoneとSceptreで、LDACサウンドを楽しんでみる

では、実際にSceptreを使ってみよう。

iPhone 17eにSceptreを接続、アプリのNoble FoKusを用いて、Technicsの完全ワイヤレスイヤフォン「EAH-AZ80」とペアリングした。なお、AZ80はSBC、AACとLDACに対応している。Sceptreが無ければ、iPhone 17eとAZ80はSBC/AACで接続するしかなかった。

Technicsの完全ワイヤレスイヤフォン「EAH-AZ80」とペアリング

まず、iPhone 17eとAZ80を直接AACで接続した音と、Sceptreを使ってLDAC(最高音質)接続した音を聴き比べた。なお、LDACでは接続モードを最高音質(990kbps)、バランス 音質と安定性(660kbps)、接続優先(330kbps)から選択できる。

Qobuzで配信されている「ハンバート ハンバー/マイ・ホーム・タウン」や「手嶌葵/明日への手紙」(どちらも96kHz)を聴いてみたが、確かに音が違う。

低音がどうの、高音がどうのという方向性ではなく、例えば、手嶌葵の歌声がスーッと広がって、奥の空間に消えていくところに注目すると、LDACの方が奥の奥まで見通せる。それによって、音楽が広がるステージ自体の奥行きを認識できるようになり、そのステージに出現するボーカルや楽器の音像自体が立体的に感じられるようになる。

試しに、アプリでSBC→AAC→LDACと切り替えていくと、聴いている部屋自体が広くなっていく印象だ。

また、LDACで聴くと、ボーカルや楽器の音像に厚みが感じられる。例えばボーカルの声も「ああ、お腹から喉を通って声が出ているんだな」と、聴いているだけで、人間の肉体が脳裏に浮かぶのだが、SBCやAACだと、音像が薄く、ボーカルの実在感も乏しくなる。

“カキワリ化する”とまではいかないが、音楽にとって重要な熱気、エモーショナルな部分が薄まった印象になるため、一度LDACで聴いてしまうと、他のコーデックは選びたくなくなる。

よりドライバー構成がリッチなイヤフォンでも試してみよう。Nobleの完全ワイヤレスイヤフォン上位モデル、ラテン語で「王」の名を冠した「FoKus Rex5」だ。

Noble Audio「FoKus Rex5」

このイヤフォンは、完全ワイヤレスながら10mmダイナミックドライバー、6mmプラナー(平面)ドライバー、3基のBAドライバーを組み合わせたトライブリッド5ドライバー仕様で、ワイドレンジな再生ができるのが特徴。コーデックもSBC、AAC、aptX Adaptive、LDACに対応している。

「藤井風/Prema」を聴きながら、SBCとaptX Adaptive(高音質)、LDAC(最高音質)を聴き比べてみた。

冒頭からバーン! と厚みのあるベース、その周囲に繊細なコーラスが広がる楽曲だが、SBCで聴いていると、ベースの音像が薄く、迫力に乏しい。コーラスの音も痩せて線が細く、エッジが立ったキツイ音に感じられる。

しかし、aptX AdaptiveやLDACに切り替えると、ベースが分厚くなり、こちらに向かって低音が張り出し、押し寄せてくるようなパワフルなサウンドになる。コーラスの高音も、人の声の質感がしっかり出て、誇張感が無くなる。全体として、重心が低く、安定感があり、ナチュラルな音になるため、聴いていてホッとする心地良い音になる。個人的にはLDACの方がより良く感じられた。

JBLのイヤフォン「LIVE BEAM 3」やヘッドフォン「TOUR ONE M3」などでもLDACの音を聴いてみたが、印象は同様だった。

多くのイヤフォンで効果を実感できると思うが、AZ80やFoKus Rex5のようにワイドレンジかつ、繊細な音も描写できるイヤフォン/ヘッドフォンを使うと、より効果を実感できるはずだ。特にFoKus Rex5のような、リッチなユニット高性能イヤフォンと組み合わせると、イヤフォンの真価を発揮してくれるサウンドになるため、もうSceptre無しには戻れないなという印象だ。

ちなみに、EAH-AZ80やLIVE BEAM 3を接続した時は、最高音質(990kbps)で接続すると、時折「ブツッ」と一瞬音が途切れる事があり、バランス 音質と安定性(660kbps)を選ぶとより安定した。屋外の人混みを歩いている時や、駅の構内など、より安定接続が難しい場所では、接続優先を選んだり、別のコーデックを選ぶと良さそうだ。

また、TOUR ONE M3とSceptreは相性が今ひとつだったようで、LDACだと途切れがちだった。このあたりは、今後のファームウェアアップデートで改善を期待したいところ。

なお、Sceptreは、aptX Adaptive(高音質)設定時、aptX Adaptive(aptX Lossless)に対応した機器に接続した場合のみ、aptX Lossless接続が適用される。通信環境などで条件が悪化した場合は、通常のaptX Adaptiveに切り替わるそうだ。

これは、aptX LosslessがaptX Adaptiveの拡張機能で、システムデフォルトの設定となっており、ペアリングする機器がaptX Lossless技術に対応している場合、aptX Adaptive(高音質)を使用する際にaptX Losslessが自動的に適用されるためだ。

イヤフォン/ヘッドフォンに真価を発揮させるトランスミッター

Nintendo Switch 2とSceptreを接続し、AZ80を使ってゲーム「ぽこあポケモン」や「Apex Legends」をプレイしてみたが、音声がA2DPチャンネル(音楽チャンネル)で伝送されることもあり、良い音でゲームが楽しめる。

フィールドを吹き抜ける風や、細かな砂の音など、内蔵スピーカーでは聞き逃していた音まで耳に入るので、自分がゲームの世界に迷い込んだような臨場感が大きくアップする。屋外で遊ぶ時はもちろんだが、家の中でもイヤフォンでプレイしたいと思わせる音の良さだ。

ただ、Sceptre自体は低遅延を謳った製品ではないので、Apex LegendsのようなFPSをプレイすると、トリガーを引いて銃を撃った瞬間から、一拍置いて「バァン」と音が出る。それなりの遅延はあるので、FPSや格闘ゲームなど、遅延にシビアなゲームには向かない。RPGやアドベンチャーなど、高音質でBGMも含め、ゆったりとプレイするタイプのゲームに向いているだろう。

Androidのスマートフォンでは、LDAC対応機が増えてはいるが、まだ非対応のモデルも多い。また、iPhoneユーザーで、既にLDACやaptX Adaptive(aptX Lossless)対応のイヤフォン/ヘッドフォンを持っている人にとって、Sceptreは待望のトランスミッターと言えるだろう。

個人的には、スマホに取り付けても主張しないコンパクトさと、スマホに装着している事を忘れる軽量さが気に入った。機能が優れていても、大きくて重いトランスミッターだったら、持参するのが面倒になって使わなくなってしまうだろう。Sceptreのサイズなら、そんな心配はない。

手持ちイヤフォン/ヘッドフォンに真価を発揮させたい、スマホを買い替えずに音をグレードアップしたいなら、Sceptreは要注目のトランスミッターだ。

山崎健太郎