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Melody Wings「Neptune」驚きの低音と“穴”が生み出す超開放感。旅に出たくなるイヤフォン

Melody Wings「Neptune」

気鋭のブランド、Melody Wingsが好調だ。2025年に、第1弾IEM「Venus」(実売約2.8万円)を発売。ブランドとしては新しいが、音響構造の設計で10年以上の経験を持ち、音響や材料特性にも精通したエンジニアが手掛けている事もあり、音質とデザインどちらも優れた、第1弾とは思えない完成度の高いモデルだった。

Venus

そして2026年2月には、第2弾IEM「Jupiter」(実売約1.5万円)をリリース。より手に届きやすい価格で、スマホと接続しやすいUSB-C接続、それでいて10mm径のチタニウムプレーテッドダイナミックドライバーを採用した、クリアな本格サウンドが話題となった。

Jupiter

そして第3弾「Neptune」(51,500円)が登場する。Venus(金星)、Jupiter(木星)と来て、最新モデルは海王星(Neptune)。ローマ神話の海の神でもある。

Neptune

Neptuneの注目ポイントは、5万円台という価格帯にある。有線イヤフォンにおける5万円台という価格帯は、パーツや素材にコストがかけられ、各ブランドが自分達の技術や音作りを存分に追求できる場だ。それでいて、数十万円する超ハイエンドよりは身近なので、ブランドの新たなファンを獲得する名刺代わりとしての役割も担う。その結果、各社が渾身のモデルで勝負する“有線イヤフォンの花形”とも言える価格帯でもある。

Neptuneも例に漏れず、こだわりが詰まったイヤフォンに仕上がった。ドライバーだけでなく、筐体に開いた“穴”「ル・ヴェリエ・ブリージング・アレイ」も見逃せない。「Melody Wingsは一味違うな」と唸る1台になっている。

Neptune

ドライバーと、その実力を発揮するための“穴”に注目

内部に搭載しているドライバーから見ていこう。ユニットは以下の通り。価格を考えると、リッチな構成だ。

  • 低域用:ダイナミック型×1、骨伝導×1
  • 中域用:バランスド・アーマチュア(BA)×2
  • 高域用:バランスド・アーマチュア(BA)×2

注目は低域用ドライバー。10mm径のダイナミックドライバーに加え、振動によって、低域の表現を拡張する骨伝導ドライバーも使っている。骨伝導を加えることで、力強さや重厚感を追加する工夫と思われる。

中域と高域は、それぞれBA×2基が再生する。温かみのある表現や、ボーカルの情感、滑らかな伸びなどにこだわった構成だという。

こうしたドライバーもポイントだが、最大の注目は、それらを内蔵する筐体に開けられた“5つの穴”にある。

筐体に5つの小さな穴が開いている

この穴は、「Le Verrier Breathing Array(ル・ヴェリエ・ブリージング・アレイ)」と名付けられたもの。もちろん、デザインとして開いているわけではない。この穴のサイズや個数、配置に意味がある。

そもそも、ダイナミック型もBAドライバーも、振動板やアーマチュアが振幅する事によって音を出している。しかし、イヤフォンの筐体内が密閉されすぎていると、空気圧が邪魔をして、スムーズな振幅ができなくなる。こうなると、低域にキレがなくなり、中低域がモコモコ膨らんだ不明瞭な音になってしまう。

そこで、ベントとして筐体に穴を開けると、そこから余分な空気圧が外に逃げて、振動板が動きやすくなり、クリアでキレのある低音を再生できるようになる。

音質だけでなく、カナル型イヤフォン特有の閉塞感・圧迫感を低減し、音場の広がりを生み出す効果もある。小さな穴は、実は、イヤフォンにとってかなり重要なものなのだ。

では、穴を沢山開けたり、サイズを大きくすればするほど良いのか?というと、そうでもない。もし穴だらけだったら、音が漏れてしまうし、外のノイズも聞こえやすくなってしまう。どんな大きさの穴を、どこに、何個開けるのか?というのが、メーカーの腕の見せ所というわけだ。事実、Le Verrier Breathing Arrayに到達するまで、膨大な試作とモニタリングを繰り返して、最適な穴のサイズ、個数、位置を決めていったそうだ。

シェル、HeyGearsの3Dプリント技術で作られており、人間工学に基づいた滑らかなフォルムに仕上がっている。それなりに厚みのある筐体だが、装着した時の安定感は高く、首を動かしても落ちてくる気配はない。素材も、肌に優しく、耐久性のある樹脂が採用されている。

個人的にグッとくるのが、気品のあるカラーとフェイスプレートのデザインだ。ボディはブラックで、フェイスプレートは深海や宇宙も連想させる深い紺色。暗い場所では黒にも見えるが、外に持ち出して光が当たると、深い青みと、独特の模様が浮かび上がる。このフェイスプレートはバーチ材で作られているそうだが、木目が海の波のようにも見えて面白い。

フェイスプレートは淡いゴールドの縁取りされており、左チャンネルには「Neptune」の文字、右には海の神を表現した三叉の矛と波のモチーフが配置されている。控えめな色使いなのだが、気品がある仕上がりで、スーツにもマッチしそうな大人な雰囲気だ。

ケーブルも青とシルバーが編み込まれたカラーでカッコいい。4芯の6N OCCケーブルが使われており、イヤフォン側は0.78mm 2ピンで着脱可能。入力プラグは3.5mmと4.4mmの交換式だ。インピーダンスは19Ω@1kHz。感度は108dB/mW @1kHz。

4芯の6N OCCケーブル
入力プラグは3.5mmと4.4mmの交換式
イヤーピースは、バランス型、ボーカル型、メモリーフォーム型の3種類が付属し、音の変化も楽しめる
高級感のあるケースも付属

音を聴いてみる

試聴には、Astell&KernのDAP「A&ultima SP3000」を使用。Neptuneを接続し、3日間鳴らしっぱなしにしてから聴いた。ソースはハイレゾファイルに加え、Qobuzの配信楽曲も使っている。

「ヨルシカ/千鳥」を再生したが、最初からNeptuneの音に唸ってしまった。

まず驚くのは、キタニタツヤのベース。深く沈むだけでなく、トランジェントが良く、スラップ奏法のキレが素晴らしい。ハイスピードで歯切れの良い低音でありながら、「ズン」と沈む重さも兼ね備えている。

同時に驚くのは、中高域の開放感。ベースの低音が土台として音楽をしっかり支えつつ、suisのボーカルが青空の彼方までスーッと広がっていくように、音場がとにかく広く、高域も非常にクリア。こんなに開放的なサウンドが楽しめるイヤフォンは、なかなかない。

これは凄いぞと、いろいろな曲を聴いてみたが、特に圧巻だったのは、再始動したBTS(防弾少年団)の「ARIRANG」に収録されている「2.0」だ。

地の底から響いてくるような重低音が大迫力で、ボリュームを上げると、まるで頭蓋骨をゆすられているような激しさ。骨伝導ドライバーの威力をたっぷり味わえる。

驚くべきは、こんなにパワフルで重い低音が「ズウォンズォン」と響いているのに、ボーカルやコーラスの中高音は目が覚めるほどクリアに描写される事。低音のパワーに覆われて不明瞭な音にならない。低音、中音、高音が、足を引っ張らず、それぞれの持ち味をしっかり発揮している。これは見事だ。

搭載しているドライバーが、それぞれの能力をしっかり発揮できている証拠でもあるだろう。その点で、5つの穴、Le Verrier Breathing Arrayがあってこそのサウンドとも言える。

Le Verrier Breathing Arrayは、BAとダイナミック型という異なる方式のドライバーの、スピード感を揃える役目も果たしていると感じる。もし、ダイナミック型の動きが鈍く、もっさりした低音になると、BAのトランジェントの良いサウンドと差が鮮明に出てしまい、「低音はボワッとしているのに、中高域だけシャープ」という違和感を生んでしまうだろう。

しかし、Neptuneの場合は、ベントが効果的に機能することで、ダイナミック型がトランジェントの良い、歯切れの良い低域を再生できるので、BAのスピード感と完璧にマッチしている。それゆえ、聴いていると、高域がどうの、低域がどうのと、分けて聞く気がなくなり、ワイドレンジな1つの音楽として自然に耳に入ってくる。これが聴きやすさや、ナチュラルさにも繋がっているのだろう。

また、中高域を担当するBAも、必要以上に硬い音にはなっておらず、強調感は無い。このあたりの、全体のキャラクターのまとめかたの上手さに、Melody Wingsの技術力の高さとセンスを感じる。

ロックやポップスも得意だが、音場が広く、ワイドレンジなサウンドなのでクラシックも鳴らせる。モントリオール交響楽団による「死の舞踏~魔物たちの真夜中のパーティ」から「サン=サーンス:死の舞踏 作品40」も聴いたが、冒頭から、観客の小さな物音が広がるかすかな音で、ホールの広さが伝わってくる。

横方向だけでなく、奥行きも深い音場に、オーケストラがズラッと並び、それらが一体となって音楽を奏でつつ、各楽器の音色の違いも細かく聞き分けられる。カメラのピントが合焦するように、意識を向けると、その部分の細かな音がより聴こえてくるイヤフォンは、良いイヤフォンの証拠だ。

旅に出たくなるイヤフォン

1週間ほどNeptuneと暮らしているが、このイヤフォンをDAPに接続していると、不思議と外に出かけたくなる。

実際に散歩をしながら「ハンバートハンバート/マイホームタウン」を聴いていた時に、理由がわかった。

Le Verrier Breathing Arrayの効果だと思うが、イヤフォンとしては非常に音場が広く、閉塞感が少ないので、ボーカルや楽器の音が、外の空間へどこまでも広がっていくかのように聴こえ、それが屋外の開放感とマッチして、とても気持ちが良い。まるで、映画の冒頭で、街を歩く主人公の映像に挿入歌が入ってくるような、自分が主人公になったような気分だ。

深夜の部屋で聴いていても、「ああ、Neptuneを聴きながら、鈍行列車に揺られたら最高だろうな」と旅への想いが膨らんでいく。イヤフォンとしての音のクオリティと開放感を見事に融合させることで、ユーザーを外に連れ出す力を持った、魅力的なイヤフォンだ。

山崎健太郎