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“ピュア・ダイヤモンド”振動板が到達した別次元サウンド、qdc「BASALT」に迫る
- 提供:
- アユート
2026年11月6日 08:00
オーディオを趣味にしていると、“究極”という言葉に敏感になる。“究極のモデル”とか“究極の素材を使った”とか言われると、趣味としての到達点のように思えてテンションが上がる。そんな私のような人間が、気になって仕方がないイヤフォンがqdcから登場した。その名は「BASALT」(バサルト)。イヤフォンやヘッドフォン、スピーカーにおいても“究極の素材”とされることが多い、ダイヤモンドを振動板に使ったモデルだ。
そんなイヤフォン、100万円とかするのでは?と身構えてしまうが、コスパにも優れたqdcだけあり、価格は253,000円。いや、高価ではあるのだが、ピュア・ダイヤモンド振動板を使ったイヤフォンとしては破格と言っていい。
そもそも、なぜ振動板にダイヤモンドを使うのか、そして、どんなサウンドになっているのか。実機を聴いてみよう。
なぜ振動板にダイヤモンドを使うのか
スピーカーやイヤフォン/ヘッドフォンに搭載している振動板は、ボイスコイルの動きに合わせて前後に、ピストンのように振幅して波である音を生み出している。
その際に、振動板全体が同じ位相で振幅するのが理想的なのだが、振動板の素材によっては、周波数が上がると、振動板自体がたわんでしまい、それが歪みになってしまう。
これを防止するためには、剛性が高く、素材の中を音が伝わる速さ、つまり伝搬速度が速い素材を振動板にすればいい。
逆に、伝搬速度が遅い素材では、振動板が1枚の板として動かず、振動板の中を波が伝わって部分的に、別々に動いてしまう。これが前述のたわみの原因で、“分割振動”と呼ばれる現象だ。
振動板の素材として良く使われるものに紙があるが、紙の伝搬速度は遅い。それに対して、アルミやチタンはハイスピードだ。それらよりも音速の速いベリリウムを使ったイヤフォンも存在するが、ダイヤモンドはそのベリリウムよりもさらに速い。
なお、音速の速い素材を使っても分割振動は発生する。ここで注目すべきは、同じ形状であれば、音速が速い材料ほど“分割振動が始まる周波数”が高くなるということ。
つまり、分割振動は周波数を高くしていけば、いずれ発生するが、その始まる周波数が人間の耳に聞こえない、可聴域の外にあれば、耳に聞こえる可聴域の中では振動板が一枚の板としてたわまずに動き、歪みの少ない音を再生できるわけだ。
BASALTは、この素材にこだわり、13mm径のピュア・ダイヤモンド振動板を搭載している。
“イヤフォンでダイヤモンド”と聞くと、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)を連想するが、DLCは樹脂やアルミニウムなどの振動板の表面に、ダイヤモンドと黒鉛の中間的な物性を持つ、硬質な炭素を薄くコーティングして高域特性を高めたものだ。
それに対して、BASALTのピュア・ダイヤモンド振動板は、ガス状の原料を化学反応させて、基板の上に固体の薄膜を成長させる化学気相成長法(CVD)で、高純度な多結晶ダイヤモンド膜を成膜する。単一の純ダイヤモンド素材で構成されているから“ピュア”ダイヤモンドというわけだ。
その特徴は、振動疲労や経年劣化の影響をほとんど受けず、数万時間にわたり一貫した性能を維持し、耐腐食性や耐酸化性にも優れている。
このダイヤモンド振動板を、qdc独自のカスタマイズも施した、超薄型で平面構造のユニットとして搭載。高音域の再生周波数は40kHzを難なく超え、従来の金属製振動板の金属的な響きもなく、軽量かつ剛性も高いため、瞬時に動き始め、瞬時に停止。微弱な音楽信号も正確に再現できるという。
イヤフォンとしての周波数帯域は5Hz~50kHzとワイドレンジ。入力感度は102dB SPL/mW、インピーダンスは19Ωとなっている。
玄武岩をイメージした筐体
ダイヤモンドの振動板に続き、筐体にはチタン素材が使われており、触れるとヒンヤリする。玄武岩をイメージしたブラック仕上げになっているが、岩のようにゴツゴツしているわけではなく、耳に触れる部分の形状や表面はなめらかだ。
筐体にはそれなりの厚みがあるが、多くの耳型データを持つqdcらしく、耳穴に触れる側の形状が絶妙で、耳にスッと装着しやすく、抜けにくいシェル形状になっている。
ちなみにこのBASALTは、qdcと、日本の代理店であるアユートが共同企画・開発したコンセプト・ユニバーサルIEMだ。
白虎をモチーフとした「WHITE TIGER II」というモデルがあるが、それと同じシリーズであり、天を護る四神(青龍、白虎、朱雀、玄武)の中から、BASALTは玄武がモチーフになっているわけだ。
なお、玄武は四神の中で最も強く、重厚かつ強固さを連想させるため、BASALTはqdcのシングルダイナミック型IEMにおける、最上位モデルとも位置づけられている。
筐体と同様、付属のケーブルにはシックなブラックカラーの被膜が施されている。このケーブルは、高い耐久性とロスの少ないニュートラルなサウンドを追求したものだという。
イヤフォンの着脱が可能で、2pin 0.78mmを採用。入力プラグは、3.5mmアンバランスと4.4mmバランスが切り替えられる2in1のスクリューロック式だ。
音を聴いてみる
DAPは、Astell&Kernの「A&ultima SP3000」をメインにしつつ、新製品の「Astell&Kern PD5」も交えて聴いてみた。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、冗談ではなく、ウッドベースの低音が出た瞬間に「うおっ」と声がでる。トランジェントが抜群で、まるで視力が上がったように、弦を指でつまびく様子が、とても細かいところまで聴き取れる。
1分11秒あたり、ウッドベースが肉厚に響く中で、ピアノの鍵盤が鋭く押し込まれるのだが、その「タンッ」という音が、今まで聴いたことがないほど生々しくて、ハッとする。何回聴いたかわからないほど聴いている曲だが、こんな音が入っていたのに改めて気がついた。
驚くべきは、こんなにハイスピードで、分解能が高い低音なのに、凄まじい迫力も兼ね備えていることだ。ウッドベースの低音は「ズゴーン」と地獄の底まで沈み、頭蓋骨を通り越し、腹にパンチを食らったかのように、体の奥まで沈み込む。もはやイヤフォンの低音ではない。高級ヘッドフォンを聴いているような重く、スケール感のある低音だ。
低音への驚きに気をとられているうちに、ボーカルが入ってくるが、ここで2度目の衝撃。こんなに低い音がパワフルに「ズン、ズン」と沈み込んでいるのに、ボーカルの中高域に低音がまったくかぶらず、ダイアナ・クラールの声がどこまでもクリアでシャープに聴き取れる。声の余韻が、スーッと奥の空間に広がっていく様子まで見通せる。
“地獄から響くような低音”と“空中に軽やかに浮かぶ中高音”があたりまえのように同居している。これはなかなかイヤフォンでは聴けない音だ。目を閉じると、大口径のウーファーと、ベリリウムやダイヤモンド振動板ツイーターを搭載した、フロア型スピーカーを聴いているような気分になる。
「米津玄師/KICK BACK」を再生すると、「BASALTのためにあるのでは」と思えるほどマッチする。エレキベースの低音が、地鳴りのように「ズゴンズゴン」と重く響くが、決してモッタリした低音ではなく、稲妻のような鋭さがある。
上空に浮かぶボーカルやコーラスもシャープで超ハイスピード。飛び交うSEや、エレキギターの旋律も埋もれず聴き取れる。全ての音の歯切れが良く、「この曲の中にある全ての音が聴き取れている」という、快感すら感じる音だ。
「ジャック・ジョンソン/ベター・トゥゲザー」も最高だ。アコースティックギターと、温かみのあるボーカルが特長のラブソングだが、ギターのキレ味が異次元だ。研ぎ澄まされた日本刀でズバズバと切られるような、「こんな音聴いちゃって大丈夫なの?」とヒヤヒヤするくらいのスピード感。本物のギターに耳を近づけたとしても、ここまで細かい音を聴き取れないのでは?と思うほどの実在感。これはぜひ一度、味わうべきだ。
透明感のある楽曲も得意だ。「手嶌葵/明日への手紙」を聴くと、歌い出しに「スッ」と息を吸い込む細かな音までリアルに聴き取れ、そして声の余韻が、広い空間にどこまでも広がっていく。この音場は驚くほど広大だ。
チタンを採用した筐体が、剛性の高さや形状の工夫などで、余分な振動をキッチリ抑えており、それが、ピュア・ダイヤモンド振動板のクリアでハイスピードなサウンドを、濁らせず、そのまま味わわせてくれている。
BASALTの真骨頂は低音にある
BASALTを聴く前は、「ピュア・ダイヤモンド振動板だから、高域のキレ味が凄そうだな」と予想していたが、実際に聴いてみると、予想を超えるハイスピードなサウンドで「ここまで凄いとは」と、呆気にとられるレベルだ。
一方で、何曲も聴いていると“BASALTの真骨頂は低音にあるのではないか?”とも思えてくる。
最近の高級イヤフォンは、解像度重視で、低音もタイト。全体のバランスとして腰高な、モニターライクな製品が多いと感じる。しかし、BASALTはそんな流行りと、良い意味で違う道を突き進んでいる。
非常に高解像度な中高音を再生する一方で、低音にはグッと前に出てくるパワフルさ、芯のあるベースやドラムが、ズンと沈む“重さ”も追求している。低音の輪郭はシャープで、にじまず、余分な膨らみもなく、どこまでもタイト。それでいて、1つ1つの音には、厚みと重さがある。“重さと軽やかさの両立”という、不可能にも思える低音を、ピュア・ダイヤモンド振動板で見事に実現してる。
qdcはBASALTについて、「大地の深淵を感じる深く重厚ながらも楽器の質感溢れるサウンドを提供する」としているが、まさにその言葉通りのサウンドだ。
これは、“大人しくて優等生的”な高級イヤフォンに対しての、ある種のアンチテーゼとも言える。「クラシックやジャズもいいけれど、ロックやポップスをもっと熱く、グッと楽しめる音で聴かせてくれるハイエンドイヤフォンは無いのか?」と思っていた人に、BASALTは最適解になるだろう。
聴く前は、「25万円かぁ」と思っていたが、今までのイヤフォンとは別次元のスピード感を味わってしまうと、「これで25万円は安いのでは」と思えてくる。多くの人に体験して欲しいサウンドだが、一度聴いてしまうと、今まで使っていたイヤフォンの音が、モッタリした音に聴こえてしまうかもしれない。そんなスリルすら感じるモデルだ。














