クリプトン、DRMフリーで24bit/96kHzの高音質音楽配信

-Vigore最上位、ペア99万7,500円のフロア型スピーカーも


KX-1000P

6月上旬より順次発売

標準価格:
「KX-1000P」997,500円(ペア)
「音楽配信」3,000円程度(1タイトル)

  株式会社クリプトンは、24bit/96kHzなどの高音質音楽データをDRMフリーで配信する「HQM(High Quality Music)データ配信サービス」を6月下旬から開始する。カメラータ・トウキョウが提供するクラシックなどを用意し、1タイトルの価格は「SACDのアルバムと同程度をイメージしている」(クリプトン)とのことで、3,000円程度になる見込み。年内に20タイトル程度の配信を予定している。

 さらに、同社スピーカー「Vigore(ヴィゴーレ)」シリーズの最上位モデルとなる「KX-1000P」も6月上旬に開始する。3ウェイ4スピーカーのフロア型で、価格はペアで997,500円。ピアノフィニッシュを採用している。



■ HQMデータ配信サービス

 LINNのDSシリーズなど、NASに蓄積した音楽データをネットワーク経由で再生するソリューションがオーディオ業界で注目を集めているが、そうしたシステムでの再生を想定し、高音質な音楽ファイルをネット配信で提供するというサービス。

 クリプトンはオーディオアクセサリーやスピーカーを手掛けるメーカーだが、大学や企業向けにeラーニングシステムの開発なども行なっており、ネットワーク事業の技術/経験を活かし、オーディオ向けのサービスを提供することになったという。

 具体的には、専用Webサイト「KRIPTON HQM STORE」を開設。ウィーンを中心に活躍するレコーディング・プロデューサーの井阪紘氏が創立し、積極的な新譜リリースで日本や欧米の音楽ファンに知られるカメラータ・トウキョウが提供するコンテンツを24bit/96kHzで提供する。6月下旬のサービス開始から毎月3本程度、年末までに20タイトル程度を提供する予定。ジャンルは当面はクラシックを、段階的にJazzなどに拡大していく。

配信サービスのイメージ図

カメラータ・トウキョウの録音風景など

クリプトン 技術開発室の樋泉史彦次長
 フォーマットは、フリーの可逆圧縮方式であるFLACを採用。DRMをかけていないのが特徴で「ダウンロードしたPCのみでしか再生できないといった制約が無く、LINNのDSシリーズなど、様々な機器で再生できるのが特徴。また、フリーのFLACを使うことで、他方式のように特定の事業者に左右されることもない」(クリプトン 技術開発室の樋泉史彦次長)という。なお、DRMフリーだが、不正コピーに対しては「電子透かしによるトレーサビリティーの向上で対応する」(樋泉次長)としており、「今回のDRMフリー配信はクリプトンとカメラータ・トウキョウが長年培ってきた信頼関係により実現したもの」(クリプトンの濱田正久代表取締役)だという。

 なお、ネットワーク接続型のプレーヤーは、国内ではLINNのDSシリーズが存在するが、海外ではLogitechの「Transporter」や、一体型のNaim「HDX」など、様々なモデルが発売されている。そこで、海外向けにも同配信サービスを実施。国内外ともに、決済方法はクレジット・カードのみ。

デモ再生で音楽ファイルサーバーとして使われたノートパソコン。オーディオボードとインシュレータの上に乗せられている

楽曲ファイルの保存にはSSDを使用

サーバーパソコンのSSDから、LANケーブルを用いてLINNのMAJIK DSに伝送。プレーヤーとして使用する

カメラータ・トウキョウの中野浩明社長
 カメラータ・トウキョウの中野浩明社長によれば、同社はウィーン・フィルのメンバーによるコンサートや録音を多数行なっており、約1,000曲のクラシックや、Jazzの楽曲データを保有。「昨年からは高音質配信を意識し、24bit/96kHzでのデジタル録音を開始しました。今後もそれを継続するほか、過去のアナログ録音したテープ素材のデジタル化では24bit/192kHzも視野に入れ、より高音質なデータを揃えていきたい」(中野社長)という。

 なお、HQM配信サービスではファイルサイズが大容量化し、ダウンロードに時間がかかるなど、ユーザー側のインフラの問題もあるため、当面は24bit/96kHzのデータを配信する。将来的には24bit/192kHzといった、より高音質な配信や、例えばWAV形式のデータをDVDなどのメディアに書き込み、それを販売するといった提供方法も検討していくという。




■ KX-1000P

 2ウェイの密閉型ブックシェルフにこだわり「Vigore(ヴィゴーレ) KX-3」シリーズを展開しているクリプトンだが、「KX-1000P」はシリーズ最上位モデルとなる。しかし、基本は2ウェイブックシェルフであり、そこに“ツインドライブのスーパーウーファを追加する”というコンセプトで開発されている。

 そのため、上から2つのユニット(ツイータとウーファまで)と、下から2つのダブルスーパーウーファ部分で、エンクロージャが内部で完全に分離/独立しているのが特徴。

KX-1000P

横から見たところ

内部。上部の2ウェイスピーカーと下部のツインドライブスーパーウーファでエンクロージャが完全に内部で分かれている

 さらに、上下のエンクロージャはどちらも、Vigoreの特徴でもある密閉型。そのため、上部のユニットと下部のユニットは内部で接続されておらず、外のスピーカーターミナルで上下を接続するためのジャンパケーブルが付属する。

 よって、バイワイヤリング接続に対応しているが、ツイータとウーファのターミナルは分かれていない。ツイータとウーファを1つのアンプ、下部のツインスーパーウーファを1つのアンプで個別にドライブする方式となる。

上部の2ウェイ

背面のスピーカーターミナル。ジャンパケーブルで繋がれているが、バイアンプ駆動も可能

クリプトン 技術開発室の渡邉勝室長
 ユニットは全て新開発。ツイータは35mm径のピュアシルクを使ったリングツイータで、砲弾型イコライザを採用。前述の音楽配信では、音楽CDなどと比べ、高域がより伸びやかな24bit/96kHzデータが提供されるため、「そうした音楽のニュアンスをキッチリ再生できるよう、透明感があり、音楽性豊かな高域再生の実現に注力した」(技術開発室の渡邉勝室長)という。

 ウーファは170mm径を1基。スーパーウーファも170mm径ユニットで、2基使用している。170mm径サイズで良質な低域を再生するため、エッジ部分を布製から、より柔らかいブチルゴムに変更。それに伴う音色の繋がりを考慮し、ウーファのエッジもブチルゴム化。振動板もクルトミューラーで統一し、繋がりの良い中低域を実現したという。

 なお、これらユニットの磁気回路には、全てアルニコマグネットの壺型磁気回路を使っている。「コバルトが手に入らないことから、アルニコマグネットの入手も難しくなっているが、フェライトに変えると音の解像度が落ちるなどの問題があるため、アルニコをこだわって使っている。入手できる限りはアルニコで頑張っていきたい」(渡邉室長)という。

奥のユニットが従来のもので、手前がKX-1000Pのツイータとウーファ全てのユニットにアルニコマグネットの壺型磁気回路を使っている

ネットワーク

 クロスオーバー周波数は150Hzと3.5kHz。システム全体の再生周波数帯域は35Hz~40kHz。2ウェイ側のネットワークには、歪を抑えるために、抵抗値の低い直径1.2mmの空芯コイルや、ケース入りのピッチ材で振動を抑えた低損失メタライズドフィルムコンデンサなどを使用。低域用ネットワークには低損失メタライズドマイラーコンデンサと、低抵抗積層ケイ素鋼コア入りコイルを使い、12dB/oct型クロスオーバー周波数を150Hzに設定している。内部配線材はモニター製のOFC線(ブラック&ホワイト)。

 オーディオボードも手掛ける同社ならではのこだわりとして、鉄球サンドを封入した、インシュレータ付のスピーカーベースが付属。天面にスパイ受けが設けられており、スピーカー自体の底面には真鍮スパイクを装備。スピーカーからの振動をスピーカーベースが受け止め、内部の鉄球サンドなどを用いて振動を解消。床に伝えないことで、低音のS/N感を向上させるという。

 密閉型では吸音材が重要になるが、内部には同社の吸音材「ミスティックホワイト」と、ウールの低密度フェルトをハイブリッドで使用している。また、サランネットにもこだわり、着物の帯などで知られる西陣絹織(譽田屋源兵衛作)を、ネットとして使用。通常のネットよりも高域をマスキングしにくい特性を持つほか、デザイン性も高いという。

サランネットは西陣絹織鉄球サンドを封入した、スピーカーベースが付属

本体の下に設置したところ

 エンクロージャには針葉樹系高密度18mm厚パーチクルボードを使い、オール天然材突き板のピアノ塗装で6面を仕上げている。美しい外見だけでなく、振動減衰特性にも優れるという。インピーダンスは6Ω。定格入力は50W。最大入力は150W。出力音圧レベルは88dB/m。外形寸法は280×243×1,005mm(幅×奥行き×高さ)。スピーカーベース込みの重量は33Kg。


 


■ 再生デモ

視聴用アンプにはアキュフェーズのシステムが使われた
 再生デモではクラシックを中心に、CDプレーヤー(デノン/DCD-SA11)での音楽CD再生と、LINNのMAJIK DSによる24bit/96kHz音楽データを切り替えて試聴した。

 まず、KX-1000Pの音は、「Vigoreの2ウェイ(KX-3など)に、純粋に低域を加えたサウンド」と表現できる。Vigoreの2ウェイは密閉型ならではの精密な中低域の描写が魅力のスピーカーで、非常に品の良い美音が楽しめる。KX-1000Pではその雰囲気を壊さず、適度な量感を伴った低域がズーンと心地良く地面を伝い、フロア型ならではの雄大な音場が広がる。

 ウーファとスーパーウーファをクルトミューラーで統一し、エッジもブチルゴムに揃えたことで低域と高域の繋がりも自然。「KX-3に市販のスーパーウーファを加えてもこの一体感を出すのは難しいだろう」と感じた。Jazzのアコースティックベースも量感豊かだが、弦の動きが良く見える解像度を保っており、密閉型ならではの魅力であると共に、振動を床に伝えないスピーカーベースの効果も高そうだ。

 ソースを音楽CDから24bit/96kHz音楽データに切り替えると、透明な枠が外れたように、高域/低域がともに伸びやかになる。張り出していた中域がわずかに引っ込み、音場に高さと奥行きが生まれる。歴然とも言えるクオリティの違いと同時に、それを描き分けるKX-1000Pのポテンシャルの高さも確認できた。


(2009年 3月 27日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]