【IFA 2012】東芝・本村氏と粕谷氏が語る“4Kフェイズ2”

-PC、ゲーム、写真も巻き込む「4Kのうねり」とは


東芝 商品統括部 参事の本村裕史氏(左)と、商品統括部 部長の粕谷英雄氏(右)

 ドイツ・ベルリンで開催している「IFA 2012」において、東芝は84型の4Kテレビを2013年度にグローバルで発売することを発表。

 同社の商品統括部 参事の本村裕史氏と、商品統括部 部長の粕谷英雄氏に、これからの4Kテレビと、テレビ以外にも広がりつつあるという4Kの世界について、話をうかがった。

 なお、4Kテレビの開発について本田雅一氏による東芝 執行役上席常務 デジタルプロダクツ&サービスDS社 副社長 徳光重則氏へのインタビューと、IFA 2012における東芝ブースレポートは別記事で掲載している。



■ 4Kが第2世代になってどこが変わったのか

――今回のIFAで、4Kテレビの第2世代モデルを発表した背景について教えてください。

本村氏(以下敬称略):ご存知の通り、我々は昨年11月に世界初で4KのREGZAを出して、反響がとても大きかった。3Dというものがその前にあって、3Dはフィーチャーとして楽しいものでしたが、テレビの正統進化が、画質軸での進化のベクトル上に4Kは確実に存在していました。やはり精細感というものは、高画質を形成するうえで重要な要因。CELL REGZAを開発していたころから、4Kになると新しいコンテンツクオリティの時代が来ると気づいていました。

東芝が発表した84型の4Kテレビ

 CELL REGZAの第1弾を発表した年のCEATECのブースには、我々はもう4Kを並べていました。それから4年たって、3Dのグラスレスと同時進行で日本市場でも4Kを出して、現在に至っています。我々は業界をリードしてきて、IFAの場で「やっとメガトレンドになりつつある」と、各社さんの動きを見て感じています。その中でも、我々は「フェーズ2」に入る。ネクストジェネレーションの4Kというのは、第1弾を商品化したからこそ分かっているところがあって、4Kというのはもう未来の話ではなく、今の技術としてどう楽しんでいただくのかを語らなければいけない時代になった。それを具現化するためのエンジンをいま開発していて、もう少しでSoCが完成する。完成次第4Kテレビに投入して、商品化したい。

 第2世代になって、まずやらなければならないのはラインナップの拡充。第1世代は55型だけを出して、「こんな商品すごいでしょう? 」というところが強かった。しかし、「もう買ったらどうでしょう?」という提案をするには、まず最大の84型を筆頭にして、サイズを拡大していく。それと同時に、エンジンを強化し、そのベネフィットをどれだけ提供していくかという2つが重要。

――今回の4Kテレビの高画質化エンジンには「レグザエンジンCEVO 4K」という名前(仮称)がついていますが、CEVOエンジンという名前は、東芝の高画質の要素として浸透してきたということでしょうか?


本村:2009年にCELL REGZAを作り、その後継エンジンとして生まれたCEVO(CELL EVOLUTION)はテレビに特化したエンジンなので、高画質化や最適化といった処理でいうと、CELLよりもCEVOが使い勝手がいいですね。全てソフトウェアで回していたCELLとは違って、カスタマイズしたハードウェアも使っていますので、我々の高画質化という意味では、自社開発の強みが生きています。

Blu-rayのフルHD映像(左)と、レグザエンジンCEVO 4K(仮称)でアップコンバートした4K映像(右)の比較デモ

 それを4K化するにあたり、これまではCEVOの力だけで4K高画質をやっていましたが、今回開発したSoCは、CEVOにアドオンする形で使えるので、4K高画質化で、さらにどうやれば4Kの能力を引き出せるか。まずはBlu-rayやWOWOWといった2Kのコンテンツをいかにして復元するかにこだわった。ネイティブ4Kを見せて、「きれいですよ」といっても、多くの人は(コンテンツを持っていないので)体感できない。まずは、4Kテレビで観るとBlu-rayの画質が全然違うということを最大化したい。そうすることで、今日買って、その日からBlu-rayを最高画質を楽しめるということを実現したかったのです。

 もう一つは、4Kネイティブコンテンツをさらに高画質で楽しめるという発想。今すぐのベネフィットとしては体感しにくいかもしれないですが、テレビは、ただコンテンツがキレイであればキレイに観えるというわけではない。それをどうやってメーカーサイドがクオリティを最大化するかというのが絵作り。それを具現化するために4Kネイティブ映像も高画質化するシステムが入っています。

――これまで超解像技術として取り組んできたSDからHDへのアップコンバートと、2Kから4Kへの場合は、大きく違いがありますか?

 考え方の基礎は同じです。我々は超解像技術をCELL REGZAよりも前、2008年ごろからやっていますが、今は第6世代ぐらいまで進んでいます。当初の「再構成型」から「自己合同性型」など、全部アドオンで追加しています。「色超解像」、「三次元超解像」など、世の中で研究されている超解像技術のほぼすべてを、研究レベルではなく商品化レベルまでキチンと落としています。当初は「DVDがハイビジョンになります」、「1440の地デジがフルHDに復元します」としていましたが、4Kの信号にまで解像度を上げられるという面においては、これまでの技術とノウハウの積み重ねが最大化したからうまくいっています。これが東芝の絶対的な強みで財産ですね。

 日系メーカーの超解像技術は、グローバルで比較してもダントツで高いと思っています。(国内の)他社も、他社ならではのやり方で高精細化に取り組んでいます。そうした“日系メーカー”として強みが発揮できればいいし、その中でも競争が始まって、業界全体が盛り上がっていけばと思っています。

――今回のIFAで、ソニーやシャープも4Kを前面に押し出してきたことについて、どう感じますか? 「やっと出てきたな」という思いでしょうか?

 正直言って、一人ぼっちでトレンドを作るのは結構大変だし、不安でもある。比較される相手がいないと楽ではありますが、一人でやるのはつらいところもある。みなさんと競争が始まるのはうれしいし、そのなかでもう一度、手綱を引き締めてやっていきたい。ちょっとだけ我々が先に市場投入した分、様々なノウハウがあるので、それを強みにして業界の一歩先を行きたいですね。



■ 他社の本格参入やPC製品の対応で、メガトレンドへ

──今回、ソニー84型の想定価格は25,000ユーロとされていますが、東芝の84型はいくらぐらいになりそうでしょうか?

本村:市場の動向を見ながら、適正な価格にしていきたいですね(笑)。今回、我々は「4K本気宣言」を出しており、おかざりのテレビをやる気はありません。(一般的に)テレビのサイズが拡大していくなかで、100万円クラスのテレビがマスになっていくとは思わない。サイズ展開を拡大することで「これだったらがんばって買ってみたい」というサイズや価格を考えないといけないと思っています。

 数を増やしていくという意味において、テレビでは画面サイズが50型オーバーというところで感動していただきたい。高画質の感動は、映画だったりライブだったりといろいろありますが、もう2つの切り口があると思う。一つはデジタル一眼レフ。これは僕自身、デジタル一眼レフで撮影した高解像度の写真をJPEGで再生したときに感動したんです。テレビでJPEG再生は前からついていますが、フルHDのテレビでJPEG再生というのはオマケみたいに「こんなこともできますよ」というだけのものでした。今回の4Kのテレビで、デジタル一眼レフのミドルクラス以上で撮った写真をみると、感動的にキレイ。これは、カメラのハイアマチュアの方々にとっても喜んでいただける、写真の新しい楽しみ方だと思います。今回(IFAの展示では)ニコンさんに協力いただいて、(デジタル一眼レフカメラの)D800と、写真も貸していただいたので、それを少しでも多くのカメラファンにご紹介していきたいですね。

 2つ目は、パソコンの4K出力。最初、タワーPCに4Kグラフィックボードを突っ込んで、Googleマップを最初に見た時の「何これ!?」という感動がありました。それがdynabookでできてしまうことは素晴らしいことだと思います。Googleマップをみただけでもすごいし、PhotoShopのレタッチにももってこいだし、4KパネルとのPCとの相性はすごい。パソコンが趣味の方にも、4Kって面白さはあると思います。

粕谷:外付けGPUのパワーなら、HDMI 4系統をドライブできるものはでてきつつあります。HDMIで正しく高解像度を出力するには、基板から正しく設計しないといけない。その辺りをやって、高解像度にも的確に対応していきたい。PCの内蔵グラフィックスにおいても、来年のチップセットは解像度が正しく出てきそうなので、ファインチューニングしていきたいですね。

 もともと、パソコンでもこれまでResolution+として超解像をやってきました。dynabookにはCEVOエンジンが入っているわけではないですが、GPUベンダーと一緒にチューンナップを続け、パソコン側にもREGZAブランドを付けることができました。REGZAの名前を付けるには、テレビの画質を見ているマイスターのOKをもらえないとできないんですよ(笑)。こういった協力を、同じ会社になるまえから続けて、一つの世界を作っていくという意識があった。特に目の肥えた日本のお客様には重要なことです。

レグザエンジンCEVO 4Kの技術概要東芝による4Kテレビ市場動向の予測(金額構成比)ニコン「D800」と合わせて展示
dynabookからREGZAへ4K出力するデモ

――今回の展示でもdynabookとテレビが4Kという技術を介して一気に近づいた感がありますが、PCにとっても4Kは今後見据える一つの方向性としてあるものなのでしょうか?

粕谷:パネルの4K化だけでなく、本体出力の高解像度化というものも、これを機にグッと進む可能性がある。今後も、この流れは的確にとらえていきたいですね。

本村:4Kという言葉は単に“テレビの高精細化”ともとられがちですが、パソコンもタブレットもテレビも含めて“ディスプレイ全体の高精細化”がメガトレンドとして進んでいると考えると、「ちょうどアップルも(Retinaディスプレイで)同じようなことをやっているよね」ということが見えてくる。3Dとは、うねりの度合いがちょっと違うと個人的には感じています。

粕谷:パソコン用のパネルは、テレビのパネルに比べると色の再現性などで劣りますが、そこを技術で対応するというのが我々の方向性。ご存知の通りテレビも外からパネルを調達しているが、それでも画質はいい。そういったことを共通化していく基盤を作っていきたいですね。

本村:テレビの場合は視聴距離があるので、例えば32型で4Kにしてもキレイにはなるけれども、すぐ目の前では見ないので日常でのベネフィットは感じにくい。このため、テレビでは50型以上で展開していきます。でも、PCやタブレットは近くで使うものだから「このサイズでフルHDやもっと上の解像度がいるの? 」という問いには誰も「ノー」とは言わない。究極に行けば“印刷”(の画質)になる。このように、ディスプレイ全体という意味で、高精細化がメガトレンドになっていくのではないでしょうか。

――作っている皆さんでも、気づいていなかった4Kコンテンツの魅力あったということは、まだまだ優れた4Kコンテンツはどこかに隠れているものなのでしょうか?

本村:その通りです。製品がウケるかウケないかは、試作が動き始めてから気付くことはよくあります。私自身や設計する技術者、研究者たちが「ワオ!」と思ったら、それが「ワオ!」なんですよね(笑)。逆に「仕様通りできた」と思っているような製品はあまりウケない。なんとなく、カンとしては4Kは久々にしびれた。「これはすごい」という素直な感想でした。

ゲーム映像の4Kコンテンツも会場で上映。スクウェア・エニックスらも協力している

粕谷:あの映像を観てもらうと、コンテンツを作る側の方もインスパイアされるのではないかと思えるほどの画質だと思います。

――3Dについてもお尋ねします。今回、ブース内部のディーラー展示において16視差の裸眼3D試作機も用意されていますが、この意図は何でしょうか?

本村:そもそもテレビの高画質において、奥行き感、立体感という表現は2Dにもあるわけで、高画質化のための3D技術というのはありますが、「高画質で楽しむためにメガネを掛けてください」というのはちょっと違うと思っています。メガネを掛ける3Dというのは、エンターテインメント性を最大限にするかもしれないけれども、究極のグラスレス3Dは“飛び出しているかどうか”は考えていません。「この絵は高画質だね、実は3Dなんだ!?」というのが一番いい。

 一方で、我々が商品化しているグラスレス3Dは、更なる高画質、自然さへの技術研究を続けています。新しいエンジンができたこともあり、その一つの形として視差数をさらに増やしました。視差数を増やした分、解像度は犠牲になっています。しかし、それを補って余りあるくらい自然になっていくというのは、今後の方向性の一つとしてあります。例えば8Kのパネルになれば、16視差にしてももっと自然になるでしょう。

 今回、ブースではグラスレス3Dの欧州モデルも展示していますが、欧州は、特に3Dに対してのニーズは高い地域だと思います。そういう意味では、3Dもしっかりやっていきたいですね。

――今後の4Kの主な取り組みを教えてください。

本村:まずは、テレビのラインナップを拡充していくこと。84型で4Kのすごさを体験していただきつつ、サイズ展開を拡大していくことで「オレにも買える、買いたい」といってもらえる商品展開をしていきます。また、機能についても4Kだけに頼るのでなく、“録画”や“スマート”など、今ならではの機能も同時に加速していかなければならない。4Kデバイスを持つことで、そういった機能軸の進化も、期待できるのではないかと思います。気が付けば、「4Kあたりまえだよね」という時代を早く作りたい。

――今回のIFAも、多くのメーカーのブースに「スマート」という言葉があふれていますが、東芝はどういった違いを出していきますか?

本村:“スマートはお腹いっぱい”という人もいるとは思いますが、それらは入っていて当たり前という風にしていきたい。そのスマートの中での東芝のキャラクターが必要。それと同時に、テレビの基本性能である大画面/高画質での感動を追求していく。それを「映画ファン」、「音楽ファン」、「アニメファン」、「ゲームファン」、「写真ファン」といった生活者別に「このテレビ最高だよね」と言ってもらえるものづくりを徹底していきたい。これまでの4Kは、フラッグシップのチャンピオンモデルだったわけで「すごい技術でしょ?」と言っていたかもしれないですが、今度からは「すごいテレビでしょ?」といえるようにしなければならない。

――今回のブースでは、タブレットなどの機器との連携も紹介されていますが、4Kでテレビの基本性能が上がっていくと、それに合わせた製品どうしのつながりも生まれてきそうですね。

粕谷:それをやっていくのが使命ですね。“ワールド”でお客様に価値を感じていただき、共有していただける形で製品を投入していきます。

PC/タブレットの注目製品であるWindows 8対応「Satellite U920t」も見せてもらった。タブレットの操作感と、スライド式キーボードによる確実な入力が可能。Windows 8の投入時期には店頭に並ぶようにしたいとのことU920t背面のレール部など。タッチ操作しても奥に倒れることのない適切な強度を実現しているキーボードを引きだして画面を立てたところ(右)。U920tの左にあるのが、発売中のレグザタブレット。粕谷氏も愛用しているとのこと


(2012年 9月 5日)

[AV Watch編集部 中林暁]