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「ほとんど全て新規設計」B&W「800 Diamond」が刷新。ケブラーからコンティニュアムへ

 ディーアンドエムホールディングスは、英B&W(Bowers & Wilkins)のスピーカー「800 Series Diamond」をフルモデルチェンジ。「800 D3」シリーズとして10月から順次発売する。1本の価格(ローズナット/ピアノブラック)は、フロア型「802Diamond」が170万円/180万円、「803Diamond」が135万円/145万円、「804Diamond」が73万円/76万円、ブックシェルフ「805Diamond」が44万円/46万円、センタースピーカー「HTM1Diamond」が90万円/95万円、「HTM2Diamond」が66万円/70万円。

左から「802Diamond」、「803Diamond」、「804Diamond」、「805Diamond」、「HTM1Diamond」。いずれも仕上げはローズナット

 また、シリーズの最上位に位置する「800Diamond」は2016年春に発売予定。「設計的には99%終わっているが、800 D3シリーズは曲面を持ったエンクロージャなど生産に手間がかかり、十分な数量を供給しようとした場合、800Diamondまで手をのばすと(生産現場が)混乱してしまうため」(ディーアンドエムホールディングス GPDサウンドデザイン D+M シニアサウンドマネージャーの澤田龍一氏)、800Diamondよりも下位のモデルから先に発売されることになったという。

 さらに、805Diamond向けのスタンド「FS805D3」も発売。価格はペアで140,000円。センタースピーカー向けスタンド「FSHTMD3」も1台116,000円で発売する。カラーはどちらのモデルもシルバーとブラックを用意する。

フロア型の「802 D3」
フロア型の「803 D3」

 新しい800 D3シリーズは、筐体やユニットを大幅に刷新しているのが特徴。従来モデルから踏襲しているパーツはネットワークの一部など、極一部で、「シリーズで868点の新規部品が採用され、ほとんど全てが新規設計になっている」(澤田氏)という。

従来モデルから踏襲されているパーツは右の写真のみ
ディーアンドエムホールディングス GPDサウンドデザイン D+M シニアサウンドマネージャーの澤田龍一氏

 特に大きな変更点はミッドレンジ。'74年から約40年間、ケブラーコーンが改良しながら採用されていたが、それを「コンティニュアムコーン」に変更した。「コンティニュアム」は「連続性」を意味する。

 従来使われていたケブラーは繊維を編んだもので、ピストン運動すると繊維の折り目に従って変形するのが特徴。「絶対に変形しない素材でミッドレンジを作った方が良いイメージがあるが、そのような素材で作ると指向性が狭まり、拡散性が乏しく、ステレオイメージが得にくくなる」(澤田氏)」という。ケブラーは変形するが、その変形に特徴があり、折り目にしたがって丸いコーンが四角く変形する。「同心円で変位が起こると一定距離であるためピーク・ディップが発生するが、四角いと距離がランダムで、スムーズにF特が伸びる」(澤田氏)という利点がある。

 B&Wはその利点を継承しつつ、より進化したミッドレンジの開発を継続。2007年にケブラーを凌ぐ方法を発見し、8年間の開発期間を経て導入するのが「コンティニュアムコーン」となる。ケブラーと同じ織物だが、ガーゼのような柔らかい素材で、光にかざすと繊維が交わる部分が透けて見えるほど穴が多い。繊維を動きやすくしているのが大きな特徴で、形状を維持しつつ、繊維の動きを妨げないポリマー材を探すなど多くの工夫により完成しているという。

 ケブラーのユニットと比べると、音の立ち上がりはほぼ同じだが、立ち下がりがハイスピードで、「信号が無くなった後、音が残らない。これまでのモデルの“ケブラー臭い”感じが無くなった。B&Wでは“音が無い時が本当にサイレントなユニット”と表現している」という。

コンティニュアムコーン
蛍光灯に向けると、透けて見えるほど穴が多い
信号が無くなった後、音が残るケブラーに対し、コンティニュアムコーンはすぐに音が消える

 ユニットを保持するフレームも刷新。オールアルミ製で、リブを増やすなどして鳴きの少ないものになった。

 磁気回路にはネオジウムマグネットが使われているが、そのマグネット自身も改良。従来モデルは一般的なスピーカーで使われる「N35」だったが、ミッドレンジには「N40」、ツイータには「N52」と、より強力なものが使われている。

左が従来、右が新しいフレーム
叩いてみると、従来のフレームはキンキンと音が響くが、新フレームはコンコンとほとんど鳴かない

 ウーファも変更。従来のロハセルユニットと同様に、サンドイッチ構造を主体とする高剛性コーンだが、新たに断面形状を変化させる技術を投入。「エアロフォイル(翼型)コーン」に進化した。これは、コンピューターで最適化された形状を実現したもので、最も剛性を必要とする部分に厚みが最大になり、それ以外の部分は薄くするという連続的に厚さが変化する構造になっている。これにより、可聴帯域の更に上までピストンモードが拡張した。新しいコア材「シンタクティック・フォーム」の採用で実現したという。

ウーファ部分
新しい「エアロフォイル(翼型)コーン」
左の従来ユニットと比べると、エッジ付近は薄くなっているのがわかる

 ツイータは「ダイヤモンドを超える素材は現在のところ確認できない」とし、従来と同じダイヤモンドツイータが採用されている。しかし、振動板のドーム以外の全て、磁気回路やサスペンション、ボイスコイルなどは刷新。筐体素材を無垢のアルミニウムブロックからの切削加工に変更する事で、ユニットが動作している際の筐体の変形を低減した。

 ミッドレンジを搭載する筐体も同様。従来のマーラン・ヘッドは変形したが、新たなタービン・ヘッドではアルミニウムブロックから作り出し、内部はラジアル・フィンで固定。細身になり、剛性が高まり、変形がほとんど起こらないようになっている。

ダイヤモンド振動板を使ったツイータ
無垢のアルミニウムブロックからの切削で作られたツイータの筐体。鳴きもほとんど出なくなった
ミッドレンジを搭載するタービンヘッドの変形具合を計測したもの。左は従来のマーラン・ヘッド。薄くなるユニット搭載部分で大きな変形が起きているのがわかるが、右のタービン・ヘッドはほとんど変形していない
ミッドレンジを搭載するタービンヘッド

 筐体デザインも、バッフル面から曲線を描くスリムなものに変更。内部のマトリックス補強構造も進化しており、シミュレーションの結果、補強パネルを厚くし、数を減らす事で剛性が高まる事が判明。そこで、MDFで十分な強度が得られる805Diamond、804Diamondの一部をのぞき、厚い高品質合板が新たに採用された。マウントポッドにも新しい構造を採用し、全てアルミニウムで作られている。

全面からゆるやかなカーブを描く新筐体
従来モデルと比べ、筐体の変形も少ない

 従来モデルは台座にネットワークを内蔵していたが、機械的剛性の向上や、全高と表面積の減少、スパイクとキャビネットを機械的に整合させる事、ユーザー・エクスペリエンスの改善などを目的とし、背面に移動。背面に無垢の金属による台座を搭載しており、803と802は亜鉛アルミニウム合金、800では無垢のアルミニウム一枚板が使われる。台座の中の独立した空間にネットワークが収納されている。

背面にネットワークを搭載
背面
フロア型の「804 D3」
ブックシェルフの「805 D3」

 全モデルが25mm口径のダイヤモンド・ドーム・ツイータを搭載。802は150mm径のミッドレンジ、200mm径ウーファを2基搭載。803はミッドレンジが130mm、ウーファが180mmの2基。804はミッドレンジが130mm、ウーファが165mm2基。805は165mmのミッドバスを1基搭載している。

左から「802Diamond」、「803Diamond」、「804Diamond」
「805Diamond」
「HTM1Diamond」
センタースピーカーの「HTM1 D3」
センタースピーカーの「HTM2 D3」

静寂が増した新次元のサウンド

 マランツの試聴室で、従来の805Diamondと新しい805Diamondを比較試聴した。

 従来の805Diamondは非常によく出来たブックシェルフで、音の定位の明瞭さや、色付けの少なさ、レンジの広さなど、あまり文句のつけどころがない。しかし、新モデルに切り替えると、瞬時に音が大きく変化した事がわかる。

 具体的には、クラシックなどで音が出ていない時の“静かさ”が大きく違う。ノイズがまったく知覚できず、音場の奥行き方向が圧倒的に深くなり、無音の、本当に何も無い空間からスッと音像が立ち上がり、音が出てくる。

 音の分解能や伸びやかさ、キャラクターの少なさも大幅に進化している。名前は変わらず、価格はアップしているが、高価になった以上の音の進化があり、“2クラスは上のスピーカーを聴いているような余裕”を感じる。

「805Diamond」
従来の805Diamondと比較試聴した

 803に切り替えると、805の印象はそのままに、低域がより深く沈み込み、スケール感のある再生が可能になる。802も同様だ。価格やサイズを考えると、日本の家庭には803Diamondがマッチしやすいかもしれない。

803Diamond
802Diamond

 澤田氏は、B&Wが研究開発を行なうステイニング研究施設を訪れた際に、足の踏み場もないほど様々なパーツが散乱し、多様な研究が行なわれている現場を目にしたという。その上で、B&Wの製品開発の姿勢には、「得た知識は全て次の製品活かす(次のモデルがエントリーモデルであろうとも)」、「サウンドが素晴らしいだけでは十分ではない、その理由を探求する」という特徴があると指摘。

 単に音が良いモデルが完成しても、それが偶然作れたのもであれば進化には繋がらない。「何故音が良いモデルになったのかをキッチリ探求する。音が良いとされるパーツや素材も、何故良いのかを研究する。その姿勢がコンティニュアムコーンの開発に繋がり、コンティニュアムコーンを採用した事で、これまでは問題ないと思われていた各パーツの見直しが行なわれ、大きく進化した新モデルが生まれた」と、経緯を紐解いた。

 なお、マランツの開発用試聴室では、これまでもアンプなどの開発において800Diamondシリーズがリファレンススピーカーとして使われてきたが、澤田氏は新800Diamondを一聴し、すぐに新モデルへの変更を決意、「(オーディオ機器開発時に使う測定器とするならば)ノギスとマイクロメーターほどの違いがある」と語った。

モデル名802Diamond803Diamond804Diamond
ユニット25mm径ツイータ×1
150mm径ミッド×1
200mm径ウーファ×2
25mm径ツイータ×1
130mm径ミッド×1
180mm径ウーファ×2
25mm径ツイータ×1
130mm径ミッド×1
165mm径ウーファ×2
周波数帯域14Hz~35kHz16Hz~35kHz20Hz~35kHz
感度90dB90dB89dB
インピーダンス
推奨アンプ出力50~500W50~500W50~500W
外形寸法
(幅×奥行き×高さ)
390×583×1,212mm334×498×1,160mm238×345×1,019mm
重量94.5kg65.5kg33kg
モデル名805DiamondHTM1DiamondHTM2Diamond
ユニット25mm径ツイータ×1
165mm径ミッド×1
25mm径ツイータ×1
150mm径ミッド×1
200mm径ウーファ×2
25mm径ツイータ×1
130mm径ミッド×1
165mm径ウーファ×2
周波数帯域34Hz~35kHz20Hz~35kHz33Hz~35kHz
感度88dB91dB90dB
インピーダンス
推奨アンプ出力50~120W50~500W50~200W
外形寸法
(幅×奥行き×高さ)
238×345×424mm850×342×330mm720×325×300mm
重量12.6kg30.4kg20kg

(山崎健太郎)