レビュー

“伝説の801復活” B&W「800 D4」を聴く。要注目は804!?

「第4世代800 Series Diamond」最上位機「801 D4」

ディーアンドエムホールディングスより、Bowers & Wilkins(B&W)の新ハイエンドスピーカー「第4世代800 Series Diamond」(800 D4)の発売がスタートした。なんと言っても“伝説の型番801復活”となる最上位機「801 D4」に注目が集まるところだが、実はコンパクトなブックシェルフ「805 D4」と、フロア型で最も低価格な「804 D4」の進化もスゴイ。全モデルを聴く機会があったので、そのファーストインプレッションをお届けする。

進化ポイントを説明してくれたのは、B&Wと言えばこの人、D&Mのシニアサウンドマスター澤田龍一氏だ。

D&Mのシニアサウンドマスター澤田龍一氏

ラインナップと主な進化点

まず、800 D4シリーズのラインナップと価格をおさらいしよう。具体的には以下の通りだ。仕上げによって価格が異なるほか、ウォールナット仕上げは現在の時点で、2022年4月頃の発売になる見込みだという。

  • 801 D4※ペア販売
    グロス・ブラック:2,728,000円(1台)
    ローズナット:2,607,000円(1台)
    サテン・ホワイト:2,607,000円(1台)
    ウォールナット:2,607,000円(1台)
  • 802 D4 ※ペア販売
    グロス・ブラック:2,178,000円(1台)
    ローズナット:2,057,000円(1台)
    サテン・ホワイト:2,057,000円(1台)
    ウォールナット:2,057,000円(1台)
  • 803 D4 ※ペア販売
    グロス・ブラック:1,760,000円(1台)
    ローズナット:1,639,000円(1台)
    サテン・ホワイト:1,639,000円(1台)
    ウォールナット:1,639,000円(1台)
  • 804 D4 ※ペア販売
    グロス・ブラック:1,001,000円(1台)
    ローズナット:957,000円(1台)
    サテン・ホワイト:957,000円(1台)
    ウォールナット:957,000円(1台)
  • 805 D4 ※ペア販売
    グロス・ブラック:561,000円(1台)
    ローズナット:539,000円(1台)
    サテン・ホワイト:539,000円(1台)
    ウォールナット:539,000円(1台)
  • HTM81 D4
    グロス・ブラック:1,100,000円(1台)
    サテン・ホワイト:1,045,000円(1台)
  • HTM82 D4
    グロス・ブラック:847,000円(1台)
    サテン・ホワイト:803,000円(1台)
「第4世代800 Series Diamond」

800 D3では、最上位が「800 D3」だったが、その位置が今回は「801 D4」という名称になり、“801”という型番が復活した。801の復活は、オーディオファンにとっては嬉しいニュースだが、同時に「801ってことは、いずれより上位の800 D4という製品も登場するのでは?」という疑問も浮かぶ。しかし、あくまでトップモデルの名前が「800」から「801」になっただけで、澤田氏は「800番がまだ出るの? と思われるかもしれませんが、今現在、そういうプランは予定されていないそうです」と笑う。

801 D4で、“801”という型番が復活した

第4世代で大きく進化したところは、ツイーター、筐体、ミッドレンジ、そしてターミナル。「内容的には意味のある変更が多く、決してマイナーチェンジモデルではありません」(澤田氏)。

ブックシェルフの「805 D4」
フロア型の「804 D4」

まずはキャビネットの進化。特に注目なのは、ブックシェルフの「805 D4」と、フロア型の「804 D4」だ。従来は、筐体の後ろ側に湾曲合板を配置し、前面にフラットなバッフル板を組み合わせていたが、805 D4と804 D4では、上位機と同じように、前方が湾曲合板、背後がフラットという構成になった。コストアップにはなるが、最上位からブックシェルフまで、シリーズを通して同じ考え方で貫いたレイアウトが完成した。エッジが無く、シームレスな形状になることで、音場の再現性がアップしている。

左が従来モデル「805 D3」、右が新しい「805 D4」。D4では、前側が湾曲しているのがわかる

内部のマトリックスも強化。第3世代の804と805は12mmのMDFで作られていたが、第4世代では18mmの合板となり、曲げ強度も約2倍にアップ。背面にはアルミプレートを装着し、そこにネットワーク回路を格納。ネットワーク回路を外に出す事で、回路が、スピーカー内部の高い音圧の影響を受けないようにしている。

キャビネットの“肩”の部分にも注目だ。湾曲した天板が使われているが、その上にアルミダイキャストのトッププレートを配置。剛性を高め、静粛性をさらに向上させた。さらに、アルミの上には革を貼っており、音の反射も低減している。

キャビネットの“肩”の部分には、革張りしたアルミダイキャストのトッププレートが追加されている

800シリーズといえば、ツイーターのチューブローディング・システムがお馴染みだが、その“長さ”にも注目。第3世代の804と805は、上位モデルよりもチューブが短かったが、D4では全モデルが同じ長さになった。

従来モデル「805 D3」のチューブ
新しい「805 D4」のチューブ。こちらの方が長くなっている
804 D4のチューブ。こちらも従来よりも長くなった

このチューブローディング・システムは、無垢のアルミニウムの丸棒から切削加工で作られており、表面は旋盤加工の目を立たせたアルマイト仕上げ。指で触れると、まるで爪切りについているザラザラした部分のようだ。

無垢のアルミニウムの丸棒から切削加工で作られている

先端には、25mm径のDiamondドームツイーターを搭載。見た目は変わっていないが、内部が進化。ドーム裏側にある空気室の容量を拡大するために、従来は、メインマグネット、反転マグネット、リーケージ(漏洩磁束を抑圧するためにギャップの前側に配置していた)マグネットという、3つ搭載していたマグネットの中から、リーケージ対策のマグネットを排除。残り2つのマグネット形状を改良する事で、磁力は維持したまま、スペースを拡大させた。ボイスコイルボビンにあけているエアー抜き用の穴も、個数を増やして、ユニットをより動きやすくしている。

チューブを保持するフローティングマウント部分も進化。新開発の2点デカップリングシステムによってタービンヘッドから分離させており、左右だけでなく、前後にも動くようになっている。これにより、下のウーファーが振動する事で伝わってくる前後の振動を、より効果的にアイソレーションしている。

大きく進化したのがミッドレンジユニットだ。従来から、FST(フィクスド・サスペンション・トランスデューサー)と呼ばれる、ほとんどエッジレスな構造を採用しているが、D4ではダンパー部分を進化させた。紐のような細いダンパー「バイオミメティック・サスペンション」を採用したのだ。

紐のように見える部分がバイオミメティック・サスペンション。音抜けは抜群だ
こちらが一般的なコルゲーションダンパー。見るからに、ダンパーからも音が出そうだ
左がコルゲーションダンパー、右がバイオミメティック・サスペンション

見るからに“音抜け”がよさそうな構造で、澤田氏も「ダンパーはコーンの裏に隠れているので、ダンパー自体が音を出さないかというと、そんな事はありません」と、その効果の高さを語る。

澤田氏は、このバイオミメティック・サスペンションを、スピーカーの誕生時から存在するバタフライダンパーの一種と説明。形状としては、生物模倣技術を活用しており、「B&Wは何も言っていませんが、私は“クモヒトデ”を模倣したのではと考えています」という。

バタフライダンパーはこれまで、アルテックやJORDAN WATTSなど、様々なメーカーが採用してきたものの、「いつの間にか消えていった技術」になっていた。その理由は、経年劣化や、動作させるとどこかに力が偏ったり、ローリングが発生してしまうためだという。

D4では、この問題を解決するため、特許出願中の特殊な樹脂を採用。超低温から高温の環境下でも、素材の動作が変化しない“スーパーエンジニアリングプラスチック”のカテゴリの一つだという。B&Wはこの素材を見つけ、形状を完成させるために8年を費やしたそうだ。その効果を澤田氏は、「明らかに、3ウェイのモデルはミッドレンジの抜けが以前より良くなっている」と評価する。

ミッドレンジは、磁気回路も進化。D3では、磁気回路の中央にショートリングを配置し、銅のキャップをかぶせ、ボイスコイルのインダクタンスをキャンセルさせているが、D4では内側だけでなく、外側にも配置した方が効果が上がるとして、ショートニングをダブルで配置。

さらに最上位の801 D4では、素材を銅ではなく、純銀のショートリングにしている。D3でもツイーターの磁気回路には使われていたが、801 D4では、豪華にも、ミッドレンジの磁気回路に大きなパーツとして、純銀を採用。銅よりも電気抵抗低く、電流歪みの抑圧効果がさらに高いという。

801 D4では、純銀のショートリングを採用している

ウーファーには、カーボンファイバー製スキンと軽量で厚みが連続的に変化するフォームコアによる低質量かつ高剛性な「エアロフォイル・コーン」を採用。さらに低歪化するために、発泡体を用いたAnti-Resonance Plugを追加した。

805 D4に搭載しているウーファーは、ボイスコイルボビンを今までのアルミから、導電体ではないガラスファイバーに変更。渦電流を発生させないようにしている。

また、804から上位モデルのウーファーでは、磁気回路の性能も向上。801ではそれに加え、構成がダブルダンパーではなく、シングルダンパーになった。これまでのハイエンドモデルでは、安定度をとるためにダブルダンパーだったが、前述のようにD4ではミッドレンジの反応がはやくなっており、それに追従できるように、801のダンパーもシングルになった。シングル構成で、大入力でもにローリングが発生しないように開発するのは、かなりの苦労があったそうだ。

ネットワークも進化。ムンドルフの高級コンデンサーを使っているが、800 D4では市販されていない、特注の「MCap SUPREME SilverGold Oil カッパーアンジェリークワイヤー」を採用した。名前に“カッパーアンジェリークワイヤー”が追加されたのは、コンデンサーの引き出し、引出しリード線の部分に、音質的により良いものを使っているという意味で、明瞭度がさらにアップしたという。

黒いパーツがムンドルフの高級コンデンサー

805と804は、スピーカーターミナルの仕様も変更。これまでは、上にツイーター、下にウーファーと、二段に並ぶ構成だったが、D4からは上位機と同じように横一列になった。

また、横一列の並びが、従来は“外がウーファー用、内側がミッド・ハイ用”だったが、D4からは“左がウーファー用、右がミッド・ハイ用”という並びになった。接続時に、ケーブルが“股裂き”になるという声を受けての変更だという。

805 D3のスピーカーターミナル
805 D4のスピーカーターミナル

音を聴いてみる

では、音を聴いてみよう。まずは805から。「ダイアナ・クラール/No Moon At All」などを再生し、805 D3と、805 D4を聴き比べた。

805 D4

805 D4

ぶっちゃけて言うと、805 D3の時点で非常にハイパフォーマンスなスピーカーであるため、「D3から進化すると言っても、そんなに進化の余地はあるのかな?」と半信半疑な部分があり、「進化といっても、音の違いはそんなに大きくないだろう」と考えていた。

だが、805 D3からD4に切り替えた瞬間、すぐにわかるほど音が違う。いや、音がというよりも、空間が違う。805 D3は色付けの無い、非常にナチュラルなサウンドで、ブックシェルフの利点を活かした広大な音場が楽しめるスピーカーなのだが、805 D4の方がより音場が広くなる。

さらに違うのが、そこに定位するボーカルやベースなどの音像だ。805 D3でも「ここに口の輪郭がある」と明瞭にわかるほどシャープな音像だが、D4ではその音像に奥行きがあり、立体的になる。音像が人間の“厚み”を持っている。そのため、音楽がよりリアルに、その場で演奏されている感が強まる。

驚くのは、その音像と、別の音像の“あいだの空間”だ。D4では、音の無いあいだの空間に、“より音が無い”。これにより、リアルさがさらに高められる。

音場の広さや立体感は、筐体前方に湾曲合板を使った事で、反射が減った効果だろう。音像の厚みや定位のリアルさ、無音部分がしっかり無音になったのは、筐体の剛性がアップし、ユニットをホールドする固定力もアップ。より“余分な音”を出さなくなった事や、ユニットの動きを阻害せず、より動きやすくなった事で筐体からの“音離れ”が良くなったことが寄与していると感じる。

804 D4

804 D4

次に804 D4だが、ある意味、これが800 D4シリーズの中で最も驚いた。805 D4でも書いたように、空間再現能力や、音離れが非常に良くなっているため、フロア型であっても、805 D4に非常に近い、広大な音場やシャープな定位がしっかり味わえる。

それでいて、ドッシリとした迫力のある低域は、スピード感も兼ね備えており、上から下まで端切れの良い、キビキビとしたサウンドで統一されている。これまで、上位のフロア型モデルの脚部には堅牢な台座「アルミニウム・プリンス」が使われていたが、804はD4になって、新たにこの上位機と同様の台座が採用された。上位機に負けずとも劣らないこのしっかりとした低域再生能力は、この台座の進化も影響しているようだ。

804 D4の台座

個人的に、従来の804には「805より低音は出るものの、805より音場の広さや音像定位の明瞭さはやや低下する」というイメージがあり、「せっかくなら、804よりも上のモデルを狙ったほうがいいのでは」という、悪く言うと“中途半端さ”を感じていたのだが、804 D4にはそれが一切無い。聴く前は、801 D4など、上位機ばかり気にしていたが、聴いてみると“大化け”具合に一番驚かされたのがこの804だ。

803 D4

803 D4

より筐体は大きく、タービンヘッドを採用したモデルになるが、本格的なフロア型らしく、音場のスケール感がさらに広大になり、こちらに押し寄せる音の音圧も増す。全体的に余裕のあるサウンドになり、“格の違い”が漂い始める。

中低域もよりパワフルになるが、力強いだけでなく、D4は中域も低い音もハイスピードになっており、締まりがよく、端切れも抜群であるため、迫力と同時に聴いていて気持ちよさを感じる。

802 D4

802 D4

804から803に感じた進化点を、さらに上に伸ばしたのが802 D4だが、音場のスケール感や、中低域のパワフル&ハイスピードだけではなく、音全体の解像度がさらに一段あがっている。

力強く前に出る音の迫力と同時に、その奥底にある歌手のブレスや、ベースの弦が震える様子といった微細な音が、さらにクッキリと見えるようになっている。聞けば、ネットワークのパーツのグレードが803 D4より、802 D4の方が上がっており、その違いが出ているようだ。おそらく、違いとしては細かな差なのだと思うが、バイオミメティック・サスペンションなど、様々な技術を投入して情報量が上がっているため、ネットワークの違いがモロにわかるようになった……という面もあるのだろう。

801 D4

801 D4

いよいよ最上位、801 D4の登場だ。「802 D4がこんな音だったから、801はこうじゃないかな」と予想していたのだが、音が出た瞬間にそんな事は忘れて、もはや「ヤバっ!!」としか言えなくなる。

音場が広がり過ぎて、試聴室の奥の壁どころか、天井まで無くなったように聴こえる。音離れの良さも802と別次元で、様々な音が、一切の制約を受けず、のびのびと、エネルギッシュに、空間に躍り出ている様子が見えるようだ。

その空間の広がりに自分も飲み込まれるため、サラウンドシステムでもホームシアターでもない2chオーディオなのに、別の空間にワープしたように感じる。

低域がどうとか、高域の伸びがどうとか、そういった事がまったく頭に浮かばない衝撃的な音だが、興奮をなんとか沈めながら聴いてみると、そうした上下のレンジも802より広く、そして802で感じられた解像度の高さも、801ではさらにそれを上回っている。

確かに、音の進化の方向性は805、804、803、802、801と、下から上まで揃っており、わかりやすさがある。しかし、明らかに801のサウンドは、805~802とは別次元で、“802の上位モデル”というよりも、“孤高の最上位モデル”という別格感がある。ペアで500万円を超えるので、ある意味当たり前なのかもしれないが、この“異次元感”は、ぜひ一度試聴してほしい。

801 D4

試聴を終えて強く印象に残るのは「801 D4の凄さ」だが、それは置いておいて、次に感じたのは「下位モデルの躍進っぷり」だ。どうしても、おいそれと買えない高価な上位機が気になってしまうが、そうではない805 D4と、804 D4の進化っぷりにこそ、注目したい。

小型スピーカーの利点をさらに伸ばした805 D4には、ブックシェルフスピーカーの一つの到達点という魅力を感じる。そして、804 D4は、805 D4の特徴を備えながら、フロア型の良さも綺麗に取り入れた、非常に完成度の高いフロア型に仕上がっている。

805でもペアで100万円オーバー、804は約200万円と、下位モデルでもなかなか手が出ない価格だが、「いつかは使いたいハイエンドシリーズ」という憧れや期待に、しっかり応える“進化”を実感できる800 D4シリーズだった。

山崎健太郎