ミニレビュー
震えるだけなのに高まる“リアリティ”。ソニー肩のせスピーカーの新視聴体験
2017年9月15日 08:15
ソニーからユニークな“スピーカー”が登場した。ウェアラブルネックスピーカーと命名された「SRS-WS1」だ。なんでも、肩に乗せて、耳の近くで音を出しながら、スピーカーそのものが振動し、サウンドに臨場感を加えるというものだ。
見た目は、飛行機に乗るときに使うネックピローのような形状のヘッドフォン。これを肩にかけるだけで、迫力あるサウンドが楽しめるという。深夜など大音量が出せないような環境でも、映画やゲームなど臨場感を高めるというこの製品。10月14日より発売し、店頭予想価格は25,000円前後だ。
「面白い。」とは思うけれど、ヘッドフォンじゃだめなのか? 普通のスピーカーじゃだめなの? といった疑問も浮かぶ。実際に使ってみて、その効果を体験してみよう。
実は“手元スピーカー”的な構成
SRS-WS1は、スピーカー部と送信機、充電台から構成される。テレビの光デジタル音声出力などと送信機を接続し、送信機からスピーカーにデジタル無線で音声伝送を行なう。肩にかけるスピーカー部にはバッテリを内蔵し、ワイヤレススピーカーとして動作する。
スピーカー本体と充電台、送信機のほか、付属品はUSBケーブル×2、ACアダプタ×2、光デジタルケーブル×1、音声ケーブル×1、専用オーディオケーブル×1と、やたらとケーブルが多い。ACアダプタが2つもあるのは、送信機用と充電台用のものだ。
ヘッドフォン部に、上側にスリットを備え、その内側に30mm径のフルレンジユニットを内蔵。内部のパッシブラジエーターにより振動を生み出している。ネックバンドの内側には、電源や振動の調整ボタン、ボリュームボタンを装備、下面には充電端子。また、音声入力用のmicroUSB端子も備えており、専用ケーブルを用いて、通常のオーディオプレーヤーなどの有線接続にも対応する。
送信機の音声入力は光デジタル音声×1。この入力信号を、ヘッドフォン側に伝送して、再生するのだ。テレビなどと接続して、音声を楽しめる。PlayStation 4やBDプレーヤーなどと直接してもいいが、テレビのデジタル出力につなげば、PS4だけでなくテレビに接続した様々な機器の音声をSRS-WS1で再生できるので、基本的にはテレビの光デジタル出力に接続したほうがよい。
ただし、最近のテレビでは光デジタル出力を省いた製品も増えているので、SRS-WS1の購入前にその点は確認してほしい。また、テレビに光デジタル出力がなくても、アナログ音声接続は可能だ。
「デジタル音声入力信号を2.4GHz帯のデジタル無線で伝送」という、動作原理は自体は、いわゆる「手元スピーカー」と同じだ。送信機に入力したデジタル音声信号を、ヘッドフォンで受信して再生しているだけだ。ただ、その受信機側が“震える肩掛けヘッドフォン”という点が新しいのだ。
もちろん、震えるだけでなく、スピーカー開口部からの音の広がりや独自のボディ構造、デジタル音声処理などソニー独自の技術を駆使。それにより、包み込まれるような音場を生成するという。
SRS-WS1の入力信号は、48kHzまでのステレオリニアPCMに対応。BD/DVDの5.1ch音声などには対応せず、2chのPCMにダウンミックスしてステレオ音声として処理する。バーチャルサラウンド機能などは備えていない。
装着感は良好。震えるだけなのにリアリティ向上
ヘッドフォン部を首からかけてみる。重量は335gだが、装着してみると、つけていることを忘れるほど馴染む。肩や背中、鎖骨のラインに沿った形状のため、フィット感がかなり良い。少し動いたり、ドリンクを取りに行くぐらいでは全くずれないし、寝っ転がっても落ちるようなことはないはずだ。ただし、寝転がると音の聞こえ方がおかしくなるため、基本的には着座して使う製品だ。
肌に触れる内側は、汚れにくい加工を施したファブリック素材を用いているとのこと。汗が染みたりということはなかった。
今回はテレビの光デジタル音声出力に接続。地デジ放送のほか、テレビに接続したBDプレーヤーやPS4でテストした。
まずは、テレビで地デジ放送を見てみた。が、さほど面白くない……。ワイドショーやニュース番組はとても聞きやすいのだが、臨場感が高まるという感じもなく、「よくセリフが聞こえる手元スピーカー」といった感じだ。SRS-WS1では、振動の強さ(音連動バイブレーション)は[弱][中][強]の3段階で変更できるが、ニュースの読み上げ音声の音像が若干上下する程度で、ほとんど震えない。当初は振動設定の操作を間違えてるかな? と思ったほどだ。
要するに、低域がもともと入っていないニュース番組では、首回りで音が鳴るシンプルなスピーカーとして動作する。CMに入る前のサウンドロゴやCMでは、時折、音に合わせて震えるので、「震えるスピーカーなんだな」と思い出させてくれる。
だが、この印象は映画や音楽を聴いてみると一変する。基本的には、映画やドラマをある程度じっくり見る時に、迫力を向上するためのスピーカーといえる。
UHD BDの「デッドプール」のチャプター3。ハイウェイ上での戦闘アクションシーンでは、迫力が大幅増。音連動バイブレーションはデフォルトの[中]で試したが、看板にたたきつけられる音の「ズゥゥウン」という重量感や、砕け散る車の破片が風を切る様などがぐっと浮き上がって聞こえる。バーチャルサラウンドはないのだが、予想以上に音の移動が感じられる。
振動を[中]から[強]にすると、震えとともに、低域もパワーアップ。爆風で吹き飛ぶ車の「ブゥーン」という低音がより重く、迫力がさらに増す。音(空気の震え)だけでなく、実際に体にも震えがくるので、リアリティが増しているように感じられる。[強]にしてもセリフは聞こえやすく、迫力を求めるならばこの設定でもいいかもしれない。
ただ、強にすると、さほど迫力を強調しているわけでもないような車の通過シーンや、ちょっとした会話の際にも、“ブルッ”と震えてしまうことあり、演出過多になる傾向がある。ボリュームにも依るが、意図せぬ振動を抑えるという意味では、[中]のバランスが優れている。ソニーによれば、基本的に[中]を前提にSRS-WS1の音を決めているとのことだ。
一度、[中]、[強]を体験してしまうと、[弱]設定はいかにも物足りない。低域だけでなく、全体的にダイナミックレンジが不足する印象で、アクションシーンが少ない映画でも、[中]以上が良い。[低]だと、振動を抑えるために無理やり低域を抜いているような印象を受けてしまう。
スパイダーマン:ホームカミングの予告編や、カンフーパンダなどを見てみたが、基本は中、派手なアクションシーンは[強]という印象は変わらない。個人的には、[弱]の使い道がないので、[中]、[強]の2段階でよかったのでは、と感じた。
音楽番組やビデオを見ても、バランスが良いのは[中]だ。適度な振動が、ライブ系の音楽ビデオの臨場感を高めてくれる。[強]にすると音場も広めになるのだが、低域がつぶれてしまいボーカルの見通しが少し悪くなる。[弱]は、迫力もダイナミックレンジも損なわれるので、選ぶ理由はない。
また、周囲のもれる音が“それほど大きくない”というのもポイント。肩にかけていると、かなりの迫力ある音なのだが、テレビのスピーカーから出る音に比べると、かなり控えめだ。
もちろん、ヘッドフォンのように密閉するわけではないので、深夜のリビングなどで聞けばそれなりにうるさく感じるはずだ。だが、隣家に迷惑をかけるような音量にはならない。「家族が寝静まった深夜にボリュームを抑えて映画を見る」といった場合、音に物足りなさを感じることがあるかもしれない。そんな時、SRS-WS1を使うと、家族に配慮しながら“体感音量”を上げられる。
震えるスピーカーのお手軽な魅力
SRS-WS1で魅力的に感じたのは、迫力の向上はもちろんだが、装着しやすさと使いやすさ。肩に乗せるだけなので、ヘッドフォンやイヤフォンをつけるより楽ちん。それでいて、映画や音楽がさらに楽しくなる。特にアクション映画には最適だし、今回は試せていないが、ゲームプレイも面白そうだ。
数年前までは、ソニーやパイオニアから、デジタル接続の「バーチャルサラウンドヘッドフォン」が発売されていたが、それらの製品よりも、SRS-WS1の手軽さと迫力、開放感は魅力的に感じる。
スペック面では、バーチャルサラウンド対応などの機能強化も望みたいところだが、使ってみると、そこへの不満はあまり感じない。入力信号はステレオながら、移動感も音の広がりも十分味わえる。編集部の周囲で使っていたところ、同僚からのウケがとても良く、振動するギミックの楽しさや迫力の向上もすぐに理解してもらえた。ただ、25,000円という価格を伝えると、「もうちょっと安く……」という声が多かった。今後の普及には価格が課題になるのかもしれない。
ハイレゾやHDR、4Kなど高品位な体験を求める技術や、VRのような没入感、臨場感向上技術が多く登場している。そんななか、シンプルな製品ながら、振動で臨場感を高めるという、原始的なSRS-WS1のアプローチはユニークで、第1弾ながら満足感も高い。この“震える”体験をより多くの機器に広げていってほしい。
SRS-WS1 |
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