ミニレビュー

ついにサービス開始したV-Low新放送「i-dio」を試す

ラジオでもテレビでもない新放送の魅力と課題

 地上アナログテレビ放送終了後のVHF-Low帯を利用した新たな放送サービス「V-Lowマルチメディア放送」が「i-dio」という名前で3月1日にプレ放送を開始した。モニター提供されている「Wi-Fiチューナー」を利用したサービスの利用感をレポートする。

地上アナログ停波跡地を利用したマルチメディア型の放送サービス

 まずはi-dioというサービスについて確認しておこう。i-dioは地上アナログテレビが使っていたVHF帯のうち、1~3チャンネルで使っていた「VHF-Low」という帯域を利用した「V-Lowマルチメディア放送」という放送サービスで、「i-dio」は利用者にわかりやすいコミュニケーションネームという位置付けだ。「dio」という名前がラジオを想起させるが、実際には音声だけでなく映像やデータ放送などさまざまなコンテンツが提供される。

 3月1日からは「プレ放送」との位置づけで、東京、大阪、福岡という限定したエリアでサービスを開始。今後は2016年度内に本州を中心としてエリアを拡大し、2019年度には全国エリアへ拡大する予定だ。

 専用の放送波を使うため、サービスの利用にも対応した専用機器が必要。すでにi-dioに対応したSIMフリースマートフォン「i-dio Phone」が2015年12月から発売されているほか、スマートフォンからi-dioを利用できる「Wi-Fiチューナー」5万台をモニター提供。モニター機の提供は2月29日で第1期5万台が終了したが、現在は第2期モニターが提供されている。今回はモニター当選したWi-Fiチューナーでテストを行なった。

i-dio用Wi-Fiチューナー

 また、5月にはi-dioのIPサイマル放送を5月も配信予定。対応機器を持っていないユーザーでも、i-dioのコンテンツをインターネット経由でそのまま楽しめる。ラジオ放送に対するradikoのような存在と考えるとわかりやすいだろう。

i-dio Phone。開発はVIPとコヴィア

対応チューナーは手のひらサイズの超小型。iOSとAndroidに両対応

 「Wi-Fiチューナー」の本体サイズは73×45×21mm(幅×奥行き×高さ)と、フリスクケースを小型にして縦横共に幅を広げたようなサイズ感。重量も約70gと軽く、手やポケットにいれておいても違和感はない。開発は日本アンテナ。

i-dio用Wi-Fiチューナー。前面に電源ボタン
アンテナを伸ばしたところ
背面

 本体前面に電源ボタン、右側面に充電用のmicroUSB端子を搭載。左側面にミニジャックを備えているが、これは外部アンテナを接続するための端子で、イヤフォンを接続してi-dioの音を聴くことはできない。充電は6時間、連続動作時間6時間。

側面の端子は外部アンテナ入力
充電用のmicroUSB端子

 スマートフォンで利用するための専用アプリは、プレ放送開始の前日である2月29日にAndroid版が公開され、続いてサービス開始当日の3月1日にiOS版が公開された。対応OSはAndroidが4.2以上、iOSが8.0以上。どちらのアプリも無料でダウンロードが可能だ。

 接続方法はAndroidとiOSで異なり、AndroidではWi-Fi Directの仕組みを利用してWi-Fiチューナーに接続する。Wi-Fiチューナーの電源ボタンを短押しすると本体のLEDが緑点灯してWi-Fi Direct接続状態となり、この状態でアプリを起動すると画面内に接続先としてWi-Fiチューナーが表示される。あとは画面をタップすれば利用が可能だ。

 一方、iOSアプリの場合はWi-Fiチューナーがアクセスポイントとして動作する。本体のボタンを短押しではなく長押し、LEDが緑点滅した状態で、iOSの設定アプリから本体の背面に記載されているSSIDとパスフレーズを入力。あとはi-dioアプリを起動すると利用可能になる。

本体ボタンを短押しした状態でアプリを起動するとチューナーを自動検出
本体ボタンを長押し、LEDが緑点滅した状態で「V-Low」から始まるアクセスポイントに接続

 なお、Androidの場合i-dio接続中も無線LANや3G/LTE回線を利用してインターネットに接続できるが、iOSの場合はWi-Fi経由でのインターネット接続は利用できない。iPhoneならいいが、SIM非対応のiPadやiPod touchでは、i-dioを視聴中にインターネットが利用できないことになる。

 また、i-dioを使用中、Wi-FiチューナーのLEDが一切光らずまったく接続できない状況に陥ることがあった。インターネットで利用者の声を調べてみると同様の声が多く、リセットボタンを使って本体をリセットすることで復帰できた。今後ファームウェアのアップデートなどで改善される可能性はあるが、手持ちのWi-Fiチューナーが使用できなくなった場合はリセットボタンを試して欲しい。

待たされる放送局切り替えがネック。操作UIも課題

 i-dioで利用できるコンテンツは地域によって異なり、プレ放送で全エリア共通なのは音声チャンネル「i-dio Selection」3チャンネルと、動画をメインとした「Creator's Channel」1チャンネル、高音質を特徴とした「TS ONE」、ドライバー向けコンテンツに特化した「Amanekチャンネル」の6チャンネル。近畿ではこれに加えて「KANSAIチャンネル」、九州・沖縄では「Qリーグチャンネル」という地域に即したコンテンツが用意されている。

 初回利用時は利用規約の同意や受信地域の選択、ユーザー情報の登録などが必要。ユーザー情報はあくまで任意のため、受信地域を選択して利用規約に同意すればすぐに利用できる。余計なユーザー登録が最低限に抑えられているのはありがたい。

初回利用登録画面。地域と利用規約の同意だけですぐに利用できる
Androidアプリの画面

 Android、iOSともに基本的な操作体系は変わらないが、iOSは起動時のホーム画面が用意されているのが違い。ホーム画面から任意のチャンネルを選択すると、Androidと同様の画面UIに遷移する。

iOSは起動時にすべてのチャンネルを表示する画面が用意されている
チャンネルを選ぶと画面はAndroidと変わらない

 操作できるのはチャンネルの切り替え、番組表の表示に音量調節と非常にシンプル。チャンネルの選択は画面に表示されているチャンネルをタップするとチャンネル名の上下にラインが表示され、実際にチャンネルが切り替わる。

 チャンネルの切り替えは10秒以上経過してから音声が再生されるが、画面はさらに「コンテンツ受信中」と表示され、チャンネルごとに用意された画面が表示されるまでには1分以上待たされる。また、表示したコンテンツは保存されず、チャンネルを切り換えるたびに再度コンテンツを受信しなければいけないため、チャンネルの切り替えは正直ストレスが溜まる。また、アプリの起動時にもi-dioのロゴがアニメーションする起動画面が挿入されており、これも待たされている感を高めている。

チャンネルを切り換えると「選局中」と表示され、切り替わるのに10秒以上必要
チャンネル変更中はコンテンツを受信。この間は音声のみ利用できる

 チャンネルを切り換えたくないが概要や放送内容を知りたい、という時は、ドラッグ操作でチャンネル名を中央に移動し、画面下部の「番組表 TIME TABLE」をタップすると番組表を確認できる。チャンネルを切り換えてしまうと、前述の通りコンテンツ受信が発生してしまうための仕様と思われるが、これも使いやすいとはいいがたい。番組表のみを別途まとめて確認できたほうが使いやすいのではないかと感じた。

起動時はi-dioのロゴが毎回アニメーション
番組のタイムテーブル

 電波状況は利用環境によって異なるものの、東京都内で実際に使った感覚としてはワンセグと同程度という印象。室内では窓際近くにチューナーを置かないと音がブツブツ切れてしまう。

チューナーを窓際に設置してi-dioを視聴

 また、外出中も完全な屋外であればいいが、屋根のある場所では音が切れることもある。山手線ホームのように外が見える環境にも関わらずロッドアンテナを最大に伸ばしても音が途切れてしまうなど、プレ放送の段階では外出中の利用はあまり向かない印象だ。

本体が小さいためスマートフォンごと片手で持つことも可能

 iOS、Androidともに、ホーム画面に戻る、他のアプリを起動する、画面をオフにするといった操作をしてもi-dioの音声自体は流れ続ける。ただし、他のアプリを起動すると音が途切れたり、いくつもアプリを立ち上げるとi-dioアプリ自体が止まってしまうなど、基本的に他アプリの併用は適していない。i-dioを楽しむときはi-dioに集中するのがよさそうだ。

合成音声やゲーム実況、高音質番組などさまざまな番組を展開

プレ放送中唯一動画を放送している「Creator's Channel」

 放送内容自体はプレ放送ということもあり、基本的には音楽が流れるだけのシンプルなものが多いが、その中でもいくつか気になるコンテンツもあった。

 「Creator's Channel」はゲーム実況や「鷹の爪」のアニメーション、美容に関する紹介ムービーなど動画を中心とした作りになっており、音声だけではなく動画も合わせて楽しむことができる。3G/LTEで視聴すればパケットを消費してしまい月の通信量もかさんでしまうが、そうした通信費用を発生せずに動画コンテンツを楽しめるのは放送波ならではのメリットだろう。現状は同じ動画が繰り返し放送されているようだが、使い方次第ではテレビ番組の生放送のようなこともできそうだ。

 また、「Amanekチャンネル」では、番組のナレーターとして合成音声を起用している。元々ドライバー向けのチャンネルということで、エリアごとに異なる天気予報といったサービスも用意しているため、人が読み上げるより合成音声を使うほうが効率がいいのだろう。ラジオのパーソナリティを合成音声が担当することで、ラジオらしさが失われるような印象もありつつ、スタジオに人がいる必要のないラジオ番組、という点では興味深い。

 「TS ONE」は、i-dioの特徴でもある高音質を謳った番組で、48kHz/320kbpsのAACで番組を配信する。実際に再生してみると確かに音質は非常に高く、高音質を体験させるためであろう小鳥のさえずりなども非常に美しい。FMラジオと同等以上の音質ではあると感じた。2017年にはHDS(High Definition Sound)の96kHz/24bitというさらなる高音質の放送も予定されているとのことで、音質にこだわるユーザーには注目のポイントになるだろう。

ナレーターに合成音声を起用した「Amanekチャンネル」
高音質配信が特徴の「TS ONE」

待ち時間やアプリUIが課題ながら「放送波」ならではの魅力に期待

 テレビやラジオは見たい番組、聴きたい番組があるから視聴するのであって、放送の仕組みそのものがユーザーにとって魅力的なわけではない。i-dioも放送サービスである以上同じことで、今後どのように魅力的なコンテンツが集まるかが鍵と言える。番組内容もまだ充実しているとは言えないプレ放送でi-dioを評価することは難しく、現状はi-dioの仕組みしか評価することはできないだろう。

 その点でいうと、選局に10秒以上、さらにコンテンツ受信に1分以上もかかる現状は、ユーザー体験としては正直低いと言わざるを得ない。今後は改善されるのかもしれないが、例えばコンテンツ受信中も番組のロゴだけは表示しておき、バックエンドでデータを受信するなど見せ方で改善できる部分もあるだろう。「待たされる」時間の改善は大いに期待したい。

 アプリのUIも、起動画面の改善、チャンネル変更の操作など気になる点は多い。デザイン自体はとても洗練されているのだが、ユーザーの使い勝手まで配慮が及んでいないというのが正直なところだ。

 一方、放送波で音声だけでなく動画もコンテンツとして提供できるのは魅力的だ。受信時間の改善は必要なものの、パケット通信を発生せずに動画を楽しめるというのは通信サービスにはない武器と言える。電波さえ安定していれば動画も途切れず視聴できるため、内容によっては魅力的な番組を提供できそうだ。

 放送波にこだわらず、通信を利用したIPサイマル放送を5月から展開するという戦略も興味深い。ユーザーとしては仕組みに興味あるわけではなく、同じ番組が専用機器がなくとも見られるのは歓迎だ。移動中は通信でスマホ、カフェや自宅などの定位置では専用チューナを使うなどの棲み分けも考えられる。

 コンテンツそのものもまだ実験段階ではあるものの、合成音声やゲーム実況など挑戦的なものも多い。テレビやラジオよりも機動力のある新たなメディアとして、今までにはない番組の展開を期待したい。

甲斐祐樹