レビュー

BAの数だけではわからない。Westone上位イヤフォンSignature 3機種が“目指した音”を聴く

 米Westone Laboratoriesから、バランスド・アーマチュアの4、5、6ドライバを搭載した、注目の上位モデルが続々と登場する。今回はその新モデルを聴いてみる。

左からW50、UM Pro50、W60

 取り上げるのは、モニター向け「UM Pro」シリーズの5ドライバ搭載機「UM Pro50」、そしてコンシューマ向けの5ドライバ搭載「W50」と、6ドライバの「W60」だ。

 各モデルを試聴すると、単純に搭載するユニット数や価格だけではわからない、細かな“思想の違い”が見えてくる。

ラインナップを整理

左からW50、UM Pro50、W60

 UMシリーズの最上位「UM Pro50」(オープンプライス/実売69,800円前後)は、2月から発売が開始されている。5月16日に発売されたばかりの「W」シリーズ「W50」(オープン/実売89,800円)、そして本日発売日と価格が発表されたのが「W60」。発売日は6月28日、実売119,000円前後と、まさにハイエンドモデルだ。

 ……と、いきなり型番を列挙しても、何がどう違うのかわかりにくい。そこで、WestoneのBAユニット搭載イヤフォンのラインナップを整理しよう。大きく分けると、「UM」シリーズ、「W」シリーズという2つラインがある。

 UMシリーズは、ミュージシャンがステージ上で使うなど、プロの使用も想定したシリーズで、生音に近い再生音を追求しつつ、現場で聴き取りやすいような音を追求している。耳型を採取してオーダーメイドするカスタムイヤモニターを、誰にでも使えるようにしたユニバーサルタイプ……とイメージするとわかりやすいだろう。

 一方、Wシリーズはコンシューマ向けと位置付けられ、ゆったりとした低域や、メインの音がクリアに聴こえるような音作りがされている。ポータブルプレーヤーなどと組み合わせて使いやすいシリーズと言えるだろう。

 各シリーズにシングルユニット、ダブル、トリプル……とラインナップが存在。実売価格が近いモデルも存在するが、目指している音、メイン用途が異なるというわけだ。

 ただ、“そうした用途を想定して作った”というだけで、ポータブルプレーヤーにUMシリーズを接続して楽しんではダメという話ではない。身も蓋も無いようだが、一般ユーザーからすれば純粋に音が気に入ったモデルを選べばいいだけ。あくまで“思想の違いがある”とだけ認識していれば良く、選択時の参考にする程度で良いだろう。

型番 ドライバ 発売日 店頭予想価格
(税込)
UM Pro10 1基 発売中 14,800円前後
UM Pro20 2基
(低域×1、高域×1)
29,800円前後
UM Pro30 3基
(低域×1、中域×1、高域×1)
39,800円前後
UM Pro50 5基
(低域×1、中域×2、高域×2)
69,800円前後
W10 1基 19,800円前後
W20 2基
(低域×1、高域×1)
29,800円前後
W30 3基
(低域×1、中域×1、高域×1)
39,800円前後
W40 4基
(低域×2、中域×1、高域×1)
49,800円前後
W50 5基
(低域×1、中域×2、高域×2)
5月16日 89,800円前後
W60 6基
(低域×2、中域×2、高域×2)
6月28日 119,000円前後

“Signature”と呼ばれる3モデル

 異なる2シリーズから3製品をピックアップしたのには、これらが新製品であるという以外に、もう1つ理由がある。Westoneでは「UM Pro50」、「W50」、「W60」の3機種に対して、ラインナップシリーズの壁を超えた「Signature」シリーズとして訴求しているのだ。改めて各モデルのパッケージをチェックしてみると、確かに「Signature」と書かれている。

左からUM Pro50、W50、W60のケース
いずれのケースにも「Signature」シリーズと書かれている

 先日、同社インターナショナル・セールス・ディレクターのハンク・ネザートン氏に伺ったところ、Signatureモデルの要件は、「BAを5ドライバ以上搭載したハイパフォーマンスイヤフォンである事」だという。確かに、搭載ドライバは、UM Pro50が5基(低域×1、中域×2、高域×2)、W50も5基(低域×1、中域×2、高域×2)、W60は6基(低域×2、中域×2、高域×2)だ。

 デザインを見ていこう。ユニットが増えているとはいえ、ハウジングの形状は、各シリーズ下位モデルと同じだ。膨らんだマメのようなフォルムが特徴で、「UM Pro50」はスケルトン仕様だ。

クリアなハウジングが特徴の「UM Pro50」
光沢ハウジングの「W50」
W60。デザイン的にはW50とほとんど同じだ

 何気ない形状だが、装着すると遮音性が高く、耳穴手前の空間にスッポリと入り込み、装着安定性も高い。首を振ったり、小走りしても外れる気配は無い。この安定感の高さは流石老舗イヤフォンメーカーであり、補聴器も手掛けているだけある。なお、イヤーピースはシリコン製Starピースに加え、フォーム製True-Fitピースも付属している。

W50を装着したところ
UM Pro50を装着したところ
シリコン製Starピースと、フォーム製True-Fitピースも付属

 UMシリーズとWシリーズで、ハウジングの形状が似ているが、表面の仕上げは異なる。「UM Pro50」は少しザラついているが、「W50」と「W60」はツルツルと光沢のある質感。高級感では「W50/60」に軍配があがるが、「UM Pro50」の素っ気なさも、逆に“プロ向けイヤフォン”っぽい雰囲気があり、これはこれで魅力的だ。

UM Pro50はザラついた仕上げのスケルトンボディ
W50/60の表面は光沢のある仕上げ
下の2つがW50、上がW60。外観は同じだ

 Wシリーズだけの外観的な特徴は、アルミ製のフェイスプレートを採用している事。このプレートは付属のドライバでネジを外すと、違うカラーのプレートに交換できるようになっている。交換用プレートとして、W50/60にはガンメタリックシルバー、レッド、ゴールドが標準で付属している。

 他社も含めてイヤフォンの高級モデルは、どうしても黒やグレーなど無難な色が多く、低価格な商品と違って“豊富なカラーから好きな色を選ぶ”という楽しみがない。オーダーメイドのカスタムイヤフォンであれば、注文時に好きな色が選べるものだが、そのような感覚が高級イヤフォンでも楽しめるのはWシリーズならではの魅力と言えるだろう。

フェイスプレートを交換してカラーの変更が楽しめる
付属のドライバでプレートが外せる

 ファッションや気分に合わせてカラーを変更するのも良いが、個人的にオススメなのが、右と左で違う色にする事。装着時に瞬時に左右が見分けられるとストレスが減り、快適に使える。欲を言えばもっと様々なカラーやデザインのフェイスプレートを単品でも追加販売して欲しいものだ。

レッドプレートを装着したところ
右と左で異なる色にするのもアリだろう
ガンメタリックシルバーのプレートを装着したところ

 なお、ケーブルは3機種とも着脱可能で、MMCX端子を採用している。MMCXのリケーブルが事実上イヤフォン市場の定番になっているので、この仕様は歓迎したい。ケーブルの長さは約1.3mでY型。なお、Wシリーズにはリモコン付きのケーブルも同梱している。このあたりもWシリーズがコンシューマ向けとされている理由の1つだ。

3機種ともケーブルの交換が可能だ
Wシリーズにはリモコン付きケーブルも付属
モニターヴォルトケースII

 なお、3機種とも耳かけ装着が可能なタイプだが、UM Pro50のケーブルには耳の裏に沿わせるためのガイドパーツが備わっている。W50とW60には無い。ただし、ケーブルは細身で柔軟であるため、いずれの機種でも難なく耳かけ装着は可能だ。

 共通する付属品として、キャリングケースの「モニターヴォルトケースII」が付属している。耐衝撃性の高いポリマー素材を使った頑丈なケースで、イヤフォンをガッチリ保護してくれるほか、オレンジ色の発色も鮮烈だ。バッグの中に仕舞った時でも、この色であれば行方不明にならないだろう。

聴いてみる

 さっそく各モデルを聴いていこう。なお、各シリーズの下位機種については、昨年末のレビューで詳しく紹介しているので、こちらの記事も参考にして欲しい。試聴用プレーヤーはハイレゾポータブルの「AK240」を使っている。接続はイヤフォン標準ケーブルを使ったアンバランス接続だ。

UM Proシリーズ

【UM Pro50】

 UMシリーズ全体の特徴としては、“タイトな低域”、“響きを抑えて個々の音が聴き取りやすい”事が挙げられる。ざっくり下位モデルの音をおさらいするならば、「UM Pro10」はシングルBAらしいシンプルな音。低域はベースラインの描写程度に抑えつつ、高域を精密に描写。余分な響きや膨らみを削ぎ落したようなタイトでストイックなサウンドだ。

 「UM Pro20」は、2ユニット(低域×1、高域×1)で、低域に厚みが出るが、高域のソリッドな描写はUM Pro10から継承。女性ボーカルのサ行がちょっとキツ目で、カリカリシャープな個性が光る。

 「UM Pro30」は3ユニット構成(低域×1、中域×1、高域×1)で、バランスの良さが持ち味。高域のシャープさは維持しながらも、豊富な中低域も聴かせてくれる。しかし、低音にはタイトさも兼ね備えており、ベースの弦の動きなど、細かな描写も曖昧にはならない。

UM Pro10
UM Pro20
UM Pro30
UM Pro50

 UMシリーズに40番台は無いので、その上のモデルが今回の「UM Pro50」となる。

 UM Pro30(低域×1、中域×1、高域×1)と比べると、50は5基(低域×1、中域×2、高域×2)のドライバとなり、中域と低域が各1基プラスされている。その構成は、音にも反映されており、UM Pro30のバランスの良さに、中低域の厚みがプラス。その結果、サッパリした音の下位モデルと比べると、肉厚で、迫力の増したサウンドだ。

 かといって低音がズンドコ響くのではなく、UMシリーズらしくタイトさは維持。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best of My Love」でも、ベースの音圧の豊かさがありながら、「パコッカコッ」という背後のパーカッションがキレ良く聴き取れる。個々の音の輪郭がシャープで、音量を上げても滲んだり、くっついたりしない。クールさと迫力が高次元で同居している。

 では、Wシリーズのような音なのかというとそうではない。響きの少なさはUMシリーズのそれで、高域の伸びやかさ、綺羅びやかさはあまり感じない。人によっては、女性ヴォーカルの高音がカサつくというか、質素に感じられるだろう。極力演出を廃した生っぽい音、“むき出しの音”と言っても良い。そういった傾向を持ちながら肉厚なサウンドになったのが「UM Pro50」だ。

Wシリーズ

【 W50 】
W50

 UM Pro50からW50へと切り替えると、ホッとする。恐らくUMシリーズ特有の響きの少なさ、音がダイレクトに飛んでくるサウンドから、ゆったりとした雰囲気の音に変わるからだろう。

 W50のユニット構成は5基(低域×1、中域×2、高域×2)でUM Pro50と同じだが、シリーズが異なるとこうも音が変わるのかと驚く。高域はクリアかつ艷やかで、女性ヴォーカルのサ行が耳にささるようなキツさは無く、伸びやかで心地よい。ハウジングの付帯音はあまり感じられず、UMシリーズの乾いた感じとは別物だ。

 W50最大の特徴は中低域の豊かさだ。下位モデルのW30やW40はどちらかというとバランス重視で、優等生的なサウンドだが、W50はかなりヤンチャだ。響きの成分が多く、「Best of My Love」のベースも「ズーン」と地を這うタイプではなく、「ヴォーン」と空気のカタマリが押し寄せてくる感覚だ。

W50(左)とUM Pro50(右)

 特筆すべきは、この低音のカタマリが迫ってくるにも関わらず、ヴォーカルやパーカッションなどの中高域の明瞭さがあまり低下していない事。迫力ある低音に圧倒されながら、音楽の大事な部分はキッチリ聴き取れるという感覚が不思議だ。

 「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」のハイレゾ(192kHz/24bit)でも、ブイブイとうねるベースの上に、ドラムのハイハット、ドン・ヘンリーのエッジの効いたヴォーカルがキッチリ描き分けられている。

 個人的な好みからすると、ロックのパワフル感などは最高だが、ちょっと中低域が出過ぎかなという気もする。様々な音楽をそつなく聴かせるタイプではなく、ハマる音楽は最高に気持よく聴かせてくれるタイプだが、強すぎる低音がハマらない楽曲もあると思われる。実売89,800円と高級価格帯のモデルなので、つい「もう少しバランス重視でも……」と思ってしまう。ただ、他社の高級モデルを思い出すと、大半はモニターライクな、バランス重視、低域もタイトな製品が多い。そんな中で、W50のガツンとパワフルな中低域は、貴重な個性と言う事もできるだろう。

【 W60 】
W60

 音が出た瞬間“別格”という二文字が頭に浮かんで、思わず口元がにやける。バランスが非常に良く、各帯域の音が過不足無く耳に入り、全体のまとまりも良い。完成度の高いモデルなのがすぐにわかる。個性派なW50の上位モデルだが、同じシリーズでこんなにも違うのかと言うほどサウンドの方向性が異なる。

 前述の通りW50はパワフルな低域が特徴だが、W60は全体のバランスを重視し、そこまで低域は強く主張しない。W50の低域は響きが豊富で、ハウジング内にそのパワーが充満するような熱気あふれるサウンドだが、W60は他の帯域の解像度に影響を与えるほど響きは肥大化しない。しかし、ここが“ミソ”だが、UMシリーズのようにタイトに響きを引き締めはしない。気分を盛り上げる程度に“美味しい響き”は存在する。この絶妙な配分が実に上手い。

 この上手さは中高域も同じだ。響きを抑えて情報量を多く出していくタイプだが、音の線が細くはならず、音圧も適度にあり、決して薄い音にはならない。

W50(左)とW60(右)

 低域の響きは中高域のクリアさを濁すほどではなく、ハウジングの響きや固有音はほとんど感じられない。高域の描写は丁寧で、「fhana/いつかの、いくつかのきみとのせかい」(僕らはみんな河合荘OP)のヴォーカルを聴いても、サビの部分で荒れるようなキツさはなく、耳に心地良い艶やかさが維持される。これがUMシリーズではなく、Wシリーズの上位モデルだなと感じさせるポイントだ。

 おそらくこれがUMシリーズの6ドライバモデル、例えば「UM Pro60」という機種であれば、もっとモニターライクで、ソリッドな音になっているだろう。W60の魅力は、モニターライクなバランスの良さ、情報量の多さがありながら、Wシリーズのアイデンティティであるゆったりとした低域の響き、グワッと胸に迫るパワー感も備えている事。疾走感のある音楽をすこぶる楽しく、踊りだしそうに聴かせてくれながら、スネアドラムやベースライン、ヴォーカルのブレスなど、細かな音も埋もれず捨てずに耳に届けてくれる。

 ベースの実力が高いと同時に、ノリノリで音楽を楽しませてくれるので、おそらく多くの人が気に入るサウンドだ。119,000円前後という価格を考えるとカスタムイヤフォンも候補になると思うが、そうしたライバル機種とも渡り合える実力の持ち主だ。

ShureのSE846

 ユニバーサルタイプのイヤフォンで、この価格帯のライバルと言えばやはりShureのSE846になるだろうか。SE846も良く出来たイヤフォンだが、特徴を挙げると、BAのマルチウェイの中では極めて音場が広く、ゆったりとした空間を描写するタイプだ(標準ケーブルの場合)。W60はそれと似た傾向ではあるが、直接音がダイレクトに聴こえる傾向が少し強いようだ。音像がグイッと前に出て歌って欲しいという人に向いているかもしれない。良きライバル登場という印象だ。

Westoneのインターナショナル・セールス・ディレクター ハンク・ネザートン氏

 ちなみにネザートン氏の説明によれば、Wシリーズの中にも2つの音の傾向があるという。注目ポイントは低域用ユニット。W30(低域×1、中域×1、高域×1)の低域ユニットは1基。W40(低域×2、中域×1、高域×1)は2基、W50(低域×1、中域×2、高域×2)は1基、W60(低域×2、中域×2、高域×2)は2基だ。

 低域が1基のモデルは、比較的大きなサイズのBAユニットを1つ採用、2基のタイプは小さなものを2つ採用しており、これによって基本的な音の方向性が異なるそうだ。

 つまり、1基のW30、W50は、豊かでゆったりとした低域を再生。2基のW40、W60は、低域のスピード感やディテールの再現性に重きを置いているという。その説明を踏まえて聴いてみると、「なるほど」と納得する。

 この情報は、モデル選びにも使える。例えばW30を聴いて「この傾向が気に入った!」という人が上位モデルを検討する時は、W40で止まらず、W50も聴いてみるべきだ。W60を聴いて「良い音だなぁ、でも予算がちょっと……」という場合は、1つ下のW50だけでなく、W40も聴いてみると、「W40の方が、W60の弟分的なサウンドで気に入った」となるかもしれない。“低域のユニット数”は、試聴時に把握しておきたいポイントだ。

目指す音から選べるラインナップ

 先日のインタビュー取材の際、ネザートン氏に「今後も7個、12個というように、BAユニットを増やした製品が続々登場する可能性はあるのか?」を聞いたところ、「今後の話なのでわからない」と前置きしながらも、あくまでネザートン氏の個人的な見解として「補聴器メーカーとして人間の耳については詳しく研究しているが、人の耳が拾える音は、6ドライバまでが限界ではないかと考えている」と語ってくれた。

 もちろん、将来にわたってW70、W80などのモデルが登場しないとは言い切れない。だが、「W60」は現時点でのWestoneの1つの到達点であるのは間違いない。聴いていると、ある種の“風格”が漂う完成度だ。

 そして、同じSignatureモデルであるW50、UM Pro50についても、各モデル、そして各シリーズで明確な個性と、目指している音に違いがあるのがユニークなポイントだ。

 10個、12個と増えていくBAユニット数に慣れてしまうと、「いまさらユニット数が少ないモデルなんて……」と思ってしまうかもしれない。W60は、そんなマニアな人にこそ聴いて欲しい完成度だ。W60を皮切りに、もう一度Westoneシリーズの音もチェックして欲しい。単純に値段の高い安い、BAユニットの多い少ないでは決められない、自分の耳が求めるモデルを探す楽しみがあるラインナップだ。

(協力:テックウインド)

(山崎健太郎)