小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1165回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

コンパクトデジカメ受難の時代に!? 本格スペックで勝負するキヤノン「PowerShot V1」

4月下旬発売予定のキヤノン・コンデジ「PowerShot V1」

「PowerShot V1」はCP+で話題の1台

2月27日から3月2日、パシフィコ横浜にて毎年恒例のCP+が開催された。多くのカメラファンが足を運んだと思われるが、今年の話題作として注目を集めたカメラの一つが、キヤノンの「PowerShot V1」だった。

そもそもコンパクトデジカメは市場衰退が著しいところだが、唯一光明が見えるのはVlog向けの動画カメラである。ソニーのVLOGCAMこと「ZV-1シリーズ」も好調、キヤノンも2023年6月に「PowerShot V10」を投入している。

そんな中で興味深いのは、PowerShot V1はV10とシリーズを成す動画に強いカメラではあるものの、Vlogだけにフォーカスしているわけではないというところである。静止画機能もかなり充実しており、動画ではHDR撮影も可能など、幅広いニーズをカバーするカメラとなっている。

発売は4月下旬を予定しており、市場想定価格は148,500円。静止画機能はおそらく僚誌デジカメWatchで詳しいレビューが載ると思うので、本稿では動画機能にフォーカスしてレビューしてみたい。

なお今回お借りしているのは量産前の試作機なので、商品とは一部仕様が違う部分があるかもしれないことをお断わりしておく。

コンパクトの域を超えたボディ

まずボディサイズだが、コンパクトデジカメと言いつつも、実際には非フルサイズミラーレスカメラのボディ程度の大きさである。

ソニーZV-E10と比較してみたが、ボディ部はほぼ同じサイズだ。ただここに沈胴式レンズが内蔵さることを考えれば、収納性は高い。電源OFF時にはレンズガードが閉じられるので、レンズキャップを取り付ける必要もない。

APS-CミラーレスのZV-E10(右)とほぼ同サイズ
電源を切ればレンズカバーが閉じる

グリップの握りは少し浅いが、背面に親指がかりもあり、片手でホールドしやすい。重量はバッテリー込みで426gとなっている。

レンズは静止画撮影時で35mm換算16-50mm、動画撮影時で17-52mm相当の光学3.1倍ズームレンズ。絞りは9枚で、F2.8-4.5となっている。また光学NDフィルターを内蔵しており、減光3段分とあるので、ND8(1/8)ということだろう。レンズ周囲にはリングが1つあり、アサイナブルになっている。

光学3.1倍のズームレンズを搭載する

センサーは1.4インチCMOSで、かなり大型。コンパクトデジカメの世界では1インチでも十分大型と言われているわけだが、1.4インチということは4/3よりもちょっと大きいということになる。

総画素数は約2,390万画素で、静止画撮影時は最大約2,230万画素、動画撮影時は最大約1,870万画素で、4K撮影対応となっている。

動画撮影機能としては、フル画素読み出しでの最高は4K30Pだが、センサーを1インチの範囲にクロップすることで4K60Pの撮影が可能になっている。そのぶん画角が詰まるわけだが、クロップしてもまだ1インチセンサーカメラと同等という事になる。以下4K解像度のみ画質モードを記載しておく。

動画記録サイズ

Canon Log:OFF/HDR PQ:OFF時

撮影モード解像度フレームレートビットレート
4K標準3,840×2,16029.97/25.00
23.98fps
約120Mbps
4K軽量約60Mbps
4Kクロップ標準59.94/50.00fps約230Mbps
4Kクロップ軽量約120Mbps

Canon Log:ON、またはHDR PQ:ON時

撮影モード解像度フレームレートビットレート
4K標準3,840×2,16029.97/25.00
23.98fps
約170Mbps
4K軽量約85Mbps
4Kクロップ標準59.94/50.00fps約340Mbps
4Kクロップ軽量約170Mbps

天面に電源ボタン、静止画シャッター、録画ボタンがあり、ズームレバーは人差し指で操作するタイプ。モードダイヤルは小さめで、その手前には静止画と動画の切替スイッチがある。

軍艦部の構成

背面から見てアクセサリーシューの右にあるメッシュ地の穴は、マイクだ。ボディ左側に吸気口があり、センサーやプロセッサの熱を熱伝導板を通じて冷却し、左上の2箇所から排気するエアフローとなっている。冷却ファンまで実装したコンデジは、そうないはずだ。

側面から吸気し、肩から排気するエアフロー

液晶モニターは104万ドット/3.0型で、横出しのバリアングル。静電容量式タッチパネルとなっている。端子類は全て右側で、外部マイク入力、イヤホン出力、USB-C、Micro HDMIがある。

液晶モニターは横出しのバリアングル
端子類は右側

底部にバッテリーとSDカードスロットがある。三脚穴はボディのセンターで重量バランスはいいが、光軸とはズレている。

底部にバッテリーとSDカードスロット
三脚穴はセンター

なんでもできる動画撮影機能

レンズ交換可能なミラーレスではないということで、まずはレンズ画角が気になるところだ。動画では35mm換算17-52mm相当ではあるものの、電子手ブレ補正の有無やクロップモードで変わってくる。なお4Kクロップ使用時には、電子手ブレ補正は使用できない。

手ブレ補正は光学と電子の組み合わせとなる
手ブレ補正なし
ワイド端
テレ端
電子補正入
ワイド端
テレ端
電子補正強
ワイド端
テレ端
被写体追尾IS
ワイド端
テレ端
水平維持
ワイド端
テレ端
4Kクロップ
ワイド端
テレ端

こうしてならべてみると、4Kクロップの画角は、4K標準の「電子手ブレ補正強」および「被写体追尾IS」と同じという事になる。4Kクロップでは4K60pが撮れるのがメリットで、画質的にはほとんど変わらない。

4K標準撮影
4Kクロップ標準撮影。画角がテレ側にシフトするが、画質的にはほとんど違いがない

手ブレ補正はかなり強力だ。光学手ブレ補正が使えるのに加えて、電子手ブレ補正も2段階使用できる。また被写体を特定の位置にホールドするよう電子手ブレ補正を制御する被写体追尾ISは面白い機能だ。

被写体追尾ISは被写体の位置を画面中央と選択位置の2つから選べる
手ブレ補正モード比較

自動水平機能も搭載するが、V10同様、それほど強く効くわけではない。多少の傾きを補正してくれる程度である。これを使うと電子手ブレ補正が使えなくなってしまうので、積極的に使うメリットはあまりない。昨今のアクションカメラのような動作を想像していると、期待外れになるだろう。

サンプルの動画は4K標準モードで、「電子手ブレ補正入」の手持ちで撮影した。補正がかなり効くので、手持ちでもそこそこフィックスが撮れる。ビタ止めしたいなら「電子手ブレ補正強」を使えばいい。また動画ではNDを自動でONにする機能もあり、あまりあれこれ気を回さずに撮影できる。発色もいいので、デフォルト設定でも満足できる絵が撮れるだろう。

動画ではNDフィルターにオートモードがある
4K標準モード

センサーが1.4インチあるのでそこそこボケは作れるのだが、テレ端でも50mm程度でF4.5になってしまうので、若干良さが相殺される感がある。ボカして撮りたいなら、明るい単焦点レンズに交換できるミラーレスの方に軍配が上がる。

また本機はHDR撮影も可能だ。方法は2種類あり、一つはPQモードで撮影、もう一つはCanon Logで撮影し、自分でグレーディングする方法だ。今回は簡単にテストしたのみだが、コンデジでここまでできるカメラは珍しい。

PQ撮影機能は簡単にHDR撮影が可能
Log撮影機能も搭載
1カット目はCanon Logで撮影、2カット目はPQで撮影

PQは簡単にHDRコンテンツを作りたい人向け、Canon Logは自分でグレーディングできる上級者向けということだろう。なかなかカバレッジが広いカメラだ。

多彩な撮影をカバー

本機はピクチャースタイルやフィルターを多く備えており、様々なバリエーションで撮影できるのもウリの一つだ。

ピクチャースタイルはシーンに合わせて選択する事になるが、シャープネスやコントラスト、色合いなどのマニュアルで調整することもできる。調整の結果は、ユーザープリセットとして3つ記憶できる。なお画像だけではなかなか違いがわからないと思うので、ベクタースコープの表示も合わせて掲載しておく。

ユーザープリセットも作れるピクチャースタイル
オート
スタンダード
ポートレート
風景
ディテール重視
ニュートラル
忠実設定
モノクロ
※モノクロはクロマがないためベクタースコープ表示なし

カラーフィルターは、PowerShot V10にも搭載されていた機能だ。昨今ではユーザーLUTを取り込んでカラーフィルター替わりに使うという機能も流行っているところだが、それよりもプリセットしておいたほうが使いやすいという判断だろう。

カラーフィルターはV10に続いての搭載
フィルターなし
StoryReal&Orange
StoryMagenta
StoryBlue
PaleTeal&Orange
RetroGreen
Sepiatone
AccentRed
TastyWarm
TastyCool
BrightAmber
BrightWhite
ClearLightBlue
ClearPurple
CrearAmber

モードダイヤル内のシーンモードでも、いくつかの撮影パターンが用意されている。

「美肌動画」は肌のディテールを甘くして綺麗に見せるモードだが、若干暖色で、肌だけでなく顔のパーツの輪郭がぼんやりする傾向がある。また美肌動画の時には電子手ブレ補正が効かなくなるので、三脚などに固定して撮影したほうがいいだろう。

4K通常モードで撮影
美肌動画モードで撮影

同じくシーンモードでは、「レビュー用動画」モードも用意されている。カメラ前に見せたい物を持って来たときに、通常撮影では顔のほうにフォーカスを合わせてしまうが、レビュー用動画では手前の物にフォーカスを優先的に合わせ手くれる。またこのモードの時も電子手ブレ補正が使えなくなるので、三脚推奨である。

動画サンプル

音声収録にも触れておこう。内蔵マイク集音では、「ウインドカット」、「音声ノイズ低減」の2つが使える。今回テストした日はかなり風が強く、ウインドカットもそれほど効果がわからなかった。

内蔵マイク設定ではウインドカットと音声ノイズ低減機能が使える

一方V1には、標準でウィンドスクリーンが付属する。今回お借りした物は試作機なので付属していなかったが、ソニーZV-E10に付属の物で代用した。シューに固定するタイプだが、シューとマイクの位置がZV-E10とだいたい同じなので使えた次第だ。

今回はZV-E10のもので代用したが、製品版には専用ウインドスクリーンが付属する

ウインドスクリーンの効果は絶大で、これがあればウインドカットなどの機能は使わなくても屋外の集音に対応できる。

屋外集音のサンプル

総論

今回は約1時間半ほど撮影して回ったが、1時間ほどでバッテリー交換が必要となった。昨今のカメラとしては、サンプル撮影程度でバッテリー切れになるのは珍しい。幸い予備バッテリーも複数お借りしていたので問題はなかったが、動画撮影を中心に考えるのであれば、バッテリーは2~3個あったほうがいいだろう。

なおUSB-Cポートからの外部給電で動かす事も可能だが、USB PDタイプのモバイルバッテリーが必要だ。USB-Aタイプのバッテリー出力では駆動できなかった。昨今はカメラに給電できるジンバルもあるので、こうしたものと組み合わせるのもいいだろう。

光学と電子を組み合わせる手ブレ補正はかなり強力で、手持ち撮影でも安定する。電子補正を使わなければ1.4インチセンサー機、電子補正を使えば実質1インチセンサー機で、それ以上のエリアは潤沢に手ブレ補正領域に使うという発想だ。

光学3.1倍ズームレンズは、画質との両立を考えればこれが限界なのだろうが、ポートレート撮影を考えれば5倍、80~85mmぐらいまであるとオールマイティだった。バストショットぐらいのポートレート撮影は、しゃべりが拾える範囲ぐらいと考えておけばいいだろう。

パソコンとUSBで接続すれば、USBカメラ扱いになるので、ライブ配信やリモート会議などにも使える。またスマホアプリCanon Camera Connectを使用すれば、Wi-FiやBluetoothで接続してライブ配信も可能になっている。昨今必要とされる機能は全部盛り込んだカメラといえそうだ。

価格が14万円強と、他社Vlogカメラと比べればちょっと高い気がするが、キヤノンがコンデジを諦めていなかったということを証明する1台に仕上がっている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。