レビュー
約4万円で“生活クオリティが変わる音”、話題のADAM Audio「D3V」を仕事机に導入した
2025年3月11日 08:00
オーディオの世界では、スピーカー、アンプ、ネットワークプレーヤーなど、機種を問わず毎年いくつかのヒットモデルが生まれる。そして、2024年から今年にかけて特に注目を集めたのが、ADAM Audio(アダム・オーディオ)のスピーカー「D3V」(オープン/実売税別ペア39,091円)だ。オーディオ業界の関係者でこの評価に異論がある方は少ないだろう。
「え、知らなかった?」大多数のオーディオファンにはそれも無理はない。ADAM Audioは1999年、ドイツ・ベルリンで設立された、元々はプロ向けモニタースピーカーメーカーに注力していたメーカーである。D3Vは同社の中で最も小型のアンプ内蔵モニタースピーカーだが、アーティストや作曲家、さらにはマスタリングやレコーディングエンジニアが、自宅などでパソコンと組み合わせて使用することを意識したモデルだ。
しかし、ペアで約4万円と手頃な価格ながらクセのないモニターライクな本格的な音質と、強力な低音表現が評価され、音楽鑑賞用としても人気が急上昇。結果として需要が殺到し、入手困難になるほどのヒットを記録しており、現在も品薄状態だ。
僕は、輸入元であるSONIC Agencyが関わるYouTube動画に出演した際に、初めてD3Vの音を聴いた。まず感心したのは、比較用に視聴した、3ウェイ4ユニット構成を持つ同社フラッグシップスピーカーの「S5H」と比べると、絶対的な情報量は劣るものの、音色や質感が似ており、「D3Vはプロが自宅で作業する際にも使えるクォリティを狙ったスピーカーだな」だと判断した。
これは欲しい。
そう思っていたら、家に箱が届き、中にD3Vが入っていた。財布からお金が減っていたが、不思議な事もあるものだ。
では、どこで使おうか? 原稿の執筆などに使用するノートパソコンMacBook Proと組み合わせるスピーカーとして使うことにした。実は以前から、パソコンと組み合わせるスピーカーを探していたのだ。しかし、現実的には市場にある比較的安価なパソコン用スピーカーは、外観も音も、チープな製品が殆どだ。特に音質について、仕事には使えるレベルのものは存在しないと思っていた。
そこで、届いたD3Vをパソコン用スピーカーとして実際に活用。その魅力をレビューしていきたい。
小さくて設置の自由度が高い。環境に合わせた「ルーム補正EQ」も使用可能
2024年の秋、家に届いたD3Vを1Fの試聴室にある仕事机に設置した。モニタースピーカーライクなブラックと少しお洒落なホワイトの2色から選べる。僕は、ナチュラルテイストなラバーウッドカラーの天板に合わせてホワイトモデルを選択した。
115×150×200mm(幅×奥行き×高さ/スタンド使用時は高さ240mm)という小型サイズは机のスペースを占領せず、(この点はかなり大切)重さも片側約1.8kgと片手で持てるので、設置の自由度はすこぶる高い。
結線は親機となる左スピーカーにアダプターを接続して、左右のスピーカーをリンク・ケーブルで結ぶ。
D3VはUSB-C入力を備えており、パソコンとは付属のUSB-Cケーブル1本で簡単に接続できる。アナログ入力は1/4インチのTRS端子のため、アナログ接続をしたい場合は「3.5mmステレオミニジャック-RCAケーブル」と「RCAメス-モノラルフォンオス変換プラグ(2個)」を組み合わせるとよい。
ただし、Bluetooth接続機能は搭載されていない。この点については、プロフェッショナル向けらしい仕様だが、その分コストが抑えられている点は納得できる。
接続を終え、改めて机の上の景色を確認すると、MacBookやStudio Displayなどのアップル製品ともよくマッチしているように見える。ブラックモデルはレノボなどのゴリッとしたデザインのノートPCとも似合いそうだなと思った。
続いて、スピーカーのセッティングについて解説したい。取り外し可能な付属スタンドは仰角がつき、ツイーターが顔の方向を向く(底面には3/8インチのネジ穴があるので、汎用のマイクスタンドにも取り付け可能)。2本のスピーカーは、パソコンおよびディスプレイを挟むように設置するが、設置位置については、頭部と2台のスピーカーが正三角形となるように、さらに、顔の正面に向けて内ぶりに設置することが推奨されている。
左スピーカーの背面には、設置環境に合わせて周波数特性を調整できる「ルーム補正EQ」用の3つのスイッチが搭載されている。「POSITION」はスピーカーの設置位置、「DESK」は机のサイズ、「ROOM」は吸音材や遮音材の有無に応じて調整が可能だ。
D3Vは低音域が力強いため、まず最初に「POSITION」を変更し、ソースに忠実な低音の量感に調整したい。ちなみに、僕はフラット志向のスタジオモニターヘッドフォン数本を使い、その平均から低域のボリュームを把握している。
最初の設定が終わり、左スピーカーのフロント・パネルにあるマルチファンクションノブを押して入力をデジタルに切り替えた。本ノブは、入力切り替えやボリューム調節/ミュート、左右のスピーカーのL/R反転等の操作が可能で、隣にあるADAM Audioのロゴの色や点滅で入力ソースなどのステータスも把握できる。
忠実でクセのない音でありながら、音楽的な躍動感も併せ持つ
まずは音楽再生を試した。昨年10月に日本で正式にローンチされたハイレゾストリーミングサービス「Qobuz」の純正デスクトップアプリを起動し、洋楽ポップスの人気アーティスト、レディー・ガガとブルーノ・マーズがコラボした話題の楽曲「Die With A Smile」を再生する。
オーバーオールの音質として強く感じたのは、ソースに忠実でクセのない音だということ。これはスタジオモニタースピーカーのレビューでよく使われる表現だが、この価格帯のスピーカーで同じことが言えるとは驚きだ。
高音域はかなり透明感が高い、ストレートかつシームレスな質感だ。D3Vは手頃な価格ながら、ADAM Audioの最上位となるリファレンス・Sシリーズのスピーカーも搭載する、折り畳み式のリボンツイーターの同等品である「D-ART AMTツイーター」を搭載している。スピーカー上部の金色の部分で、Sシリーズはドイツで、D3Vは中国でそれぞれ手作りで作られている。
このD-ART AMTツイーターにより、ブルーノ・マーズのボーカルは伸びやかで、適度な音色を持ち、ボーカルのセンター定位や前後の距離感もしっかりと表現している。楽曲の中盤から登場するレディー・ガガのボーカルとの質感の描き分けも見事で、2人が同時に歌うパートでも、それぞれの存在感が混ざることなくクリアに表現される。
感心したのは、モニタースピーカーとして音が淡々と鳴るというより、音楽的な躍動感も併せ持つこと、そして何よりもかなり強力な低域表現だ。小型スピーカーながらボリューム感に不足はなく、ドラムのアタックもしっかりと伝わる。
D3Vの低音域の迫力をさらに実感できたのが、EDMのSteve Aoki「Clap Back」だ。エレクトリックバスドラムやベースの低音表現が圧倒的に力強い。D3Vに内蔵されたアンプは、ウーファーに80W、ツイーターに40Wと、かなりのパワーを備えている。さらに、エンクロージャー内部にはロングストロークラバーエッジを採用した2つのパッシブラジエーターが搭載されており、これがパワフルな低音を生み出す要因となっている。
映画やYouTube再生でも活躍
この豊かな低域と、伸びやかでディテールに優れた高域の表現力は、映画やYouTubeなどの映像コンテンツでも大きな強みとなる。
僕は、D3Vを導入して以来、MacBookでNetflixやApple TVなどの映像サブスクリプションサービスを視聴する機会が増えた。セリフの明瞭度はMacBook純正スピーカーとは比べものにならず、音の情報量も豊富だ。特に、迫力ある低音が作品への没入感を大幅に高めてくれる。
例えば、2024年に劇場公開され、現在Apple TVで視聴できる『クワイエット・プレイス DAY1』では、冒頭のチャイナタウンの雑踏の広がりや、クリーチャー襲来時の爆発音まで制作者が伝えたいであろう意図が再現される。
本作は「音を立てると襲われる」という設定のため、静寂と激しいアクションが交互に訪れるダイナミックな音作りが特徴だが、D3Vはその緻密な音の変化を忠実に描き出してくれた。また、2023年公開のレースアクション映画『グランツーリスモ』では、レッドブルリンクを疾走するレーシングカーのエグゾーストノートもリアルに響く。
さらに、D3Vは高音域が滑らかで耳に刺さらず、映画のように長時間の視聴でも負担が少ない。加えて、かなりの大音量にも対応しており、音量を上げても音のバランスが崩れにくい点も優秀だ。
もちろん、普段はJVCのプロジェクター「DLA-V900R」と120インチスクリーンで映画を楽しんでいるが、D3Vをパソコンの横に設置したことで、作業中に「ちょっと映画を観たい」と思ったとき、すぐに視聴できる環境が整った。机の上が小さな映画館になる感覚だ。映画の予告編を再生しても、より臨場感が増すので、公開までのワクワク感も高まる。
YouTubeの音質も明らかに向上した。たとえば、YOASOBIオフィシャルチャンネルで「アイドル(Idol) from『Clockenflap』2023.12.01@Central Harbourfront in Hong Kong」を再生したところ、映像の美しさとともに、転調やリズムの変化がより際立って感じられた。これまでノートパソコンでは意識さえしなかった、音楽の細部まで再現され、ikura(幾田りら)の透明感のある力強い歌声も、しっかりと表現されている。
ゲームの効果音もリアルになり、没入感が向上。オンライン会議や通話時の音質もクリアで、ハンズフリー通話の快適さも格段にアップする。また、フロントパネルには3.5mmのヘッドフォン/イヤフォン端子も搭載されており、深夜でもヘッドフォンを使って視聴できるのはありがたい。
仕事からプライベートまで、生活クオリティが変わるスピーカー
と、いうことで音質については、間違いなく価格以上の表現力がある。それに加え、D3Vはファームウェアアップデートにも対応しており、将来的な動作安定性の向上や機能追加が可能。実際、本稿執筆中の2月25日にファームウェアv1.7が公開され、僕はパソコン経由でアップデートしたのだが、その結果、自動スリープモードの無効化が可能になり、小音量時の帯域バランスが最適化され、リニアリティも向上した。
まとめると、パソコンのスピーカーの音質が向上すると、仕事からプライベートまで、日々の生活のクオリティが変わる。これはD3Vの導入まで気が付かなった。パソコンと組み合わせられる、スピーカーの価格帯はピンキリだが、D3Vのように正確な音を手頃な価格で提供する製品は、僕の知る限りほとんど存在しなかった。アーティストが意図した音のバランスや細かなニュアンスを正確に再現することで、「自分が聴いている音に間違いがない」という絶大な安心感がある。
この文章を読んでくれた方の中には、1万円くらいの安価なPCスピーカーの購入を考えている人も多いだろう。だけど、少し頑張ってD3Vを選べば、オーディオの楽しさがより実感できる!さらに、ポータブルオーディオからスピーカーオーディオに挑戦したい人にとっても、最初の一歩として、かなりおすすめできる。
僕自身、「こんな小さな音のスピーカーに自分の感性を委ねられる日が来るなんて」と思っているくらい気に入っている。小型で場所を取らず、動画やゲームの音をよくしてくれるという、パソコン用スピーカーに求められる要素も両立している。この価格帯でこれだけのクオリティを実現したD3Vは、それは人気が出るわけだ。