小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第676回:夜ロケ最強! 異次元の撮影が楽しめる高感度カメラ。ソニー「α7S」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第676回:夜ロケ最強! 異次元の撮影が楽しめる高感度カメラ。ソニー「α7S」

ようやく登場するも?

 今年4月のNAB2014でお披露目された、ソニーα7S。NABは放送機器展なので、文脈としては「ソニーが出したデジカメスタイルの4Kカメラ」という位置づけであったが、本体だけでは4K録画ができないと知り、現場の期待値が半分ぐらいにダダッと下がったのを覚えている。

ソニーα7S

 本体はすでに6月下旬より発売が開始されており、ボディのみでの市場想定価格は230,000円。ネットの通販サイトでは20万円強といったところだ。どうせなら4Kで撮影しようと、コンシューマで利用しやすい低価格な対応レコーダの発売を待っていたが、まあ正直いつになるかわからないので、あんまりタイミングを逃さないうちに動画レビューしとくか、ということになった。サードパーティ製では、ATOMOSの「SHOGUN」というレコーダが、9月頃に20万円台で登場しそうだ。9月中旬に行なわれるヨーロッパの映像機器展「IBC 2014」で、実動機が出展されるという。

 4Kが撮れないα7Sで何が面白いのか。それは、最高ISO感度409600という高感度センサーを使った、夜間撮影である。動画ではHDRのような方法ができないため、高感度撮影を行なうにはセンサー感度に頼るしかない。その新開発CMOSセンサーの威力を見てやろうじゃないの、というわけである。

 一体どんな映像が撮れるのだろうか。さっそく試してみよう。

見た目は全く同じ

 α7Sは、筐体デザインとしては過去発売されたα7、α7Rと基本的には同じである。外観の差は、右肩にあるロゴぐらいしかない。

ボディはα7から継承されているα7S
α7(左)と比較。ロゴ以外はほとんど変わったように見えない

 最近ソニーのカメラでは、ボディ共通のリニューアルモデルが多い。これは技術進歩の結果をいち早く製品として世の中に出すための戦略だろう。

上下にチルトする液晶モニタ

 過去ソニーのデジタル一眼は、Aマウント一眼レフのαシリーズと、EマウントミラーレスのNEXシリーズに分かれていた。αにはフルサイズとAPS-Cサイズがあり、NEXシリーズは基本APS-Cサイズ、カムコーダスタイルのNEX-VG900のみ、フルサイズセンサーであった。

 α7からは、Eマウントミラーレスでありながらフルサイズセンサーを搭載したモデルとして、NEXの名前をやめ、αの名前を継承することとなった。以降はNEXシリーズのAPS-Cサイズのミラーレスも、αの名前で統一されている。

 したがってαシリーズには、AマウントとEマウントがあり、センサーもフルサイズとAPS-Cサイズが混在する事となった。見分け方としては、数字1ケタがEマウントフルサイズ、数字2ケタがAマウント、数字4ケタがEマウントAPC-Sサイズだ。Aマウントは数字の大きさでしかセンサーのサイズがわからないのでややこしい。数字3ケタが欠番となっているが、そこが将来どうなるかはまだわからない。

 さてα7Sだが、マウント部の設計が見直され、剛性を上げるといった改良が行なわれている。またトップカバーもα7R以降からマグネシウム合金になっているものの、外観からはまったくわからない。4K動画がポイントだと言うものの、録画ボタンは背面の横に配置されており、動画専門で使うには使いづらい位置にあるのが残念だ。

 肝心の4K HDMI出力だが、3,840×2,160の非圧縮YCbCr 4:2:2/8bitとなっている。4K記録対応レコーダを接続しないとメニューが動作しないため、今回は出力オプションなどは確認できなかった。マニュアルによれば、設定は24pと30pの切り換えがある程度のようだ。

 新開発のセンサーは、1,220万画素Exmor CMOSで、最高ISO感度は409600。画素数は、α7の2,430万画素、α7Rの3,640万画素から下がって、1,220万画素になっている。同じフルサイズで画素数が下がれば、相対的に1つの画素の面積が大きくなり、感度面でメリットがある。

モデル名α7Sα7Rα7
有効画素1,220万画素3,640万画素2,430万画素
AFファストインテリジェントAF
(コントラストAF)
ファストインテリジェントAF
(コントラストAF)
ファストハイブリッドAF
(像面位相差AF
+
コントラストAF)
連写秒間5コマ秒間4コマ秒間5コマ
マグネシウム合金部トップカバー
フロント
トップカバー
フロント
フロント
新開発の1,220万画素Exmor CMOS
ISO感度は最高409600

 動画撮影フォーマットは、従来のAVCHD、MP4に加え、新たにXAVC-Sでの記録に対応した。XAVC Sは、ソニーが提唱するプロ用フォーマットXAVCのコンシューマ版という位置づけで、最近のソニー製ハイエンドカメラにはほぼ標準的に搭載されるようになってきた。AVCHDフォーマットでは限界だった、高ビットレートでの記録が可能だ。本機では解像度やフレームレートにかかわらず、すべて50Mbpsで記録する。

新たにXAVC Sに対応

【XAVC sS記録モード】

解像度フレームレートビットレート
1,920×1,08060p約50Mbps(平均)
30p
24p
1,280×720120p

 また今回は、Eマウントフルサイズセンサーに対応したレンズもお借りした。光学手ぶれ補正内蔵のズームレンズとして標準的に使用されている「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」、55mm/F1.8のツァイス「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」、同じくツァイスの35mm/F2.8「Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA」の3本である。

標準ズーム「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」
ツァイス「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」
ツァイス「Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA」

 従来Eマウントでフルサイズ用レンズを使うには、Aマウントレンズをアダプタを介して取り付けるのが主流だったが、ようやくEマウントフルサイズのレンズも種類が揃ってきた。

驚異的な夜間撮影性能

 ではさっそく撮影である。今回は高感度センサーの威力を確かめるため、日中ではなく深夜に撮影を行なった。撮影モードはXAVC S 1,920×1,080/60pだ。

 まずISO感度向上によって、どれぐらい違いがあるのかをテストしてみた。使用レンズはFE 28-70mm F3.5-5.6 OSSで、テレ端F開放、シャッタースピードを1/60に固定し、ISO感度を順に上げていった。

α7SでISO感度を順に上げていく
7siso.mp4(124MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 目視での明るさは、だいたいISO2500ぐらいの雰囲気だ。ISO32000ぐらいまであげると、見た目はほとんど昼間だが、S/Nは悪くない。ISO64000ぐらいになると、護岸ブロックのほうにノイズが強く感じられる。一方草むらのほうにはほとんどノイズが感じられないことから、圧縮アルゴリズムに起因するノイズだろうと考えられる。

 最高感度の409600では、シャッタースピードを1/60に固定しているために飛んでしまっているが、通常露出ならシャッタースピードは1/400ぐらいまで上げられる。

 比較として、同レンズ、同条件でα7でも撮影してみた。α7は動画のISO感度が200からのスタートとなり、最高は25600だ。こちらはISO6400ぐらいですでに動画としてはS/Nが辛くなっており、25600では完全に破綻している。

同条件でα7で撮影
7iso.mp4(77MB)
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 次に街の明かりだけでどれぐらい撮影できるのか、夜の街を照明なしで撮影してみた。

写真なみにナチュラルなトーンの動画が照明なしで
普通のショットに見えるが、現場はかなり暗い

 日曜日の夜11時近くなので、車通りも少なく、かなり暗い。しかしα7Sでの撮影では、目視で見ている雰囲気そのままに、ノイズ感もなく綺麗に撮影できている。ISO感度をオートにしておけば、昼間の撮影と同じで、絞りやシャッタースピードの自由度が制限されない。これは地方の繁華街、特に夜の路地裏を一杯ひっかけながら撮影すると、相当楽しそうだ。

街明かりだけで撮影
sample.mp4(216MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 途中の花のカットは、住宅地にあったものである。街灯はところどころに点いているが、現場は本当に薄暗い。60p撮影動画の場合は、シャッタースピードを1/60以下に落とせないが、それでもこれだけのS/Nで普通に動画が撮影できるのは、驚異的だ。

 同じようなアングルで昼間にも撮影してみた。露出としては500倍ぐらい違うはずだが、雰囲気の違いはあれど、だいたい同じような感じで撮れるのはすごい。

撮影時間サンプルサンプル
昼間に撮影
夜間に撮影

 AFは、従来のコントラストAFを大幅に高速化した「ファストインテリジェントAF」となっている。静止画撮影時は、AF動作時は高速にフォーカスポイントを行ったり来たりするので、映像が“ビヨヨン”となるのが不気味だが、動画撮影時にはじわーっとAFが移動するため、動画に“ビヨヨン”が写り込むことはない。またロックオンAFといった追尾機能も使えるため、AFの問題は少ないように思える。

プロ向け機能も

 ピクチャープロファイルの中身をご紹介しておこう。以前からFDR-FX1のような4Kカムコーダにはピクチャープロファイルが搭載されていたが、それはどちらかというとシーンのマッチングに使用するという意味合いが強かった。そのあたりは、若干コンシューマ寄りと言える。

 だがα7Sのピクチャープロファイルは、どちらかというとプロのフォーマットに合わせるという意味合いになっており、パラメータの内容もかなりプロ仕様に変わっている。

 【ピクチャープロファイルのパラメータと可変範囲】

パラメータ可変範囲
ブラックレベル-15 ~ +15
ガンマMovie/Still/Cine1/Cine2/Cine3/Cine4/ITU709/ITU709(800%)/S-Log2
ブラックガンマ広/中/狭 -7 ~+7
ニーモードオートマックスポイント90% ~ 100%
感度 高/中/低
マニュアルポイント75% ~ 105%
スロープ-5 ~+5
カラーモードMovie/Still/Cinema/Pro/ITU709マトリックス/白黒 /S-Gamut
彩度-32 ~ +32
色相-7 ~ +7
色の深さR/G/B/C/M/Y 各-7 ~+7
ディテールレベル-7 ~+7
モードオート/マニュアル
V/Hバランス-2 ~ +2
B/Wバランスタイプ1 ~タイプ5
リミット0 ~ 7
クリスプニング0 ~ 7
高輝度ディテール0 ~ 4

 またデフォルトで7つのプリセットがあり、ガンマとカラーモードだけセットされている。

PPモードガンマカラーモードサンプル
PPなし
PP1MovieMovie
PP2StillStill
PP3ITU709Pro
PP4ITU709ITU709マトリックス
PP5Cine1Cinema
PP6Cine2Cinema
PP7S-Log2S-Gamut

 S-Log2の映像など薄暗くて、一般の方には何に使うのかさっぱりわからないと思うが、これはカラーグレーディングを前提に、なるべく均等に階調を残して撮影するというモードなので、プロ以外には使い道はない。こういうモードもサポートしているあたりは、映画撮影も視野に入れているということだろう。これまでソニーでは、映画を撮るならCine Altaでという路線だったが、DSLR撮影も無視できなくなったということだろう。

 高感度センサーを搭載したということは、ハイスピード撮影のS/Nもかなり期待できそうだ。今回はXAVC-Sの720/120pで、S-Log2収録してみた。最終的にDavinci Resolve11 Liteβにてカラーグレーディングし、出力した。積極的に絵づくりしたわけでなく、普通に見えるように戻しただけである。

S-Log2で撮影、カラーグレーディングしてみた
slow.mov(297MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 最近のカメラでは、パナソニックDMC-FZ1000で同条件のハイスピード撮影を行なった事がある。これと比べると、ノイズ感は多少少ないが、本機は720p、FZ1000は1080pなので、どっこいどっこいといった感じだ。思ったよりもセンサー感度は、ハイスピード撮影に貢献しないようである。

総論

 多くの人は、α7Sに4K撮影を期待されていることと思う。実際筆者もそういうつもりだったのだが、今回夜間撮影をしてみて、これはテレビ番組などでも夜のロケにはかなり使えるのではないかという印象を持った。

 もちろん、これ1台だけとか、メインカメラがこれというのは、現場でのフォーカス確認にまだ正直不安は残るが、切り札的なハンディのサブカメラとしては、かなり重要な役割として使えるように思う。

 フルサイズのEマウントレンズも増えて、最小構成でそのまま使えるというのも、大きな変化だ。さらにマウントアダプタの「LA-EA4」を使えば、トランスルーセントミラー・テクノロジーを使った位相差AFも使えるため、AFの不安も払拭されるだろう。

 まだ4K撮影のソリューションが整わないため、機能的にも半分ぐらいしか使えない状況ではあるが、これから徐々に環境が整っていけば、暗さに強い4Kカメラとして、ユニークなポジションを築けると思われる。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。